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262話目

チートの無駄遣いな主様。


「………………私も行きます」



 ナハト様の専属従者(見習い)としてお茶会参加の許可を主様へもらいに行って、しばらくの無言の後、ガバッと俺を捕獲した主様から返ってきたのはこの一言だ。

「いや、無理だからな?」

 捕獲された状態で即却下したら、主様はわかりやすく「何ですと?」と言わんばかりの顔で俺を見てきたが、そんな可愛い顔されても無理なものは無理だろう。

 グラ殿下の手紙によると、お茶会に来るのはグラ殿下と年齢の近い貴族の子供とその専属従者見習いやその候補。

 どう考えても専属従者(見習い)保護者付きは浮く。絶対に浮きまくる。

 何だったら色んな意味で有名な主様を見て、恐慌状態とかになると思う。

 そうなったらお茶会どころじゃない。



 そんな感じのことを説明したら、かなーり渋々ながら納得して……、


「じゃあ、変装します」


くれなかったかぁ。



 ドヤッとした表情でぐっと顔を寄せてきて間近から覗き込んで来る主様は、俺が主様の顔に弱いってわかってやってる可能性が高い。

 だけど、ここで俺も頷く訳にはいかないので、心を鬼にして首を横に振る。

「いくら変装しても、主様は紛れ込めないからな?」

 見た目は変えられても年齢は変わらない。だから、変装しても無駄だ。

 しかし、それを指摘したら主様なら何とかしそうなので、あえて口に出して指摘しないけど。

「グラ殿下主催だから、開催されるのはお城の中の庭だし、来るのも俺より少し年上な子供ばっかりだぜ? 絶対に安全だって」

 間近にある不服そうな宝石色の瞳を覗き込んでお茶会の安全性を訴えてみたが、返ってきたのは無言と不服そうなぽやぽや。

 何か主様を安心させるようなことはないかと頭をフル回転させた俺が思いついたのは、主様も一目置いているとある人物の存在だ。



「あ! そうだ、何かあったら、すぐにドリドル先生の所に逃げ込んで、助けてもらうから。それでいいだろ?」



 ドリドル先生の名前を口にした瞬間、宝石色に揺らぐ主様の瞳の中で、瞳孔が開くの見た気がした。



 これはどっちだろうと主様の瞳を覗き込んでいると、主様の顔がさらに近づいて来て吐息が俺のまつ毛を揺らす。



「……私の方が強いですから」



 意外と負けず嫌いな主様は、そんな負け惜しみじみた一言と共にかぷりと俺の頬を甘噛みして、かなり不承不承ながら俺のお茶会参加を許可してくれたのだった。

 そうと決まったら、俺は早速グラ殿下に新たな指名依頼を受けることをその場で手紙にしたため、不服そうにぽやぽやとしている主様から送ってもらった。

 どれくらい不服だったかと言うと、込められた魔力で姿を変えるはずの手紙が……小鳥の形にすらならず手紙のまま元気なくバサバサと飛んでいった程度かな。

 無事にグラ殿下へ届くか少しだけ心配になったが一応主様の魔力なんだし、大丈夫だろ……たぶん。

「俺の手紙誰か拾ったら恥ずかしいかも」

 窓へ張りついて遠ざかる手紙を見送った俺は、ほんの少しだけ不安というか、拾われた手紙を第三者に読まれるんじゃないかという想像で羞恥を覚えてしまう。

 それでつい肩の上にいたテーミアスへ向けて小声で共感を求めてみたのだが、その途端背後からガタッという大きな音がしてテーミアスと一緒になって小さく飛び上がる羽目になる。

