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33話目

ついにあの子の影がちらりとします。


まだ接触はしません。


気にしてないように見えて、ちょっとだけ気にしてたようです。


そして、ドワーフゲシュタルト崩壊しかけました。

 ノックもせず主様が眠る寝室へ戻った俺は、パタパタとベッドへ駆け寄って乗り上げて眠る主様の顔を覗き込む。

「おはよう、主様。朝ごはん作るから、踏み台役頼めるか?」

 声をかけると、主様の瞼が震えて俺の大好きな宝石のような綺麗な青い瞳に俺が映る。

「おはようございます、ロコ……」

 寝起きで掠れた声がセクシーだが、聞いてるのは俺だけなのでセクシーの無駄遣いだよな、とどうでもいい事を考えながら、主様が起き上がるのを待つ。

 ゆったりと動く主様を眺めていると、サラサラと流れる夕陽色へ目を奪われる。

「主様、髪結んだりしないのか?」

 ベッドから降りて洗面所へぽやぽや移動し始めた主様の後ろをついて回りながら、俺はかねてからの疑問を口にする。

「特に邪魔ではないですから」

 答えるまでに考え込む様子は全くないので、本当にただ邪魔ではないからそのままにしてるだけ、という感じのようだ。

「伸ばしてるのはなんで?」

「意味はないです。気付いたら、この長さでした」

 顔を洗い終えた主様はタオルで顔を拭いて、どうでも良さそうにぽやぽや微笑んでいる。

 その手にはいつの間にか櫛が握られており、なんだかんだ言いながらも髪を梳くのかと思って見ていると、俺の正面にしゃがみ込んた主様は俺の髪を梳き始める。

「ありがと。でも俺の髪なんて、適当で大丈夫なのに。主様の髪はすっげぇ綺麗だからわかるけどさぁ……」

「私の髪は『すっげぇ綺麗』ですか」

 ほとんど目の前でゼロ距離な主様が、俺の口調を真似て小さく声を上げて笑う。主様のツボは不明過ぎる。

「おう。よく言われるだろ? 夕陽色の髪も宝石みたいな目も綺麗だって」

 皆から誉められてくすくすと声を上げて笑う主様を想像して、俺も喉を鳴らすように声を出して笑う。

「……そんなことを言うのはロコぐらいですね」

 しかし、返って来たのはそんな乾いた呟きだ。

 無意識に主様のサラサラと流れる髪先を目で追っていた俺は、ぱちりと瞬きを一つして主様の顔へと視線を戻す。

「え? なんで?」

 この世界、顔面偏差値高いから? いやでも、失礼だけど普通な顔の人もいたし、悪人って顔の人も普通にほいほいいるし、そう顔面偏差値高いってことはないと思うけど。

 そりゃ乙女ゲームに似た世界だし、攻略対象者とかは顔面偏差値高いけど、他は良くも悪くも地球とは変わらない。青とか緑とかの髪の人もいて、色味はファンタジーそのものだけど。

