286話目
グラ殿下はクーデレ属性ではありません←
ジルヴァラの記憶違いですが、指摘出来る人物はいないので、ジルヴァラの中ではグラ殿下がクーデレ担当。
明らかに標的とされたグラ殿下は、俺達を巻き込まないようにしてくれたのか、白い弾丸と化しているヒロインちゃんへ自分から近づいていく。
もしかしたら、実はヒロインちゃんのこと……っていう可能性もあるのか。
グラ殿下の属性は確か…………クーデレ担当だったかのはずだから。
しかし、頑張って思い出せたゲーム知識が、起きる事件とかではなく攻略対象者のツンデレとか俺様とかの属性的な部分とか、俺の記憶力残念過ぎる。
表情だけは変わず微笑み続けながら、内心でそんな自嘲をしていると、ナハト様の独り言が聞こえた。
「うわぁ、マジかよー……そうだよな、同年代ならいるよなぁ」
鷹揚な主人っぽいロールプレイが完全に抜けた素のナハト様が、小声でそんなことをボヤく。
「……お知り合いですか?」
何となく『ご友人ですか?』とは訊ねたくなくて、ささやかな抵抗をしてみた。
別にヒロインちゃんが嫌いな訳じゃない。大好きなゲームだから、ヒロインには憧れていたぐらいだし。
でも、同じ世界に転生して、自分の意志で動いているヒロインちゃんを見ていると、何だかなぁと思ってしまったのも事実だ。
他のゲームの登場人物だって自らの意志を持って生きてるんだから、ゲームと違うのは当然なんだけど。
やはりヒロインちゃんは思い入れが強かったから、違和感を覚えてしまうのかもしれない。
あと、ヒロイン(主人公)だからさらっと主様奪われそうで、それが嫌で怖いのかもしれない、俺は。
それが一番の理由かも。
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「何か変なこと言って、オレに絡んでくる同級生…………あー、そういえばあれ、特例で冒険者になったって自慢してたな。ジルも知ってるのは当然か」
俺の方もそういえばと思い出すのは、ゲームでちらっと出て来た学園生活だ。
攻略対象者では、今なら、ナハト様、ニクス様……それとグラ殿下が通ってるはず。時系列がゲーム開始前だからもしかしたら第一王子も通ってるかも。
「ナハト様の同級生だったんですね、あの子」
ヒロインらしく騒動という輪の中心となったヒロインちゃんから少し離れた場所で、俺とナハト様はコソコソとそんな会話をしていた。
ヒロインちゃんのおかげで人目は皆向こうへ引きつけられているが、念の為従者モードは崩さないで会話をしている。
「…………ナハト様、実は気になってたり」
「するか! ……何かあれ、今ここにいるオレを見てないというか、気持ち悪いんだよなぁ」
俺の好奇心から出た質問は、言い切る前にナハト様にぶった切られてしまい、ぶった切ったナハト様はというと何事か口内で呟いて首を傾げている。
黙っていれば可愛いのに、的なことを俺様っぽく言ってたら可愛いが、浮かべている表情からすると違うようだ。
ナハト様は恋してるって感じではなく、まるで理解出来ない奇妙な生き物でも見るような眼差しでヒロインちゃんを見ている。
ここから『おもしれぇ女』的な展開になって恋に落ちたり……。
「何考えてるか知らないが、絶対違うからな?」
俺の考えを読んだかのようにナハト様から呆れた表情で突っ込まれてしまった。
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このままコソコソとヒロインちゃんに気付かれないよう過ごしたかったが、そうもいかないらしい。
「あ! ナハト! ナハトも呼ばれてたのね!」
ナハト様を見つけたヒロインちゃんが、キラッキラな笑顔を浮かべて駆け寄って来る。
ドレスアップした姿はゲーム開始時より幼いが、さすがヒロインだけあって可愛らしい。
ナハト様には刺さらなかったらしく、盛大に顔を歪めて呻いているが。
「……ナハト様、一応ご令嬢相手ですから」
