304話目
感想ありがとうございます(^^)
ジルヴァラ、まだふにゃふにゃしてます。
ぽかぽかゆらゆらして、安心出来る温もりに包まれて眠っていた俺だったが、何か嫌な感じがして目を開く。
寝ぼけ眼のぼんやりとした視界に映るのは、こちらを優しく見守ってくれているフシロ団長とドリドル先生。
主様は見えないけど俺を抱えてくれているのを全身で感じられるから、俺は主様の膝上なんだろう。
すぐにふにゃふにゃとなりそうな俺の意識を引き戻したのは、知らない気配と警戒心を煽る声だ。
眠気と戦いながら、声の聞こえてくる扉の方を油断なく睨む。
相手によっては主様を守るため飛びかかるのもやぶさかではなく、ふわふわな思考の中無意識に姿勢が低くなり、体が揺れる。
「かわ……」
頭の上から主様の声が聞こえた気もするが、警戒心バリバリになった俺には聞こえてない。
「まんま威嚇する子猫だな」
「可愛いですね」
そんなギャラリーの声も聞こえてくる中、トルメンタ様と知らない癇に障る声の主が言い争いながら飛び込んでくる。
苛立った様子のトルメンタ様と……お人形みたいに綺麗な金髪の男の子。まぁ、男の子って言っても今の俺よりは年上っぽい。
何よりチラチラと主様を見る目が、値踏みしてるみたいで嫌だ。
主様の膝上に陣取ったまま、油断なくアヴェリと呼ばれている男の子を窺う。
どうやら彼は騎士ではないらしい。
見た目や態度的に、多分貴族な騎士様達の身の回りの世話をする従者なんだろう。
怪我をして痛がってるのは心配だけど、主様を嫌な感じの眼差しで見てくるので、正直仲良くなれそうもない。
飛びかかったら怒られるかな、とふわふわな思考のまま悩んでると、ドリドル先生の治療を拒んで近寄って来た男の子が、主様に触れようとする。
いつもなら、そんな独占欲塗れな台詞、我慢して口には出せない。
けれど、眠くてふわふわしていたせいか、素直な気持ちが口から飛び出してしまっていた。
「ぬしさまにさわるなっ」
言ってしまったからには仕方ない。
主様はこれぐらい気にしないことに期待して、俺は鼻息に気合をふんっと入れながら、敵認定した男の子を睨みつける。
「なっ……」
思いの外、俺の睨みが効いたのか、男の子は真っ青な顔でブルブルし始める。
弱い者いじめしちゃったみたいな反応に、俺は申し訳なくなって恐怖で動けないっぽい男の子へ、何もしないから大丈夫だよ、なアピールで少しだけ触れようとする。
だが、それは叶わなかった。
男の子が嫌がった…………訳とかではなく、今まで置物状態たった主様が動き出して、俺をギュッと腕の中に閉じ込めてしまったのだ。
「……う?」
これは時間差で「ぬしさまにさわるな」発言を怒ってるのかと、恐る恐る主様を見上げると、宝石の瞳に蕩けるような色を浮かべてじっと俺を見ている。
機嫌は悪くなさそうだ。
何だったらご機嫌でぽやぽやしてる。
俺も嬉しくなってえへへと笑っていたが、男の子が大きく動く気配を見せたので、反射的に主様を庇うように腕を広げてギュッとしがみつく。
「ぬしさまは、おれがまもる」
本音は『俺が』主様を触らせたくないだけど、それは言わないでおく。何か背中越しにあの男の子が叫んでた気もするが、俺は手を緩めない。
「……いや、それ守ってるのか?」
しばらくして、困ったような笑みを含んだトルメンタ様の言葉が耳に入り、俺ははたと冷静になった。
きょろきょろと周りを見ると、男の子はもういない。
しがみついていた腕を緩めて、そーっと主様を窺い見る。
「ロコ」
主様もたまたまこちらを見ていたらしく、バチッと目が合ってふわりと微笑んで名前を呼ばれて、俺は嬉しくなってえへへと笑う。
俺が冷えてたから、温めてくれるためにくっついてても嫌がらないでいてくれるんだろう。
せっかくなので、体調悪いから甘えて許されるムーブで、すりすりと額を擦り寄せておいた。
「…………どう見ても子猫だな」
突っ込み体質なトルメンタ様のそんな言葉も聞こえたが、俺はそこまで小さくて可愛らしい生き物じゃないんだけど?
