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322話目

皆お迎え来るのに、自分だけ来ないことをわかってるって、何歳だろうと寂しいですよねぇ。



「ぢゅぢゅ」



 そろそろ起きろというテーミアスの声で目を開けた俺は、目に入った見慣れない天井に瞬きを繰り返す。


「ん……っ」


「んん……」


 そして、両側から聞こえて来たナハト様とイオの声。

 しばし状況がわからなかったが、そこではたとおじいさん宅へ依頼のために来ていたということを思い出して跳ね起き…………ようとしたが、ナハト様とイオに抱きつかれていてソファから起き上がれない。

 ジタバタとしていると、うふふという笑い声と共におばあさんが視界に入って来る。

「ごめんなさい、寝ちゃってた! すぐ掃除の続きを……」

 そう言って起き上がろうとした俺をおばあさんは優しい眼差しで制して、ズレてしまった毛布を掛け直してくれる。

「こちらもごめんなさいって言わないと駄目ね」

「え?」

 申し訳無さそうなおばあさんの表情と言葉、掛け直された毛布の意味がわからず首を傾げていると、おばあさんは困ったように笑いながら地下室の方へと目線を向ける。

「エノテラ、張り切っちゃって、地下室の掃除終わらせてくれちゃったの。だから、今日のお仕事はもうないのよ」

「……俺、寝過ごしちゃったから?」

「違うのよ。エノテラが張り切り過ぎちゃっただけ。あと、ジルヴァラちゃんの付き添いのお兄さんも」

 張り切り過ぎるエノテラはちょっと想像出来なかったが、張り切るエノテラに対抗心を抱いて張り切り過ぎるというか全力で掃除するソルドさんの姿は何だかすぐ思い浮かんでしまった。

 なので、俺の口からは「あー……」という何ともいえない声が洩れることになる。

「じゃ、じゃあ、後片付けだけでもするから!」

「ごめんなさいね、それもうちの人が一緒になってしてしまったの。久しぶりにエノテラと色々出来るのが嬉しかったみたい」

「そっかぁ……」

 なら仕方ないかと引き下がった俺は、両側でよく眠っているナハト様とイオを見る。

 俺を心配して気を張っていて疲れているであろう二人を起こすべきかと悩んでいると、

「お迎えは呼んでもらったから、そのまま寝かせておいてあげましょうね」

と優しい笑顔付きで先回りされる。

「ありがと、おばあさん」

 今さらだけど少し小声でお礼を言うと、おばあさんの優しい手で頭を撫でられる。

 その優しい手は、ナハト様とイオの頭もそっと撫でて離れていく。

 で、おばあさんの背後、おじいさんがちょっと離れた場所で手をワキワキさせてて、苦笑いしたおばあさんに手招きされて渋々といった風に近づいてくる。

「あ、明日は、草刈りを頼みたいのう、なぁ、ばあさん」

「うふふ、そうね、おじいさん」

 そんな会話をしながら、おじいさんはさり気なくをかなり頑張って装って、俺達の頭を順番に撫でてくれた。

 不器用過ぎるおじいさんの優しさに緩みそうになる口元を引き結び、俺はコクリと頷いて了承の意を示す。

 そこへ、イオママであるファスさんと付き添いのニウムさんがやって来て眠ったままのイオを連れて帰っていく。もちろん、小声でおじいさんとおばあさんと挨拶を交わしてから。

