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312話目

へそ天テーミアス。



「出来マシタ」


「……ありがと」


 俺は自分で切る気満々だったが、すかさずやって来たプリュイからフルーツを取り上げられ、あっという間に食べやすくカットされた状態で手渡される。

 主様に負けず劣らずな過保護っぷりに、俺は苦笑いしながらお礼を言って、フルーツ寄越せコールをしているテーミアスへ一口サイズに切られたリンゴを差し出す。

「どうぞ」

「ぢゅ!」

 ありがとな! と相変わらず見た目に似合わない男前な口調で応えて、リンゴを前足で持って食べ始めるテーミアス。

 けどやっぱり、後ろ足で立ち、両手でリンゴを持って食べる姿は文句無しに可愛い。

 フルーツをおねだりしても、盛られた皿から勝手に盗ったりはしないぐらいかしこいし、こんなこと知られたらテーミアス乱獲されそう。

「変な人間にはついていくなよ?」

 老婆心からそんな言葉が思わず口をついて出てしまったのだが、テーミアスから俺へと向けられたのはなんとも言えない表情と、可愛らしいジト目だ。


「……………………みぃ」


 それとかなり弱々しい『お前がな』という突っ込み。

 俺に言われなくとも、優しい人間ばかりじゃないとわかっているから、何とも言えない表情と弱々しい反論になったのか。


 今まで野生で生き抜いてきたんだもんな。気の回し過ぎか。


「……ぢゅう」


 例え今現在、お腹いっぱいになって仰向けでテーブルの上に転がっていたもしても。



「ほら、登れるか? 部屋へ帰るぞ」



 そう声をかけて転がっているテーミアスを掬うように両手を近づけると、自分からよたよたと手の平に登って来て、またお腹を上にしてへそ天状態になる。

 肩の上に移動させる予定だったが、手の平でへそ天状態になってしまったテーミアスに、俺は苦笑いしてそのまま自室へ戻ることにする。


「ごめん、プリュイ。後片付け頼むな?」


「ハイ、わかりマシタ」


 後片付けを丸投げする形になってしまったが、プリュイは気にすることはなく柔らかくふるふると微笑んで頷いてくれたので、安心して後を任せて自室へ向かう。



「ほら、ここでゆっくりしとけ」

 そう声をかけながら、寝床にしている籠の中にテーミアスを入れてやり、椅子を暖炉の熱が届く辺りまで移動させて、そこに籠を置いてやる。

「ぢゅ……」

 食い過ぎたぜ、とニヒルに言ってるが、ぽんぽんのお腹でへそ天姿なのでただただ可愛いの一言だ。

「俺も一眠りするかな」

 テーミアスの無防備で穏やかな寝姿を見てたら、つられて俺も眠くなってきてしまい、ふらふらとベッドへ向かう。

 そのままベッドへパタリと倒れ込み、布団に包まって目を閉じるが、あれだけ眠かったはずなのに、なんだか眠れない。

 ベッドの上でもぞもぞとしていると、何の前触れもなく部屋の扉が開くと音がして、誰かがベッドへ近づいて来る。

 誰かなんて頭の中で呟いてるが、俺の部屋にノックもせず入ってくるのは主様だけ。

 不審者って可能性は、主様の結界で守られたこの家の中では万に……いや億に一つもあり得ない。

 俺が食卓に戻らなかったから様子を見に来てくれたのかもしれない。

 主様の気配を感じて安心してしきった上眠気でとろとろとし始めた頭で考えていると、ベッドが傾いだことによって体が動く。


「にゅ……か……」


 主様も昼寝するのか?


