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29話目

フシロ団長んちは、貴族ですが、本人がそうであるように緩いというか大らかなお宅です。


ジルヴァラは一応わかっててやってます、たぶん←


主様は…………どうでもいいんだと思います。

「さあさあ、ジルちゃんのために庭におやつを用意してあるの。おやつを食べながら、うちの子達を紹介するわ」

 結局トルメンタ様もこき使って片付けを終えると、楽しそうに笑うノーチェ様からそんなお誘いがあり、俺達は連れ立って歩いていく。

 もちろん、ぽやぽや笑ってる主様もついてきてるし、なんだったらトルメンタ様もまだついてきてる。

 今さらだけどフシロ団長のご家族の呼び方に関しては、呼んでから毎回事後承諾してる。

 本当は「何とお呼びすれば……」とかやって〇〇と呼べって言われて、みたいな流れがあるんだろうけど、毎回忘れてる。

 お茶会では絶対やらないようにしよう……というか、主様のオマケで行く俺に話しかけてくるようなやつはいないと思うけど、そのせいで主様の評価が下がると困るもんな。

 そんなこんなで考え事をしながら案内された中庭は綺麗に整えられてて、草花にあまり興味がない俺から見ても目を奪われてしまった。

「うわぁ、綺麗! 主様、見てみろよ!」

 目の前に広がる庭の美しさに興奮して、主様の服をくいくいと引っ張って庭へと駆け出そうとして、珍しくくすくすと声を上げて笑った主様から、落ち着きなさいと頭を撫でて止められてしまう。

「あ、ごめん……すっげぇ綺麗だったから、つい……」

 気付くとノーチェ様もトルメンタ様も微笑ましげな顔で俺を見ていて、バツが悪くなった俺は、頰を掻いて誤魔化すように笑っておく。

「……ありがとうございます」

 ボソボソとした男性の声が聞こえたのは、そんなタイミングだ。

 声のした方を見ると、焦げ茶の髪をした強面の男性が俺を見ていて、俺と目が合うと慌てて視線を外す。

 作業しやすそうなつなぎみたいな格好だし、傍らには庭を手入れするのに使うらしい道具があるから、この男性は庭師さんなんだろう。

 年齢はフシロ団長より少し上ぐらいに見える。イケおじではあるが、目つきと顔つきのせいで強面感が増してる感じだ。でも、さっきの言葉といい、優しい人だ。

「こっちこそ、綺麗な庭をありがと! 触ったり、近づいちゃいけない所とかある?」

「薔薇は、棘があるので……。あとは、花をやたらと摘んだりしなければ」

「おう、気をつけるな」

 見るからに子供な俺の問いにきちんと答えてくれた庭師さんは、大きく頷いて返した俺にぎこちなく頬を緩め、それからノーチェ様達の方へ無言で深々と頭を下げて去っていった。

 立ち去る庭師さんへ向けてぶんぶんと手を振ってると、ちょっとだけ振り返った庭師さんは控えめに下の方で小さく手を振り返してくれた。

 強面だけど、なんか可愛い。

「庭師さん、可愛い人だな」

 庭師さんが見えなくなるまでぶんぶんと手を振ってから、思わずポツリと呟くと、ノーチェ様とトルメンタ様から驚いた目で見られてた。

 驚いた顔がそっくりで、さすが親子だなと感心してると、

「いや、あの人が笑うとこなんて、初めて見た気がするわ、おれ」

 そう驚きを隠さないトルメンタ様。たぶん、庭に興味がなかったから、機会がなかっただけなんだと思うけど。

「優しいけれど気難しいあのヘルマンに一目で気に入られるなんて、さすがジルちゃんね」

 ノーチェ様は当たり前だがきちんと庭師さんのことを理解してたみたいで、俺が普通に話してた事に驚いてるらしいけど、何故かその視線はぽやぽやしてる主様を見てる。

「ロコ、私は?」

 ノーチェ様の視線を追って主様を見てたら、唐突過ぎる謎の問いかけが降ってきて、俺は首を傾げる羽目になる。

「私は?」

「……えぇと、主様は俺の中で一番綺麗だと思う相手、かな」

 ぽやぽやと圧をかけられ、何とかこれかな? という答えを返すと、正解だったらしく、ぽやぽやした主様は機嫌良さそうに俺の手を引いて歩き出す。

「ヤキモチさんね」

 ノーチェ様がそんな事をおっとりと言うので、俺は何だかお腹が空いてきた。

 そう呟いてたら、トルメンタ様から残念なモノを見るような目で見られたのは解せぬ。

 あの幻日サマが共に連れ歩き、親父殿が気に入ったという噂の子供が我が家へやってくると聞き、おれは朝からソワソワしっぱなしだった。

 その子供に会うために、わざわざ騎士団も休んだのだ。ぜひ一目会ってみたかった。

 弟達は、どちらも興味ないようで、母上に共にお茶をと誘われても渋っていた。

 おれは親父殿から『触れない、抱き上げない、あまり見つめない』などという謎のお達しを受け、件の子供と接触する時機を計っていた。

 玄関でのお出迎えは避けて、二階の窓からこっそり見つめることにする。黒髪で遠くからも目立つ子供は、おれの視線に気付いたのかきょろきょろとして小動物みたいで可愛らしかったが、すぐ幻日サマから睨まれたので身を隠す。

