幕の外 5−2
こちらは2話目です! 出来れば1話目からお読みいただけると嬉しいですm(_ _)m
次回は、待ての出来ない人外さんのターンですので。
あたしの扱いに怒ったエノテラが騎士に食ってかかってる。
その姿にうっとりしながら、あたしは人質を奪われてしまった哀れな犯人を見つめる。
慈愛に溢れる瞳で、一心に。
あたしにこんな酷い事をしておいて、諦めるなんて許さない。
そう強く強く。
「ぬぉぉーっ!」
そんな感じの気の抜けた叫び声と共に、再び犯人が暴れ出してグラへ向かう。
これよ、これ!
あたしが内心でよくやった! と思っていると、何故か犯人はちらっとあたしを見てから、グラへと向かう。
今さらあたしの人質としての価値に気付いたって遅いのよ!
そんなことより、今こそ颯爽とグラの前に駆けつけて、ナイフをバシッと弾き飛ばしてグラを助ける時ね。
あたしは万全を期すために、自身へ強化魔法……つまりはドーピングをして駆け出す。
長時間は無理だけど、これであたしもかなり速く走られる……はずだったのに、気付いたらあたしはまた地面へ倒れ伏せていた。
その間に犯人はさっきあたしを突き飛ばした極悪騎士によって無力化させられた。
またあたしは好感度アップに失敗してしまったのだ。
諦めきれないあたしは、もう勝手に全部解決したとばかりに会話をしているナハト達を横目に、優しく微笑んで犯人へと近寄る。
エノテラが止めてくるけど気にしない。
「駄目よ! だって、あんなに辛そうにしてるよ! あたしが癒やしてあげないと……」
決まった! と内心で思いながら、あたしは犯人へ駆け寄る。今度は転ばない。
「ねぇ!」
優しく微笑んだあたしは声にしっかりと『力』を込めて、犯人へと語りかける。
優しく優しく、甘い甘い囁きを。
ブツブツと呟いていた犯人の目に暗い光がしっかりと宿り、その憎悪の眼差しが向ける先を探してさまよい出す。
だから、あたしはそっと囁いて背中を押すの。
『ほら、あそこにあなたを捕まえた騎士団長の息子がいるわ』
『のうのうと生きてて、あんなに笑ってあなたを馬鹿にしている酷い子よ』
『正義はあなたにあるんだから』
「さぁ、立って行きなさい」
犯人の耳元へ駄目押しの囁きを吹き込んで、その手にあたしが護身用に持っていた小さなナイフを握らせる。
これで殺せなくと、あたしと同じぐらい痛い思いはさせられると、あたしはひっそりと微笑んだ。
そして、
「だ、駄目よ! そんなことをしては!」
少しわざとらしかったかしらと思ったけど、誰もあたしには目もくれず、奇声を発している犯人しか見ていない。
「あーあ」
結局、犯人は何もなせないまま、また捕まってしまった。
しかも、邪魔をしたのはオズワルドとかグラとかではなく、名前も覚えてない同級生の男の子と、モブなナハトの従者なんて。
話しかける材料にもならないじゃない。
何かイライラしたら、さらに傷が痛くなってきた気がしたあたしは、涙目でエノテラへ訴える。
「エノテラ! お願い、傷が痛むの、助けて……」
エノテラが必死になって慰めてくれるけど、痛みが消えなくて「痛い痛い!」と訴えていたら、特別な部屋へ通してもらえた。
さすが城って感じの高そうな内装の客間だったけど、通された瞬間、あたしはこっそりほくそ笑む。
そこはゲームで見覚えがあったとあるイベントの起こる部屋で、まさに怪我の功名ね。
「そうよ、そうだったわ。あたしはグラを庇って怪我をして、ここに通されるの! 好感度が高い順にどんどんお見舞いに来てくれるのよね。それで二人きりの部屋の中……」
思い出せたイベントの詳細に頬を緩めていたあたしは、響いたノックの音に慌てて表情を引き締める。
「スリジエ、医者に来てもらったぞ」
そう言って入って来たのは、やっぱりというかエノテラ。
当然よね、エノテラはあたしにベタ惚れだもの。一番はエノテラに決まってる。
ありがとうと微笑むと、エノテラも嬉しそうに微笑んでくれて、そのまま医者の診察に付き添ってくれる。
「…………終わりました」
あたしの傷を見て、痛々しいと思ったのか医者はなんとも言えない表情で治療を終わらせて帰っていった。
