321話目
ジルヴァラ、一応頑張ったんです。
エノテラさんはおにぎりに何かトラウマがあるようなので、俺はそっとおかずの方を押し出してみる。
「……これは、変わった形のソーセージだな」
そう言ってエノテラさんがフォークで刺したのは、前世でいうところのタコさんウインナーだ。
残念ながら、赤くはない。
「それは、タコの形にしてみたんだ」
不思議そうにタコさんウインナーを眺めるエノテラさんに、そう説明すると、不思議そうな眼差しがこちらへ向けられる。
「言われてみれば、タコだな。……タコの形にする意味は?」
「特にはないよ。可愛いかなって思っただけ」
俺の答えに、エノテラさんは何ともいえない表情で「かわいい、のか」と真剣な表情で呟いてタコさんウインナーを口へ運んで咀嚼している。
「ジル、これ可愛いよ!」
「そっか、良かった」
見た目はイオの心をがっちり掴んだらしい。
味に関しては焼いたウインナーソーセージだ。もともと美味しい。
他のおかずは玉子焼きに鳥の唐揚げという、栄誉バランス何処行ったという弁当だったが、美味しい美味しいと食べてもらえて良かった。
お世辞だとしても嬉しい。
まぁ、俺は『六歳児』というフィルターがある分、ズルしてる感じもあるけど。
「ごちそうさまでした。おばあさん、美味しかったで……よ」
美味しかったですと言いかけて、そういえば口調を変えてくれと言われてたなぁと修正したら、キッチンへ向かっていたおばあさんからくすくすと笑われてしまった。
片付けの手伝いは、ナハト様とイオが自分達がするからジルは休むこと! と揃って言ってくれたので、お言葉に甘えておとなしく座っているのだ。
「少し休んでから、続きだな」
誤魔化すようにそんな感じで気合を入れていると、近寄って来たソルドさんに椅子からひょいっと抱えあげられる。
きょとんとしてソルドさんを見上げると、真剣な顔で見つめられてしまい、思わずゴクリと唾を飲み込む。
だが、その真剣な顔から出て来た言葉を聞いた瞬間、俺は脱力することになる。
ソルドさんが口にしたのは、
「ジルヴァラ、昼寝しなくても大丈夫か?」
という、思いきり幼児扱いな質問だったからだ。
いや、確かに幼児だし、抱っこされて背中トントンってされると眠くなるけど、外でいきなり昼寝はしない…………よな?
普通の六歳児ってどうだっけと記憶を辿るが、自らの六歳児の時の記憶なんてほとんど無いし、普段の生活を見られるような近くには前世でも今生でも幼児はいない。
唯一思い浮かんだのは、PTAからは敵視されている国民的な人気アニメの主人公な幼児だが、参考にはならなかった。
俺が葛藤している間にも、ソルドさんは背中トントンして来てるが、力加減を間違ってると思う。
バシバシという音がしてるし、結構痛い。
好意でやってくれてるから言い難いが、赤くなりそうなのでそろそろ止めるべきかと悩んでると、キッチンで洗い物をしていたおばあさんが飛び出してくる。
その背後にはエノテラさんが心配そうな顔をしてついて来ていて、たぶんエノテラさんがおばあさんを呼んできたのだろう。
何でだろうと首を傾げていると、思いの外力強いおばあさんの手によって、俺はソルドさんの腕から奪われる。
「な、なんだ? どうかしたのか?」
「どうかしたじゃありません! そんなに強く叩いて、ジルヴァラちゃんが痛がってるわ!」
驚いていたソルドさんだったが、おばあさんに叱られて、またきゅうんと鳴きそうな表情になって俺を見てくる。
「ジルヴァラ、す、すまない……」
「俺もすぐ言えば良かったな。少し痛いよって」
しゅんとしてしまったソルドさんへ向けて手を伸ばすと、自分から頭を下げて向けてくれたので、いい子いい子と頭を撫でておく。
えへへと照れ臭そうに笑う姿は、まさに飼い主に慰められている大型犬のようでちょっと可愛い。
見た目だけはイケメンの、デカい成人男性なんだけど。
大型犬似のイケメンでも癒し効果あるんだなぁと無心でソルドさんを撫でてると、俺を抱いているおばあさんのくすくすという笑い声が聞こえ、背中をトントンと優しく叩かれる。
「ジルヴァラちゃんは少し頑張り過ぎね。少しお休みしましょう?」
「いや、これぐらいいつもだから……」
何だったら森へ行った時はもっと一日中動き回ってる。
そう説明したかったのだが、背中を叩くおばあさんの力加減は絶妙で、俺は閉じそうになった瞼を押し上げて、ぶんぶんと首を横に振る。
「きょうはぼうけんしゃとしてきてるんだから、おひるねしましぇん!」
心配させないようキリッとを心がけて宣言してみたが、眠気のせいか舌が上手く回らない。
それでも控えめに足を動かしてトントンに逆らっていたら、あらあらと笑ったおばあさんはやっと俺を床へと降ろしてくれた。
「ん……」
くしくしと目元を擦っていると、テーミアスが心配そうに体を擦り付けてくる。
