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300話目

通算300話目です!


そして、感想ありがとうございます(^^)


狙った訳ではないですが、感想のアンサーのようなエノテラ視点となりました。


最後の部分に、感想で腕の一本ぐらい詫びに差し出せやゴラァ(誤訳)とあったので、本人に決意だけさせてみるのに付け足しました。



[視点変更]




 その話を聞いたのは、本当にたまたまだった。



 最近はほとんど訪れていなかった、実の祖父母のように慕っていた相手の名前が聞こえてきたのは、冒険者ギルドの中の酒場スペースの方からで。




 早い時間から酔っ払った中堅冒険者達が、何故か俺の方をチラチラと見ながら何かを話して笑っている。

 スリジエと行動するようになってからよくされる態度なので、俺は今さら気にも留めないつもりだった。

 しかし、その話す内容の中に慕う相手の名前が出た事によって無視は出来なくなる。

 不機嫌さを隠さず話をしていた冒険者のテーブルへ近寄り、説明を求めると、返ってきたのは俺を後悔させるには十分の内容の話だった。



「カエルラさんがそんな酷い病気をして、家が荒れ放題になってたのか……。しかも、依頼を受けた冒険者がとんでもない奴だったなんて……。あの人達が何したって言うんだ」



 知っていたならお見舞いにも行ったし、もちろん家の片付けだって手伝っていた。

 薬が必要なら手に入れるために何でもしたと思う。

 しかし、それは全て過去の話で、カエルラさんは手に入った薬で完治し、元気になったという。

 だが、荒れ放題になった家は一瞬で綺麗になる訳もなく、病み上がりのカエルラさんにあまり無茶はさせられないと、ゾンネさんは手伝いを冒険者ギルドへ依頼として出していたらしい。

 俺が普段見ている依頼とは毛色が違いすぎて、俺はその依頼を見逃してしまっていた。

 後悔しても遅いが、最近になってやっとその依頼を受けた冒険者がいて、それが今回の噂話の元だった。

 酔っ払いな冒険者達が話した内容を聞いた俺は、込み上げる怒りと、自身への不甲斐なさに苛まれながら、久しぶりにゾンネさんとカエルラさんの顔を見るために訪れることにした。

 彼らが俺を見てそんな噂話をしながらニヤニヤしていた意味を俺はまだこの時は知らなかった。



 ゾンネさんの家へ行くのに迷子になる訳もなく、しばらく後、俺はゾンネさんの家の前に立ち尽くしていた。

 かなり会いに来ていなかったという不義理が、玄関へと向かう足を鈍らせてしまい、俺は懐かしい気持ちに誘われるまま庭の方へと歩き出す。

 庭の方も草が生えて荒れ放題になっており、俺はさらに申し訳なさを感じてしまう。

 少し草むしりでもしてから会いに……と生い茂った草を見渡していた俺の視界に、扉が開いたままになっている小屋が映る。

 あの中には地下室があり、ゾンネさん達はよく思い出の品なんかをしまっていた。

 だが、その小屋の扉は普段しっかりと施錠されていて、開けっ放しにされているところなどほとんど見た事がない。

 そこに違和感を抱いた俺は、足音を殺して小屋の中へ侵入する。

 やはりというか、小屋の中へ入ると地下室の扉が開いており、そこから人の気配がする。

 ゾンネさんが中で何かを探しているのなら、笑い話にして話しかければいい。


 もしも、違うなら……。


 足音も、気配すらも殺して開け放たれている地下室の入口へとゆっくり近づく。

 覗いた先に広がった光景に思わず声を上げそうになったが、まだその時ではない。

 光に慣れた目に地下室の明かりは頼りなく、少し視界がボヤけている。

 何度も瞬きをしていると、ザバッという水音がして階段を上ってくる人影が見える。

 ゾンネさんやカエルラさんではないのだけは確実だ。

 その人影はやたらと小さい気がしたが、それよりその人影が手にした物に気付いた瞬間、俺の頭にカッと血が上り、気付いた時には恫喝しながら人影を思い切り殴り飛ばしていた。

 驚いた様子で見開かれた目の銀色が、俺の網膜に焼きつく。

 軽く小さな体は簡単に吹き飛ばされ、上がってきたばかりの水の中へ落ちて大きな水音を立て……そのまま動かなくなる。

 そこで初めて、俺は自分が殴り飛ばした相手の正体を悟る。



 もう一人の特例冒険者だ。



 なんだかんだ言っても、幼いコイツには、ゾンネさんが怖かったんだろう。それで、依頼を途中放棄して…………いや、なら何故コイツはここにいた?

 地下室に何か価値のある物があると思って、こっそりと持ち出そうしていたのか?

 実際、写真立てを盗もうとしてると思ってしまったが、正直この写真立てにはそんな価値はない。

 まぁ、上がってきた所を捕まえて、しっかり話を聞けば良いかと様子を窺うが、子供は水面に浮かんだままピクリともしない。

 俺はここに来て、やっと焦りを抱く。

 俺が殴ったのは何処だ?

