265話目
何か俺やっちゃいましたを少しだけしてみたいジルヴァラ。
本人無自覚にはやってますよねー。
汚したら困ると着替えた俺がナハト様から連れられてたどり着いたのは、ナハト様の自室ではなくニクス様の自室の前だった。
それに気付いた俺が無言で首を傾げていると、ナハト様は悪戯っぽく笑って俺を振り返る。
「ニクス兄上も誘って、三人で遊ぶんだよ」
それはニクス様に許可をもらってるのか? と思った俺だったが、突っ込む前にナハト様は部屋の扉をノックして開けてしまう。
「……ナハト、いつも言ってますが、ノックをしたら中からの返答を待って入って来て欲しいんですが?」
やはりというかニクス様からは苦笑い混じりの突っ込みというか指導が入り、ハッとした顔になったナハト様は誤魔化すようにへらへらと笑う。
「あ、ごめん。忘れてた! 次からは気をつけるから!」
ナハト様の態度と発言から、よくやるんだなと呆れながら、俺は仕方ないと部屋の中で苦笑いしているニクスへ向けて頭を下げてから部屋へ入らせてもらう。
「ニクス様、お邪魔します」
ナハト様に引っ張られて一緒に突撃しちゃってるから、今更感満載だけどな。
「ぢゅっ!」
俺の肩の上では、テーミアスが可愛らしい見た目にそぐわない男前な挨拶をしている。
「いらっしゃい、ジル。それと小さな友人も」
ニクス様が俺だけじゃなくきちんとテーミアスにも挨拶をしてくれたのが嬉しくてえへへと笑み崩れていると、横から突然ナハト様が抱きついてくる。
「……ジルはオレの従者するんだよな?」
ムッとした表情でわかりやすく拗ねるナハト様は可愛らしいが、そう思ったのを悟られるとさらに拗ねられそうなので、俺より上背のある体を受け止めてしっかりと頷いた。
「ならいいけどさ」
むすっとした表情のまま抱きついてくるナハト様の背中をぽんぽんと叩いていると、ニクス様からくすりと小さく笑われてしまった。
「ナハト様。遊ぶ時間無くなるぞ?」
いつまでも離れる様子のないナハト様にそう声をかけると、パッと表情を変えて体を離してパタパタと駆け出す。
すぐに戻ってきたナハト様の手にあったのは、長方形の小さな木製の箱だ。
もしかしたらと思ったが、やはりというかその箱の中から出て来たのは、見覚えのある絵柄の描かれた紙の札だった。
「トランプ……」
意識せずポロッと洩れてしまった俺の言葉に、ナハト様とニクス様が俺の顔を見てくる。
これはついに『俺なにかやっちゃいましたか?』の亜種的なやつやっちゃったかと身構える俺。
だが二人の反応は普通すぎるぐらい普通だった。
「そうだぜ? トランプなら三人で遊べて楽しいだろ?」
「神経衰弱なら記憶力を鍛えたりも出来ますし、遊びながら勉強にもなりますからね」
「う、うん、そうだな。トランプなら色々遊び方あるよな」
どうやら俺はどうやってもラノベ主人公ルートは無いようだと内心で安堵しながら、俺は二人から誘われるままにテーブルに着いて、一緒にトランプをすることになった。
遊んでみたら全然俺の知ってるトランプじゃない!? とかいうドラマチックな展開もなく、普通に俺の知ってるトランプだったので、普通に楽しくトランプする。
トランプするって脳内で連呼し過ぎて何かゲシュタルト崩壊しかけた頃、俺はナハト様と何度目かになるビリ争いをしていた。
別に俺が手を抜いてる訳じゃなく、ニクス様がとても強く、俺とナハト様がどっこいどっこいな実力のせいだ。
おかげでなかなか白熱して楽しい。
今ナハト様は俺の手持ちのカードを透視でもしそうな勢いでガン見している。
俺の手元にあるカードは二枚。
それを数字の方を見せないようにして扇みたいに広げてナハト様へ見せている。
「右……いや、そう見せかけて、左……でも基本に戻って右……けど左も……」
ぶつぶつと呟くナハト様を見て、俺の胸元辺りに入っているテーミアスがぴぁあと小さく鳴く。
あまりにも悩むナハト様の様子が不思議だそうだ。
ちなみにテーミアスが肩ではなく胸元に入ってるのは、最初にババ抜きで負けたナハト様が「テーミアスに頼めばカード見れそう」とぽろりと思ったこと口にしたからだ。
ナハト様は即疑ったことを後悔して全力で謝ってくれたのでそちらは問題無しだが、カードが見えそう云々は俺の方も確かにと思ったので、カードが絶対に見えないであろう胸元にいるように頼んだのだ。
もちろん、テーミアスにそんな不正は頼んでないし頼むつもりも無い。でもお互い楽しくゲームしたいからな。
テーミアスは俺の胸元で、解説者よろしく俺達の表情を見て、鳴き声だけは可愛らしく結構ズバズバな評論をしてくれてる。
ナハト様もニクス様も気にしてないみたいだから、俺もあえて楽しそうなテーミアスを止めないけど。
そんな解説者テーミアスの「最初の勘を信じるべきだったな」という一言と共に、俺の手元からピエロと悪魔を足して二で割ったような絵柄のカードが抜かれ、ナハト様の手元へ行き、これでナハト様二枚、俺の方は抜かれて一枚だ。
手元に来たカードを見た瞬間、ナハト様の表情はわかりやすく強張った。すぐに何事もなかったように振る舞おうとするがバレバレだ。
というかそもそも、ニクス様は一抜けしてて、俺とナハト様二人の対決なんだからババがどちらにあるかなんて明白だ。
で、ここからは俺がナハト様の手札からカードを一枚引いて、今手元にあるカードと合う数字のカードを引ければ俺の勝ち。
またババを引いてしまえば、同じやり取りの繰り返しになる。
だからここでナハト様のする動きとしては、どちらがババかわからないように二枚のカードをシャッフルしたり、俺から見えない位置で入れ替えたりだと思う。
そう思うのだが……。
「ほら!」
ナハト様がグイグイと二枚のカードを突き出してくる。
気のせいでなければ、さっき俺から引いてガーンッとなった後、そのままカードを手元のカードと一緒にして、混ぜることすらしてない気がする。
「ジル、早く引けよ」
カード越しに見えるのは、ニッと笑うナハト様。
これはたまにババ抜きで見る、わざとババを目立つように持って、疑心暗鬼に陥った相手に引かせるというあの高等テクか?
