表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
312/399

302話目

主様、まぁモテますよねぇ、という話。


怖れられてもいますが、当然そういう輩もわらわらいます。


[視点変更]



「……事件に巻き込まれる体質なのか、ジルヴァラは」



 まぁ、そのおかげであいつと出会ってここにいると考えると、その体質で良かったと言うべきか?



 ついさっき見たばかりの濡れ鼠状態の子供の姿を思い描き、俺はため息を吐く。

「だんちょー? 何してるんですかー?」

 そこへゆるく声をかけてきたのは、平民出ながら頭が切れて腕も立ち優秀かつ、毒舌で問題児筆頭な部下であるミーフーだ。

「……ジルヴァラが水に落ちて運ばれて来てな。冷え切っているようだから、風呂へ入れようかと思って大浴場の確認に来た」

「うわぁ、マジですか〜? ジルヴァラは大丈夫なんです〜?」

 相変わらずゆるい口調ながらも、俺を見るミーフーの目は真剣だ。

 オズワルドと仲が良いこいつも、ジルヴァラの事を可愛がっている……いや、俺の直属の部下達は皆ジルヴァラを可愛がっているな。

「あいつが連れて来て、ドリドルが診てるんだぞ?」

「それもそうですねー。あ、大浴場ならちょうど掃除が終わったところかとー……」

 俺の言葉に納得して頷いたミーフーは、俺の欲しかった情報を口にしてチラチラと医務室の方向を見ている。

「あまり、あいつを刺激するな。ジルヴァラの状態は、後で教える。他の奴らにもそう伝えておいてくれ」

「はぁい……大浴場も近寄らない方がいいですよね〜?」

「ジルヴァラが入るだけなら問題ないが、確実にあいつも一緒に入るだろうからな。ここで人死が出るのはさすがに不味い」

 俺の言いたい事を『きちん』と理解しているであろうミーフーは、ニィと口の端を上げて何とも言えない笑顔を浮かべて頷いている。

 性格はともかく、あいつの容姿は傾国の美女も裸足で逃げ出しそうな類稀なる麗人だ。

 俺の直属の部下達はあいつの強さに憧れていたりはするが、そういう意味で見ている者はいないだろう。

 だが、他所に目をやれば、命知らずにそういう意味であいつを見ている者は多い。

 実際、尻を触って半殺しにあった貴族もいるほどだ。

 裸を見られた程度、あいつは気にもしないだろうが、今回はジルヴァラを連れての入浴だ。下手に刺激して、城内に焼死体の山か氷漬けのオブジェを作成したなんてなったら、目も当てられない。



「あはは。幻日サマの裸なんて見たら、目が潰れますって〜」



 ミーフーはそんな冗談を相変わらずゆるい口調で口にしながら、俺の頼んだ仕事をするため元来た方へ引き返していった。



「とりあえず、俺の目もジルヴァラの目も潰れてないな」



 俺も引き返すため身を翻す際、そんなしょうもない軽口がポロリと口から溢れたが、幸いにも誰にも聞かれずに済んだようだ。



「道中の人払いは…………本人にさせればいいか」



 ジルヴァラの裸を見られても良いのかと言ってみるか……いや、さすがにそんなあからさまなやり口では動かないか。そもそも幼児と呼んで差し支えないジルヴァラの裸など、見られても特に差し障りはないだろう。



 良い案を思いつかないまま辿り着いた医務室で見たのは、上半身裸で全裸のジルヴァラをしっかりと抱きしめているというあいつの姿で。



「……人払いしないと、ジルヴァラの裸を誰かに見られるかもしれないな」



 考える事を放棄した俺の口からポロリと出たのは、一番最初に思いついて却下した案だ。



 これは「それが?」と一言返ってきて終わりかとあいつの反応を見ていたのだが、思いがけずぽやんとしていた目がカッと見開かれ、ジルヴァラを抱きしめている腕に力がこもるのが傍目でもわかる。

 想定外というか予想以上の反応に俺が引きつった笑みを浮かべていると、近づいて来たドリドルにため息を吐かれる。

「迂闊にあの方を煽るような事を言わないでもらえますか?」

「あ、あぁ……」

 まさか今ので効果あるとは、と口にした俺自身が一番驚いてしまったが、それを口に出してしまうとさらにため息を吐かれてしまうだろうから、諸々飲み込んで頷いておく。

「……あれは」


 どういう色の感情なんだ。

 

