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314話目

幼児のお尻ってふわふわで可愛いですよねー←


あ、知らない幼児のお尻に触ると、ほぼ確実に捕まると思いますのでご注意を(え)



 主様をお尻に張りつけたまま読書すること小一時間。


 ぐぅきゅるる〜…………。


 静かな部屋に響いたのは俺の腹の虫からの気の抜ける訴えだ。

 

「おやつの時間にするか」


 時計を見ると夕ご飯までには少しあったので、俺はそんな呟きを洩らす。

 すぐに部屋の外でてちてちと音がして遠ざかっていったので、俺の呟きはプリュイに聞こえたらしい。

「主様、お茶にしようぜ?」

 主様へ声をかけるが、寝起きの悪い主様は嫌々をするように頭を動かして、顔を埋めていた場所へさらにぎゅうぎゅうと顔を埋める。


 つまりは俺のお尻へ。


 幼児のお尻に顔を埋める麗人って……いくら美形でもアウトな案件かなぁと苦笑いしつつ、手探りで背後にいる主様の頭を撫でる。

 そのまましばらく待っても起きる気配はなさそうなので、俺はそっと主様から離れてベッドを降りる。

「お前は……おやつ食べるのか?」

 俺が主様から離れると、すかさず飛んで来たテーミアスが肩へとしがみつき、俺の問いに「当然だろ」と一鳴きする。

「わかったよ。あんまり食べ過ぎて、飛べなくなったなんて言うなよ?」

 もふもふなお腹を突いて心配半分からかい半分で言うと、尻尾でたしんっと指を弾かれてしまった。

「はは、大丈夫ってことだな。まぁ、冬は脂肪蓄えないといけないもんな」

 言葉にしてから、冬眠するために蓄えるんだっけ? と頭の隅で思ったが、おやつを楽しみにして尻尾を揺らすテーミアスの可愛さの前にどうでも良くなる。


 可愛いは最強かもしれない。


「ごちそうさまでした」

「ぢゅっ!」

 おやつを食べ終えた俺が食後の定番の挨拶を口にすると、テーミアスも真似て「ごちそうさま!」と挨拶をする。

 テーミアスを普通の動物の枠に入れていいかは微妙だが、これだけ頭が良くて意思疎通が出来て可愛らしいと、毛皮以外の理由でも乱獲されそうだ。

 その為に幻を見せる魔法を使えるように進化してきたのかも……とか真剣な考察をしてみた俺だったが、俺の手の平の上でまたへそ天している姿を見ると、違うかとも思ってしまう。

