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273話目

うちのコ、よく寝てます。


六歳児なのでまだお昼寝がたくさん必要なんでしょう、たぶん。



「あれ……?」



 目が覚めた瞬間、俺は自分の置かれている状況がわからず、ぱちぱちと瞬きを繰り返してその主たる原因である相手を見上げる。

「あら、ジルちゃん起きたの? うふふ、そろそろお昼だからお腹空いちゃったのかしら」

 紡がれる言葉は柔らかな女性のもののようだが、その声は明らかな男性のもの。

 声までイケメンだよなぁと寝起きでボーッとしながら声の主──最強のオネエさんであるアシュレーお姉さんを見つめていると、細やかな装飾品を作り出す長く綺麗な指で頬を突かれる。

「そんなに見つめられたら、お姉さん穴空きそうよ?」

「アシュレーお姉さん?」

 幻覚では無さそうだが、自宅で眠っていたはずなのにアシュレーお姉さんに抱えられて眠っているという状況に、俺は首を傾げて確認の意味も込めてアシュレーお姉さんを呼ぶ。

「そうよ、ジルちゃんのアシュレーお姉さんよ」

 アシュレーお姉さんはいつの間にか俺の『アシュレーお姉さん』になっていたらしい。

 予想外の返しにきょとんとしていると、アシュレーお姉さんが小さくぷっと吹き出して、笑いながら俺の頬を突く。

「なんて、冗談よ。もちろん、ジルちゃんが望むなら、いつでもジルちゃんだけのアシュレーお姉さんになってあげるわ」

 からかわれたことに少しムッとしたのが表情に出てしまったのか、慈愛溢れる笑顔のアシュレーお姉さんに優しく頬をむにむにと揉まれる。

「……ありがとう、ございます?」

 何と返すか悩んだ挙げ句、口から出て来たのは疑問形な感謝の言葉で、アシュレーお姉さんをさらに笑わせてしまった。

 しばらくしてやっと笑いのおさまったアシュレーお姉さんは、話しやすいようにという配慮か俺の抱え方を変えて縦抱きにして、今の状況の説明をしてくれる。

「ジルちゃん、今度お茶会に騎士団長の息子さんの従者として出ることになってるでしょう?」

 ぷにぷにと頬を突きながらのアシュレーお姉さんの言葉に、俺は無言でこくりと頷く。

「ジルちゃんみたいな可愛くてしっかりした従者見習いなんて、アタシなら絶対連れて帰りたくなっちゃうわ」

 ベタ誉めされて俺が首を竦めて照れ笑いしてると、アシュレーお姉さんからギュッと抱き締められる。

「もう! 反応まで可愛いなんて、ジルちゃんったら本当に小悪魔ね」

 そのまま頬擦りされるが、アシュレーお姉さんの頬もじょりじょり感の全く無いツルツルな頬だ。

 さすがオネエさん。肌の手入れも完璧らしい。

 しばらくアシュレーお姉さんが満足するまで頬擦りされ、やっと状況の説明が再開される。

「ジルちゃんの可愛さに手を出すとか、そんなイケナイ人なんか現れたらぶち殺され──消し炭にされちゃうでしょ?」


 アシュレーお姉さん、イイ笑顔で言い直してくれたけど、全く言い直せてないデス。


 そんな俺の心の声が聞こえる訳もなく、アシュレーお姉さんは生き生きとした表情のまま続ける。

「そんな変態野郎がどうなろうかアタシは気にしないけど、やっぱり一応腐っても貴族関係者の多いお茶会だから、やたらと消し炭にされるのは困るのよ。ここまではわかるかしら?」

 消し炭案件は確定事項らしい。

 たぶん主様が犯人として想定されてるなぁと思いながら、理由は納得出来たのでまた無言でこくりと頷く。

 いくら何でもそんなに子供好き(・・・・)ばかりいないだろうとは少し思ってたけど。

「だからといって、第二王子と同じ年代ばかりの中にあの方混ぜるのは無理でしょうから、ジルちゃんに色々着けて自衛してもらうことにしたの」

「……俺に色々着けて自衛ですか?」

 咄嗟に思いついたのは、触ったらビリビリするようなスタンガン的な物だったが、アシュレーお姉さんが用意してくれたのはアシュレーお姉さんしか用意出来ない、ファンタジーなこの世界らしい物だった。