「私が、怖いのでは?」

 首を捻りながら、俺の髪を梳く主様をじっと見てると、宝石みたいな目をゆっくりと瞬かせて主様が嗤う。

「へ? あー、綺麗過ぎてって、やつか。それは確かにちょっとわかるかも。目なんか、じっと見てると吸い込まれそうだもんな」

 主様の宝石みたいな瞳は、テレビの画面越しですら吸い込まれそうだった美しく深い、あんな感じの海の色にも似てるから、恐怖を抱いてしまうのもわからなくもない。

「本当に綺麗だ……」

 まつ毛まで夕陽色だ、とほぼゼロ距離で改めてまじまじと見つめてると、あまりに見すぎたのか主様の視線がふいっと外される。

「ありがとう、ございます」

「面と向かって誉めるのは、今のところ俺だけの特権ってことだな」

 へらっと笑いかけると、ほんのりと頬を染めてぽやぽや笑った主様から抱き上げられてしまう。

「踏み台役はキッチン入ってからでいいんだけど」

「そうでしたか?」

 わかっててやってるんだか微妙だが、首を傾げてぽやぽや笑う主様はあざと可愛らしくもある。

 美人で可愛くて強いって、主様に隙とか弱点はあるんだろうか。

 ぽやぽや上機嫌で俺を運んでくれる主様の横顔を見ながら、のんびりとキッチンへ運ばれる。

 朝ごはんを作りながら、踏み台の件をお願いしようと考えて、主様の腕の中で俺はゆらゆらと足を揺らしていた。

 踏み台を買うために外出したいとお願いしたら、かなり渋られたが、主様から離れない事を条件に俺は主様と二人きりで馬車に揺られていた。

 乗り合い馬車ではなく、主様が呼んだ貸し切りの馬車だ。

 乗り合い馬車に乗ると、主様は余計な何かをホイホイしまくりそうな気がするし、自衛のためには良いのかもしれない。

 外出するにあたって、俺はクローゼットに入っていた服の中から、フード付きの青いポンチョ? みたいな上着を着せられた。

 人混みではぐれそうになったりしたとか、そういういざという時、主様がフードを掴む気なのではないかとこっそり思っている。

 なんかくいくいと引き心地を確認していたし。

 最終的に、子供用のハーネスみたいなやつ着けられそうでちょっと怖い。

 そんな俺の恐怖はさておき、主様が馬車で乗りつけさせたのは、大通りに面したお店だ。

 どうやら家具とか作ってる木工の工房らしい。

「ここはドワーフの方がやっている店なんですよ」

「ドワーフ!? ドワーフってあのドワーフ?」

「あのドワーフがどのドワーフかわかりませんが、ドワーフです」

 馬車から降ろしてもらいながら聞いた予想外の名前に、俺は目を見張って主様の顔とファンタジーな木工所って感じの店先を交互に見る。

 店先でドワーフドワーフ連呼してたら、さすがにうるさかったのか店内からもじゃっとしたずんぐりむっくりな男性が顔を出す。

「なんじゃ! ドワーフになんぞ恨みでもあるのか!」

 身長的には六歳な俺より少し高いぐらいしかないのだが、体の厚みとかは全然違うし、顔は厳つい男性そのものだし、ちゃんと完成した大人に見える。あと髭がもじゃもじゃだ。

「おぉー、カッコいい! 主様、俺ドワーフの人って初めて見た!」

 失礼だとか色々吹っ飛んた俺は、Theファンタジーな存在の登場に興奮してその場でぴょこぴょこと跳ね回る。

 最終的に興奮し過ぎて、主様に抱えられて回収されて店内へと連れて行かれる。

「ドワーフは、ただの小さくて手先の器用な人種ですよ? 私の方が……」

 俺が主様の『人じゃない』宣言の時より興奮してたため、主様が暴言スレスレというか暴言そのものな呟きを洩らして拗ねたりする一幕もあったが、何とかドワーフのおじさんに客だと認識してもらえた。




「ドワーフを見るのが初めてとは、ボウズどっから来た?」

 かなり失礼な俺たちの態度をガハハと豪快に笑い飛ばしてくれたのは、ガンドさん。この店の店主だった。

 ガンドさんがそう言うくらいにドワーフは普通にあちこちにいるそうだ。

 ドワーフはドワーフの国があって、あちこちの国へ出てきていて物作りに精を出しているそうだ。

 ファンタジー小説での設定や主様が言ってた通り、物作りが得意な一族らしい。

 ドワーフ自体は別に特殊な生き物という訳ではなく、ドワーフ族という人種的な扱いな感じ?

 俺のようないわゆる普通な人、前世的に言えばただの地球人的なのは、人間族といえばいいのか……まぁどうでもいいか、と目の前のテーブル越しのガンドさんを見やる。

「……えぇと、深い森の奥?」

 少し余計な考えで返答が遅れてしまったためか、ガンドさんは気遣わしげに俺を見ている。

「そうかそうか、深くは聞かん」

 ガンドさんは、なんか一人で納得してくれ、何種類か踏み台の見本を持ってきてくれた。

 主様? 主様はドワーフサイズな椅子に座れなくて、近くに立ったままぽやぽやしてる。

 俺にはちょうど良かったんだけどな、椅子もテーブルも。

 ガンドさんの持ってきてくれた踏み台を何種類か試して、軽くて丈夫で汚れにくくて、何故だが自己修復出来るという謎踏み台を買うことになった。

 一番上の四角い天板部分は広く、四本ある足も太くて安定感抜群、角も丸くされてて仕事も丁寧。木製だから当たり前だが、茶色くて木目もハッキリしてて艶々してる。

 高さ的にも俺に合わせたんじゃないかと言いたいぐらいにピッタリで、まさに運命の出会いだった。

 問題は値段が謎の部分のせいか、普通の踏み台の倍以上らしい。

 踏み台の支払いは主様がもちろんしてくれた……というか、買い物には金がいるという当たり前過ぎることを忘れていて、かなり凹んだ。

「ごめん、主様……」

 乙女ゲームなファンタジー世界で買い物するんだとか浮かれ、現実なこの世界で買い物するには現実の金がいるという当たり前のことを失念していた俺は、馬車を待つ間、謝罪を繰り返していた。

