323話目
ジルヴァラとしては気を利かせたつもりです。
今回短めです。
掃除をして汚れていたせいか、本日は帰宅した瞬間、小脇へ抱えられて有無を言わせぬ勢いでのお風呂へ直行となる。
そして、いつもより念入りにお風呂で洗われて主様からくんかくんかされてチェックされた後、夕ご飯を終えて就寝前のまったりとした時間、俺はベッドへ寝転んだ主様の上へ乗せられていた。
「んー……森の守護者の魔法使いってことは、ルフトさんだな」
最初は抵抗したが、今は諦めてまったりとソーサラさんから貰った本を見ながら考えにふける。
どうやら夕ご飯の最中俺がお腹の上に乗せてもらって寛ぐというのを熊と犬の思い出話として話したため、してみたくなったらしい。
他の動物達とも仲良かったが、その二頭とは特に仲は良かったからな。
まぁ、犬とは仲が良いというより、からかわれたりしてる感じだったけど、本気で俺が危なければ助けてくれたし、落ち込んでたら滅多に触らせてくれない尻尾を大盤振る舞いしてくれるような関係だった。
寝る時は熊は俺の敷布団になってくれて、体の上へ乗せてくれ、さらにその太い腕でしっかりと抱きしめて寝てくれた。
犬はちょっと迷惑そうにしながらも、真冬とかはそのふかふかな腹毛の中で眠らせてくれた。
脱いだらすごい系な主様もぬくぬくだが、犬の腹毛のもふもふには勝てないかもな。
「ロコ、もふもふです」
………………まぁ、今現在、俺が黒猫着ぐるみパジャマで絶賛もふもふなんだけどな。
主様は黒猫着ぐるみパジャマの手触りが気に入ってるらしく、お腹の上に乗せた俺の体を何度も撫で擦って上機嫌にぽやぽやしている。
俺をお腹の上に乗せて何をするのかと思っていたが、撫でているだけで満足らしい。
そのまま、まったりとした時間を過ごし、眠くなって来た俺はプリュイを呼んで本を渡し、くしくしと目元を擦りながら主様の上から退こうとしたのだが……。
「主様? 俺、寝たいんだけど……」
すかさず伸びて来た主様の腕にがっちりと捕まってしまい、そのままプリュイによって掛け布団が俺ごと主様へ掛けられる。
「──ここで眠ればいい」
無駄な色気溢れる低音ボイスで囁いて俺をゾワゾワさせた主様は、俺が何か言い返す前に目を閉じて眠ってしまったようだ。
「……おやすみ、主様。変なとこ痛くなっても文句言うなよ?」
しばらく寝顔を見つめていたが起きる気配はないので、俺は仕方なく主様を敷布団にして目を閉じる。
熊の上で寝ていた過去のある俺だが、主様の体の上は動ける範囲も少なく若干落ち着かない。
もぞもぞとしていると、おとなしくしていろとばかりに主様の拘束が強まり、思わず「ふは……っ」と笑い声を洩らしてしまう。
慌てて主様の様子を窺うが、起きる気配もなく完璧な美術品のような寝顔を見せてくれている。
うつ伏せのまま主様の寝顔を眺めていると、徐々に瞼が重くなり、俺の意識はそこで途切れた。
子供がおとなしくなってすやすやと寝息を立て始めると、子供の下敷きになっていた青年の目がパチリと開く。
妖しげな輝きのそこには眠さの代わりに、愛おしくて堪らないと語るような蕩けるような色が揺らいで、自身の上でくたりとして眠る子供を見つめている。
そんな熱視線を浴びながらも、子供は穏やかな寝顔ですやすやと眠り続け、時々体の位置をずらして敷布団な青年の体へ頬擦りする。
その度に青年の唇は笑みを刻み、自らが手入れをしている子供の黒髪を優しく梳いている。
美しいケモノが大切なモノを愛でる姿を、青く美しい魔法人形が呆れた様子で眺めていた。
「ソレ以上ハ、ジルが起きテシマいマス」
なんだったら、叱られていた。
そんな夜の風景を、子供が知る日が来るのかは、誰も知らない。
●
いつも通りなパチッとした目覚めをした俺は、未だに主様の上にいるという状況に驚いて瞬きを繰り返す。
「すごい……落ちてない……」
熊は体の大きさも面倒見の良さもあり、しっかりと朝までホールドしてくれてたので落ちなかったが、主様は細身で寝相も良くないし、朝には添い寝か離れてるかなと思っていた。
しかし、現実はこの通りしっかりと抱きしめられたまま、主様の上にオンしたままで眠っていた。
寝た時は俺はうつ伏せだったけど、今は横向きで寝ている。つまりは寝返りした俺を落とさないようにしっかり抱えていてくれたらしい。
「主様、熟睡出来なかったよな、たぶん」
下へとズレて主様の腕から抜け出し、主様の体から降りた俺はシーツの上をずりずりと移動してベッドを降りる。
振り返って確認しても主様は深い眠りに落ちているのかピクリともしない。微かに上下する胸の動きがなければ、精巧な彫像にしか見えない。
これは一晩中緊張しっぱなしだったっぽいな。
朝ご飯の用意だけしておいて、昼ご飯はまた弁当を用意しておこう。で、出かけるまで起きてこなかったら、声をかけずに出かけてゆっくり寝かせてあげればいい。
主様の寝姿を見て、出かけるまでの流れを決めた俺は、うんうんと一人で頷いてパタパタと廊下へ走り出て──。
「廊下ハ、走っタラ、いけまセン」
ある意味いつも通りプリュイへと衝突して、めっ! と怒られながら朝のルーティンをこなしていく。
その最中、先ほど思いついた『主様ゆっくり寝かしとく作戦』をプリュイへ伝えたのだが、起きてきたテーミアスと一緒になって何ともいえない表情で俺を見てくる。
「…………まァ、ジルが望むナラ」
最終的にプリュイは困ったように笑いながら、ふるりと震え。
「ぢゅぅ…………」
テーミアスからは「俺は知らないぞ」と何故だか呆れ顔で念を押されてしまった。
結局、俺が朝ご飯を食べ終わる頃になっても主様は起きては来なかったため、俺は用意した主様とプリュイ二人分の弁当をプリュイへ渡し、
『よく寝てたから起こさないで出かけます。朝ご飯はキッチンに、昼の弁当はプリュイへ預けました。夕方には帰ります』
とメモを付けておく。
今日の予定はきちんと伝えてあるが、念の為だ。もしかしたら、主様もど忘れとかするかもしれないし。
「じゃ、いってきます、プリュイ。主様起きたらよろしくな」
「……イッテらっしゃイ、ジル。オ気をつケテ」
玄関先でそう俺を見送ってたくれたプリュイだったが、その視線が何となく屋内の方をちらちらと見ていたのは何でだろう。
まだ掃除でも残ってたのかなぁと、冒険者ギルドへ向かいながら肩の上のテーミアスへ話しかけたら……、
「ふっ」
鼻で笑われてしまった。
本当になんでだよ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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たぶん、ジルヴァラが出た直後に慌てて身支度をする主様が屋内で見られます。