 怒りに任せていたので、記憶が曖昧だ。

 でも、小柄な体の何処かに当たったのは確実。




 助けるべきか………いや、そうだ。このまま死んでしまえば、スリジエは名実共に最年少冒険者になれる。




 まるでそれが正しいとでも言うように、頭の中に霞がかかったようになり、可愛らしい声が脳裏で嘯く。




『ここに自分は来ていない。見なかったことにして立ち去ればいい』



と。



 その声に従いそうになった瞬間、懐かしい怒声が背後から響いて、動揺する俺には目もくれず、その相手──ゾンネさんは冷たい水へ飛び込もうとする。


 あの人にそんなことはさせられない。


 それに、あの子供を助けないといけない。


 今さらながら、きちんとした……当たり前の考えが頭の中で組み立てられ、俺は気付いた時には水の中に飛び込み、意識のない子供を腕へ抱えていた。

 すぐにその子供をゾンネさんに預けるが、顔色は真っ白で呼吸は今にも止まりそうに見える。


 これは全て俺がやった事が原因なんだ。


 今さらになって罪悪感が込み上げ、ゾンネさんの顔も、続いてやって来たカエルラさんの顔も見れない。


 このままではこの子供は死んでしまうかもしれない。


 そう自覚した俺はゾンネさんの手から子供を奪って、自らの足で医者の元へ向かおうと手を伸ばして──背筋に走った怖気で身動きがとれなくなった。


 かろうじて動かせる目だけで窺う視界の中には、いつの間にか鮮やかな赤色がある。


 嫌と言うほど見覚えのある赤色の持ち主は、俺へ道端のゴミでも見るような眼差しをほんの瞬き一つの間向けただけで、興味を失ったようで視界にすら入らなくなる。



 お前には手にかける価値すらない。



 言葉より雄弁に、全身でそう語る赤色の持ち主は、腕に抱いた子供しか見ていない。

 俺は指一本動かす事も出来ず、赤色が視界から去るのを呆然と眺めていた。



 どれぐらいそうしていたか背中をバンッと叩かれて、その衝撃でハッとした俺が振り返ると、そこには悪戯をした俺にいつも怒ってくれた時と同じ顔をしたゾンネさんがいる。

 その隣では、仕方ない子ね、とばかりに怒りながらも困った顔をするカエルラさんもいる。



「ゾンネ、さん、カエルラさん、俺、俺……っ!」



 ぐちゃぐちゃになった感情で、それだけを口にして幼子のように泣き出してしまった俺を、二人は昔のように優しく、それでいて厳しく、でもやっぱり優しく話を聞いてくれたのだった。



 ずっと会いに来なかった俺を責める事なく、ただあの子供に対する振るまいだけは本気で叱られた。



 本気で叱ってくれる相手の有難みを噛み締めながら、俺は久しぶりにゾンネさんと一緒に風呂へ入って、昔より小さく感じる背中を流した。



「許してもらえるかわからないけど、俺、ちゃんと謝るから」



 そう言った俺に、二人は昔のように並んで頷き、見送ってくれた。



 謝罪したその結果、腕を切り落とされようとも俺はもう後悔したくないのだ。


[視点無し]



 殴られて水の中へ落ちる寸前、子供がしたのは自らの安全のための行動ではなく、肩の上にいた小さな友人を助けるという行動だった。

 肩の上にいたテーミアスを鷲掴みして放り投げ、自らはそのまま水面へと体を叩きつけられ、意識を飛ばしてしまう。

「ぴゃっ!?」

 放り投げられ驚いていたテーミアスは、今度は水に叩きつけられて動かなくなった子供に慌てたような鳴き声を上げる。

「ぢゅぢゅぢゅっ!」

 しかし、人が増えても、ここには子供のようにテーミアスの言葉を理解する者も、その存在を気にかける者もいない。

「ぢっ!」

 可愛らしい見た目に反して男前なテーミアスは短く何事か吐き捨てると、子供を助けるため即座に動き出す。

 壁を蹴って物理法則何処行ったな飛び方を披露して地下室を飛び出し、高速で飛びながら真ん丸い大きな目で辺りを見回す。

 その目が捉えたのは、近くの家──その屋根の上に彫像のように立っている赤色の青年だ。

 相手が相手なので、遠慮の欠片もない弾丸のような突撃をするテーミアス。

 反射的にソレをはたき落とそうとして、自分が溺愛している子供が可愛がっている毛玉だとギリギリで気付いて、鷲掴む赤色ストーカー。

「びゃっ! ぢゅぢゅぢゅっ! びゃぁ!」

 鷲掴みされたまま、無言無表情で自分を見ている赤色の青年に必死で訴える毛玉ことテーミアス。

 だが、さすがの人外も動物の言葉は解さないのか、内容を理解した様子はない。

 それでも、すぐに反応して動き出したのは、青年の中で『この毛玉が一人でここにいるからにはロコに何かあった』という方程式が出来上がったからだろう。

 本当なら張り付く勢いで見守りたかった青年だったが、最近は子供の『主様大好きセンサー』が鍛えられたのか、見つかってしまう事があるので距離をとっていた。

 その事を後悔し…………てるかは不明だが、屋根の上を高速移動して、子供がいる場所へと辿り着いた青年は、見知らぬ人間達から自身の大切な子供を取り返す。

 腕に抱いた子供の明らかな体調不良に、自身は体調不良なんてものとは無縁の青年は、どうしたら良いのか今さらながら悩んでしまい、とりあえず屋根の上で子供の体をギュッと抱きしめる。

