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28話目

着せ替え人形ジルヴァラ。


私に服のセンスは求めないでください←

「まぁまぁ、可愛らしいわ! どれがいいかしら?」


「こちらが、ジルヴァラ様の黒髪に映えていいのでは?」


「「こちらも捨てがたいです!」」



 すっかり着せ替え人形状態な俺は、楽しそうに相談しているノーチェ様とフュアさんをはじめとする数人のメイドさん達をボーッと眺めていた。

 さすが貴族様というべきか、俺に用意されていた服は一着ではなく、その中から似合う物を何着かお下がりであげる、という話らしい。

 そこまでは良かったが、お下がり候補の服の出て来ること出て来ること……。

 服を合わせるために用意されていた部屋の床が、そろそろ服で埋まりそうだ。

 その隅っこで、主様はぽやぽやした置物と化している。

 最初のうち主様はメイドさん達に少し怯えられていたが、じっと俺を見つめてるだけで特に害がないことに気付かれ、今は完全にスルーされている。

 じっとこちらを見ている主様に、俺よりさらに暇なんじゃないかと心配になったが、目が合っても機嫌良さそうにぽやぽやしてるので大丈夫らしい。まぁ、気は長いもんな、主様。キレたとこなんて一度も見た事ないし。

 ガン見されてるので、へらっと笑ってひらひらと手を振ってみたら、主様が反応するより前にノーチェ様筆頭に女性陣から黄色い声が上がる。

 やっと服も決まった頃、

「髪も整えて差し上げた方がいいでしょうか?」

と、丈の調整をしてくれていたメイドさんの一人が、俺の半端に伸びた髪を見て、ノーチェ様とフュアさんへ尋ねると、

「とても綺麗に手入れされてますが、少し不揃いなようなので、軽く整えてもよろしいでしょうか?」

 フュアさんも近寄って来て、検分するように俺の黒髪の先を軽く摘んでから、何故か俺ではなく主様の方を見て確認を取っている。

「………………ええ」

「あらあら。フュア、あまり触らないようにパパッとしちゃいましょうねぇ」

 話を聞いてなかったのかかなり間を開けて頷いた主様に、ノーチェ様は気にした様子もなくくすくすと笑って、メイドさん達へ指示を出し、あっという間に俺の髪を整えてくれる。

「ありがとうございます!」

 メイドさん達にお礼を言って、俺は主様の元へとパタパタ駆けていく。

「どう? これなら、そんなにお茶会で悪目立ちしないか? 髪もいい感じ?」

 今着せてもらってるのは、俺の覚束ない服の知識だと、海兵が着てるようなセーラー服っぽい服だ。ボタンは金で、襟とか袖口は水色で、金のラインが入ってたりするから、たぶん高そう。ズボンも揃いなのか、カボチャパンツ一歩手前な膨らみがあって裾がゆるく絞んだ半ズボンっぽいやつだ。

 全体的に白いから、俺の黒髪に映えるってことで選んでくれたみたいだ。

「ええ、どちらも問題ないです」

 主様的に褒め言葉な感想ももらったので、せっかくだから俺も鏡を見せてもらう。

「妖精さんみたいで可愛らしいわ、ジルちゃん」

 鏡の中の俺の背後では、ノーチェ様が手放しで褒めてくれてて、その隣ではフュアさん達メイド組が揃って頷いてくれている。

 俺自身もじっと鏡を見てみる。自分で言うのも何だがなかなか愛らしい幼児がこちらを見ている。


 すみません! 調子こきました!


 直ぐ様脳内で全力謝罪しながら、俺は銀目でこちらを見つめ返している『俺』にへらっと笑いかけた。

 その後、元の服へ着替えた俺は、散らかった服を片付け始めたメイドさん達を手伝っていたのだが、閉まっていたはずの部屋の扉がうっすら開いている事に気付いて、首を傾げて扉をじっと見る。

「ロコ?」

「ジルちゃん?」

 作業に参加していなかった主様とノーチェ様が、動きを止めた俺を訝しんで揃ってぽやぽやふわふわと呼んできたので、俺は扉を指差して見せる。

「主様、ノーチェ様、あそこ……」

「あら、閉め忘れてたかしら?」

 おっとりと微笑んで俺と一緒になって首を傾げてるノーチェ様の横で、主様が無言で手を横に振ると、バンッと勢いよく内開きの扉が開かれ、人影が転がり込んでくる。

 いたた、と絨毯の上に転がってるのは、明らかに使用人ではない高そうな服を着た青年だ。

 状況から考えるに、扉を薄く開けて中を窺ってたんだろう。

 使用人がこんなところで盗み聞きなんてしないだろうし、何より服が高そうだから、フシロ団長の血縁者かなと予想しながら青年へ近づく俺。雛みたいについてくる主様。

 うふふふとおっとり笑っているノーチェ様。

 フュアさん達も少し驚いただけで警戒はしてないので、やはり家族なんだな、と思いながら青年を見下ろす。

「起きられないの? 手助けいるか?」

「いや、ああ、ビックリしただけだから、問題ない。まさか、あんな急に強い魔力にあてられるとは思ってなかっただけだ」

 俺が話しかけると、呆けていた青年はハッとした表情になり、言葉通り何事もなかったように飄々とした表情で立ち上がる……かと思いきや、何故か俺の脇の下に手を差し込んできた。