そんなことを脳内で突っ込み返し、また主様を見上げると、何か期待に満ちた眼差しで俺をじっと見つめている。
「にゃー……?」
これで違ったら恥ずかしいが、どうやら正解だったようだ。
主様は上機嫌な様子でぽやぽやして、俺の顎の下を指先でくすぐってくる。
俺は猫じゃないので気持ち良くなったりはしないが、主様に触られるのは嬉しいので自然と目が細くなっている気がする。
「ロコ可愛いです」
主様の可愛い琴線は少し理解不能だ。
ま、可愛いって思われるのは好印象ってことだから、複雑な気分だけど嫌な気持ちはしない。
主様が満足するまで撫で回されて、程良い疲れに襲われた俺は、半分眠っているようなふわふわからしっかり覚醒することなく、もう一度深い眠りへと落ちていくのだった。
●
[視点変更]
問題児なアヴェリを止められなかったおれは、これ以上のアヴェリの暴挙防ぐために共に医務室へ飛び込んだのだが。
出迎えたのは、ドリドル先生と親父殿、いて欲しくなかった幻日サマ。それと、幻日サマの膝上にいる大きな子猫。
自分で言ってておかしいが、そうとしか言いようのない存在となったジルヴァラが銀色の目でこちらというかアヴェリをじっと見ている。
普段は見られない様子からして、どうやら寝起きというかほぼ半分寝ているのかもしれない。
まるで子猫が警戒してるような姿に、それを抱えている幻日サマの表情が蕩けきっている。
言わなくてもわかる。可愛いんだな。
確かに可愛いと言いたくなる気持ちはわかるが、何故あんな格好なのかは少し引っかかった。
って、今はそれよりも、幻日サマへ熱視線なアヴェリを止めないとヤバい。
変な事をしようとしたら力ずくでも止めるとアヴェリを見守っていたおれだったが、アヴェリの暴挙を止めたのは眠そうにふにゃふにゃなジルヴァラだった。
「ぬしさまにさわるなっ」
半分寝惚けているのか、喋り方は普段より舌足らずだし、少し尻を上げた四つ足の獣のような体勢でアヴェリを威嚇している。
迫力は…………まぁ、ある意味、動きは止まりそうだな、効果は一部の人間のみになりそうだが。
今も一番効果あるのは、うちの親父殿か幻日サマみたいだし。
最終的に抱きついて「まもる!」と宣言していたジルヴァラだったが、幻日サマがとろとろな顔になっただけで、アヴェリから守れていたかは微妙だ。
本人は満足したようで、幻日サマに撫で回されて最終的に眠ってしまった。
「なぁ、親父殿。あの服って、幻日サマの趣味なのか?」
ドリドル先生が入れてくれたお茶を飲みながら、上機嫌な様子で黒猫なジルヴァラを抱えている幻日サマを指差して質問する。
幻日サマはこういう扱いでは怒らないのはわかってるので、親父殿も苦笑いしながら質問に答えてくれる。
「いや。どうやら騎士団の有志からの差し入れらしいぞ?」
「しかも手作りです。ジルヴァラを最初に保護した時、服を二着しか持ってなかったのが相当気になっていたそうで、ついに自分で縫ったみたいです」
親父殿の答えに、ドリドル先生が補足説明をしてくれ、おれは服の贈り主が何となく同僚の誰かわかってしまったが、あえて口には出さないで、頷くだけで留めておく。
「……手作り、ですか」
ただ幻日サマがボソリとそんな事を呟いて、膝上で丸くなって眠る黒猫なジルヴァラを見ていたので、ちょっと嫌な予感は覚える。
いつものぽやぽやとした眼差しではなく、明らかな熱を帯びたその眼差しに、おれは心の中でジルヴァラへ謝っておいた。
たぶん、黒猫の他にも色々着せられる事になるだろうから、な。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)
ジルヴァラを着せ替える楽しみに気付いてしまった主様。
頑張れ、ジルヴァラ。そして、服を手作りしてくれた、何処かの誰かさん←




