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305話目

ジルヴァラが眠くてかなり幼くなってます。


言葉は幼児ですが、いつもの『ジルヴァラ』の本音です。


[視点変更]



 問題児の乱入はあったが、ジルヴァラの可愛らしい威嚇で帰っていってくれたため、俺は安堵の息を吐いてあいつの膝上で眠るジルヴァラの頭を撫でる。

 あいつからは触んじゃねぇと言いたげな眼差しがグサグサ刺さってくるが、長い付き合いなのでこの程度は気にしない。

 いや、長い付き合いだが、こんなわかりやすく不服を訴えるようになったのは最近か。

 少し前のこいつは、何も気にしてない様子でぽやぽやと微笑んだまま、ただそこにいるだけだった。

 話しかけても無視……いや、耳に入っていなかったんだろう。

 どんな相手からの美辞麗句も微笑んで受け流す姿から、清廉潔白なんだろうと勘違いした輩もいた。

 その美しさに魅入られて、尻を触ろうとした奴は四分の三殺しという目に遭ったが、それでも後に続く人間は少なからずいる。



 尻に限らず、こいつは他者に触れる事も触れられる事も好まないというのに。



「それが、こうなるとはなぁ……」



 無意識にぐりぐりと強く撫で過ぎたのか、ジルヴァラの目が薄っすらと開いて手の持ち主である俺をじっと見上げてくる。

 咎めるような二対の視線を向けられ、俺は慌ててジルヴァラの頭から手を引こうとしたのだが、撫でられていた本人が擦り寄ってきて俺の腹辺りにしがみつく。


「くま……」


 どうやら寝惚けているジルヴァラから、人違いならぬ熊違いされているらしい。

 もふもふしてないのが不服なのか、腹筋を小さな手でぺちぺちと叩かれるが、その無邪気な仕草にフッと笑い声が洩れてしまう。

 しがみついて登ってくるジルヴァラを抱き上げると、あいつからのジトーッとした眼差しが追いかけてくる。

 このまま離れたら、ジトーッとした眼差しのまま付いてくるんだろうかとちょっとした悪戯心が疼くが、見るからにお疲れな様子のジルヴァラを煩わせたくはない。

「ジルヴァラ、お前の熊じゃないが、あいつが寝床で待ってるぞ? 一緒に寝てもらえばいい」

「う……?」

 布越しに頭を撫でて話しかけると、眠いせいかいつもよりあどけない表情で俺を見上げたジルヴァラは、ジトーッとこちらを見ているあいつを振り返る。

 そのまま、ふわふわと笑ってあいつの腕の中へ戻るかと思われたジルヴァラだったが、何か考え込む様子を見せた後、予想外過ぎる反応をした。



「やっ!」



 短く戻るのを拒否して、ギュッと俺の腹筋に顔を埋めて、ふるふると頭を振る。

 その行動に、『あー、ナハトもこんな時期があったなぁ』と、我が子のいやいや期を思い出して懐かしくなるが、その直後に感じた冷気にハッとしてあいつの顔を見る。

「なんて顔してやがる」

 絶望ではない。ただその美しすぎる顔からは、全ての感情が削ぎ落とされていた。

 このまま放置すると「ちょっと世界滅ぼしてきます」とでも言って何処かへ行きそうなあいつに、俺はため息を吐いていやいや期なジルヴァラの背中をとんとんと叩く。

 さすがというかドリドルは困ったように微笑んでいるが、トルメンタはあいつの反応に若干恐れ慄いてるな。

 子育て経験はないが、ドリドルは察しが良い。ジルヴァラがあいつを嫌って言い出した訳では無い事はわかっているのだろう。


「なぁ、ジルヴァラ。何が嫌なんだ? あいつの事が嫌いになったのか?」


 俺の質問にジルヴァラも反応するが、無表情でガン見して来ているあいつの反応もヤバい。

 ジルヴァラが下手な答えを口にしたら、その瞬間ジルヴァラを掻っ攫って引きこもりそうな気すらする。

「……やじゃない。ぬしさま、だいすき」

 とりあえず一安心だ。少しぽやぽやが戻って来た。

「なら、何が嫌だった?」

 俺の腹筋から顔を上げないジルヴァラは、そのままギュッと俺の腹筋に顔を押し付けて、


「……ぬしさまのそいね」


「ぢゅっ!」


とボソボソ答えてくれたが、やはり意味がわからない。

 あと、ジルヴァラに懐いているテーミアスの鳴き声が絶妙な合いの手のように何処からか聞こえた。

 あいつを嘲笑ってるんじゃないかと疑いたくなるが、まさかそんな事はないだろう。

 テーミアスの突っ込みの真偽は脇に置いて、ジルヴァラの一言でぽやぽやが戻って来たあいつから、またスッとぽやぽやが消えていく。

 本当にジルヴァラの態度一つで、この王都ぐらいあっという間に焼け野原になりそうだぞ、これは。

「何で嫌なんだ? いつもしてるだろう?」

 半分以上寝かけているジルヴァラは、かなり精神年齢が退行してる……というか、これぐらいならジルヴァラの見た目年齢からすると違和感はないかもしれない。

 そんな事を考えながら、三人の息子達のいやいや期を懐かしく思い出しつつ、ジルヴァラの背中をぽんぽんと叩いてやる。

「…………だって、ねてるぬしさまみられるの、や」

 しばらくして、ジルヴァラの口から出たのはそんな言葉で。

 脳内で眠さで舌足らずなジルヴァラの台詞を何とか変換した俺は、あぁと納得する。

 確かにあいつの寝顔を見る事なんて、俺ですら無い。

 ジルヴァラがそれを理解してるかはともかく、あいつのそんな無防備な顔を見られたくないのだという可愛らしい独占欲からの言葉が「やっ」の一言らしい。

「心配しなくても、あいつは外では寝ない。添い寝と言っても、ジルヴァラを抱えて温めるだけで、目を閉じる事もしないだろうな。……まぁ、どうしても嫌なら、俺かドリドルが添い寝してやるぞ?」

