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279話目

残念な人外さん。



「ロコ」



 こっちに来なさいとばかりに主様から名前を呼ばれるが、俺が微笑んでその場から動かずにいると、焦れたのか諦めたのかわからないがゆっくりと移動を始める。

 着替えるのに手伝いはいらなかったので、俺は脱いだ服を回収してまとめてプリュイ(触手)へ渡し、主様に椅子へ腰かけてもらって髪を結うことにする。

 いつもなら見惚れたり、こっそり髪に頬擦りしたりしてみてるが、今日の俺は一味違うぜ。

 グッと口を引き結んで緩みそうになる口元を真一文字にした俺は、絡むこともましてや枝毛なんてない綺麗な赤色の流れを梳いていく。

 ずっと触っていたくなる気持ちを抑えて、何とか緩い三つ編みを完成させた俺はふぅと大きく息を吐く。

「ご主人様、髪を結い終わりました」

 いつもの流れならこのまま洗面所で顔を洗って朝ご飯の席に来てるはずだから、横にくっついてお世話というか補助するだけでいいよな。

 ナハト様ぐらいに幼い主人だともう少し手伝うことがあるかもしれないけど、主様は大人だからな。

 そんな感じでこの先の従者としての行動を脳内で想定して対応を考えていた俺は、主様の動きから目を離してしまった。

 不意に大きく聞こえた衣擦れの音に慌てそうになるが、ヘイズさんからの指導を思い出して何とか背筋を伸ばして何事もなかったように主様の動向を窺う。

「ロコ、こちらへ」

 俺を呼び寄せる主様に警戒して微妙な距離の詰め方をすると、ぽやぽやを強めた主様から「もっとこちらへ」と言われてしまい、仕方なくもう一歩だけ近寄る。

「ご主人様、お言葉ですが、従者は抱えられて移動はいたしません」

 すかさず伸びて来た手に気付いた俺がにこりと微笑んで先回りで牽制すると、ぽやぽやをすんっと消して主様の手が止まる。

「…………どうしても、駄目ですか?」

 止まっただけで引っ込められなかった主様の手は行き場を失った結果、靴下に覆われた俺の足に触れて上へと撫でていき、生足との境目をちょいちょいと構っている。

 これってセクハラ案件? という単語が浮かぶが、それよりくすぐったいし、上体を屈めてこちらをじっと見つめてくる主様に色々ヤられそうだ。

「いえ、その……」

 これを上手くさばくには俺の従者としての経験値は低過ぎる。咄嗟に口から出るのも、戸惑い混じりの否定とも肯定とも取れる微妙なものとなってしまう。


「この下は……?」


 俺があわあわしてるのを表情に出さないよう頑張ってるのを他所に、主様の手は徐々に上へと移動し、表情は悪戯っぽくぽやぽやして楽しげだ。

 というか、スカートまくろうとしてないかと俺が主様の悪戯な手に気付いたのと、それを止めるやんわりとしていて、それでいて強い声が聞こえて来たのは同時だった。


「駄ー目、いくら可愛くてもそれ以上はやり過ぎよ?」

 

「幻日サマ、ソレはいけマセン」

 

 後半の声の持ち主は、伸ばした触手で悪戯を働いていた主様の手を軽く弾いて、ついでに俺を自らの方へ引き寄せてくれる。

 魔法人形って主に忠実なんじゃ、とか一瞬思ってしまったが、助かったので俺を引き寄せてくれたプリュイへへらっと笑いかける。

「ありがと、プリュイ。……じゃなかった。ありがとうございます、プリュイ。ご主人様は少しお戯れが過ぎますね」

 素になりかけたのを何とか従者な感じで返して、アシュレーお姉さんからお説教されている主様を振り返って小さく肩を竦めてみせる。

「ジルは、ワタクシが守りマス」

 出来れば主様も守ってあげて欲しいが、俺も一応主様の弱みにはなるみたいだから、俺を守るのは主様を守ることに通じるんだろう。

 プリュイはきっとそう言いたかったんだよな、きっと。




 …………スカートの下覗こうとしてた主様に呆れて職務放棄したんじゃないよな?

「ご主人様、こちらお使いください」

「……はい」

 どうやら主様はちらちら見えるいわゆる『絶対領域』とか呼ばれる部分が気になってしまったらしく、顔を洗い終わってタオルを差し出した俺の足をガン見している。

 たまにこっそり触ろうとしてるのか、てちんっという気の抜ける音がしてるので、プリュイの触手によって弾かれてるのだろう。

 主様は足フェチかと思いながら、主様に文字通り付き従い、朝ご飯の場へと向かう。

 着いたのはいつもの暖炉前ではなく、きちんとした……というのも何か変だが、普段は使っていない食堂と呼ばれるであろう部屋だ。

 もちろん普段使っていないとはいえプリュイの掃除は完璧。そこに座るのは主様とアシュレーお姉さんという美人さん二人。

 まるで海外ファンタジードラマの撮影現場みたいだと内心で俺にしかわからないことで感心しつつ、主様の前へ食事を並べていく。

 フルコースとかじゃないし、そこまで正確にするつもりはないので、用意してあった朝ご飯を一気に並べていく。

 皿を並べ終わり、主様の食事の邪魔にならないよう少し離れようとした俺の腕を、主様の手が掴む。

「……ロコの分は?」

 やはりというか言われたかという感じなので、俺は今度は動じることなくにこりと微笑んで用意していた答えを口にする。

「私は後ほどいただきます」

 並べている時から何か言いたげだったから、今回は慌てることなく対応出来たと微笑みの裏でドヤって返したが、主様の手が離れない。

「ご主人様、どうぞ召し上がってください」

「嫌です、食べません」

 とりつく島もない主様の圧のあるぽやぽやに、俺は何とか微笑みを絶やさず説得を試みる。

「ご主人様が召し上がらないと、お客様もお食べになれませんから……」

 アシュレーお姉さんを説得に使わせてもらったが、主様は無言でふいっと視線を外す。

 俺が笑顔を引きつらせていると、俺達のやり取りを見ていたアシュレーお姉さんから天の助けな提案があった。

「うふふ。別に正式な場じゃないんだから、可愛い従者のジルちゃんが食べさせてあげれば良いんじゃないかしら?」

 アシュレーお姉さんの方へ視線を向けた俺は、しばらく悩んでから小さく何度か頷く。

「それなら、良い……でしょうか。まぁ、練習ですもんね」

 絶対に従者の仕事ではないよなとは思ったが、これで主様が食べてくれるなら構わないか。

「ご主人様、私が……」

 なんて確認するまでもなく、そっぽを向いていたはずの主様がこちらをガン見していて、視線を戻した俺は思わずしぱしぱと瞬きを繰り返す。

 促すまでもなく、あーんと口を開けて待つ主様は可愛らしい……じゃなくて、給仕しないとな。

 ま、これじゃ給仕じゃなくて給餌っぽいけど。

「アタシもいただくわね」

 視界の端でアシュレーお姉さんがそう言って食事を開始するのを確認したが、俺は主様の給仕で手一杯なのでそちらはプリュイへおまかせしておく。




 何度か指まで食べられたりもしたが、何とか主様への給仕を終わらせた俺は、プリュイと一緒にキッチンで朝ご飯を食べてから片付けすることにしたのだが……。



「ロコ、あーん」



 主様が付いてきてしまい、何故か俺へ給仕をしようとするのを断るのが何より大変だった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)誤字脱字報告も助かっております!


スカートの中が気になる主様です。男の娘だからといって、スカートめくってはいけません。


ちなみに下着は普通のボクサーっぽいパン……ゲフンゲフン。


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