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264話目

ちびっこが戯れているのは可愛い。


異論は認めます←

「これはまた……」



 これは、一時間ほど経った頃にやって来たヘイズさんの部屋に入っての一言目だ。

 その一言を呟いて言葉を途切れさせたヘイズさんが微笑んだまま見つめてるのは、ノーチェ様の着せ替え人形と化してただ今肌触りの良い黒のシンプルなワンピース姿の俺だよな、間違いなく。

「……奥様、少々お戯れが過ぎるのではありませんか?」

 俺の疲れ切った様子を見て、ヘイズさんからのやんわりとした注意があり、俺はやっと本来着るはずだった服を着せてもらえそうだ。

 三兄弟は一応途中で止めようとしてくれたのだが、流れ弾が自分に来そうになって、そっと部屋を出て行ってしまったので今は部屋にいない。

 今部屋に残ってるのはノーチェ様とフュアさん、後から来たヘイズさん。──それと。



「なぁ、ジル。外にぽやぽやがぽわぽわ浮いてたけど……」




 部屋に戻って来たナハト様の報告は、聞かなかったことにしておこう。




 そんなこんなで余計な紆余曲折はあったが、無事に用意してもらった服を着た俺。

 お茶会の時に貰ったナハト様のお下がりよりさらにシンプルで動きやすい格好だ。

 あの時はお高めなセーラーっぽい感じだったが、今回は白い長袖のワイシャツに襟付きの黒いベスト、それに黒い七分丈ぐらいのズボンで、リボンなどの装飾品は一切ない。

 これが従者っぽいのかはわからないが、今までで一番落ち着く格好かもしれない。

 女装していた時には来なかったテーミアスも戻って来て、肩の上で誉めてくれている。

「まあ、可愛い従者さんね。連れて帰りたいわ」

「はい、奥様」

 ノーチェ様とフュアさんは手放しで誉めてくれたし、ヘイズさんも微笑んで頷いてくれたので、ちゃんと従者っぽく着こなせてるのだろう。

 俺が安堵でへらっと笑っていると、脇からナハト様が飛びついて来る。

「駄目だぞ! 今のジルはオレの従者なんだからな!」

 ぎゅっとしがみついて来た大きな体を何とか受け止めた俺は、ふと思いついて受け止めたナハト様を立たせながら、ヘイズさんを真似して微笑んで見せる。

 実際出来てたかは鏡がないからわからないけど。

「ナハト様。急に飛びつかれると危険ですので、お控えください」

 で、なるべく丁寧に聞こえるように話しかけてみたら、ナハト様は何ともいえない表情で俺を見て首を傾げている。

 敬語とか謙譲語なんて習ったのは遠い記憶だから、何か間違ってたかなとは思ったが、まぁごっこ遊びみたいなものだから良いよなとさらに続けてみる。

「ナハト様、いかがされましたか?」

 いかにも主人が心配な従者っぽく心配そうに声をかけると、ナハト様の首を傾げ具合はさらに深くなっていく。

「何かお気に障りましたでしょうか? おっしゃってくださらないとわたくしにはわかりかねます」

 ナハト様はあうあう言うだけで、何も反応してくれないので、本当に『わかりかねます』な気分になった俺は、大人三人の反応を見ようと振り返ってみる。

「あらあら」

「ジルヴァラ様、幻日様の言葉遣いを真似されてるのでしょうか」

「言葉遣いに関しては、このままでも大丈夫そうですね。では、あとは基本的なマナーや振る舞いの勉強をいたしましょう」

 感心した様子のノーチェ様とフュアさんの反応を見る限り大きな間違いはなかったようだ。

 ヘイズさんに関しては俺へ教えることを確認しているので、ヘイズさんの目から見てもごっこなら合格点だったらしい。

「はい。よろしくお願いします」

「では参りましょう」

 未だにあうあう言ってるナハト様をノーチェ様に預けて、俺はヘイズさんに連れられて別の部屋へ移動する。

 もちろん手を繋がれたり、ましてや抱っこされたりもせず、自分の足でついていく。

「旦那様、連れて参りました」

「──入りなさい」

 ヘイズさんに続いて入った部屋の中にいたのは、執務中らしく頑張って顔を厳つく保とうとしているらしいこの屋敷の主であるフシロ団長だった。

「従者の仕事ですが、基本的には主人に付き従い、身の回りのこと全般をしてもらうことになります」

 厳つい顔を頑張っていたフシロ団長だったが、従者姿の俺を見て目元を緩ませてしまい、にっこりと笑ったヘイズさんに見られて慌てて厳つい顔をしているのが視界の隅に見えていたりもするが、気にしないようにして俺は真剣にヘイズさんの話を聞いて頷く。