 その程度で冷え切った子供の体が温まるはずもなく、青年の肩の上に渋々陣取ったテーミアスから「ぢゅっ!」と鋭い突っ込みが入る。

 青年の耳を遠慮なく引っ張るという暴挙に出たテーミアスが、ピッと前足で指し示すのは高い塀に囲まれた城の方向だ。

 テーミアスは『あそこにはこいつにも勝てるやばい医者がいる』と覚えていたのだ。

「……あの医者なら」

 青年もその存在を思い出したのか、子供をしっかりとローブの中へとしまってから、城へ向かって移動していく。

 入口から入るなんてまどろっこしい事を青年がする訳もなく、高い塀を越えてダイレクトに目当ての医者がいる騎士団の医務室へと向かう。

 もちろん城であるからには警備は厳重だが、見張りの兵士達は、侵入者が青年だと気付いた瞬間、顔を見合わせて一人が何処かへ走り去る。

 そんな騒ぎになっている事など気にしない青年は、ノックもせず辿り着いた医務室の扉を開けてズカズカと奥へ進んでいく。

 その読めない思考にあるのは、子供の事だけなのだろう。

「あなたですか……せめてノックぐらい……」

 呆れていた騎士団専属の医者であるドリドルの表情は、青年が自らの懐から出した子供を見て一気に色を変える。

「ジルヴァラ!? 何が……」

 質問をしようとして、その答えをこの青年からもらえると思えなかったドリドルは口を噤み、青年の腕から意識のない子供の体を奪い取る。

 相変わらず子連れの熊から子熊を奪う並みに恐ろしい事を平気でやってのけるドリドルに感心したのは、青年の肩の上に陣取ったテーミアスぐらいだ。

 やってのけた本人も、奪い取られた本人も気にはしてない。

「体温が低下していて、呼吸も浅い……溺れたのですか?」

 濡れた服を子供から剥ぎ取りながら、ドリドルはベッドの傍らに立つ青年へ問う。

「…………さぁ」

「ぴゃっ!? ぢゅっ、ぢゅぢゅっ!」

 返ってきた他人事そのものな答えを聞いても、ドリドルは予想していたのか軽く眉を顰めただけだったが、青年の肩の上に陣取ったテーミアスには許せなかったようだ。

 小さな体を目一杯膨らませたテーミアスは、前足をぶんぶんと振って、バシバシと尻尾で青年の頭を叩いている。

「あなたと話せれば説明してくれそうですが……」

 ドリドルの言葉に、テーミアスは「わかんないのかよっ!」と言いたそうなショックを受けた表情で、青年の肩の上で崩れ落ちる。

 そんなテーミアスの叫びが届いた訳では無いだろうが、濡れた衣服を全て脱がされた子供が身震いしてゆっくりと目を開く。

「けほっ……!」

 すぐに咳き込んで水を吐き出した子供に、ドリドルは慌てた様子もなく背中を擦って水を吐き出させる。

「ジルヴァラ、わかりますか? 何があったんですか?」

 濡れた子供の口元を拭いてあげ、そのまま全身を毛布で包んで優しく問いかけるドリドル。

 すぐ近くで、無表情のままおろおろとしてぐるぐる歩き回る赤色の青年の存在は完全にスルーされている。




 そんな混沌としているタイミングで医務室へやって来たのは、幻日様が飛び込んで来た、という一報を受けて呼び出された苦労人な幻日担当である騎士団長のフシロで。



「………………風呂が空いてるか確認して来よう」



 そして、ドリドルが抱いた子供の様子をちらりと見て、今一番必要とされるであろう件の確認という理由を口にして、そっとまた医務室から出ていってしまった。

いつもありがとうございますm(_ _)m

読んでくださる皆様のおかげで、300話目まで来ました!感謝しております!

5話で終わらせるつもりだった数年前の私! まだまだ終わんないですけど!


そして、記念すべき300話目に意識のないジルヴァラ(*´Д`)

さすがです!ある意味、期待を裏切らない(笑)


まぁ、乙女ゲーム本編では、エノテラってメインヒーローなんで←


これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m


エノテラの腕はどうなるかは未定です(๑•̀ㅂ•́)و


ジルヴァラが欲しがれば(え?)主様がサクッと持ってきてくれると思います。あと、今の時点の主様は、回復などは全く出来ません!なので、常にジルヴァラ抱っこでドリドル先生直行してます。


回復覚えたら…………死者蘇生とかしちゃいそうですよねぇ。

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