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328話目

くーるー、きっとくーるー。



「ごちそうさまでした! おばあさんのマフィン美味しかったから、ちょっと食べ過ぎたかも」

 お腹を擦って冗談めかせて食後の挨拶をした俺に、おばあさんは口元を手で覆って楽しそうにくすくすと笑ってくれる。

「そう、口にあって良かったわ」

「腹ごなしするのに、しっかりと動かないとな」

 もちろん食べ過ぎたのは冗談なので動くのには全然問題はないが、格好つけてみたかった俺が放った台詞に、強面ながら優しく面倒見の良いエルデさんが反応してしまう。

「……腹が痛くなったりしたら、すぐ言うんだぞ?」

「お、おう」

 今さら冗談だとは言えない雰囲気に、俺はエルデさんを見上げてこくりと大きく頷いておく。

 幸いにもそれ以上止められることはなかったので、ルフトさんと手を繋いで外へと出る。

 手を繋ぐ必要はなかっただろうという近距離でルフトさんと繋いでいた手を離し、作業途中だった草刈り後の庭へと足を踏み入れる。


「仕事早いなぁ」


 一応俺の仕事は残してもらってあったが、ほぼ作業が終わっている状況の庭を見渡して思わずそんな言葉を洩らし、明らかに俺が持ちやすいように量を調整されている草を持ち上げる。

「すまない、ついやり過ぎた」

 俺の呟きに生真面目な反応をするエルデさんに、俺は小さく吹き出したのを何とか咳払いで誤魔化し、ふるふると首を横に振る。

「早く終わって悪いなんてないよ。依頼人さんとしては良いことだろ? エルデさん、ルフトさん、手伝ってくれてありがとう」

 エノテラさんは罰としてやってるという意識があるので、ありがとうと伝えると痛そうな表情になってしまう。だから、今はルフトさんとエルデさんにだけ。


 エノテラさんには帰り際にコソッと伝えて言い逃げで帰るつもりだ。


 しかし、エルデさんがやり過ぎたというだけあって、集められた草を運ぶのを二度ほどしたら仕事は終わってしまった。

 物足りないと言うのもおかしな話なので、俺は手持ち無沙汰な様子で俺の背後をついて回っていたエルデさんを振り返ってへらっと笑いかける。

 ちなみにだが、ルフトさんは無言で俺の隣にピタリと張りついている。

 俺がよろけて転ぶんじゃないかと思っていたんだろう。

 六歳児が大きな荷物を抱えて歩く姿は不安を覚えるのは当然なので仕方ない。

 転ぶことはなかったが、心遣いだけはありがたく受け取っておく。



 転びませんけど!



「あっ……!」



 なんて内心で宣言しながら片付けをしていたら、バチが当たったのか小石を踏んでしまい、見事によろけてルフトさんのお世話になってしまった。


「ありがと……」


「ん」


 お礼を伝えると、むふっという感じでドヤ顔をしたルフトさんが嬉しそうなので、俺もなんだか嬉しくなって、結局声を上げて笑ってしまった。

「エノテラさん、お疲れ様でした! おじいさん、おばあさん、さようなら!」

 片付けも終わってエノテラさん、おじいさん、おばあさんへ別れの挨拶をした俺は、来た時と同様に左右それぞれの手をエルデさんとルフトさんに取られて帰宅の途へつく。


「あぁ…………明日もよろしく頼む」


 少し間を開けて告げられた明日の約束に、首だけで振り返って笑顔で頷き返して。




 夕暮れ時の街並みの中、捕らわれた宇宙人状態で歩いていく。

 そんな中、

「……ジルヴァラは里帰りの予定はあるか?」

とエルデさんから唐突に訊かれる。

「いつかはしたいけど、聖獣の森までは距離もあるし、今の俺じゃ一人で里帰りなんて出来ないから今は予定はないよ」

 質問自体は唐突だったが、全く考えたことがない訳ではなかったので、ほとんど迷うことなく答えを紡ぐ。

 これでこの話題は終わるかと思ったのだが、エルデさんはさらに質問を重ねてくる。

「つまりは、付き添いと移動手段があれば里帰りするつもりはあるのだな」

 ずいぶん里帰りにこだわるエルデさんに少し違和感を覚えたが、俺は大きく頷いて質問に答える。

「え? あー、まぁ、あそこは俺の生まれ故郷だからな」

 熊と犬に何も言わずに飛び出してきているし、機会があればきちんと話をしに行きたいとは考えている。

 主様が話をつけてくれてあるとはいえ、出来れば直接話しておきたい。

 あと、単純に森の皆に会いたい。

 そんな気持ちからへらっと笑っていると、エルデさんとルフトさんの目が見張られ、繋いでいた俺の手を離してしまう。

 なんだ? と言おうとした俺の体は、背後から伸びて来た手によって持ち上げられ、手の持ち主の腕の中に捕らえられる。

 エルデさんとルフトさんは驚いていたが警戒してはいなかったし、何より気配みたいなので誰だかわかってしまった俺は、無抵抗でその腕の中に収まる。


「…………抵抗は?」


 自分で俺を捕らえたくせに、不機嫌さを隠さず低音で言い放った腕の主──というか主様に、俺はへらっと笑って不機嫌そうな表情の主様の頬へちょんと指で触れる。

「だって、エルデさんもルフトさんも警戒してないし、なんか触られた時に主様だなーってわかったから」

 嫌がられなかったので調子に乗ってちょいちょいと主様の頬に触れながらえへへと笑って、これって気配を読んだってやつだよなと内心ドヤってたら頬をがぶりと噛まれる。

 ちょっと調子に乗り過ぎたようだ。

 俺があうあうしてると、テーミアスが俺の首元から飛び出して主様へ容赦のない尻尾攻撃を繰り出す。

 その姿はまさに小さな騎士のようだが、主様へのダメージはゼロのようだ。

「ぢゅぢゅぢゅっ!」

 しばらくして満足したのか、主様の顔は離れていき、俺の頬は無事に解放され、テーミアスはやりきった顔で汗を拭うような仕草をしていて、可愛い。


「…………図に乗らないで欲しいですね」


 俺がお礼を伝えながらテーミアスを両手でもふってる間に、主様はエルデさんへ話しかけたようだ。

 何を言ったかはテーミアスの訴えを聞いてたら聞き逃してしまったが、エルデさんの強面な顔が強張って、強面度を増している。

「すまない、そんなつもりは……」

 何かエルデさんが謝罪するようなことあったっけ? と訊ねる間もなく、主様がさっさと歩き出してしまい、エルデさんとルフトさんの姿が遠ざかっていく。

 慌てた俺は主様の腕の中でグッと体を伸ばしてエルデさん達を振り返り、


「今日はありがと! また何かあったらよろしくなー!」


と何とか手を振って感謝を告げる。

 こうなった主様が止まらないのは経験済みだからな。



 で、主様のことはわかってるんだ的なドヤッとを内心でこっそりしていたら、テーミアスからは呆れた目で見られ、主様からは何故かローブの懐へ無言で収納されてしまい、そのまま問答無用な帰宅をすることになったのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*>_<*)


背後からそっと近寄ってきてました。

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