324話目
王都なので冒険者も多いです。まだジルヴァラ=手を出したらヤバい幼児とは知らない冒険者も当然います。
乗合馬車でテーミアスと戯れながら冒険者ギルドへたどり着く頃には、腰かけた俺の膝の上にはちょっとした食べ物の山が出来ていた。
「ありがとうございます!」
「ぢゅっ!」
それらをくれた相手である他の乗客にお礼を言って馬車を降りた俺は、気をつけるのよなどなどの心配する声に見送られながら冒険者ギルドの中へ入る。
手にしていた食べ物は、もちろん背負ったリュックサックにしまってから、な。
早速森の守護者のメンバーを探そうとぐるりと周囲を見渡すが、俺の視界には目当ての人物は見当たらない。
これは直接受付カウンターで訊ねる方が早いなと思い直した俺は、本日も大人気で忙しそうなネペンテスさんへ目礼して挨拶をして、いぶし銀や器用者の雰囲気を漂わせて落ち着いた面々が並ぶオーアさんの列へ向かう。
オーアさんの列は並ぶ人数の少なさもさることながら、並んでいる全員が落ち着いた感じで書類などの不手際もなく用件を済ませていくので早いのだ。
そして、俺へ不必要に絡む人間もいない。
そのはずだったんだが……。
冒険者ギルド併設の酒場兼食堂なスペースから、ふらふらと近づいて来る人影に前を遮られてしまい、俺は足を止める。
見上げた先には、無精髭を生やしたThe冒険者って感じのギリギリお兄さんかなっていう見た目の──一応お兄さんが不審そうに俺を見ている。
「なぁんだ、なんで、こんなチビがここにいやがるんだぁ?」
そう言って吐きかけられた息は酒臭く、どうやらこの時間から酔っ払っているらしい。
「……特例での冒険者活動を許され、冒険者として活動しています」
王都の冒険者ギルドだけあってかなり冒険者の数が多いから、初めて見る相手がいるのは仕方ないかと、俺は相手の気に障らないよう控えめに笑って頭を下げて挨拶をしておく。
一応、先輩には敬意を表さないとな。
「おい、ヤベェぞ! 誰か止めろよ! アレの仲間は何処行った!?」
「誰か! とりあえず引き戻しなさいよ!」
何だかお兄さんがふらふらと出て来た方から、叫び声というか悲鳴というか、とりあえず何か色々聞こえてくる。
そちらに反射的に視線をやってしまった俺は、酔っ払いだと思っていた油断していたお兄さんの接近を許してしまう。
気付いた時にはニヤニヤと笑いながら、俺を捕らえる気なのか腕を伸ばしてくる。
「ここはてめぇみたいなガキがいるところじゃ…………っいたたたっ、なにしやがる!? はなせ!?」
酔っ払っているせいで俺でも簡単に避けられそうだったが、あることに気付いて見守っていたら、やっぱりというかお兄さんは悲鳴をあげる羽目になった。
「このような無垢で幼い妖精のように愛らしい子に言いがかりをつけるなど、大人として恥ずかしくないのか」
説教をしながらお兄さんの腕を掴んで捻り上げているのは、森の守護者のリーダーであるエルデさんだ。
至って真面目に言ってるので、俺の形容詞の単語については突っ込みにくい。
ちなみにエルデさんは強面だがとても優しい。しかし、強面なのだ。二回言いたくなるほどの。
気の弱い人間なら睨まれただけでチビリそうなぐらいに。
なので、酔っ払っていたお兄さんがどうなったかというと、
「てめぇ…………っ!? すすすす、すいませんでしたーっ!!」
エルデさんを振り返って顔を見た途端、赤かった顔は見事なまでにサァッと青くなり、エルデさんが手を離してしまうと、脱兎の如く駆け出してあっという間に見えなくなってしまった。
ちらりとそれを見送ってから、ため息を吐いてエルデさんは屈んで俺と目線を合わせてくれる。
「怪我はしてないか?」
「エルデさんが止めてくれましたから、してないです。ありがとうございます、助かりました」
ぺこりと頭を下げてお礼を言うと、ぎこちなく笑ったエルデさんから頭を撫でられる。
「ジルヴァラは一人なのか?」
「あ、そうでした! ちょうど良かったです。今日、他の方は……」
エルデさんの問いかけで当初の目的を思い出した俺は、ポンッと手を打って周囲を見渡す。
「今日は休養日で、他のメンバーとは別行動なんだ。……あぁ、ルフトならちょうど来たな」
