325話目
ルフトさんは、ボソッと単語で話すマイペースな方です。
サイズ感は160cmに届かないぐらいの小柄さん。
まぁ、それでも六歳児平均より小さめなジルヴァラよりは当然大きいです。
「森の守護者のリーダー、エルデだ」
「ルフト」
「あー……エノテラだ」
とりあえず、出会った瞬間ドッカンという展開はなく、まずはエルデさんがぐいっと前へ出てエノテラさんを見下ろしながら自己紹介し、続いてルフトさんが自己紹介なのか微妙過ぎる自己紹介をする。
それに引きつった笑みで応えるエノテラさん。少し離れた所ではおじいさんとおばあさんが寄り添って、あらあらまぁまぁという表情で、見守っている。
本日は庭の草刈りをするので、刈られたくない場所の指示とかしてもらうので、あの立ち位置なんだろう。
俺がそんな現実逃避をしていると、ルフトさんが近寄って来て俺の頬をちょんと突いてから、少し驚いたように瞬きをして自分の指先を見つめる。
「ルフトさん?」
謎行動に首を傾げていると、またちょんと頬を突かれる。
「……柔らかい」
「えぇと……どうも?」
何と答えたものか悩んだが、誉めてくれてるのだからと礼の言葉を口にする。
うむとばかりに頷いたルフトさんは、俺の手を握ると草が生い茂っている方へと向かって歩き出す。
「何処?」
「えぇっと、この辺りからなんですが……エノテラさん、ここは全部刈っても良いの?」
今にも刈り出しそうなルフトさんに慌てた俺は、未だにエルデさんからの物理的な見下しを受けているエノテラさんを振り返る。
精神的には見下してないと思うが、エルデさんはエノテラさんより頭一つ背が高いので自然と見下してるような見た目になっている。
「あ、あぁ、あの棒で囲われてる所以外は根元から刈ってもらって構わないそうだ」
弾かれたように俺の方を振り返ったエノテラさんが指差した方向には、確かに一部を囲うように柵……まではいかないが木の棒が均等に刺さっているのが見える。
それを確認して頷いた俺は、ルフトさんを見て刈って欲しい方向を指差す。
「わかった! じゃあ、ルフトさん、早速お願い出来ますか? あそこだけ避けるの難しいなら、周辺をザッと刈ってもらえるだけでも助かるので……」
「ルフトなら出来るだろう。森の中で道を作ったりもしてくれているからな」
エノテラさんの見定めが終わったのか、エルデさんも俺の隣へやって来て一緒にルフトさんを見ながら、何処か自慢げな表情で教えてくれる。
いや。自慢の仲間だから、自慢げじゃなくて実際自慢してるんだろうなぁと微笑ましさに頬を緩めていたら、ルフトさんがこちらをじっと見ていることに気付く。
「ルフトさん? 調子悪いですか? なら、無理しなくて良いので……」
俺は魔法を使えないからわからないが、きっと精神集中とか繊細なものだろうから、初めての所でちょっと上手くいかなくても仕方ない。
そんな気持ちを込めて、気にしないでと笑いかけたら、ルフトさんは何処か不機嫌そうに見える表情でふるふると首を横に振る。
ならなんだろうと首を傾げていると、
「口調」
そう簡潔過ぎて意味不明な答えがルフトさんから返ってくる。
思わずエルデさんを振り仰いでしまった俺は悪くないよな?