部屋に残されたのはあたしとエノテラ。
そろそろ次の攻略対象者が来ちゃうと思うけど、エノテラが嫉妬して乱暴な態度に出ないと良いな、あたしはそんな心配をしていた。
でも、そんな心配、するまでもなかった。
「何で誰も来ないの?」
「ん? 医者なら呼んだだろ? まだ何処か痛むのか?」
苛立ち混じりに呟くと、イベントのことを知らないエノテラからはズレた問いかけをされる。
そこで、あたしは勘違いというか、当然な理由にはたと気付いてしまった。
そう! ここにエノテラがいるから、誰も来ないのよ。
ゲームでは前の来訪者が帰ってから、次の攻略対象者が現れていた。今ここにエノテラがいるから、そのせいできっと遠慮して来てくれないんだと。
そう気付いてしまえば、あたしがとる行動は一つ。
「エノテラ、あたし少し休みたいから、一人にして欲しいなぁ」
そう甘えて、エノテラを部屋から追い出してしまえばいい。
「わかったよ、スリジエ。何かあれば呼んでくれ」
あたしに甘いエノテラは、そう言ってあたしの頭を撫でてから部屋を出ていってくれる。
これで部屋にはあたし一人。
次に来てくれるのは誰かな。
順当に行けばグロゼイユだけど、グロゼイユは城にいないから外されているかも。
だとしたら、
「きっと、グラね…………あ、でも、ナハトの可能性もあるかも……」
あたしのドレス姿に見惚れちゃってたものね。
思い出してうふふと笑っていたあたしは、さらにダークホースがいることに気付いて、思わずパンッと手を打ち鳴らす。
「そうよ、オズワルド! オズワルドが一目惚れしてやって来るかもしれないわ!」
楽しい想像にうふふふと笑いながらベッドに転がる。
どのポーズで迎えたら可愛いかな、と色んなポーズをベッドの上で試しながら、ノックがされるのを待つ。
誰も来ない。
もうしばらく待ってみる。
やはり誰も来ない。
いつまで経っても誰も来なくて、あたしは待ちきれずそっと扉を押し開けてしまった。
そこには遠慮して部屋に入れなかった攻略対象者がいた…………りはせず、エノテラが真剣な顔で見張りをしてくれていて。
「もう、エノテラったら……」
このせいで他の攻略対象者が来なかったんだと納得したあたしは、もう待つのは止めて自分から向かうことにする。
「スリジエ、具合は平気なのか?」
「ええ。心配かけた皆さんに挨拶したいの!」
反対していたエノテラを、殊勝な台詞と微笑みで説得したあたしは、心配していても来れなかったであろう筆頭なグラの所へ、元気な姿を見せるために向かうのだった。
そこで、あたしより目立った……誰かの従者らしいけど、そんな相手がいたと知って、あたしは反射的に舌打ちしそうになってしまう。
だってそうでしょ? そのせいで、犯人を説得するために怪我をしたっていうあたしの美談がかすれちゃってるのよ?
しばらくお茶会の会場にいたけれど、誰も話しかけて来ないし。きっと、エノテラがあたしが怪我したせいでピリピリしてたからね。
そんな複数の苛立ちを抱えて、次にあたしが向かったのは、順当に行けばこの国の次の王となるアンジールの所!
途中うるさいメイドや騎士に止められたけど、あたしはアンジールからいつでも来ていいって言われてるのに!
そう訴えていたら、アンジールが出て来てくれたので、お茶会の会場であった事を話して、控えめにあたしの活躍を教えてあげたの!
筋肉馬鹿なアンジールは、うんうんと頷いているだけで、あたしの欲しい言葉は全くくれなかったのが残念。
──やっぱり、王にはグラの方が向いてるのよ、そうに決まってるわ。
ゲームでは、そうだったんだから。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございますm(_ _)m反応いただけると嬉しいです(*^^*)
ヒロインちゃんは、ある意味ゲームの主人公らしいのかもしれませんね。
何処までも傲慢に、自分の正義(笑)を貫いていく。
自作自演しようが、自分の望みを叶えようと頑張るヒロインちゃんです。
彼女の最終目標は…………。