「そう。ジルちゃんの可愛らしさを少しでも目立たなくするのに、髪と目の色を変えられる付与をしたスカーフリングを用意したわ」

  ニコッといい笑顔のアシュレーお姉さんが差し出したのは、金属製ぽい銀色のリングみたいな物だ。

 名前からするとスカーフとかリボンをまとめる感じで使うんだろう。

 手のひらに乗せられたそれをしげしげと眺めてみると、それには紋章のようなものが刻まれている。

 幅広のリングのようなそれを手のひらの上で転がし、見覚えのある気がする紋章をしげしげと眺めて首を傾げていると、うふふと笑ったアシュレーお姉さんが、

「ジルちゃんの仮のご主人サマの紋章よ」

と教えてくれた。

 どうやら付与だけでなく、これ自体で牽制の意味があるようだ。

 それでアシュレーお姉さんをここへ派遣した依頼主を悟った俺は、過保護だなとも思ったが、それ以上にこれを頼んでくれた面々の気持ちが嬉しくてリングを見ながら頬を緩めていると、耳にひやりと何かが触れる。

「わっ」

 驚いて小さく声を洩らしてそちらを見ると、アシュレーお姉さんが何かを確かめるように俺の耳に触れていた。

「んー、この可愛い耳にピアスも背徳的でいいわねぇ。まっさらな耳にアタシが穴を──」

 クリエイターモードというか、トランスというか、真剣な目をしてぶつぶつと呟くアシュレーお姉さんを無言で見てると、テーミアスが飛んで来てアシュレーお姉さんの触れてる耳側と逆の肩へ着地し、警戒した様子でもふもふな尻尾を揺らしている。

「ぢゅ?」

「かじらない、かじらない」

 かじるか? と嬉々として訊いてきたテーミアスを手で包んでもふもふと揉んでいると、ぶつぶつと呟いていたアシュレーお姉さんがハッとした表情になって照れた様子で俺を見てくる。

「あら、アタシったら、ごめんなさい。ジルちゃんの耳の可愛さにイケナイ……じゃなくて、職人心が疼いちゃったわ」

 相変わらず全く繕えず言い直せてないが、嫌な気分になったり気になったりしないのはアシュレーお姉さんの人徳だな。

 例え、うふふと笑いながら俺の耳を撫で回し続けていても。

「……ちゅ?」

「軽くもかじりません」

 アシュレーお姉さん、テーミアスのアシュレーお姉さんを見る目が不審者を見るような眼差してなってきたので、そろそろ俺の耳を離して欲しい。





「イイひらめきが降りてきたわ」

 しばらくして俺の耳を離してくれたアシュレーお姉さんは、キラキラした笑顔で言い放つと、懐から取り出したメモ帳に何かを書き込んでいく。

 ちらっと覗くと、そこにはアクセサリーの案らしき絵が描かれていたが、あまり見るのはマナー違反だなと俺は視線を周囲へ向ける。

 今さらだが俺が寝かされていたのは、プリュイとの初対面(はつたいめん)を果たした部屋のソファのようだ。

 ここは日当たりが良いから、プリュイが運んでくれたんだろう。

 そこに依頼を受けたアシュレーお姉さんがやって来て膝の上に乗せてくれて……って感じかな。

 家の中に入ることが出来る時点で、その人物の安全性は確実だからプリュイはそばに…………あ、いた。

 プリュイはいないものだと思っていた俺だったが、改めて巡らせた視界の中でふるふるする青色を見つけて、何となくホッとする。

 とはいっても、決してアシュレーお姉さんに何か不安がある訳ではなく、言葉じゃ上手く説明出来ないけど、昼寝から目覚めたら親がいなくて一人で夕暮れ迫る家の中にいたような気分がちょっとあったんだと思う。

 それで家族と言っても過言じゃない、安心の塊なプリュイを見つけて安心した感じ?

 上手く表現出来ない自身の内面とふるふるするプリュイを見つめていると、ゆっくりとプリュイから触手が伸びて来て、俺の頬にちょんっと触れる。

 俺の不安を見透かしたような優しい触り方に、俺はえへへと笑いながらプリュイの触手をやんわりと掴んで、にぎにぎと軽く握り込む。

 スクイーズみたいなプリュイの触り心地を堪能していると、メモ帳を懐にしまったアシュレーお姉さんは、俺を抱え直して立ち上がる。

 一気に変わった視界に瞬きを繰り返していると、アシュレーお姉さんが俺の顔を覗き込んできてにこりと笑いかけられる。

「さ、ちょうど良い時間よ。一緒にお昼ご飯しましょ? アタシ、色々買ってきたのよ」

 颯爽と歩き出したアシュレーお姉さんに、俺は慌てて握っていたプリュイの触手を離す。

 ちょっと引っ張られて伸びてしまい心配になってプリュイの方をちらりと振り返ると、気にしないでというように笑って伸ばした触手を揺らしてくれた。

「ありがとうございます」

 プリュイから視線を外してアシュレーお姉さんへとお礼を告げて笑うと、いい子ねぇとアシュレーお姉さんが頭を撫でてくれる。

 いい子のハードル低すぎる気もするが誉められるのは嬉しくて、俺はさらに笑みを深めると、アシュレーお姉さんから貰ったスカーフリングを無くさないようしっかりと握り締めるのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)


オネエさんって、素敵ですよね。

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