 そう問いかけたつもりだったが、ちゃんと口から出たかはわからない。

 ただ安心出来る腕の中に引き寄せられ、しっかりと抱きしめてもらったのを感じながら、俺は夢も見ない深い眠りへ落ちていった。

「んー……っ! よく寝た!」



 眠りに落ちるまでもチョロいが目覚めが良い俺はスイッチが入るようにパチッと目を覚まし、主様の腕の中からゴソゴソと抜け出す。

「ぢゅぁ……」

 テーミアスも起きているらしいが、まだお腹いっぱいで動きたくないらしい。

「ゆっくり寝てていいぞ。俺も出かけたりはしないからさ」

 相変わらずへそ天状態なテーミアスのお腹を一撫でして、俺は本棚から本を取り出してベッドへ戻る。

 眠る主様の邪魔をしないように少し離れた場所に腰かけて本を読み始める。

 今日の本は、ソーサラさんから貰った色んな魔法が書かれている本だ。

 残念ながら俺は魔法が使えるようになる可能性はほぼないみたいだが、どんな魔法があるのかソーサラさんに質問してたら、この本をプレゼントされた。

 もちろん『もううざいから質問すんじゃねぇよ』という意味ではない。

 自分がいない所ではこれを見てね、という意味だ。

 本人が俺を胸にぎゅうぎゅう抱きしめながら言ってたから間違いない。

 同じような感じでアーチェさんからはモンスターの生態がわかりやすく書かれた図鑑を貰っている。

 ソルドさんは『夜のお店ガイド』的な本をくれようとして、ソーサラさんにバチッとやられて、本はその場で消滅させられていた。

 ちょっと気になっていたので残念だ。

 そんなソルドさんは、次にあった時に代わりということでおすすめのお店を手書きで書いてきてくれた。

 主様と屋台巡りする時の参考にさせてもらおうと思って、大事にしまってある。



 それはさておき、


「やっぱり、何か主様の魔法違うよな」


 本を読み進めていた俺の口から、そんな独り言が洩れる。

 主様は普通にしてるが、無詠唱で何かするというのもかなり腕のたつ魔法使いじゃないと無理らしい。

 そういえば、ソーサラさんのバチバチも無詠唱。つまりソーサラさんもかなり腕のたつ魔法使いってことだな。

 仲の良い人が誉められた気分になってふへへと気の抜けた笑い方をしてると、主様が寝返りをうって近づいてきて、座っている俺の背後にぴたりと張り付いた気配がする。

 特に気にすることでもないし、何だったら腰回りが温かくて落ち着くので、放置して読書の続きをする。

 先ほど独り言でポツリと洩らしてしまったが、今読んでいるのは呪文に関する部分だ。

 主様が魔法を使うところは何度か見たが、この本に書かれている呪文とは違ったと思う。

 本に書かれている基本の呪文は『炎の玉よ』みたいな感じで、まんまな呪文だ。

 モンスター相手なら大丈夫だろうが人間相手だと呪文でどんな魔法かバレそうだなぁと身も蓋もない感想を抱いたが、ここに載っている呪文は本当に例みたいな感じで、各自色んな呪文を考えて使うみたいだ。

 そう考えると主様の呪文は、はるか昔の言葉とか主様の種族に伝わる言語的なやつなのかもしれない。

 さすが主様だと感心していた俺はすっかり忘れていた。

 普段話す言語とは違う主様の呪文を、俺はきちんと聞き取ったということを……。




「うん……?」

 本に夢中になっていた俺だったが、お尻辺りが何かムズムズとしてきてしまい、本から目を離すと首を傾げて振り返る。

「…………寝相悪いなぁ、主様」

 小さく吹き出した後、俺はへらっと笑いながら、俺のお尻辺りに顔を埋めるような体勢になっていた主様の髪をそっと撫でる。

 それでも主様は起きる気配はなく、それどころか伸びて来た腕が腰に回されて、しっかりと捕まった感じすらある。

「トイレ行きたくなったら起こすか」

 よく寝ているのを起こすのも忍びないし、もしかしたら俺の我儘を聞いてくれて寝てないから寝不足になったのかもと思うと余計起こせない。

 喉が渇いたならプリュイを呼べば良いし、トイレ以外で動く理由も思い当たらない。




 夕ご飯の準備の時間まで、お疲れの主様にはゆっくり休んでもらおう。




 ──俺のお尻に顔を埋めて安眠出来るのか少し不安は覚えるけどな。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


しれっと痴漢してる主様です。お分かりでしょうが、起きてますよねー、きっと。

そのうち、お尻にがぶっとかやりそうで怖いですね←

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