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293話目

もう、噂するから……。


感想ありがとうございます! 300回目お祝い感謝です(*´Д`)



 シリアスな話は終わって、アンジール殿下はすっかりまた尻尾ぶんぶんな大型犬に戻ってしまった。

「グラも可愛いが、ジルヴァラも可愛い」

 そう繰り返している人懐こい笑顔の相手を押し退けることも出来ず、俺は諦めの境地で、これはゴールデンレトリバーに懐かれているんだと思い込もうとした。

 その結果、気付いたらアンジール殿下の頭をよしよしと撫で回していたのは…………どうしよう。

 きょとんした表情のアンジール殿下から見つめられること数秒、俺はやっとしでかした事実に気付いて、どう誤魔化すかと必死に言い訳を考える。


 頭にゴミが……派生として、頭に虫がいた……もありか?


 そんな言い訳考える時間があるなら、頭を撫でる手を止めるべきだった。

「頭を撫でられるなんて、いつぶりだろう」

 アンジール殿下のしみじみとした呟きを聞いて、俺はバッと手を引こうとしたのだが、その手をアンジール殿下にそっと引き止められる。

「……もう少し撫でていてもらえないかな?」

「は、はい……」

 くぅんという副音声が聞こえそうなアンジール殿下からのおねだりを断るなんて出来ず、俺は手触りの良いアンジール殿下の髪を撫で続ける。

 手触りが良いといっても主様の方が断トツで触り心地良いけどな、なんて誰に向けたものか不明な自慢を心の内でブツブツと呟く俺。意味は特にない。

「そろそろお迎えが来る頃ですね」

 無心でアンジール殿下を撫でていたら、書類仕事へ戻っていたドリドル先生が唐突にそう言い出した。

「あぁ。アンジール殿下を側仕えの方とかが探してるんですね」

 撫でる手を止めて、日溜まりでお昼寝をする大型犬みたいになっていたアンジール殿下を見て納得したとばかりに呟く。

 それはそうだよなぁとうんうんと頷いていると、苦笑いしながら近寄って来たドリドル先生によって俺はアンジール殿下の腕から回収される。

 そっか、アンジール殿下の腕の中に俺みたいなのが抱っこされてるのなんて見られたら、何言われるかわからないもんな。

 俺はとっさにスカーフリングをポケットから取り出して、再び装着して変装を済ませる。これで完璧だろう。

 ドリドル先生の細やかな心遣いに感動していると、困った子ですねと呟いて苦笑いしたドリドル先生から鼻先を軽く摘まれてしまう。

「う?」

「アンジール殿下ではありませんよ」

 俺がそれはどういう意味か問い返す前に、医務室の扉が何の前触れもなく開かれて、入って来た相手を確認するより早く、その人物の腕の中に入っていた。

「え?」

「このような所でお会い出来るとは……」

 きょとんとしている俺を他所に、アンジール殿下は俺を抱いた相手へキラキラとした眼差しを向けている。

 そんな眼差しを向けられても全く感情の動きを見せず、腕に抱いた俺を見てぽやぽやしてるのは、ここにいるはずのない相手で。


「ぬしさま?」


 驚きのあまり、呼びかける声が何かあどけなくなってしまった。

 主様はそんなこと気にした様子もなく「はい」と答えて、ぽやぽやと俺を見下ろしていたが、何か思いついた様子で鼻先はむはむとされる。


「早速ですか……」


 ドリドル先生は主様の行動の理由がわかってるのか呆れた様子で何事か呟いていたが、鼻先をはむはむされてるせいで鼻呼吸出来ず、軽い呼吸困難になっていた俺はそれどころじゃなかった。

 主様が満足する頃には、少々息も絶え絶えになっていた俺だったが、じっと見つめられていること気付いて、首を傾げる。

「ぬしさま、どうかしたのか?」

 今度は軽い呼吸困難だったせいで若干あどけなくなってしまった。狙った訳じゃない。

 主様は俺の呼びかけには応えず、俺の髪を摘んだり、軽く引っ張ったりとずっと謎の行動を繰り返している。

 意味がわからず助けを求めてドリドル先生の方を見たが、何かをアンジール殿下に説明していてこちらを見ていない。

「……似合いません」

 自分でどうにかするしかないかと主様へ視線を戻すと、ちょうど主様がポツリとそんなことを呟くのが聞こえた。

 それを聞いて色々納得はしたけど、少し凹んだ気分になる。皆は似合うって言ってくれたけど、お世辞だったんだなぁ、と。

「やっぱり俺にはこういう畏まった格好は似合わないよな」

 何でもないように呟いたつもりだったが、思いがけず拗ねたような声になってしまい、苦笑いで誤魔化す。

「……いえ? 服はよく似合ってます」

 俺の言葉にゆっくりと瞬きを繰り返した主様から、脱がしたくなりますという謎のお墨付きまでもらってしまったので、服は似合ってない訳ではないようで一安心というか、嬉しくなる。

