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31話目

おはようございます。


デレる主様、気付かない通常運行ジルヴァラ。


こういう温度差大好きです←

 目が覚めた時、俺は自分が何処にいるかわからず、反射的に飛び起きて辺りを見回す。

 俺が寝かされていたのは馬車の座席ではなく大きなベッドの上で、隣に主様の姿はない。

 混乱の中、ぐるりと薄暗い部屋を見渡した俺は、そこでやっとここが主様の寝室だと気付いて安堵の息を吐く。

「ぬしさまー?」

 寝起きなせいか自分でも驚くぐらいの甘えたような呼び声になってしまい、誰も見ていないだろうに恥ずかしさから思わず口元を手で覆う。

 そのまま、あうあうと意味のない声を洩らしてると、結構な勢いで寝室の扉が開かれて、思わずビクッとしてしまう。

「ロコ」

 主様だとわかっていても驚いてしまい目を見張った俺の元へ、勢いよく開けたわりにゆったりとした足取りで主様が近づいてくる。

「具合はどうですか?」

「心配かけてごめん。主様と一緒にいられるって安心したせいで、気が緩んだのかも。明日から走り込みでもするよ」

 ただでさえ、怪我と毒のせいで体力落ちちゃってるし、早く万全の状態に体調を戻したい。

 そんな気持ちでベッドから飛び降りて、その場で軽く走る真似をして見せたのだが、眉を顰めた主様にひょいと抱えられてしまう。

「おとなしくしていてください」

「別に傷ならほとんど塞がってるし、体調だってなんともないぜ?」

 ぽやぽやしてない主様へ向け、元気ですアピールをしてみたが降ろしてはもらえず、そのまま暖炉の前のソファまで運ばれてしまった。

「温室育ちなお坊ちゃまならともかく、俺が何処で暮らしてたか、主様なら知ってるだろ?」

 森暮らしの時はちょっとくらい具合が悪くても食料探して動き回るのは日常だったことを思い出して言ったのだが、返ってきたのは無言で頬へ触れる手だ。

 訝しむ間もなく、ぶにゅと顔を挟むように手で潰されてしまい、俺は目線だけで主様を睨む。

「だから? 今、ロコは私と共にいるのですから、そんな無理をする必要は何処にあるんです?」

 反論したいが顔を挟まれて口も塞がれた状態では喋れないので、俺は瞬きもせずさらに主様を睨んでおく。

「そんな顔をしても駄目です。……無理をさせたら、ロコはあの医者に連れて行かれてしまうんですから」

 そう言ってふいっと視線を外し、ついでに手も外してくれた主様だが、台詞の後半は小声で聞こえず、俺は首を傾げて主様を見やる。

 言い直してくれる気はないらしく俺が見守る中、主様は無言で収納からあのピクニックバスケットを取り出して、テーブルの上へと置いた。

「ご飯にしましょう」

 完全に誤魔化す気な主様に、俺は今度こそと反論しようとしたのだが、俺が何か言う前に腹の虫が情けない鳴き声をあげる。

「……おう」

 主様にも聞こえたのか、微笑ましげなぽやぽや顔で見られてしまい、俺は力なく笑ってとりあえず反論を諦める事にして頷くのだった。

 ピクニックバスケットの中身は、多種多様なサンドしてる系パンだったので、飲み物が欲しくなった俺は、移動式自律思考方踏み台……要するに主様に抱えてもらって飲み物の準備をしていた。

「ホットミルクー」

 こちらでは絶対通じないネタな節をつけて小鍋で温めた牛乳をマグカップへ注いでると、後頭部に何かが触れている感覚がある。

 肩辺りに結ばれてない主様の髪がサラサラと触れる感じもするし、主様が顔を近づけて何かをしてきてるようだ。

 後ろに目はないし、見えないからわからないけど。

「牛乳温まったから、持ってって食べようぜ」

 そう声をかけると、「はい」という声が思いの外近くから聞こえ、笑い声混じりの吐息が首筋をくすぐる。

 俺が二人分のカップを持ち、その俺を主様が抱えての移動方法でソファまで運ばれてから、別に普通に歩けば良かったんじゃないかと思い至るが、主様が楽しそうにぽやぽやしてるので口には出さないでおいた。

 食べづらいので膝の上は断固拒否して主様の隣に一人で腰かけた俺は、色とりどりのサンドしてある系パンを眺めて感嘆の息を吐く。

「どれも美味しそうだな、主様」

 へらっと隣に座る主様を仰ぎ見ると、ちょうどこちらを見ていたのか、バッチリ目があってぽやぽや微笑まれる。

「はい、美味しそうですね」

 出来ればその一言はパンの方を見て言って欲しい。俺は食べ物じゃない。

 こういうことをするから、勘違いした変態がホイホイされてフラグ建っちゃうんだなと思いながら、俺は適当にバケットサンドとサンドイッチを数種類選んで皿に盛り、ぽやぽやしてる主様へ押しつける。

