276話目
軽い下ネタ注意。
「従者っぽい服って、他にあったかなぁ」
前日に予行練習出来るのは俺としても歓迎なので、特に拒否するつもりもなかったが、どうせなら形から入りたいと思い立ち、やたらと進行形で増えている自らのクローゼットの中身を思い出そうとする。
そんな俺の努力は、ぽやぽやとしながらイイ笑顔をした主様によって止められる。
「服なら私が用意します。ロコは私の従者をするんですから」
いつになくドヤッと力の入った主様に若干の違和感を抱いたが、おかしなことを言っている訳でもないので俺はコクリと頷くのみだ。
そこに楽しげな笑い声と共に混ざって来たのは、
「なら、明日はアタシがジルちゃんをかわ……立派な従者にしてあげるわ」
と一部発言が気になるところもあったが、自信満々なアシュレーお姉さんだ。
フシロ団長は一足先に帰っており、アシュレーお姉さんも続いて帰ろうとしたのだが、主様がアシュレーお姉さんへと歩み寄り、何事か耳打ちしたのだ。
で、なんとアシュレーお姉さんは今夜お泊りするという話になったらしい。
その時は意味がわからなかったが、さっきのアシュレーお姉さんの発言から色々と察すると、多分主様は自分の用意した服の着せ方とかを訊ねたのだろう。
それで自分だけでは俺へ着せるのは無理かもしれないと判断して、アシュレーお姉さんの手を借りることにした……って感じかな。
確かに正装な服って、着方が面倒だったりするからな。
アシュレーお姉さんならそういうのも得意っぽいし、適任だよな。
逆に、何でも出来そうな主様の苦手な分野かも。
いつもの風呂上がりのバタバタを思い出してひっそりと笑った俺は、プリュイによって客室へと案内されるアシュレーお姉さんの後を追いかける。
お泊りするのに準備とか大丈夫か心配したが、さすがA級冒険者だけあって一泊くらいなら何ら問題ない程度の用意は常にしてるらしい。
「……汚い服で眠るなんてありえないもの」
そう力強く言って据わった目で笑うアシュレーお姉さんを見て、これはアシュレーお姉さんだけかもしれないとすぐ思い直すことになった。
その後、俺はアシュレーお姉さんとお風呂へ入ることになったが、アシュレーお姉さんはきちんと『オネエさん』だった。
うん……マジで脱いだらすごかった。ナニがなんて言わないけど。
ちょっと俺が遠い目になってアシュレーお姉さんに心配されてしまったりもしたが、それ以外はとても楽しい入浴時間だった。
何故か浴槽に入る際は、アシュレーお姉さんも対面で俺を足を跨がせる体勢で抱えて入浴してくれた。
俺はそんなに溺れるとでも思われてるんだろうか。
「うふふ、可愛いジルちゃんを独り占めね」
頬を上気させながら俺の頬をもちもちと揉んで、アシュレーお姉さんはご機嫌な様子だ。
「アシュレーお姉さん、何か苦手な食べ物とか、味付けありますか? 辛いの苦手とか酸っぱいの苦手とか」
俺はせっかくなので夕ご飯のメニューを決めるためにアシュレーお姉さんの好みを訊ねてみることにした。
決してうっとりと見つめられてて居心地が悪かったからじゃないぞ。
「そうねぇ、そこまで極端に辛かったり酸っぱかったりとかしない限り、何でも食べるわ」
「じゃあ、逆に好きな物はありますか? 出来れば食材とか味付けで」
なんとかのポワレに春風を添えて〜みたいなことを言われても俺にはどうにも出来ないので、という気持ちを言外に含ませてさらに質問を重ねると、アシュレーお姉さんからやたらと色気のある微笑みを向けられる。
水も滴るいい男みたいな言い回しがあるが、今のアシュレーお姉さんを見れば納得だ。
いつも美人さんなアシュレーお姉さんだが、濡れ髪を掻き上げて微笑む姿の色気は、主様にすら勝ってるかもしれない。
俺が無駄遣いな色気を浴びてあうあうしていると、ふっと吐息のような笑い声と共に頬をもちもちしていたアシュレーお姉さんの手が怪しげな動きで頬を撫で、そのまま体に添うようゆっくりと下へ向かう。
怪しげな手が向かったのは浴槽から立ち上がるためか俺のお尻辺りで、そのままそこを支えられて一気にお湯から引き上げられる。
「……そうねぇ、なんだか今日は、ふわふわした物が食べたいわ」
「そ、そうですか」