「いくら何でも安心し過ぎたぞ?」

「ぢゅぁ……ぢゅ……っ」

 ここにはあいつの結界があるからなとニヒルに答えたテーミアスに、俺はちょっと納得してしまった。

 へそ天状態だから、そのニヒルさは掻き消えてしまってたけど。

「確かに、主様のそばって安心出来るもんな」

 へらっと笑って同意すると、とてつもなく嫌そうな「ぢゅぁ!」という否定の叫びをもらった。


「ぢゅぢゅちゅ、ぢゃぁ!」


「アレのそばで安心出来る俺がおかしいって? いや、主様のそばなんて安心する材料しかないだろ。ドラゴン来たって、きっと大丈夫だぞ?」


「ちゃぁ……」


「そういう問題じゃないって? じゃあ、どういう問題だよ」


 もふもふな敷物の敷かれた暖炉前でぬくぬくとしながら、テーミアスとそんなやり取りを繰り返し、主様の良さを語って呆れられていると、玄関の呼び鈴が鳴らされる。

 どうやら来客らしい。

 フシロ団長なら呼び鈴を鳴らさず入って来るから、フシロ団長以外だなということだけはこの時点でわかる。

 あと、呼び鈴を鳴らせたってことは、主様の結界の第一段階? 的なのを通れたってことだ。


「お! お客さんかな」


 パッと立ち上がって玄関へ向かおうとした俺だったが、すかさず伸びて来たプリュイの触手によってテーミアスごと捕獲される。

 巻き込まれたテーミアスは、ちょっと迷惑そうだ。


「めっ、デス」


 すぐにプリュイ本体も触手を辿ってやって来て、やんわりと叱られてしまい、俺は玄関をこっそりと覗ける物陰での待機となってしまった。

 呼び鈴を鳴らせる人なんだから、俺が出ても安心だと思うんだけどな。



 コソッと覗いていると、聞き覚えのある声が二人分と、何か少し離れた位置から叫んでる少し聞き覚えがあるような気のする声が聞こえる……気がする。

 プリュイの体越しに見えたのは、見た目社畜サラリーマンなエジリンさんと、少し離れた位置に相棒のアシュレーお姉さんの姿だ。

 通りで聞き覚えのある声だと納得した俺は、物陰から出て玄関へと向かう。

「ぢっ!」

 そんな俺をテーミアスが耳を引っ張って止めようとしていたが、来客が誰かを知ってしまった俺は気付かず、二人の元へ一直線に向かおうとする。


 そんな俺の襟首を背後から掴む手が一つ。


 そのまま流れ作業のように持ち上げられた俺は、手の持ち主──つまりは主様によって懐にしまわれてしまったようだ。


「主様、アシュレーお姉さんとエジリンさんだから、普通に出ても良いだろ?」


 ぽふぽふと主様の胸を叩いて訴えるが、返ってきたのは「駄目です」という一言のみだ。

 俺を懐内にしまったまま、どうやら主様は二人の来客に対応するつもりらしい。


「お休みのところ申し訳ありません。冒険者ギルドとして、ジルヴァラくんに確認したい事項がありまして、お話させていただくことは可能でしょうか?」


 エジリンさんは声まで生真面目だ。きっと表情も変わらず生真面目な顔をして主様を真っ直ぐ見てるんだろう。

 懐内でそんな感想を抱いたが、そんなことより俺に用事らしい。

 俺が答えようと口を開いた瞬間、もふもふが顔面へダイレクトアタックして来て、口を塞がれてしまう。

「ロコに何の話でしょうか」

 俺がダイレクトアタックして来たもふもふなテーミアスの腹毛と格闘してる間に、主様がエジリンさんに答える声が聞こえてくる。

 そういえば今さらだが、布越しなのに触れ合ってる主様の声はともかく、エジリンさんの声もクリアに聞こえてくる。たぶん、これも主様の付与の効果なのかな。

「大丈夫よ、エジリン。たぶん、ジルちゃんならそこにいるわ」

 しばしの沈黙の後、アシュレーお姉さんのそんな言葉が聞こえたから、エジリンさんは俺本人がいないのに話して良いものかと悩んでいたんだろう。

「……そういうことでしたか。では、このままお話させていただきます。昨日(さくじつ)、ジルヴァラくんに暴力を振るってしまったと冒険者が一人ギルドへ出頭しました。その件に関して、ジルヴァラくんに事の真偽の確認に参りました」

「一応、あそこにその冒険者本人もいるわ。……幻日サマの結界に阻まれて敷地にすら入れてないけど」

 え? エノテラ出頭した? 何で……でもないか。たぶん、すぐおじいさんが来てくれて、勘違いだって説明してくれただろうから、それで自分から冒険者ギルドへ行ったんだな。


 エノテラはやっぱり『エノテラ』なんだ。


 なんだか嬉しくなってしまい、状況も忘れてふへへと笑っていると、不意に背筋がゾクリとするような感覚がして、外が騒がしくなってくる。

 珍しくエジリンさんが声を荒げ、アシュレーお姉さんも何か慌てている。



「ロコへ暴力振るった腕など、切り落としても構わないでしょう?」



 エジリンさんとアシュレーお姉さんが何を言ってるかわからない中、主様の通る声だけはやたらとよく聞こえてしまった。

 その内容を理解した瞬間、深く考える間もなく、俺は主様の体へギュッとしがみついて、その行動を止めようと試みる。


「主様! 駄目だ!」


 ピクッと反応した主様が、布越しでこちらを窺っている気配がする。

 あと、エジリンさんとアシュレーお姉さんが安堵の息を吐いたのも聞こえる。

 つまりは、とりあえず惨劇は手前で回避出来たのだ。



「俺、主様にそんなことさせたくない」



 エジリンさんとアシュレーお姉さんと同じように安堵した俺の口からは、思わずそんな独り言が洩れる。

 俺を殴ったんだから自業自得だと思えるほど、俺はまだ捻くれてはいない……つもりだ。

 それに、主様に憎まれるような役目を押し付けたくない。

 そんな諸々な気持ちのこもった呟きに、主様のひやりとした雰囲気が消えていつものぽやぽやが戻ってくるかと思われたが……、



「本当にすまなかった!」



「あ……」


 結界の外から叫んでいるらしいエノテラの声に俺が反応したせいで、またぽやぽやが消えてしまった。

 空気を読むなら、エノテラを追い返すのが正解だろうが、エジリンさんとアシュレーお姉さんも巻き込んでるし、何より俺が気になって仕方ない。 


 なので、



「な、なぁ、とりあえず、中へ入ってもらおうぜ?」



 ここは鈍感お人好し主人公っぽく、へらっと笑ってそんな提案をしてみると、かなりの長い間の後に、主様はかなり渋々と「わかりました」と頷いてくれたのだった。


お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)



ひとまず、エノテラの腕繋がってるぜー。

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