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318話目

ログインパスワードをど忘れして、プチパニックになっていたのは誰でしょう……私ですよー(´Д⊂グスン

[ナハト視点]



 殴った相手と会うというジルが心配で、オレは父上にお願いしてジルについていけることになった。

 どうせならとイオも誘い、二人で朝からジルの家へ押しかける。

 ぽやぽやに抱かれて現れたジルは困った顔をしていたが、すぐ「ありがとう」と言って笑ってくれた。

 ぽやぽやは何かピリピリしてて、ジルを家から出すのをかなり渋っていたけど、後から来たソルドっていう冒険者が一緒なら……と渋々……かなり渋々ジルを離してくれた。



 ソルドは何かトルメンタ兄上とちょっと雰囲気が似てて話しやすく、オレが呼び捨てにしても怒らなかった。

「ちっこくても貴族様だなぁ」

 なんて呟いてたけど。


 そんなことより今日の一番の目標は、ジルを殴ったエノテラをイオと一緒に監視することだ。

 

 目を離してジルに何かされたら困ると、イオと一緒になってしっかりジルを捕まえていたが、大人の足首辺りまで水浸しという状態の地下室の惨状にオレは驚いてジルの手を離してしまった。

 イオも同じ様子で手を離してしまっていて、自由になったジルはニコッといつものように笑って、

「二人は汚れないようにそこで待っててくれよ」

と言って、エノテラと共に地下室へ入っていってしまった。



 手伝いたかったが、オレもイオも掃除に適した格好では無いし、ジルから全力で止められてしまう。

 何でもっと動きやすい格好で来なかったんだろうと後悔しながら、オレはジルが作業している姿を見ているしか出来ない。



 せめてエノテラの化けの皮を剥がしてやると、イオと目線を交わし合って二人でエノテラを睨みつけるのだった。

「……何かナハト様もイオもすごい顔でエノテラさん見てるな」



 作業の手を止めた俺は、友人二人が暇していないかと振り返って、その表情の険しさと視線の鋭さに思わずそんな呟きを洩らしてしまう。

「そりゃそうだろ。大好きなジルヴァラを殴った相手を警戒するのは当然だ」

「ソルドさん、あのさ、エノテラさんは…………なんでもないデス」

 人間大好き大型犬なソルドさんの口から出た棘のある言葉に、俺は何とかエノテラさんをフォローしようとして、こちらを見た全く笑っていないソルドさんの目を見て諦める。

 相当心配させてしまったらしい。

 地下室の片付けを手伝ってくれているソルドさんへ近寄り、その足へ無言でギュッとしがみつく。

「……ったく、アーチェもソーサラも心配してたし、怒ってるんだからな?」

「ごめんなさい」

 ため息混じりで吐かれた言葉は重々しく、俺は嬉しさが混じりそうになるのを我慢して、小さく謝罪を口にする。



「次はないからな?」



 しばらくして落ちてきたソルドさんの台詞は、俺へ向けてじゃなく感じたのは気のせいか。

 違和感に見上げてみると、ソルドさんはいつも通りの明るい人懐こい笑顔で俺を見ていて──。



「そんな汚い手でジルの頭撫でちゃ駄目よ!」



「あ……うん、ごめんな?」



 掃除で汚れた手のまま俺の頭を撫でようとして、しっかり者のイオに叱られていた。

 ソーサラさんにしろ、イオにしろ、ソルドさんはしっかりとした女の人に叱られる運命にあるらしい。




 イオに叱られ、ナハト様に呆れた目で見られたソルドさんは、持っていたタオルで念入りに手を拭いてから俺の頭を撫でてくれていた。

 撫でるのを止めるという選択肢はなかったのか。

 へらりと苦笑いしながら作業の手を止めて撫でられていると、ソルドさんがちらちらと何処かを見ながらドヤッとした煽り顔をしていることに気付く。

 不思議に思ってソルドさんの視線を追うと、ちょうどチラッとこちらを見ていたエノテラさんと目が合う。

 とりあえず事なかれ主義な日本人の性というか反射で、へらっと笑っておく。

「……こちらは終わったが」

「こっちも終わるよな、ソルドさん」

 思いがけず話しかけられ、俺はビクッとしそうになったのを誤魔化してソルドさんを振り仰ぐ。

 ドヤッとした煽り顔だったソルドさんは、ガルガルな大型犬顔でエノテラさんを睨んでいた。

 こればっかりは、俺がとりなすとさらに拗れそうなので、ソルドさんのズボンを引っ張ってソルドさんの意識を自分へ向かせる。

「なんだ?」

「…………呼んでみただけ?」

 何も考えてなかったため、上目遣いで小首を傾げつつ、何処のバカップルだよという発言をしてしまったが、ソルドさんの意識が俺へ向いたから良しとしよう。


「…………っ」


 何故かソルドさんが何らかのダメージを食らい、顔を手で覆ってブツブツと言い出したのは気にしないことにする。

 どうせあざといことは似合いませんよー、だ。

 ヒロインちゃんならあざと可愛く上目遣いして、エノテラさんを骨抜きしてしてるんだろうなぁとエノテラさんを見ると、困ったように笑われた。

 しかし、なんかこの数日で、エノテラさん落ち着いたというか、年食った雰囲気になったよな。

 初対面の時は、ゲーム開始時ちょっと前のエノテラって感じだったのに、今は逆にゲーム開始時通り越して少し落ち着き過ぎてるかも。

 主様の脅しが効きすぎて、人生生き直してる気分になっちゃった、とか?