リクエストとしては何らおかしくないが、うふふと笑うアシュレーお姉さんの手は俺のお尻辺りをがっちりホールドなので、ちょっとだけ微妙な気分になってしまった。
●
アシュレーお姉さんはお風呂上がりのお世話も完璧で、洗面脱衣所の廊下へ続いてる方の扉の隙間からそっと窺っていた青い触手が寂しそうに去っていったりもしたが、それ以外は何事もなくお世話されてしまった。
あまりに慣れた手つきに、思わず『何人か産みました?』とか訊いてみたくなったが、セクハラ判定かもしれないのでグッと飲み込んでおく。
それと、笑顔でそうよぉと頷かれたら嘘か真かわからず悶々としそうだから。
異世界ならあり得そうだし、男性出産。
俺がそんなことを考えてるなんて思いもしないアシュレーお姉さんは、楽しそうにうふふと楽しそうに笑って俺の髪を優しく拭いてくれている。
「幻日サマの前だと、ジルちゃんの髪には触りにくいのよねぇ」
「主様、俺の髪お気に入りですから」
主様が念入りに手入れしてくれてるから、俺の黒髪は以前よりさらに艶々として、烏の濡羽色って感じになりつつある。
「この髪だけでも、色んな変態が釣れそうだから、本当に気をつけるのよ、ジルちゃん」
洗面台の鏡越しにアシュレーお姉さんを見てしぱしぱと瞬きを繰り返していると、もう無自覚な小悪魔さんなんだから! と叫ばれて背後から抱きしめられた後高速頬擦りされる。
「アシュレーお姉さんの作ってくれたスカーフリング、しっかりと着けておきます」
グッと拳を握って宣言したら、背後から大きなため息が聞こえて、後頭部にとすんっと軽い重みを感じる。
鏡越しに確認したらアシュレーお姉さんの頭頂部しか見えないし、たぶん俺の後頭部へ額を寄せているぽい。
その体勢でもう一度ため息を吐くアシュレーお姉さん。首筋に息が当たってくすぐったい。
「騎士団長のお子様から離れちゃ駄目よ、ジルちゃん」
真っ当な子供好きなアシュレーお姉さんは、ナハト様のことも心配だったんだなぁと、今度は気持ちをくすぐったく感じながら、俺は口元を緩めてこくりと頷く。
「──絶対にわかってないわね、これは」
アシュレーお姉さんがボソッと呟いた言葉は、残念ながらニマニマしていた俺には届くことはなかった。
届いたとしても、きっと意味がわからなかったので、聞こえていても何の意味もなかっただろうが……。
●
夕ご飯はアシュレーお姉さんから『ふわふわした物が食べたい』と言われたので、(プリュイが)頑張ってふわとろにした卵を乗せたオムライスにコーンスープ。
それとデザートに普段のパンケーキに(プリュイが)一手間加えて、ふわふわのスフレなパンケーキに挑戦して、それに蜂蜜と生クリームを乗せてみた。
これだけだと野菜不足な気配がプンプンするので、適当な野菜をカットして盛り付けた生野菜サラダをつけておく。
オムライスのサイズ感と盛り付けの量の差はあれど同じ内容の食事を三人分用意し終えると、手伝いに来てくれたアシュレーお姉さんの手も借りて食卓の準備を終わらせる。
プリュイの分は今日はパンケーキだけで良いそうだ。
食欲がないのかと心配してたら、何かさっき駄々洩れた主様の魔力を浴びたので、エネルギー的なのが満タンに近くなったと説明してくれた。
それを聞いた俺は、満タンより浴びたら核が破裂とかするんじゃと不安になってその青い体に貼りついてしまったが、満タンになったらただ溢れていくだけらしい。
ちなみに創造主である主様の魔力以外は浴びて吸収みたいなことは出来ないそうだ。
浴びてじゃなければ吸収出来るのか? と喉まで出かけた質問は何となく飲み込んでおいた。
ふわふわを少し意識してみた夕ご飯はアシュレーお姉さんにも好評だった。
主様はいつも通りぽやぽやとして美味しそうに食べてくれていたので良かった。
ただ、パンケーキを食べたアシュレーお姉さんが口にした、
「うふふふ、ジルちゃんに負けないくらいふわふわね」
という冗談を聞いてから、俺の方をガン見していたので、あとで質問攻めにあうかもしれない。
いつもありがとうございますm(_ _)m
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ナニはナニです。わからない方は、そのまま純粋でいてください(ノ´∀`*)