付き合いの長いであろうエルデさんはその一言でわかったらしく俺を見て困ったように笑うと、しゃがみ込んで俺と目線を合わせてくれる。
「ジルヴァラが彼に砕けた口調で話しているのを見て、なんで俺達にはそういう風に話してくれないんだと不満なんだ。……実は、俺も少しそう思っていた」
冗談めかせた口調ながらも、エルデさんの俺を見る目は真っ直ぐだし、ルフトさんはあいも変わらずジトッと見つめてきている。
「その方が俺は楽ですけど…………馴れ馴れしすぎないか?」
少しためらってから、口調を普段のものへと変えたのだが、
「いや、少なくとも俺は嬉しいぞ」
「私も」
と二人は揃ってわかりやすく喜んでくれた。
これだけのことで喜ばれると気恥ずかしいが、悪い気はしない。
「ティエラとシムーンにも、次回からは今みたいに話しかけてやってくれ」
そういう話になった。
●
俺の距離のある丁寧な話し方が気になっただけで、魔法での草刈りは余裕だったらしく。
「始める」
草刈り自体は本当に余裕綽々という感じで、あっという間に刈らないで欲しいと言われた部分以外の草は刈られて地面に敷き詰められた状態になる。
こうなれば後は俺とエノテラさんの出番だ。
二人で刈られた草を熊手で集めていくのだが……。
「手伝おう」
子供用熊手なんてあるはずもなく、大人用というか普通サイズの熊手に振り回されていると、見かねたエルデさんが笑みを堪えた様子で手伝ってくれた。
「お、おぉ〜、あははっ」
具体的に言うと俺をちょっとぶら下げたまま、エルデさんが熊手を振るうので、ちょっと爪先が地面から離れたりして思わず笑い声が洩れる。
それに気を良くしたエルデさんが、さらに動きを大きくしたので、俺の爪先は完全に地面から離れてしまう。
もうこうなると俺の手伝いというか、俺がエルデさんの作業の邪魔になってるようにしか見えない。
「あらあら」
「まったく、何をやっておるんじゃ」
そんな俺達を見ていたおじいさんとおばあさんが微笑ましげに笑っていて、俺は慌てて熊手から手を離そうとする。
「ジルヴァラ」
俺としてはスタッと華麗に着地出来る予定だったのだが、見守ってくれていたルフトさん的には危ないと感じたらしく、ルフトさんによって脇の下に手を差し込む感じで受け止められ、抱っこへと移行する。
「…………えぇと、ありがと」
善意でしてくれたのだから文句を言える訳もなく、俺はへらっと笑ってかなり近くなったルフトさんへお礼を言う。
抱きかかえてもらっているおかげで普段より近いルフトさんの顔は、表情の変化は少ないながらも、何故かドヤッとしていて、その表情はエノテラさんへ向けられている。
「大きくなった」
どうだと言わんばかりの表情で呟いていたルフトさんに、意味のわからなかった俺が首を傾げていると、作業の手を止めたエルデさんがフッと笑って説明してくれる。
「俺達はずっとジルヴァラを見守ってきたからな。それこそ、こんな小さな頃から」
そう言いながらエルデさんが手で示した俺のサイズは、まさに生まれたての赤ん坊な大きさだ。
「あら、そんな小さい頃からのお知り合いなの?」
「その縁で後見をしてるんじゃな」
最初はちょっとエルデさんの強面と体格の良さに距離のあったおじいさん達もすっかり慣れたらしく、そんな感じの世間話を出来るぐらいに打ち解けていた。
エノテラさんはというと、無言で集めた草をまとめているが、視線はちらちらとこちらを見ているので話は聞こえているし、タイミングがあれば会話にも入ってくれるかな。
「知り合い……とは少し違うな。俺達は聖獣の森の見回りという定期依頼を受けていて、そこでジルヴァラを見かけたのが最初だ」
「熊に乗っていた」
「そうだな。初めて見た時は驚いたものだ。乳飲み子にしか見えない子が、巨大な熊の上にしがみついていたのだからな」
俺との思い出(一方的)を話すエルデさんとルフトさんに気恥ずかしさを覚えて視線を外した俺は、二人以外──おじいさん達とエノテラさんの表情の変化に驚くことになる。
微笑ましげな顔をされるだろうなと予想していたのだが、三人の顔は愕然とした様子で強張っている。
「どうかしたのか?」
心配になった俺が声をかけると、ハッとした様子で三者三様の反応を見せる。
「ジルヴァラちゃん、どうしてそんな野性的な生活だったのかしら? 親御さんもご一緒だったの?」
「いや、しかし、乳飲み子を熊に乗せて歩かせる親とはどういうことじゃ?」
「いや、そもそも聖獣の森なんて、俺ですら一人では行きたくない危険な場所なんだ」
あらあらと質問してくるおばあさんに、それへ突っ込みを入れていくおじいさん。二人へ向けて聖獣の森の危険性を語るエノテラさん。
俺はルフトさんに抱えられた状態で、へらっと笑って三人へ笑顔を向ける。そんな重苦しい話にしたくないし。
「実は俺、赤ん坊の頃に聖獣の森に捨てられたかして、熊とか森の動物達に育ててもらったんだ。で、森の中で突然来たモンスターに襲われてたところを、主様に助けてもらって、それからずっとくっついて……みたいな?」
「ぢゅっ」
みたいなじゃねぇよとテーミアスからは突っ込まれたが、一応重々しくならないように悩んだ結果なんだからな?
「まぁまぁ……なんて酷いこと……」
「捨てたというなら、なんて親じゃ!」
「聖獣の森に赤子を捨てるなんて、あり得ないだろっ!」
完全に失敗したっぽいけど。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
ジルヴァラは自分が森で育ったことに関して特に何とも思っていないので、なんて辛い目に! なんて反応をされると戸惑います。
冒険者達を見るまで、自分が人間だと気付かないで順応してたぐらいなので。