まさに今、俺がその策にハマってる? 実は手元で入れ替えたりする?
だとしたら面白いなと思った俺は、ナハト様が俺から引いたカードの隣──つまりババではないと思う方のカードを躊躇いなく引き抜いた。
その瞬間、ナハト様の顔が愕然としたのが見えてしまったので、策ではなかったらしい。
まぁ上手い人なら表情すら偽って自分の引かせたいカード引かせるかも、と一瞬悪足掻きみたいな思考をしてみたが、手元にやって来たのは俺の手元にあったカードとペアになるカードだ。
「また負けたーっ!」
悔しそうに叫んだ後「もう一回!」とニクス様にねだるナハト様。
それを困ったように見て、こちらへ視線を向けてくるニクス様。
兄弟仲がとてもよろしいということと、ナハト様がとてもババ抜き弱いというのがわかった一時だった。
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あの後、トルメンタ様も乱入して来たりしたが、ナハト様のビリとニクス様のトップは揺るがず、三兄弟の力関係を見た気がする。
訂正。ナハト様のビリに関しては、たまに俺が負けたり、トルメンタ様がビリになることもあったので、ほぼ揺るがずってところだ。
ニクス様の一位独占は揺るがないけど。
「ニクス様強いなぁ」
「皆がわかりや…………素直だからですね」
チクチク言葉をふんわりと言い直してくれるニクス様の優しさに、俺はトランプの片付けを手伝いながらへらっと笑いかける。
「俺はニクス様の見抜く力もあると思うぜ。いつも皆をきちんと見てくれてるから、こういう時にちょっとした違和感に気付けるんだよ」
「……ありがとうございます」
ただありのままを言ったので誉めたつもりではなかったが、ニクス様は嬉しそうに微笑んで俺の頭を撫でてくれたので、俺は否定したりせず一緒になって笑っておく。
ニクス様に撫でられるのは初めてな気がするので目を細めて堪能してると、猫みたいですねとニクス様が小さく呟く。
「……にゃー?」
ご要望があったようなので小さく猫の鳴き真似をしたら、俺を撫でるニクス様の手がピタッと止まってしまった。
「……えぇと、なんか、ごめん?」
幸いにも小声だったからニクス様にしか聞こえなかったので被害は最小限で済んだな。
謝りながら脳内で妙なナレーションが流れたのは、当然だが俺にしか聞こえていない。
「え……いや……大丈夫です? そう、大丈夫……」
聞こえてないはずだけど、ニクス様の反応もちょっとおかしい。
何となく二人で見つめ合って、誤魔化すように笑っていると、ナハト様が飛びついて乱入してきてくれたので、微妙になった雰囲気は掻き消えてしまった。
ナハト様に感謝だな。
あと、猫の鳴き真似はもう少しクオリティを上げてから披露することにしよう。
今のクオリティで許してくれるのは、なんだかんだで優しい主様ぐらいのようだ。
「俺、完璧な猫の鳴き真似目指すからな」
先ほどよりさらに小声でテーミアスに向けて宣言すると、なんでそうなった? とテーミアスが不思議そうに鳴いてた気もするが、気合を入れ直していた俺はあえて聞き直したりもしなかった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
ニクス様は腹黒い訳ではなく、ジルヴァラの言う通りのタイプです。勘違いされやすいだけで。
腹黒いのはグラ…………げふんげふん。
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
反応いただけると嬉しいです(*´∀`)
誤字脱字報告も助かります! ショタ◯ンはアウトだったんですねぇ。知らなかったので申し訳なかったです。ロリコンとか普通に使われていた気がしたので、伏せなくて大丈夫かと思ってしまいましたm(_ _)m