いくら苦手な相手とはいえ、ここで下手に塩対応し過ぎるとナハト様の評判が下がってしまうため、小声でやんわりと声をかける。
ナハト様も「わかってる」と低く唸るような声で答えるが、七歳児の我慢が何処まで効くか……。
というか、今になって気付いたが、何気に俺がしっかりヒロインちゃんと向き合うのはこれが初めてかもしれない。
気付いてしまった事実に一気に緊張するが、ナハト様の前に駆け寄って来たヒロインちゃんを見ると、その緊張はすぐ薄れていく。
──何せ、ヒロインちゃんは全く俺なんて視界に入れてないことに気付いたから。
近寄って来た一瞬だけ、観察するような眼差しを向けられたのは、冒険者としての行動なのか。
その視線に値踏みするような色を感じてしまったのは、俺の被害妄想だろうか。
「ナハト、そういう格好もなかなか似合ってるね!」
「……あぁ、ありがとう。そっちもドレスは可愛いな」
ナハト様、頑張りは認めたいが、やたらとドレスを強調していたのは、あからさま過ぎる。
「もう! あたしは可愛くなんかないって!」
気付かなかったのかスルーしたのか不明だが、ヒロインちゃんのヒロイン力は素晴らしく、可愛らしく照れた様子で笑ってナハト様をペシペシと叩こうとして…………避けられてよろけた。
それをサッと手を伸ばして助ける従者…………って、え?
今の今までヒロインちゃんしか見てなかった俺は、ヒロインちゃんの従者を見て、一瞬固まってしまった。
俺の横でナハト様も目を見張ってるので、ナハト様も目に入ってなかったんだろう。
本日のお茶会のコンセプトは『グラ殿下の交友関係を広げようwith従者も含む』だ。
参加者は同年代の貴族の子供達とその従者や従者見習いのみで、保護者ですら会場内に入ることが許されない。
なのでお茶会の会場である庭に見える大人の姿は、周囲で彫像のようにじっとしている護衛の騎士達のみ。
そんな中、ヒロインちゃんの従者はとても注目を集めていた。
俺とナハト様の視線に気付いたヒロインちゃんは、ふふんと鼻を鳴らして可愛らしく胸を反らせて、自慢の従者を自慢する体勢になる。
「あたしの従者、エノテラっていって、A級の冒険者なのよ? すごいでしょ!」
自慢されたA級冒険者さんは、煤けた感じでちょっと遠い目をしてるけど、ヒロインちゃんには気にならないらしい。
「あ、欲しいって言ってもあげないから! エノテラは物じゃないのよ?」
ナハト様が反応出来ずにいると、ヒロインちゃんは一人で勝手に話を進めて、エノテラに抱きついて勝ち誇って見せる。
この会話、何かうっすらと既視感がある。
もしかしたら、このお茶会自体、ゲームのイベントの一つなのか?
だとしたら、このまま終わるとは……。
「失礼ですけど、ナハトさんは一言もそんなことをおっしゃってませんわ」
俺がいつでもナハト様を庇えるようにと警戒する中、思いがけない声が割って入ってくる。
──その瞬間、
『かかったわ』
視界の隅でヒロインちゃんの口がそう動いて、口元が歪んだ笑みを浮かべた気がしたが、次に見た時には困った顔で首を傾げていて。
少し強引だが優しいヒロインちゃんがそんな表情する訳ないし、きっと俺が見間違ったのだろう。
俺はそう一人で納得し、これからとうなるのかと不安を抱きつつ、割って入ってきた声の主──ミラベルお嬢様へと視線を移すのだった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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ジルヴァラ自身、良くも悪くも『ヒロイン』の大ファンなので、どうしても善人フィルターが何となくかかってます。
これからも『ヒロイン』に関しては、何かフィルターかかってると思いますが、お気になさらずに。
というか、ヒロインちゃんにとっては煽ってるようなもののような気もしてきております。




