274話目
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目指すはストレスフリー小説!(え?)
「んっ、これも美味しいです!」
アシュレーお姉さんが買ってきてくれたという昼ご飯は、可愛らしいカフェ飯──とかではなくガッツリ肉々しい男飯そのものだった。
「そう、ジルちゃんの口にあって良かったわ」
串焼きをはぐはぐと食べている俺を見ながら、にこりと嬉しそうに微笑んでアシュレーお姉さんも俺と同じ串焼きを食べているのだが、俺とは違って何か優雅だ。
とても巨大な肉の串焼きを食べているとは思えない所作ながら、あっという間に串焼きを食べていくアシュレーお姉さん。
口周りや手を汚す気配すらない。
俺がほえーと感心して食事の手を止めてしまうと、うふふと笑ったアシュレーお姉さんから伸びて来た手に握られた布によって口周りを拭われる。
出番を失ったプリュイの触手が視界の端で残念そうに揺らめいているが、アシュレーお姉さんには見えない位置でやってる辺り、さすが気遣いの出来る魔法人形だ。
テーミアスはというと、テーブルの片隅にランチョンマットを敷いて、その上で大きなビスケットをカリカリしている。
肉串の欠片もあげたが、ビスケットの方が好きらしい。
こちらの食べる姿は、文句無しに可愛いかった。
たとえ「芋虫の方が美味い」とか色んな意味で可愛くないこと言ってても。
「もうお腹いっぱいです! ごちそうさまでした!」
お腹いっぱいになった俺がお腹を擦りながらそう言うと、アシュレーお姉さんからはうふふという楽しげな笑い声が返ってくる。
後片付けは、先ほど俺の世話が出来なかったプリュイが張り切ってくれたので、もうほとんど終わっている。
高速で動き回って片付けをしていく触手に、アシュレーお姉さんも軽く目を見張って「あらあら」と驚いてた。
プリュイによって綺麗にされたテーブルを使い、アシュレーお姉さんの膝に乗せられて食後のお茶を飲んでいると、アシュレーお姉さんが時計を見て微かに表情を変えたのに気付いてしまう。
もうお別れの時間かと寂しさを押し殺して気付かないふりをしていると、アシュレーお姉さんの肩がピクッと大きく揺れて、表情が先ほどの比ではない変化を見せる。
まるでドラゴンとでも対峙したかのような緊張した面持ちに、不安を隠せなくて俺はアシュレーお姉さんの服をぎゅっと掴んでアシュレーお姉さんを呼ぶ。
「アシュレーお姉さん?」
「…………ごめんなさい、驚かせたわよね。少し間男の気分を味わってただけよ」
言葉の意味はわかるが、言ってる意味がわからないという状況に、俺は廊下の先──玄関の方を見て苦く笑うアシュレーお姉さんの顔を下から見上げる。
緊張が見え隠れするアシュレーお姉さんの表情に、俺も口を引き結んで無言のままアシュレーお姉さんと同じ方向を見つめる。
そのまま待つこと数秒。
衣擦れの音も足音すらさせずに姿を見せたのはぽやぽやしてない主様だった。
「あ、主様! おかえり! 主様は昼ご飯食べたか?」
アシュレーお姉さんの膝から降りた俺は、パタパタと真っ直ぐ主様へ駆け寄ってぽやぽやとしてない顔を下から見上げる。
じっと見下ろしてくる主様。
「お腹空いてないのか?」
ぽやぽやしてないぐらいだから相当お腹空いてそうだけど、反応出来ないぐらい空腹なのかもしれない。
そう考えた俺は主様の手を引いてソファの方へ連れて行こうとしたのだが、不意に伸びて来た手によって背後から抱え上げられてしまう。
俺は歩くつもり満々だったので、数度空中を掻くように足を動かしてから、抱き上げられたことに気付いてしぱしぱと瞬きを繰り返す。
「ま、いいか。ほら、とりあえずあそこに座ってくれよ。すぐ用意するからさ」
抱き上げられたなら仕方無いと、俺はソファの方を指差して主様を誘導する。
のろのろと動き出した主様がソファに近寄って行くと、テーブルの上で寛いでいたテーミアスが「ぢっ」と短く警戒の声を上げて素早く姿を消隠してしまう。
ぽやぽやとしてないから、いつもより警戒させてしまったんだろう。
遠くからぶつぶつと文句を言ってる声が聞こえてくるし。