 エノテラさんを見つめてても答えは出ない。

「ジルヴァラ、ほら友達が呼んでるぞ? 少し休憩しとけ」

 じっとしてたら、疲れたと思われてソルドさんによって抱き上げられ、地下室へ降りる階段の途中にいるナハト様とイオの元へ届けられてしまった。




「ジル、お茶にしようぜ?」


「お菓子持ってきたの!」


 キラッキラの笑顔で俺を迎えてくれた二人は、俺を階段の真ん中に座らせて両側にピタリと陣取る。

 暖かいけど二人は汚れ…………は気にしてないな。

 イオはお姉さんぶりたいのか、甲斐甲斐しく俺の手を拭いて、お菓子の用意をしてくれている。

 で、ナハト様の言うお茶の方はというと、


「ジルヴァラ様、こちらを……」


とメイドさん付きでお茶が出て来た。



「おう、ありがと。……じゃあ、ソルドさんとエノテラさんも」




「あ、俺は「俺達はもう少し作業するから、ジルヴァラは少し休んでろよ」」



 ソルドさんとエノテラさんも誘ったが、返ってきたのはイイ笑顔をしたソルドさんからの元気の良い返事だ。

 それと重なるようにエノテラさんも何か言った気がして、首を傾げてじーっと見てみたが再度の発言はなく、ソルドさんと一緒に地下室の奥の方へと行ってしまった。


「……昼ご飯は一緒に食べようなー!」


 離れていく背中へ声をかけると、ソルドさんは片手を挙げて応えてくれたが、エノテラさんは相変わらず無反応……いや、何か肩をビクッとさせたけど何か水の中で踏んだのか?

「ははは、悪いなぁ、俺って足が長いし、うっかり者でなぁ」

 あー、ソルドさんの足が当たっちゃったんだなと納得しつつ、二人の背中を目で追っていた俺だったが、焦れたナハト様によってクッキーを口に突っ込まれ、さらにイオからお茶のカップを押し付けられるという強制おやつタイムへ突入することになった。

[視点無し]




 子供達の視界から外れると、先ほどまでニコニコと人懐こい笑顔を浮かべていたソルドの顔から、スッと表情が消える。


「──ジルヴァラが許したからって調子に乗るなよ?」


 抑えた声音で吐かれた言葉は、低く低く、エノテラへと向けられた眼差しには隠しきれない敵意が満ちている。

「わかってる、そんなつもりは……」

 エノテラが重々しく答えるが、ソルドから睨みつけられて口を噤む。

「さっさと手を動かせ」

 お前の言葉(いいわけ)など聞く気はない。そう全身で語りながら、ソルドは自らも手を動かしつつ、黙ってしまったエノテラへ声をかける。

「……あぁ」

 表情を引き締めたエノテラはそれだけを口にすると、ちらりと子供達のいる方へと視線を向けてから、作業の続きを始める。




 そんな二人のおかげでジルヴァラがおやつを食べ終わる頃には、地下室の掃除はほとんど終わりかけていた。

「二人共、仕事が早いな。俺のすることほとんど無いよ」

 おやつを食べ終えて戻って来たジルヴァラは、あとは水が抜けきらない床の掃除ぐらいとなった地下室を見て、パァッと笑顔を浮かべてソルドとエノテラを尊敬の眼差しで見上げる。

「あとは排水の所の掃除をすれば残った水は一気に減るだろう。午前はそこまでして、午後から床掃除をして終わりだな」

「おう! 手伝ってくれてありがとな、ソルドさん、エノテラさん」

 パチャパチャと水音をさせて二人へ駆け寄ったジルヴァラは、勢いのままソルドの足にしがみついて笑顔で感謝を告げる。

「ジルヴァラの役に立てて良かったぜ。ソーサラに叱られずに済む」

「ふは……っ、そっか、なら俺からもソーサラさんに、ソルドさんがたくさん手伝ってくれて助かったって話すよ」

 ふぅとわざとらしく汗を拭うフリをしてみせるソルドに、ジルヴァラは堪えきれなかった様子で吹き出し、そんな言葉を口にする。



 仲良しとしかいえないジルヴァラとソルドの様子を、エノテラは複雑そうな表情で眺めていたが、外から聞こえて来た言い争うような声に、目を見張って固まる。

 すぐ何が起きたかを察したのか、表情を強張らせたエノテラは早足で地下室の出口へ向かう。



「俺が対処するから、ジルヴァラは外に出ないでくれ。たぶん、俺が原因だ。……ジルヴァラを頼む」



 階段を上りながら、エノテラはソルドを振り返って、真剣な面持ちで告げたのだが……。



「ジルはオレが守るからな!」


「あたしだって、ジルを守る!」



 ソルドが答えるより早く、ふんすと気合を入れた子供達が答えてエノテラを睨みつける。



「…………あぁ、頼りになるな」



 苦笑いになったエノテラだったが、子供達のおかげで強張っていた表情は少し緩んだようだ。



「何しに来たんだ……スリジエ」



 そんな独り言を洩らしながら、エノテラは騒動の中心へと足早に向かうのだった。


いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


ソルドさんはわかりやすくガルガルしてます。

アーチェさんだと再起不能なまでに心を折りに行くし、ソーサラさんは物理的に危険があるので、実はソルドさんが一番エノテラとしては楽? な相手となります。


そして、期待を裏切らない女……ヒロイン改めヒドインちゃん来襲。頑張れエノテラ←




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