「嫌いなのあれば残しといて」

 こうでもしないと主様はいつまでもぽやぽやしてて食べないのは、今までの旅でわかってるので、押しつけるようで申し訳ないけど食べてくれない方が困る。

「いえ。いただきます」

 ゆるく首を横に振った主様は、表情を変えずぽやぽやしたまま、俺が押しつけたパンをモグモグと咀嚼していく。

「いただきます!」

 主様が食べ始めたのを確認してから、俺も白く柔らかなパンの定番過ぎる見た目のサンドイッチを手に取って、はむっと齧りつく。

「んま……っ」

 昨日……じゃないか、一昨日食べたオズ兄の買ってきたバケットサンドも美味しかったけど、このサンドイッチも美味しい。

 中は定番のゆで玉子を刻んでマヨネーズで和えたものっぽいけど、パンも中身も前世で食べていたサンドイッチに負けてない。というか、勝ってるかも。

「……美味しい」

 あまりの美味しさにサンドイッチを両手に持って無心であむあむと食べていると、視線を感じた気がして主様の方を見る。

「こっち食べてみたいのか?」

 やはりというか気のせいではなく、主様はちまちまと渡した分のパンを食べながら、ぽやぽや微笑んで俺の方ばかり見ていた。なんだったら、パンを皿から取る時でさえ、俺から視線を外さない。

 今俺が食べてるのは、主様の皿には乗せてない種類だから食べてみたいのか、と判断した俺は、手に持っていたサンドイッチを主様の方へとぐいっと差し出す。

「ん」

 一瞬の躊躇もなくコクリと頷き、主様はサンドイッチを持つ俺の指を若干噛む勢いでパクリとサンドイッチへ食いつく。

 俺が食べやすい用にしてくれたのか、もともと小さめな一切れが、さらに俺の食べかけで小さくなっていたので、目測を誤ったんだろう。

 食べかけじゃないのを新たに取る、と脳裏に浮かんだ考えは、気にしないみたいだからいっかー、と躊躇う気配もない主様の態度で流され、俺は残った方のサンドイッチを見つめている主様へ、そちらの方も差し出してみる。

「ん」

 再び、パクリと俺の食べかけサンドイッチは主様の口内へと消える。

「こっちも美味しいだろ?」

 そう俺が聞くと、主様はぽやぽやして、はい、とだけ答えて微笑んでいる。

他人(ひと)が食べてるのって、美味しそうに見えるよなー」

 えへへと笑いながら、俺は新たなサンドイッチを手に取って食べ進めるが、相変わらず隣からの視線が痛い。

「これは主様の分にも同じの乗せてあるだろ?」

 今食べてるのは、厚切りのハムが挟まれた少しスパイシーなサンドイッチで、俺が指摘した通り、主様の分の皿の上にも同じのが乗せてあるし、何だったらバスケットの中にも同じハムサンドは残っている。

「ほら、俺が今食べてるのはこれ」

 同じだろ? と右手に食べかけ、左手に新たなハムサンドを持って見やすいように主様の目の前へ差し出してみる。

「ん」

 どこもかしこも美しい主様は歯並びも綺麗で、八重歯の目立つ白い歯並びが見えたなーと見惚れていると、そのまま顔が近寄ってきて、かぷりとサンドイッチをもっていかれる。

「って、なんで俺の食べかけの方食べるんだよ」

 ハッとした時には、右手に持っていた食べかけのサンドイッチは消えていて、俺は呆れた声で突っ込みながら、無言でもぐもぐ咀嚼している主様を睨む。

「美味しそうだから?」

 口内の物を飲み込んだ主様は、睨む俺を気にした様子もなく、ぽやぽや微笑んで首を傾げて答える。

「……そう」

 食べてくれるなら何でもいいや、と諦観を滲ませて笑った俺は、左手に残った方のサンドイッチを食べ始めたのだが、結局それも残り半分程をもっていかれてしまう。

 最終的に俺は、種類がかなりあって全種類制覇は無理だなと思っていたサンドしてる系パンを、一口ずつ味見する形で制覇しまうことになった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


お気に入りは懐に入れて出したくないし、誰にも触らせたくない主様。


大好きな人の役に立ちたくて色々したり、あちこち飛び出して色々引っ掛けてくるジルヴァラ。

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