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314話目

エノテラ、相変わらず腕がピンチ。



「え、ここから俺出してもらえないの?」



 お客様というには微妙な感じになった三人連れを中へ通したまでは良かったが、俺は主様のローブの中からは出してもらえないらしい。


「……このままでも話はできます」


 不服を訴えてみたが、主様からはすんっとした声音で、すんっとした言葉が返ってきて取り付く島もない感じだ。

 エノテラをここへ通すのもかなり渋々だったから仕方ないと納得し、俺はもぞもぞと動いて落ち着く体勢をとる。

「……えぇと、聞こえてるんで、どうぞ?」

 俺が見えないから話を始めにくいのかと察して、俺はエジリンさん達の気配がする方向へと声をかける。

「それでは、このままお話の続きをさせていただきますね。先ほどもお伝えしましたが、こちらのエノテラさんからジルヴァラくんが暴力を振るわれたというのは事実でしょうか」

「…………ちが「違わない。俺が勘違いしたとはいえ、そいつを殴ったんだ」」

 否定しようとした俺の言葉をぶった切ったのは、迷いないエノテラの声だ。

「本当にすまなかった。俺に出来ることなら何だってする」

 顔は見えないが、謝罪を口にしたエノテラの声は苦しげで、何だか俺まで苦しくなってしまい、主様の服をギュッと掴む。

 元とはいえ、やはり推しの苦しむ姿はあまり見たくない。……見えてはいないんだけど、声だけでも苦しそうだ。


 なんて、思っているうちに、外では事態が動いていたようで……。


「では、自分でその腕を切り落としなさい」


「……わかった」


「いやいや! だから、腕は切り落としません! させません!」



 ぽふぽふと強めに主様の胸元を叩いてアピールすると、微かな「ちっ」という舌打ちのような音が聞こえたが、とりあえずエノテラも止まってくれたようだ。

「勘違いしたってわかってくれて、謝ってくれたんだから、俺はそれでもう気にしてないから。あとは、冒険者ギルドからの罰則でお願いします! もちろん常識的な範囲で!」

 前半はまだ不服そうにぽやぽやしてる主様へ向け、先ほど叩いてしまった辺りを撫でながら告げ、後半は見えてないけどエジリンさんへ向けて言い放つ。

 エジリンさんなら、きちんと理性的な判断をしてくれるだろう。

「そうですか…………では、両腕を私がぶち折るということで……」

「すみません! 却下で!」

 全っ然、理性的じゃなかった。それとも、冒険者ギルドの罰則ってハンムラビ法典式なのか?

「そうよ、エジリン」


 良かった、違うんだな。と、アシュレーお姉さんの笑みを含んだ声に胸を撫で下ろして安堵しかけた俺だったが、 


「折るのはアタシにやらせて欲しいわ」


という言葉を聞いて、脱力することになった。




「骨を折るのも却下です!」

 相変わらず主様の懐内から出してもらえないため、そこから声を張り上げて訴えると、アシュレーお姉さんの「駄目かしら」という心底不思議そうな声が聞こえてくる。

 顔が見えないのでどんな表情してるかわからず、不安は増すばかりだ。


 エノテラさっきから黙ってるけど、生きてるよな?


「主様……」

 考え出したら不安になってしまい、主様を呼んでぴとりと額を寄せてじっとしていると、はぁとため息が聞こえて衣擦れの音がする。

 肌に触れる温度が変わったことに気付いて周囲を見渡し、俺はローブの内側から出されたことに気付く。で、着地点はソファに腰かけた主様の膝上。

「あら、可愛い子ちゃんのお出ましね」

「お邪魔してます、ジルヴァラくん」

 普通に挨拶をしてくれたアシュレーお姉さんとエジリンさんにへらっと笑って頭を下げるが、二人共俺の顔を見て表情をあからさまに曇らせる。


「ねぇ、やっぱり折っちゃ駄目かしら」


「上手く折ると骨が強くなるとも聞きますし、その方向で話を進めれば……」


「だとしても、折りません。折らせません」


 息ぴったりで軽口なのか本気なのか微妙なことを言い出したアシュレーお姉さんとエジリンさんを止める言葉を口にしながら、俺の視線はエノテラを探していた。

 目の前のソファには、アシュレーお姉さんとエジリンさんが並んで腰かけていて、その並びにエノテラの姿はない。

 まさか、まだ結界の外に張り付いてるのでは、と首を巡らせた視界の中、床付近に人影を見つけて目を見張ることになる。


 知識のある人間からしたらなんちゃって中世とか言われそうな異世界の王都で、主様の家は元貴族のお屋敷。その床は、ほとんどがお高そうな大理石的な石で占められている。


 つまりは何が言いたいかと言うと、この時期冷えていて、当たり前だがとても硬い。


 そこにエノテラはいた。いわゆる、土下座の体勢で。


「なんで土下座?」


 思わずそう呟いた俺は悪くないよな?