アシュレーお姉さんの方はというと、にこりと微笑んで「どうも」とだけ口にして、まるでモンスターとでも対峙してるかのように気配を抑えてる──気がする。
まずは主様にご飯をあげてぽやぽやさせないといけないなと、ふんすと気合を入れた俺は、ソファに腰かけた主様の膝上から降りてキッチンへ向かおうとしたのだが……。
「ジル、こちラ、ドウぞ」
膝から降りるまでもなく、ご飯の方がプリュイと一緒にやって来た。
違うな。プリュイがご飯を持ってきてくれたが正しい表現だ。
あまりの察しの良さに脳内で妙なやり取りがあったりもしたが、俺は主様の膝から降りることなく、用意された主様分のご飯を主様へ食べさせ始める。
やはり相当お腹が空いていたのか、主様は俺が差し出す食べ物を無言でパクパクと食べていく。
プリュイが持って来てくれたご飯を食べさせ終わる頃には、いつも通りぽやぽやした主様の出来上がりだ。
お腹空いてイライラしちゃうなんて可愛いよなぁ。
「ロコ」
主様の可愛らしさに抑え切れず手を伸ばして主様の頭を撫でていると、名前を呼ばれてしまい、さすがに頭を撫でたのはまずかったかと恐る恐る主様を見ると、主様はあーんと口を開けて待ちの姿勢だ。
怒ってる様子はなく、機嫌良さそうにぽやぽやとしているので、一安心だが今度は別の問題が発生したようだ。
まだ食べ足りなかったかとテーブルを見るが、もとより食べ残した物はなく、すかさずプリュイが片付けてくれたのでそこにはすでに何も無い。
空になった皿すらなく、主様がぽやぽやに戻ったのでしれっと戻って来たテーミアスがナッツを頬張る姿があるくらいだ。
「プリュイ、何かフルーツ切ってきてもらえるか」
動き回るプリュイ(触手)にお願いすると、器用にくるりと丸を作って見せてから去っていったので、すぐ何かしらフルーツが来るはず。
なんて思うのと、仕事の早いプリュイによるフルーツ盛り合わせが届くのは同時だった。
食べやすい大きさにカットされたリンゴとオレンジ、それにイチゴがセンス良く盛られていて見るからに美味しそうだ。
「ほら、あーん」
早速リンゴを主様の口へ突っ込む。少し不服そうなのは、イチゴの方が良かったのかもしれない。
「次はイチゴにするから、まずはそれ食べちゃってくれよ」
「……ロコが良いです」
モゴモゴとリンゴを咀嚼しながら主様が何か言ったようだが、やはり不服そうなので正解はオレンジだったか?
とりあえず、右手にイチゴ、左手にオレンジを持って主様の顔の前に差し出すと、迷いなくパクッと俺の右手にあるイチゴへ食いついてきた。
勢いのあまり俺の指まで食べちゃうくらいイチゴが食べたかったんだな。
「あ! アシュレーお姉さんも食べませんか?」
ふやけそうなぐらいしゃぶられてた俺の右手は、すかさずやって来たプリュイ(触手)が綺麗にしてくれたので、今度はオレンジを主様に、可愛らしいおねだりをしてきたテーミアスにイチゴを与えてから、はたと気付いてアシュレーお姉さんを振り返る。
「大丈夫、アタシもいただいてたわ」
ほらと微笑んでアシュレーお姉さんが見せてくれたのは、主様用より少し小盛りなフルーツの盛り合わせだ。
プリュイは本当に気が利き過ぎるよな。
今ももふもふな毛皮をイチゴの果汁でベタベタにしてしまったテーミアスをさり気なく綺麗にしてあげてるし。
プリュイ一人で何人分働いてるのかなぁと動き回るプリュイを眺めつつ、主様へフルーツを食べさせていると呼び鈴が鳴る。
誰だろうと主様を見るが、特に警戒してないので特に問題のない相手なんだろう。
てちてちてちとプリュイが玄関へと向かう後ろ姿を見送ってしばらくした後、プリュイは来客と共に帰って来た。
それは──、
「お前なぁ、俺を置いて勝手に帰るとはどういう了見だ?」
疲れ切った様子で苦笑いを浮かべたフシロ団長だった。
お腹が空いた主様は、出先からフシロ団長を置いて直帰してしまったらしい。
「主様? ちゃんと帰るってフシロ団長に言わないと駄目だぞ?」
一応注意してみたが、ふいっと視線を外されたので聞いてもらえるかはその時になるまでわからない。
…………フシロ団長なら怒ったりはしないよな、きっと。
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