 次にやって来たのは、どうやら仕事帰りらしく制服姿のトルメンタ様と、お茶とか用意してくれたメイドさんだ。

 こちらもおじいさんとおばあさんへ挨拶をして、ついでに俺の頭をぐりぐりと撫でてから、ナハト様を連れて帰っていった。

 ナハト様もよく眠っていて起きなかった。



 残されたのは俺一人……って、俺には迎えなんて来る訳ないので、付き添ってくれたソルドさんと一緒に帰るだけなんだけどな。

 ほんの少し抱いてしまった寂しさを内心で誤魔化して強がっておく。



 ソルドさん、掃除もかなり手伝ってくれたし、夕ご飯を一緒にって誘っても良いかな。

 でも、アーチェさんとソーサラさんが待ってるだろうから、三人一緒に誘うべきかと悩んでいると、俺の体が不意に持ち上げられる。


「ソルドさ…………あれ? 主様?」


 ソルドさんだと思い込んで声をかけた俺は、視界に入った予想外の相手の顔に思わず相手の名前を呼んで瞬きを繰り返すことになる。

「うふふ。ジルヴァラちゃんのお迎えも来てくれたのね」

「…………ん」

 ほんの少し抱いてしまった寂しさを見抜いているのようなおばあさんの優しい眼差しに、俺は照れ臭くなってぽやぽやしている主様の服を掴んで頷く。

 おじいさんとおばあさんに挨拶して……なんてことは主様に期待していなかったが、軽く会釈した主様に「おぉ」と思わず失礼な声を上げてしまい、慌てて口を手で覆う。

 幸いにも主様は気にした様子はなく、俺を抱え直して家の外へ向けて歩き出す。

 一応、ここでローブの懐へ入れないという気遣いはしてくれるらしい。

 主様の腕に抱かれて庭を横目に通過しながら、明日の草刈りの段取りを考えていると、キラッキラ笑顔のソルドさんと疲れた顔をしたエノテラさんが現れる。

「ソルドさん、エノテラさん、お疲れ様、ありがと。エノテラさんは、明日もよろしくな?」

「おう、ジルヴァラもお疲れ様。……明日は付き添えないんだが、大丈夫か? 不安なら……」

 そんなことを言いながら、ソルドさんがちらちら……ではなく、ガッツリ見ているのは苦く笑っているエノテラさんだ。

「おじいさんとおばあさんもいるんだから、何か問題起きる訳ないだろ? 不安なんてないからさ」

 安心させようと思ってへらっと笑って言ったら、ソルドさんがソルドさんらしからぬ表情になってしまった。

 具体的に言うと、スッと表情の消えた真顔だ。

 ソルドさんは常に人懐こい陽キャな大型犬のイメージなので、ギャップがすごい。

 それだけ俺を心配してくれてるってことだと思うと、不謹慎だけど少し嬉しかったり? 内緒だけどな。

「…………明日は私が」

「主様は…………うん、やめておこうな」

 主様が控えめに自己主張してきたのだが、エノテラさんがビクッとなったのでそっと止めておく。

 主様はまだ過保護モードが抜けないのか、エノテラさんへ殺意マシマシっぽくて、何かぽやぽやしている視線が不穏なのだ。

 俺でも感じるぐらいだから、向けられているエノテラさんはたまったもんじゃないよな。

 何か常にドラゴンの鼻先うろついてる気分、みたいな?

「主様、草刈りなんてしたことないよな?」

 不服そうな主様をそんな言葉で説得する。

 俺は森でもしてたし、前世でももちろんしていたし……なんて、威張れるほどの経験値じゃないけど、そもそも主様だと草刈りをしている姿が想像出来ない。

「魔法で焼き払えば良いのでしょう」

「駄目に決まってるだろ……」

 たぶん一瞬で草は消え去る。他にも色々消え去りそうだけど。あと近所の人がぶっ倒れると思う。

 想像してしまった光景を振り払うように頭を振ったが、魔法で草を刈るということ事態は良い案かもしれない。

「焼き払うのは駄目だけど、魔法で刈るのはありかな」

 そこでふと視線を向けた先はソルドさんだ。

「俺は…………あー、ソーサラか? 悪いが、ソーサラはそういう感じの魔法は苦手なんだ。ジルヴァラに頼まれたら、気合入れてこの辺を更地には出来るだろうが……」

 困ったように笑いながら答えるソルドさんの言葉を聞きながら、俺の脳裏には可愛らしく気合を入れて庭を爆散させるソーサラさんの姿が過る。

「…………更地にされると、さすがにカエルラさんが悲しむんだが」

 思わずといった風にエノテラさんがボソリと突っ込みを入れてくる。

 本当におじいさんとおばあさんのことが好きなんだなぁとほっこりしつつ、俺はへらっと笑ってみせる。

「わかってるよ。んー、やっぱり人力で頑張るか。俺とエノテラさんの二人でやれば、一日で終わるだろ?」

「あぁ。刈られたくない所をカエルラさんに聞いておく」

 エノテラさんが頷いてくれたので、今度こそさぁ帰るかと主様を促したら、突然ソルドさんが「あっ!」と声を上げる。

 俺はソルドさんを振り返ったが、主様は視線を向ける気配すらなくそのまま帰ろうとする。

「ちょちょ、ちょっと、待ってくれって! 確か、ちょうど森の守護者が王都に来てるはずだから! 森の守護者のメンバーの魔法使いは、風魔法に長けていると聞いたことがあるんだ!」

 主様が止まらないため、ソルドさんは段々と大声になりながら、思いついた話を教えてくれた。

 おかげで何とか言いたいことはわかった。


 距離はだいぶ離れちゃったけど。



「明日、冒険者ギルドへ行ってみるなー!」



 距離があるため叫び返したら、主様の顔が近づいて来て、人差し指でやんわりと唇を押さえられ、



「往来で騒いではいけません」



と至極真っ当な注意を受けてしまった。




「……ごめん」




 俺がしゅんとして謝ると、よく出来ましたとばかりに微笑んで頭を撫でられた。



 その後、抱っこされていることに今さら気づいてしまい、手を繋いで帰りたいというおねだりをして、何とか自分の足で歩いて帰宅することに成功した俺だった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


誤字脱字報告助かっております!ありがとうございますm(_ _)m


ちなみに、ぽやぽやは誰かに呼ばれた訳ではなく、ソルドさんの大きい独り言「そろそろジルヴァラも帰らせないとなぁ(棒読み)」を聞き取って現れてます←

書く場所のなかった裏話でした(*´∀`*)

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