「…………俺の親友が、これは究極の謝罪をするための体勢だと教えてくれた」


 アシュレーお姉さんあたりが答えてくれるかと思ったが、予想外に答えてくれたのはエノテラ自身だった。

 床を見つめたまま、後頭部しか見えないが、その声は相変わらず重々しく苦しげだ。

「アタシ達がやらせたんじゃないわよ?」

 思わずアシュレーお姉さん達の方をチラッと見てしまい、アシュレーお姉さんから嫌そうにひらひらと手を振られる。

「…………とりあえず、立ってもらえませんか? 顔を見て話したいので」

 決して元推しの顔を見たい訳では……ちょっとだけしかない。

「ロコ」

 そろそろと俺の方を窺いながら立ち上がるエノテラを見つめていたら、主様から名前を呼ばれて怪我をしてない側の頬をやんわりと揉まれる。

「あに?」

 視線はエノテラのまま、頬を揉まれているせいで不明瞭な声で応えると、頬をがぶっと噛まれる。

 甘噛みなので痛くはないが、その光景にびっくりしたテーミアスからのもふもふ尻尾による教育的指導がすかさず主様の顔面へ入る。が、主様はノーダメージのようだ。

 まぁ、テーミアスの尻尾はもふもふ過ぎるぐらいもふもふで、もふもふだからな。

 それでも鬱陶しくはあったらしく、主様はすぐ俺の頬を離し、サッと伸びて来たプリュイ(触手)が濡れてしまった頬を拭いて、またサッと去っていった。

 その一連の流れを見て、立ち上がって所在なさげだったエノテラの目が見張られている。

 

「ロコ」


 エノテラを見つめていたら、再度主様から呼ばれて、噛まれる前に今度は主様の方をきちんと見る。


「ロコ」


 目が合うと主様は嬉しそうに蕩けそうな微笑みを浮かべて、今度は鼻先を甘噛みされる。

 結局噛まれるらしい。


「ぢゅぁ!」


 またかよ! とブチ切れたテーミアスが、尻尾でバシバシと主様の顔を叩いてくれたが、俺の方にもダメージというかくすぐったい。

「あの……」

 くすぐったさに笑っていると、相変わらず所在なさげな様子でエノテラが話しかけてくる。

「あ、ごめんなさい。さっきも伝えましたが、俺は勘違いだとわかってもらえたし、きちんと謝罪してもらえたので気にしてません」

 慌ててぺこりと頭を下げた俺は、へらっと笑って先ほど主様へ告げた内容を繰り返す。すると、それを聞いてエノテラの表情がくしゃりと歪む。

 涙はないが泣き出しそうなほど苦しげな表情に、エノテラみたいなタイプには「無罪放免です!」って方がキツイのかもしれないと思い至る。


「…………やはり、腕を」


 ついに自ら腕を差し出そうとして来たエノテラに、俺はぐるぐると思考を巡らせる。俺の足りない頭で思いつけたのは──。


「あー……えっと……そうだ! 詫びたいなら、あなたのせいで、依頼が途中になっちゃったんで、手伝ってもらえますか? もちろん、報酬の取り分は俺が三分の二です!」


 よし! こんな感じで詫びを求めれば、エノテラも気が楽になるよなと、ドヤ顔をして偉ぶって言い放ってみたのだが、何か反応が芳しくない。

 もしかして、さすがにこれは傲慢過ぎたかなと恐る恐るエノテラと保護者な三人の反応を上目遣い気味で見やる。



「「「はぁ……」」」



「いや……それは詫びになる、のか?」



 返ってきたのは綺麗に揃ったため息が三人分と、苦しそう表情から困惑した表情に変わったエノテラからの疑問符付きの突っ込みだった。




 俺なにかやっちゃいました?

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


ハンムラビ法典云々に関して。ジルヴァラの中では「痛みには痛みなのかよ!」という感じでの、ハンムラビ法典出現です。

ジルヴァラの腕は折られてません。


良くも悪くも、ジルヴァラには現代日本人なところが残ってるので、どうしても甘く…………というか、エノテラが元推しなせいもあったり?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジルヴァラの寛大な処置について作者様のご意向でしたら仕方がありませんし、一読者として感情を入れすぎた差し出がましい感想を送って申し訳ありません。 私個人としては第三者としてみて幼子と鍛えて…
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