 そう続けて口から出そうになった言葉を飲み込む俺。

 これは下手に指摘すると、とんでもなくデカい藪蛇になりそうだ。それどころか、ドラゴンでも這い出てくるかもしれない。

「……出来ました」

 無言だったあいつが、微妙にいつもより気合の入った表情でふんっと鼻を鳴らして見せたので、人払いは済んだらしい。

 方法は怖いので、あえて聞かないでおく。

 人死にが出るような事はないだろう、おそらくだが。

「では……」

「待ちなさい。これはジルヴァラの体を拭くタオルです。それと、こちらは着替えです。先ほどまで着ていた服はまだ乾いていないので」

 ジルヴァラごと毛布に包まったまま、さっさと大浴場へ向かおうとするあいつを、相変わらず怖れの欠片すら見せずに引き止めたドリドル。

 その手には言葉通り、バスタオルと服らしき布があり、あいつもおとなしく受け取って収納したようだ。

「入浴を終えても帰らないように。水を吐き出したとはいえ、溺れかけたのですから、容態が変わる可能性もあります。ジルヴァラは、今日はここに泊まっていただきます」

 先を読んだドリドルの言葉を聞き、あいつは少しだけ不満そうだったが無言でコクリと頷いている。

 あいつとしては、自分の巣とも言える安全な自宅へジルヴァラを連れ帰りたかったんだろうが……。

「ぬしさま……?」

 寝言なのか起きたのかは毛布越しではわからないが、聞こえて来たジルヴァラの声に不満そうだった表情は、上機嫌なぽやぽやへと変わる。

 こんなところだけを見たのか聞いたのか、棘が無くなり人当たりが柔らかくなったと勘違いした馬鹿が現れ、相変わらず四分の三殺しぐらいの目に遭ってるようだ。

 この対応に関しては、陛下からの『幻日に絶対手を出すなよー(両方の意味で)』というお達しがあるので、四分の三殺しされても文句は言えない。



 ちなみにだが、殺してやる系な手出しの増減は無いが、犯し……ゲフンゲフン系な手出しが増えてるらしい。



 ジルヴァラのせいでぽやぽや度が増したため、これはイケる! と勘違いした野郎が増えたんだろう。

 不思議な事に、この勘違いに女性はほとんどおらず、幼児を愛でる幻日様を見守る会があるらしいとまことしやかに囁かれている。



「……その会の会長が王妃様とは」



 こちらの話は陛下から聞いたので、噂ではなく事実だ。



 今日の件も報告して! と来る途中に侍女頭経由で連絡が来ていたりもする。

 本気で、綺麗なものを愛でて何が悪いの? な集団で、ほぼ全員女性で全員が既婚者だという。そして、ほぼ全員がかなり高位の貴族。または同じぐらい影響力のある商家の奥方。

 理解は出来ないが、影響力はある。しかし、害は無さそうなので放置だ。

 いざとなれば、旦那達の攻撃からの防波堤になってくれそうだからな。



 上半身裸で毛布に包み直したジルヴァラを縦抱きにして歩いていくあいつの背中を見送り、俺は深々とため息を吐く。



「…………あの方、確か脱がせるのは早いですが、服を着させるのは苦手でしたね」



 そんな俺の耳にドリドルのポツリと呟いた声が聞こえ、俺はドリドルの言いたい事を察してもう一度深々とため息を吐くことになる。



「俺が手伝えばいいんだろ?」



 というか、下手に他の奴らに任せてあいつの逆鱗に触れたらと思うと、出そうになった三度目のため息を飲み込んで、俺は見送った背中を追って足早に歩き出すのだった。

「にゅ……っ」



 自分でも意味のわからない声が口から洩れたことによって目を覚ました俺は、ゆっくりと目を開けて現在の状況を確認しようとする。

「ロコ。流すので目を閉じてください」

 だが、そんな感じで主様からやんわりと注意され、素直に従うと適温なお湯が頭の上から流れてくるのがわかる。

 どうやら少し寝ている間にお風呂の準備が終わって、主様によって体を洗ってもらっているタイミングで目が覚めたらしいな。

「もういいですよ」

 主様の優しい声にパチッと目を開けると、そこはフシロ団長のお屋敷のお風呂よりさらに大きなお風呂で。

 さすが騎士団の大浴場という広さだが、入っているのは俺と主様だけだ。

 一瞬違和感を感じたが、全裸の俺をしっかりホールドをしている、同じく全裸の主様を見て色々納得してしまう。

 濡れた主様の色気は、まじパないからな。

 自慢したい気持ちと、誰にも見せたくないという相反する気持ちが湧いてきてしまった俺は、まだ寝惚けているフリをして主様へギュッとしがみつく。

 こうすれば突然誰かやって来ても、俺の体で主様の素肌を見られる範囲を減らせると思っての行動だったが、何か主様の機嫌が良くなってぽやぽやが増した気がする。

「まだ眠いですか?」

 質問する声は柔らかいし、主様にしては珍しくふふと小さく声を上げて笑っているので、気のせいではなさそうだ。

「んー」

 質問に対してはどちらとも言える感じなので、否定肯定どちら共取れる唸るような声で答えて、脱いだらすごい系な胸板にぺたりと頬を寄せたはいいが、また痛みで顔を歪めそうになるのを気合で堪える。


「…………誰ですか」


 つもりだったが、バレバレだったらしく、主様に抱かれてお湯に浸かってるのに、ひやりとしたような気がしてしまい、暖を求めてさらに主様へピタッと張り付く。

 ひやりとさせてる本人にくっついているので、あまり意味がない気もしなくもない。



 まぁ、俺が寒がってると気付いた主様が追及を諦めてくれたので結果的に良しとしよう。



 そのまま温かいお湯の中、安心出来る腕の中でゆらゆらと揺らされてると、またすぐに睡魔が襲ってくる。

 寝起きが良いから、寝付きも良いのかも……なんてどうでも良いことを考えて、睡魔に勝とうとシパシパと瞬きを繰り返すが、本日の睡魔はなかなかの強敵だ。

 無意識に愚図るような動きで主様の胸板に額を擦りつけていると、背中をぽんぽんと優しいリズムで叩かれる。

「寝ない子供は、こうやって寝かしつけると聞きました」

 誰からだよ、と反射的に浮かんだ突っ込みは、俺の口から出ることはなく、俺はされるがまま寝かしつけられてしまうのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)反応いただけると嬉しいです(*^^*)


某青い猫型ロボットの所の、眼鏡くん並みの寝付きの良さなジルヴァラですが、警戒している時は当然寝ません。逆に、安心出来る相手に抱っこされたりしちゃうと、即落ちします。

幼児には睡眠大事。

もちろん、やんのかステップ披露しそうな勢いで警戒することもあったり……なかったり?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