決して毛皮についたご飯粒を取ろうとしてた訳じゃない……たぶん。
でも、とりあえず気になったので、テーミアスのお腹に付いていたご飯粒を指で取ってやり、おばあさんが差し出してくれた濡れ布巾でベタベタを拭っておいた。
「ぢゅっ!? ぢゅぢゅ」
びっくりしていたので、ご飯粒が付いてたことに気付いてなかったらしい。
肩の上で毛繕いするテーミアスを見ていると、右手をナハト様、左手をイオに取られ、そのままソファへと連れて行かれる。
「ご飯食べたらゆっくり休まないと駄目なんだから」
「急に動くと腹が痛くなるんだぞ?」
お兄さんお姉さんぶった二人を微笑ましく思いながら、素直に二人に挟まれる形でソファへ腰かける。
そんな俺達を、おじいさんとおばあさんは、さらに微笑ましげな表情で見守っていて……。
両側からギュッとしがみつく二人のおかげで身動きが出来ない。いや、そのためのしがみつきか。
そんなどうでも良いことを考えていると、意識せず瞬きの回数が増えてくる。
このままじっとしてたら寝ちゃいそうだ。
それが唯一覚えている眠る前に俺が考えていたことだ。
●
[カエルラ(おばあさん)視点]
「あらあら、みんな眠ってしまったわ」
私の腕の中では頑張っていたジルヴァラちゃんも、お友達と一緒だと安心してしまったのか、三人でくっついて可愛らしい寝顔を見せてくれている。
私は声を上げて笑いそうになるのを堪え、うちの人がさり気なく持って来てくれた毛布を三人へ掛けようとそっと近づいたのだけど……。
「ぢゅっ!」
可愛らしく勇敢なもふもふした騎士さんが、ジルヴァラちゃんの肩の上で警戒の声を上げて私を見つめている。
ジルヴァラちゃんみたいにお喋りの内容はわからないけれど、もふもふした小さな騎士さんは「近づくな」と言ってるのかしら。
きっと小さな騎士さんにとっては、私はジルヴァラちゃんを傷つけたエノテラの仲間に見えてるのね。
そう納得した私は、毛布を掲げてみせ、何も危ない物は持っていない事を示してみせる。
そして、次はしっかりと小さな騎士さんを見つめて微笑み、ゆっくりと喋りかけてみる。
ジルヴァラちゃんの言葉に反応していたから、この小さな騎士さんはきちんと人間の言葉を理解出来ているとわかっていた。
「部屋の中でもまだ外は寒いでしょう?」
小さな騎士さんの耳がピッと立ち、私の言葉を聞いて首を傾げている。
「だから、ジルヴァラちゃん達にこの毛布を掛けてあげたいの。良いかしら?」
「ぴ。ぢゅっ」
確かにそうだなとばかりに頷いて応えてくれた小さな騎士さんに、私は笑出だしそうなのを堪えて、子猫のように固まって眠っている子供達に毛布を掛ける。
「ぷりゅ……ありあと……」
「うふふ、どういたしまして」
誰かと勘違いしたのか、もごもごと口を動かしてお礼を言ってくれたジルヴァラちゃんに応えてから、私はそっと眠る子供達から距離を取る。
あの人はいつの間にか暖炉の前にいて、薪を投げ込んで火を強めてくれていて。
私と目が合ったあの人は、わざとらしくゴホンと咳払いをして「年を取ると冷えがキツいんじゃ」と、何故だか私へそんな言い訳を口にしている。
エノテラとジルヴァラちゃんの付き添いのソルドさんは、張り切って地下室へ向かってしまったから、子供達が目を覚ます頃には地下室の片付けは終わってしまうだろう。
それを知ったら、きっとジルヴァラちゃんは困った顔をしそうだから「次は庭の草刈りを頼むわ」と言えばいい。
そうしたら、きっとジルヴァラちゃんは笑顔になって、何の意識もせずエノテラを誘ってくれるの。
「じゃあ、明日は一緒に草刈りだな」
そう何の身構えもなく言い放ち、無邪気に笑う顔まで想像出来て、さらにそれを聞いて困った顔になりつつも頷くエノテラの笑い顔まで簡単に脳裏に描けてしまう。
ほんの数週間前までは病のせいで死の淵にあったなんて、もう悪い夢としか思えない。
「…………明日は草刈りを頼めばいい」
「あら、私も同じ事を考えてたのよ」
顔を見合わせたあの人は、幸せそうに笑っていて、私も鏡のように同じ顔をして笑っていると思ったら、何だかさらに幸せな気分になって、顔を見合わせて笑い声を上げてしまったのは仕方ない事ね。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(*´∀`)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
誤字脱字報告、大変助かっております(*´艸`*)これからもよろしくお願いしますm(_ _)m
というか、つい先日見直してたのに気付かなかったのがあって、苦笑いっすよー(*ノω・*)テヘ
一応標準語を話してますが、素で訛ってて、それを使ってたりすることもありますので、そういう点でも誤字脱字報告助かりますm(_ _)m