 そのまま、立ち上がる青年に持ち上げられる形になり、俺は困惑した表情をおっとりと微笑んでいるノーチェ様へ向ける。

 相手が誰かわからないから、やたらと暴れるのも躊躇われたからだ。

「軽いなー。これで六歳か?」

「年齢はたぶんそれぐらいって感じで決めただけだから。もしかしたら、五歳かも知れないし、七歳かも知れない。お兄さんは俺のこと知ってるみたいだけど、俺はお兄さんのこと知らないから教えて欲しいなぁ?」

 俺が某眼鏡の探偵ボウヤのぶりっ子を意識して首を傾げて青年を見つめてると、突然グイッと顔を近づけて来られ、思わず身を竦める。

「本当に銀色の目だ。親父殿の冗談かと思ってたぞ」

 どうやらあんまり他人の話を聞かないマイペースなタイプなんだな、と無遠慮に覗き込んで来る視線をふいと避ける。この人フシロ団長と目の色も髪の色も同じだし、親父殿とか呼んでるからフシロ団長の息子なんだろう。

 そこまで考えた俺は、フシロ団長の発言を思い出して固まる。

 確か、色々俺がもだもだ悩んでいた時、自分の家には俺の一つ年上の息子がいるから遊び相手には困らない、と。

「お兄さんは、フシロ団長の……」

「ああ、おれは息子だよ」

 思わず途中になった問いかけを、今度はきちんと拾ってくれたらしく、フシロ団長とよく似た笑顔で頷かれた。

「……七歳にしてはデカくないか?」

 青年(七歳?)をしげしげと眺めて呟くと、青年(七歳?)の手から力が抜けたので俺は身軽に着地して室内を見渡す。その室内には痛いほどの静寂が広がっていた。

「え? 俺なんかおかしなこと言った?」

 静寂の理由がわからず、俺はきょろきょろと周囲の人々を見上げて尋ねる。

「うふふ、ごめんなさいね、ジルちゃん。あの人、きちんと話してなかったのね。今、ジルちゃんを抱っこしてたのは、間違いなくフシロとわたくしの息子よ。ただし一番上の息子なの」

「あー、そっか、そういうことか。そうだよな、いくらなんでも七歳にしては育ち過ぎてるよな」

 会う人会う人に持ち上げられ、軽いと言われるから、もしかしたら俺はこの世界の六歳児として小さすぎるんじゃないか、とか本気で悩むところだった俺は、本気で安心して脱力してしまう。

「親父殿は、ナハトの事しか話してなかったのか。だからって、いくらなんでもおれは七歳に見えないからな?」

「勘違いして、ごめん!」

 苦笑いしている一番上の息子だという青年に、俺は勢いよく頭を下げて謝罪する。こういうのは謝ったモン勝ちだよな。というか、勘違いした俺が悪い……いやフシロ団長の言い方も悪いよな?

「フシロ団長にも謝ってもらうから!」

 妙な使命感に襲われた俺は、グッと拳を握って青年とノーチェ様を交互に見て宣言する。青年は目を見張っただけでノーリアクションだったが、ノーチェ様はあらあらとおっとりと微笑んで頷いてくれている。

「そうよね、あの人の言葉足らずも良くないわ。一緒にトルメンタへ謝らせて、ジルちゃんへも、言い方悪かったな、って謝らせましょう」

「だな!」

 正直、ノーチェ様がノッてくれた時点でほとんど冷静になっていたが、悪戯っぽいノーチェ様の笑顔につられて、ノリノリで返事をする。

「差し出がましいようですが、最初にトルメンタ様がきちんと自己紹介をされていれば問題なかったのではないかと……」

 えへへうふふと笑い合っていると、服を片付け終えたフュアさんから、控えめだが至極真っ当な意見が出て、俺はしぱしぱと瞬きをして、苦笑いからバツが悪そうな顔に変わった青年をじっと見上げる。





「あー……おれは、ここの長男でトルメンタ。騎士団所属の二十歳だ」




「俺はジルヴァラ。たぶん六歳。よろしく、トルメンタ様」




 ニッと笑って手を差し出してくるトルメンタ様の笑顔はやっぱりフシロ団長に良く似ていて、俺はへらっと笑い返しながら、差し出された手を握る。

 そんな俺達の様子をノーチェ様とフュアさん達が微笑ましく見つめていることに気付きもせず、俺は握り返された手をしばらくぶんぶんと振っていた。




 ついでに、主様がぽやぽやしながら冷めた眼差しをトルメンタ様へ向けていたなんて、気付く訳もなかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


口に出したくなる名前、トルメンタ←

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