「今回はお茶会の間の仮の従者見習いとなりますので、その際の注意点をいくつか旦那様に練習相手をしていただきましょう」

「頼むな……あ、じゃなかった、よろしくお願いいたします、旦那様」

「う、うむ」

 何故かフシロ団長が俺より緊張した面持ちだったりもしたが、俺はヘイズさんについて回って、一通りお茶会の間に必要となるであろう従者としての基本的な立ち回りを教えてもらった。




「半日でこれなら及第点ですね」

「ありがとうございます」

 従者見習い扱いの時間は終了したというわかりやすく示してくれているのか、そんな言葉と共に頭を撫でてくれるヘイズさん。

「……ジルヴァラ、冒険者辞めて、うちの家令に……いやでも、だったらうちの子にすべきか」

 先ほどまでの厳しい顔のまま立ち上がって近寄って来たかと思うと、俺を捕獲してじょりじょりと頬を擦り寄せながら、ぶつぶつと呟いているフシロ団長。

「父上、オレもジルと遊びたいんだから、ジル返してくれよ」

 そんな父親を呆れた眼差しで見ながら、その足元でぴょこぴょこ跳ねて俺へ向けて手を伸ばしているナハト様。

 混沌としてるなぁと思っていたら、いつの間にか寝ていたテーミアスが目を覚ましてゴソゴソ動くので、首周りがもふもふでくすぐったい。

「もう、くすぐったいって」

「あ、あぁ、悪かった」

 テーミアスに向けて文句を言ったら、自分に言われたと思ったのか頬擦りしていたフシロ団長がピタッと固まって、そのまま顔を離して頬擦りを止めてしまう。

 しゅんとしたその表情に、俺は喉を鳴らすように笑って、犯人(?)であるテーミアスを捕獲して見せつけるように両手で持ち上げる。

「今のはフシロ団長に言ったんじゃなくて、テーミアスに言ったんだよ」

「ぢゅっ!」

 悪かったなと微妙に謝ってるのかわかりにくいテーミアスの謝罪に、心の広いフシロ団長は鷹揚に笑って頷いてから、俺を床へと降ろしてくれた。

「ジル! オレも勉強終わったから、部屋で遊ぼうぜ!」

 すぐさま飛びついて来たナハト様に、俺はちょっとした悪戯心が湧いて、ヘイズさんの真似をして(るつもりで)ニコリと微笑んで頭を下げてみせる。

「はい。ナハト様の仰せのままに……」

「な……は……え? もうジルの勉強も終わったんだろ?」

 従者っぽく答えた俺に、飛びついたままビクッとなったナハト様は、驚きを隠さず俺とヘイズさんの顔を落ち着きなく交互に見ている。

 俺はさらに悪戯心を掻き立てられてしまい、

「はい、その通りです。それでは部屋へ参りましょうか、ナハト様」

とさらに従者ごっこを続けてみたのだが、俺達のやり取りに堪えきれなくなったのか空気になっていたフシロ団長が小さく吹き出してしまった。

 それでやっと俺にからかわれていると気付いたナハト様は、可愛らしく頬を染めて、キッと俺を睨みつけてくる。

「ジル! オレをからかってたんだな!?」

「うん。悪戯してごめんな?」

 もちろんからかった俺が悪いので即謝ったのだが、そうすると素直なナハト様はそれ以上怒りを持続出来なかったらしく、頬を膨らませてふいっと視線を外し、



「……一緒に部屋で遊んでくれるなら許してやる」



と小声で言い放ち、俺の手を握ってずんずんと歩き出す。

 ずいぶんと可愛らしい罰に、俺はへらっと笑いながら握られた手を握り返し、ナハト様に連れられて歩いていく。



 その途中、口にした応えは一つ。



「もちろん喜んでお付き合いいたします」



 またちょっと睨まれてしまったのは言うまでもない。

いつもありがとうございますm(_ _)m


私に服装のセンスはありません!←


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)


誤字脱字報告、ありがとうございます!なかなかどうしてな誤字してました(ノ´∀`*)

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