エルデさんの視線を追うと、俺よりは上背はあるがそれでも周囲からは頭一つほど小柄な青年がこちらへやってくるところだった。
「おはよう。ジルヴァラ」
俺に気付いたルフトさんは、微かに口の端を上げて挨拶をしてくれる。
「おはようございます、ルフトさん」
ルフトさんらしいシンプルな挨拶に、俺もへらっと笑ってシンプルな挨拶を返す。で、話はここからだと、軽く深呼吸してから、ルフトさんの服をギュッと掴む。
逃げたりしないのはわかってるが、何となくだ。
「あの……! ルフトさんにお願いしたいことがあるんですが、今日空いている時間ってありますか?」
息を吸い込んで、一気に言いたいことを言い切ると、
「空いてる」
と至ってシンプルな答えが返ってくる。
別にこれはルフトさんの機嫌が悪いとかではない。
同じパーティーのシムーンさん情報でも何度か触れ合った感じでもこれはルフトさんの素の反応なので、俺は気にせず本題を口にする。
「今日、依頼で庭の草刈りをするんですが、これぐらいの丈があって大変そうなので、ルフトさんの力を借りられないかなと……」
昨日は良い考えだと思ったが、口に出してみると段々図々しいのではないのかと、徐々に自信なさげな口調になってしまったが、何とか用件は伝えられたと思う。
「風魔法?」
幸いにもルフトさんも、傍らで聞いているエルデさんも気を悪くした様子はなく、首を傾げたルフトさんからはそんな確認の言葉が出て来たので、俺はコクリと頷いて、手を横に振るような動作を見せる。
「そうです。こう、ある程度の長さのところで、バサッて刈れますか?」
「出来る」
悩む様子も見せず、表情も変えることなく自信満々に頷くルフトさんは、早速俺の手を握って歩き出す。
「え? あ、その実は、報酬とか、そんなに払えないんですが……」
ちなみに昨日のソルドさんは、本人が押しかけてきた上「弁当もらったからな」と流されて、現物支給となっている。
今日は俺から頼んだのだから無報酬にするつもりはない。だが、A級冒険者を雇うほどは……たぶん払えないのでつい吃ってしまう。
主様が出て来たら簡単に払えてしまうが、こんなことで主様を頼るつもりはない。
俺が内心でグッと気合を入れていると、ルフトさんは表情を変えず数度瞬きをして首を横に振る。
「必要ない」
俺が戸惑って無言でついて来ていたエルデさんを振り返ると、無骨な顔に優しい笑顔を浮かべてまた俺の頭を撫でてくれる。
「この間はティエラとシムーンが後見として活躍したのだろう? 今日は俺とルフトに活躍の場を与えてほしい」
「……わかりました」
言いくるめられた気は満々だが、エルデさんもルフトさんも嬉しそうにしているから、遠慮なく甘えさせてもらおう。
心の中で何度か「俺は六歳児」と繰り返してから、な。
●
その質問は俺が油断しきっていたところへ投げ込まれた。
「それで、今日共に草刈りをするのは、ジルヴァラを殴ったという冒険者というのは本当か?」
右手をルフトさん、左手をエルデさんに取られた状況での質問に、逃げ場がない俺は視線をきょろきょろとさ迷わせ、最終的に肩の飾りぐらいの存在感になっているテーミアスを見る。
「ちゃぁ」
もふもふしていたテーミアスと視線が合い、無茶言うなと返された。
「…………はい」
結局、誤魔化せそうもないので渋々頷いたら、エルデさんは何やら重々しく頷いてルフトさんと目線を交わし合っている。
エルデさんが優しいのは知ってるけど、強面なのでそういう表情をされると不安になるので止めてほしい。
そしてルフトさんはあまり表情に出ないから、こちらからも何が起きるか想像出来ない。
…………まぁ、エノテラさんが死ぬようなことはないよな、優しい人達だし。
「ルフト、しっかりと集中するんだぞ」
「わかってる」
何にしっかり集中して、何をわかっているのか。
確認するのは何だか怖かったので、俺は繋いでいる二人の手をギュッと力強く握り直しておいた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
森の守護者、残り二人も活躍させてあげたくて、この二人になりました。
油断するとルフトさんが『フルト』になってるので、見つけたらそっと教えていただけると助かりますm(_ _)m