 ジルヴァラを説得しながら、俺の脳裏に浮かんだのは、眠るジルヴァラを一晩中ガン見しているあいつの姿だ。

 おそらく想像ではなく、実際こうなるだろう。

「なら、ふしろだんちょがいい……」

 俺の説得の前半は信じられなかったのか、むぅと悩んだ後、ジルヴァラはギュッと俺にしがみついてそんな可愛らしい事を口にする。

 グサグサとあいつからの視線が刺さる中、俺はうつらうつらしているジルヴァラの背中をまたぽんぽんと一定のリズムで叩いていく。

「そうか、そうか」

 最近はナハトすら一緒に寝てくれないので、添い寝をする事はやぶさかではないが、あいつの機嫌が最悪になっているので止めた方が良いだろう。

 ドリドルは苦笑いして見守っているが、トルメンタは明らかにあいつから距離をとっている。

「…………寝たか」

 ジルヴァラは最初のうちは落ち着かない様子でもぞもぞと体を動かしていたが、しばらくしておとなしくなったので顔を覗き込むと、そこにはすやすやと眠る幼い寝顔があった。

 本人にはあえて告げていないが、寝付きもよく寝起きもよいジルヴァラには、安心出来る相手のそばだと眠りがとても深いという特徴もある。



 なので、



「ほら、起こさないようにそっと寝かせるんだぞ?」



と、こういう裏工作も可能だ。


 俺からジルヴァラを受け取ったあいつは、かなりの間ジーッと俺を睨んでいたが、ジルヴァラがあいつにギュッとしがみついたので意識はそちらへ向かって俺から離れる。


 ──起きた時、眠る前のやり取りをジルヴァラが覚えていたら拗ねられるかもしれないが、それはそれであいつが上手く機嫌をとるだろう。

[視点変更]



 ──真夜中。ボクは息を殺して騎士団本部の廊下を歩いていた。


 さっきはきっと他に人目があったから、ボクに手を出せなかったんだ。

 いくら我が道を行くお姿が素晴らしい幻日様でも、人目があれば理性が働くのだろう。

 幻日様の事をよく知らない奴らは泰然自若な方だと思っているみたいだけど、ボクは違う。

 本当の幻日様は情熱的な方で、ただその興味がごく一部にしか向かない、それだけなのに。

 あの子供がどうやって取り入ったかは知らないけど、孤児だって噂だから、捨てるに捨てられないのかもしれない。

 下手に捨てれば、逆恨みされたり、悪評が立ったりするかもしれない。

 まぁ、ボクが幻日様の物になったら、そんな煩わしい事も片付けて差し上げられるけど。

 あの冷めきった瞳を、ボクが情熱的に蕩けさせてやるんだから。




 ちょっと恥ずかしいけど、このコートの下は際どい下着しか着けてない。

 この姿を見れば、幻日様はきっと目を輝かせてボクを抱き寄せてくれる。

 邪魔な騎士団長は執務室へ戻ったのを確認したし、医者はボクの下僕に頼んで急病のフリをさせて呼び出したから今医務室にはいない。

 あの子供はいるかもしれないけど、この時間なら寝ているだろう。

 寝ている子供の脇で、というのも背徳的で良い。もちろん、幻日様にボクの部屋へ来てもらうのでも構わない。

 ふふふと思わず込み上げてきた笑いを抑えることなく笑ったボクは、辿り着いた医務室の扉へ触れ──。







「あーあ、馬鹿じゃないの〜?」



 医務室の前で倒れた金髪の少年を見下ろしてそんな言葉をかける、緩い喋り方の騎士らしき人影が一つ。



 倒れて動かない少年を嫌そうに爪先で蹴る人影。

 少年はピクリと動かない。

「……ん〜、穴掘って埋めようかなぁ〜」

 そんな事を口にした人影があははと楽しそうに笑っていると、足元の少年の指先がピクリと動く。

 それを見た人影は、心底残念そうにため息を吐く。

「生きてたね〜…………あー、あの辺に放り投げておこっと〜」



 ナニがあろうと、僕は知らないし〜?



 そう嘯いた人影は、嫌そうに少年を抱えて、何処かへ去っていった。



 闖入者未満を弾き出した医務室の方はというと、相変わらず静かなままで。

 中では、瞬きすらほとんどせず黒猫の格好の子供を抱えて添い寝をする青年と、そんな青年に部屋の天井付近から呆れた眼差しを向けながら、子供の眠りを見守るもふもふの姿があった。




 つまり、医務室の中は、何事も無かったように平和そのものだった。




 次の日、とある騎士従者の少年が、まだ寒い時期だというのに薄着で寝ていたため、ひどい風邪をひいて騎士団の所属の医者から呆れられたなんて出来事があったらしい。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


悪役? アヴェリ、勘違いしたまま、静かに退場です! 死んでないので、たぶんまた現れるでしょう。

もっと酷い目に遭わせましたが、さすがに心が痛んだので書き換えました。話の中は冬なので、蚊はいません。


一応お伝えしておくと、基本的に私は悪役だろうと愛のない無理矢理系のアハンウフンな話は苦手なので書きません。

もう一つのBL連載の主人公は、ああいう性格の子なのでチラッと書いちゃってますが、あれは特別です。


もちろん、ジルヴァラがそんな目に遭うことはあっても、せいぜい未遂ぐらいですので、安心してください(え)


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