 軽いとはいえ嵩張る謎踏み台は、主様が収納してくれて、さらに罪悪感は増してしまった。

 ゲームの方のこちらの世界になら、そこそこ資金はあった気がするが、いくら願ってもその資金は俺の手元には現れない。そもそも、こっちだと通貨違ってたとか、ゲームとの相違を思い出したりして、気分は下がりっぱなしだ。

「気にしてません」

「俺は気になるんだよ」

 駄々っ子のように返して主様からふいっと視線を外した俺は、そこに思いがけず白銀色を見つけてしまい、ビクッと肩を揺らして目を見張る。

 こちらへ背を向けて、数人の男性に囲まれて遠ざかる青い色の混じる白銀の長い髪をもつ人影の背中。

 俺より身長は高いが、それでも周りの男性よりはかなり小柄。背中しか見えないので性別の判断もつかないような距離の相手を、俺はすぐに『少女』だと断定出来た。

 楽しげにころころと笑う声が、風に乗って聞こえてくる。

 周りの男性達も笑っている。

「主様……っ」

 思わず主様を呼んで、その服をギュッと掴む。



 ゲームの強制力。



 そんなのあるわけ無いだろ、と鼻で笑い飛ばしていた恐れが、俺の前へ不意に転がり出て来た気がして、主様の顔を仰ぎ見る。

 そこには、いつも通りぽやぽやして俺を見ている主様がいるだけで。

「ロコ。手を繋ぎましょうか」

 まるで俺の恐れがわかったかのように、主様はそう言って主様の服を掴んでいた俺の手を取って握ってくれる。

 相変わらず現金な俺は、ひんやりとした主様の体温を感じると途端に安心してしまい、固く繋がれた手を揺らし戯れてへらっと笑う。

「冒険者になったら、出世払いで返すからな?」

「気長に待ってます」

 主様の答えに満足した俺は、先ほど見えた『少女』をもう一度見ようとそちらへ視線を向けたが、すでに見えなくなってしまっていた。

 会ったとしても普通に初対面として接すればいいんだよな、と今さらながら思いつき、俺は主様の手をしっかりと握り返して、やっと来た馬車へと手を繋いだまま乗り込む。


「主様、ありがとな」


 聞こえなくてもいいと、色んな意味を込めてポツリと呟いた俺の声に、主様は無言で目を細めて柔らかくて笑い、伸びて来た手が俺の頭をさらりと撫でて離れていった。








 騒ぎ疲れて自らの膝へ頭を預けて眠ってしまった子供を愛しげに見下ろし、夕陽色の髪の青年は微笑む。


 ただただ愛しげに。


 艶々とした柔らかな黒い髪を撫で、円やかな頬を突くと、子供は何かを食べる夢を見てるのか、口元がもごもごと動く。

 二人しかいない馬車の中は、静寂が満ちている。

 子供の寝息を聞いていたい青年にとって静寂はちょうどいい。

 本当は逃げないように抱き締めて眠りたいところだが、きっと驚かせてしまう。今は傍らで寝息を聞いて眠るだけで我慢している。


 もっともっと私のところへ。


 大好きだと全身で訴えてくる子供へ、足りないと喚く自身を抑えて青年は嗤う。

 ふと昏く妖しい瞳が見つめたのは、先ほど子供が怯えを見せた相手の消えた方向だ。

 まるでゴミの始末でも悩むような冷めて凍りついた瞳は、



「ぬしさま……」



「ここにいますよ、ロコ」



 とろりと溶けて、そこにはいつも通り『ぽやぽや』微笑む青年がいるだけだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


さらに反応もありがとうございます!


ドワーフドワーフ書き過ぎて、途中ゲシュタルト崩壊しました←


主様、ほんのりやみやみー。

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