 単純な俺は、嬉しくなってふへへと気の抜けた笑い声を洩らしていたのだが、主様の謎の行動は終わっておらず、まだ納得がいかない表情で俺の髪に触れている。

 昨日もきちんとお風呂入ったし、汚れたりしてないと思うんだけど。


「ジルヴァラ。その方は、変装しているあなたの髪色が気に食わないんですよ」


 そこへ、そんな天の声ならぬドリドル先生の声が聞こえて、俺は主様の奇行の理由を理解する。

 そういえばアンジール殿下のお迎えが来たと思って、変装をし直したことをやっと思い出した俺は、再度スカーフリングを外して変装を解く。

 すぐに俺の纏う色はいつもの色彩となり、主様は満足そうにぽやぽやとしてすりすりと頬擦りをしてくる。

 明らかにぽやぽや度が増しているあたり、相当俺の変装が気に食わないというか、見慣れなくて嫌だったようだ。


「あ。アンジール殿下のお迎えじゃないって、俺の迎えに主様が来てくれたって意味だったのか」


 今さらながらドリドル先生の発言の意味がわかって納得とばかりに呟いていたら、ドリドル先生が呆れた顔をしながら優しく笑っていた。

「私もそろそろ部屋に戻らねば、今度こそ私のお迎えが来てしまうな」

 アンジール殿下も乗っかってくれたのか、悪戯っぽく笑ってそんなことを言い出した。

「アンジール殿下、会えて嬉しかったです」

「私もジルヴァラと会えて嬉しかった。これかも、グラと仲良くして欲しい」

「もちろんです! ……あ、光栄でございます」

 兄の顔をして笑うアンジール殿下にほぼ素で答えてしまってから、慌てて楚々と猫を被ってみた。が、今更過ぎますとドリドル先生の苦笑い付きの静かな突っ込みをもらう結果に終わった。

 猫は最後まで被らないといけなかったな。

「ぢゅっ」

 アンジール殿下を見送っていたら、まだまだだな、と肩の上でテーミアスからも突っ込まれた。

 主様はというと会話へは加わらず、くんくんと匂いを嗅いで俺の全身のチェックに余念がない。

「……あの医者のではない雄の匂いがします」

 不服そうにそう呟く主様。なんだかんだでドリドル先生のことは認めてくれてるんだなぁと、ちょっと現実逃避してみた。

 ジーッと見つめてくる主様の視線から逃れるように顔を背けていると、何だか医務室の外が騒がしくなり、また静かになったようだ。

「アンジール殿下がお迎えに見つかったのか」

 それにしては、何かキャンキャン騒がしかったような気がしたが……。

 主様の腕の中で首を傾げていると、険しい表情になったドリドル先生が扉へと近づきそっと開き、外の様子を窺っている。

「ドリドル先生?」

「……とりあえず去ったようですが、いつ戻るかわかりません。今のうちに帰りなさい。フシロ団長の息子のことは心配しなくとも大丈夫ですから」

「でも、最後ぐらいきちんと……」

 途中グダグダになってしまったが、終わり良ければ全て良しという素晴らしい言葉があるのだ。

 俺はそう思って口を開いたが、それこそ最後まで言わせてもらえなかった。


「帰りますよ、ロコ」


 俺の口から出るはずだった言葉は、主様の口の中へ飲み込まれて消えていき、びっくりして固まった俺は問答無用でローブの内側へとしまわれてしまった。



「っ! ドリドル先生、今日はありがと!」



 そのまま立ち去ろうとする主様の懐の中で声を張り上げると、ドリドル先生が笑った気配と「お大事に」という優しい声が聞こえた。



 その声に見送られて、俺の従者見習いでのお茶会参加は終わりを告げたのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございますm(_ _)m反応いただけると嬉しいです(*^^*)


誤字脱字も大変助かっております!名前まちがえてたー(*ノω・*)テヘ


300話目までに出られないかも、と話してたら主様ぐいぐい出て来てしまいました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 『待て』が出来ない ぬっしー ( *˙ω˙)وだ!
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