 視線から殺されそうな程の殺気を感じたんだが、気のせいか。

 接触はお茶の時間にするつもりだったが、待ちきれず着せ替え人形と化している子供の様子を密かに窺っていたら、本人に見つかってしまった。

 思いがけない強過ぎる魔力にあてられて床へと転がったおれを、ちょっとツリ目気味の猫みたいな目が心配そうに見下ろしている。

 その瞳は本当に親父殿の言葉通り銀色の不可思議な輝きを宿していたが、話してみた本人には全くそんなところは、一欠片もなかった。

 まるで警戒心のない小生意気な子猫そのものな子供──ジルヴァラは、無遠慮に見えて最低限の礼節を守っている、おれにはそう見えた。

 人懐こく笑ってるくせに、おれや母上に勝手に触ってきたり、ましてや抱きついてくる気配もない。

 こちらから触れれば警戒心なく受け入れるが、自ら触れようとすることはしない。無自覚なのかもしれないが。

 保護者だという幻日サマにもあまり触れない中、親父殿には足にしがみついたりしていた辺り、その辺はどうなってるのか謎な子供だ。

 付き合いの長さだと言うなら、幻日サマに触れないのはおかしいだろう。

「トルメンタ様、これ食べたいのか?」

 おれは考え込み過ぎて、テーブルを挟んで目の前に座ってクッキーを頬張るジルヴァラをジッと見つめてしまっていたらしく、怪訝そうなジルヴァラがクッキーを視線で示してくる。

「いや、美味しそうに食べるてるな、と見ていただけだ。それはジルヴァラの分だから、遠慮なく食べろ」

「美味しそうにじゃなくて、美味しいんだよ。トルメンタ様も食べてみろって」

 おれがクッキーを食べてないことを気にしてたのか、ジルヴァラは人懐こく笑いながら、小さな手でクッキーを摘んでおれの方へと差し出そうとしてくる。


 そう。した、ではなく、してくる、だ。


 ジルヴァラがおれへと差し出したクッキーは、ジルヴァラの隣に腰かけていた幻日サマが、ジルヴァラの手首を掴んで自らの口元へと運ばせ、そのまま幻日サマの口内へと消えた。

「えぇと、主様は歯並びも綺麗だな?」

 あまりに予想外だったのか、ジルヴァラの口からはトンチンカンな台詞が飛び出し、母上はあらあら仲良しね、とこちらもある意味トンチンカンな感想を口にして笑っている。

「なんか、ごめん、トルメンタ様」

「いや、実はあまり甘い物が得意じゃないんだ」

「そっか。俺は、このクッキー好きだ」

「あら、そう? うちの料理人達が喜ぶわ。お土産に包んであげるわね。……それにしても、ニクスもナハトも遅いわ。どうしたのかしら」

 ふわふわと母上より何考えてるかわからない微笑みを浮かべている幻日サマを置物代わりに、和やかな会話をしていたおれ達だったが、ふと母上が心配そうに表情を曇らせて、建物の方へと視線を向けて呟いた。

「二人共、おれの弟だ。ニクスが十二歳で、ナハトがジルヴァラの一個上の七歳だぞ? ニクスの方を見て、七歳にしては大きいな、とか言わないようにな?」

 おれと同じように母上の視線を追っているジルヴァラに、悪戯っぽく笑いながら説明すると、わかってますー、とわざとらしい口調で答えが返ってくる。

「ニクスは眼鏡かけてて栗色の髪の母上似で、ナハトはジルヴァラより少し大きいぐらいだな」

「ニクス様が眼鏡で、ナハト様が俺とそんなに変わらない身長の方だな。今度は間違えないように気をつけるよ。教えてくれてありがと」

 口調は荒いがへらっと笑って素直に忠告を聞くジルヴァラは可愛らしく、最近可愛げのなくなった弟二人と比べてしまったおれは、その考えを振り払うように小さく頭を振る。

「トルメンタ様?」

「……そう言えば、オズワルドのことはオズ兄って呼んでるんだって?」

「フシロ団長に聞いたのか? そうだけど……」

 オズワルドの名前を出した瞬間、幻日サマの方から刺すような視線を感じてそちらを見るが、そこには相変わらずふわふわと笑っている置物にしか見えない相手がいるだけだ。

 気のせいかと首を傾げていると、建物の方からズカズカと歩いてくるジルヴァラとほぼ変わらない大きさの人影が見え、おれはジルヴァラの頭をぽんぽんと撫でて、視線で人影の方を示す。

「オズワルドのことはとりあえず置いといて、あれが一番下の弟のナハトだ。ちょっと口が悪くてな。嫌な気分になったらすまない」

 真っ直ぐこちらを目指している末弟の機嫌悪そうな姿に、おれはため息を吐いて先にジルヴァラへ謝罪をしておく。

「大丈夫、口の悪さに関しては、俺が言えた立場じゃないし。……えっと、今からでも、頑張って丁寧な言葉遣いした方がよろしいでしょうか?」

 年齢は末弟より下のはずなジルヴァラは、気にする様子もなくさらりと答えた後、悪戯っぽく笑ってわざとらしく口調を変えて付け足し、小首を傾げて見せる。

 あざと可愛い仕草に、おれがもう一度ジルヴァラの頭を撫でようとしてると、予想以上に刺々しい敵意に溢れる声が飛んでくる。



「おい! お前!」



 ビシッと末弟の指が突きつけられたのは、当然というかジルヴァラの方で。これで指差したのが幻日サマの方だった場合はうちの弟の胆力にビックリだが……。



「はじめまして。俺はジルヴァラと申します。本日はフシロ様よりお招きいただき、あなた様の着られなくなった洋服を貰い受けたところでございます」



 刺々しく攻撃的な末弟に対し、人懐こく笑って答えられるジルヴァラの胆力と、やたら距離感のある自己紹介にさらにビックリすることになった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ちょっと痛い子1登場(ノ´∀`*)


根は悪い子じゃないですよ、たぶん(2回目)


ヤキモチを、リアル焼き餅に変換する残念なジルヴァラも生息中(`・ω・´)ゞ

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