「うぇっ!?」

 慌てて振り返ると、そこには棒立ちになって窓の方を見る主様がいて、さっきの音は主様が立ち上がったことによって倒された椅子の音だと気付く。

「……ぬ、主様? 何かあったのか? 虫でもいたか?」

 音の出所がわかって胸を撫で下ろしながら、俺は棒立ちになって窓の方をガン見している主様へ恐る恐る声をかける。

「主様?」

 俺の声が聞こえていないのか、主様はひたと窓の方を見つめて動かず、俺は思わず肩の上にいるテーミアスを見る。

「ぴゃ」

 何やってんだアレ。というテーミアスからの遠慮ない突っ込みに、俺もわからないので首を傾げ返すしか出来ない。

 テーミアスも首を傾げて返してきた。

 もふもふしてて可愛い。

 主様は真剣な様子で窓の方を見つめて動かないので邪魔するのも何なので、俺はテーミアスと戯れて待つことにした。

「撫でてていい?」

「ぢゅ……」

 何でそうなった? と呆れられたが、撫でることは許可されたので遠慮なく両手でもふもふを堪能させてもらう。

 冬毛なせいもあるだろうが、テーミアスの毛皮は柔らかくて毛足も長く本体になかなか触れない。

「おぉ、濡れたらかなり縮みそう」

「ぢゅぢゅぢゅぢゅ!」

 毛で丸く見えるだけで鍛えてるから引き締まってるぜ、とドヤッと語るテーミアスは可愛らしいが、言ってる内容はあんまり可愛くない。

 可愛らしい見た目に反して、テーミアスは体育会系というかマッチョな思考のようだ。

「……野生動物だもんな。そういえば、熊ももふもふな見た目だったけど、抱きついた体は脱いだらすごいって感じしてたな」

 熊は熊だから、毛皮脱ぐことは絶対無いけど。

 俺が慣れ親しんだ熊の触り心地を思い出して手をわきわきさせていると、テーミアスが尻尾を揺らして俺の顔を覗き込んでくる。

「ぴゃあ?」

 熊の知り合いがいるのか? とテーミアスは驚いた様子を見せたので、王都近くの森では熊は珍しい……いやそう言えば俺の住んでた聖獣の森でも熊は熊だけだったな。

「そう。俺を拾って育ててくれたんだ。だから知り合いじゃなくて、親代わりってところかな」

 熊の優しいもふもふ笑顔を懐かしく思い出しながら、俺がへらっと笑って答えると、テーミアスは不審さを隠さず表情にありありと出して主様を前足でビシッと指し示して一声鳴く。

「アレは何だ……って、主様は主様だぞ?」

「ぴーっ」

 俺の答えに脱力したテーミアスは、鼻声のような鳴き声で力無く訴えて俺の顔を尻尾で叩いてくる。

「そういう意味じゃない? あ、もしかして、主様が俺を拾って育ててくれたって思ってたのか?」

 テーミアスの態度と会話の流れから口にした推論は正解だったようで、テーミアスは無言でこくこくと首を縦に振る。

「違う違う。俺は聖獣の森に捨てられてて、それを熊が拾って育ててくれたんだ。主様は俺がモンスターに襲われてたところを助けてくれて、俺がそのまま無理矢理くっついてここまで来たんだよ」

 主様との出会いから今までをきちんと言語化すると、俺はかなり主様に我儘聞いてもらってるなぁと我が事ながら苦笑いしてしまう。

「ぢゅ……」

 それを聞いたテーミアスはというと、マジかと呟いて主様へ視線を戻していたので、真似する訳ではないが俺も主様へ視線を向ける。

 そんな俺達の視線に気付いたのかたまたまかはわからないが、ずっと窓の方を見ていた主様がくるりとこちらを振り向いて、すたすたと近寄って来る。

 なんだろうと主様の動きをじっと見ていた俺は、そのままひょいっと抱え上げられる。

「主様、ずっと何見てたんだ?」

 せっかくなので気になっていたことを訊ねると、主様は待ってましたと言わんばかりのぽやぽやドヤッとした表情で俺の額にこつんと自らの額を触れさせて口を開く。

「ロコの手紙が襲われないよう見守ってました」

 誉めて誉めてという副音声が聞こえそうな主様のぽやぽや具合に、俺はしぱしぱと瞬きを繰り返して、思わず手紙が消えた方向を見てしまう。

「えぇと……ありがとう?」

 思わず疑問符付きになってしまったお礼だったが、主様は満足げにふふんと鼻を鳴らしたので、応えとしては間違えてなかったのだろう。




 数日後のお茶会で『城に巨大な白い物体が飛び込んで来て、大騒動になったんですよ』と、くすくすと笑ったグラ殿下から聞くまではそう思っていた俺だった。


いつもありがとうございますm(_ _)m


そりゃあ、ゴネますよね、主様なら。


ドリドル先生の効果は素晴らしい←


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)誤字脱字報告も助かりますのでよろしくお願いします!

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