261話目
たぶんジルヴァラをしまっちゃうために、本人がやった(付与した)と思われます。
そこに深い考えがある…………かも?
身悶えし過ぎて主様からしまわれてしまった俺だったが、会話がしにくいと説得して何とか懐から出してもらえた。
その際、目を見張ったエジリンさんが小声で「……用途は何でしょう」とポツリと呟いていた。
確かに俺をしまっちゃう以外に使い道が無さそうというかそれ以外に使ってるところを見てないけど、何かちゃんとした用途はあるんだろう、このローブにも。
エジリンさんの洩れてしまったであろう心の声は聞かなかったことにして、俺は居住まいを正してエジリンさんへ向き直る。
主様の膝上だからしまらないの仕方ないと諦めて。
「報酬の件はここに受け取りのサインをいただけば終了となります」
「はい……『ジルヴァラ』と、これでいいですか?」
エジリンさんも気にしないようにしてくれてると思うので、俺も精一杯キリッとした表情で答えて、差し出された書類に自分の名前を書いていく。
最初は適当に名乗った名前だけど、今ではすっかり馴染んだなぁと感慨深く思いながら。
何処の国の言語かは忘れたけど、覚えといて無駄にはならなかったな、前世の俺。
そんなくだらないことを考えていたら、無意識に変な顔をしてしまっていたのか、気付くとエジリンさんから心配そうに見られていた。
「ジルヴァラくん? こちらは問題ありませんが、何かありましたか?」
「い、いえ、何でもないです! あ、報酬の『件』は、とわざわざ言われたのが少し気になりました!」
まさか前世の黒歴史に感謝してたとも言えず、勢いで誤魔化そうとした俺は、ついさっき引っかかっていたことまでも口に出してしまった。
そんな俺の態度を、大人の余裕で受け流してくれたエジリンさんは、微笑んで懐から一通の手紙を取り出して、俺へ手渡し……そうとしてくれたが、俺が受け取る前に主様の手がひょいっと受け取ってしまう。
「……そちらはグラナーダ殿下から、ジルヴァラくん宛のお手紙です」
悪戯っ子な主様の行動も苦笑いで受け止めたエジリンさんを、昼ご飯を一緒に〜と誘ってみたけど「まだ仕事が残ってますので……」とやんわり断られてしまった。
なので最近暇があると在庫を作ってる焼き菓子を何種類か袋に詰め込んで渡しておいた。
とてもつもなく美味しい! とはならないだろうが、素朴な味で不味くはないと自負してる……うん、不味くはないハズ。
まぁクッキーとかのいわゆる定番な感じのお菓子ばかりなので大外れはないだろう。
もちろん他人に贈る物だから主様鑑定で食中毒とかの心配はないことだけは確認してもらった。
鑑定出来たのは安全かどうかだけで、残念ながら主様の鑑定では味の評価とかはしてくれないそうだ。
主様は気に入ってくれてるようで、小腹が空いた時とか……ではなく、俺とご飯を食べない時に食べているらしい。
そんな感じの焼き菓子を適当に、ギルド職員さんの人数分より少し多めに詰め込んでおいた。
その際、
「えぇと、あげておいて何言うかって感じですけど、口に合わなければ捨ててもらって構わないんで……」
みたいな注意事項を付け加えた結果、もったいないおばけと化したテーミアスが烈火の如く怒ったので、口に合わなければ返してもらうという面倒なお土産となってしまったのは申し訳ない。
●
エジリンさんが帰ると、主様も何かしている途中だったみたいで、俺を小脇に抱えて部屋へ戻ろうとして、プリュイに止められていた。
そんな一幕の後、俺は自分の部屋へ帰ってグラ殿下からの手紙を読むつもりだったのだが、その前にちょっとした問題が残っていた。
「ほら、これはテーミアス用に砂糖減らしてナッツ増量したやつだから」
ちょっとした問題──先ほどのお土産の一件でご機嫌斜めなテーミアスのご機嫌をとるため、もふっとしている相手に説明した通りのクッキーを差し出してみる。
甘さは控えめだが、見るからにナッツごろごろなクッキーだ。
「ぢゅっ!? ぢゅぢゅ……!」
クッキーを受け取って目を輝かせたテーミアスは、ちらちらとこちらを見ながら、次は無いからな! と相変わらず見た目より男前な一言と共に、クッキーをよいしょよいしょと頬袋にしまい込んでいる。
「……モモンガって頬袋あるんだ? って、そもそもモモンガではないか」
魔法も使うし、見た目も少し違う気がするし、テーミアスはテーミアスか。
「魔法を使う動物って……まぁ……」
異世界だから何でもあり、かと口から出かけた突っ込みを飲み込み、早く手紙開けてみろよと急かす頬袋パンパンのテーミアスに苦笑いしながら、グラ殿下からの手紙を開ける。
テーミアスも読みたがるので、読みやすいようにテーブルに置いて手紙を読み始めたのだが……。
「ぢゅぢゅ……ぴゃぁ……」
テーブルに降り立ったテーミアスは、ふんふんと頷くような仕草をしながら、尻尾でテーブルを撫でるように揺らし……困った顔をして俺を振り返った。
「そっか、さすがに文字は読めなかったな。今度、教えてやるな? 今日は俺が読むから。ええと、お茶会の日付が決まったことが書いてあるんだけど……うん? また俺に指名依頼? しかも、内密に?」
あまりにも人間臭い男前なテーミアスなので、つい文字も読めるのではと思ってしまったが、普通に読めなかったんだな、と代わりに手紙の内容を説明していった俺は、思いがけない内容に首を傾げる。
グラ殿下の言い回しは難しいので噛み砕いてテーミアスに伝えようとしていたせいで、俺の方も内容の理解に少し手間取ったが、どうやら俺とナハト様ぐらいの小さなお茶会にしようとしたら、たまに手紙で話題になる第一王子が横槍を入れてきたらしい。
要約すると『お前には同年代の友人が少ない。もっと交流した方が良い』って感じで。
「グラ殿下は少しムカついてるみたいだけど、なんだろう……気のせいかあんまり第一王子に悪意は感じないんだよなぁ」
ゲームの方では悪役側だったけどあれは数年後の話だし、色々と変わってしまったこともある。
それにヒロインちゃんが第一王子と仲が良いって話も聞こえてくるからには、すでに悪役になるのはヒロインちゃんによって阻止されてる可能性もある。
グラ殿下の怒り方も、何かウザい兄を嫌がる弟っぽい辺り、ゲームより仲は良いのかも。
ゲームで第一王子がグラ殿下と仲が悪かった理由は全く思い出せないんだけどな。
「ぢゅ!」
余計なことを考えていたら、手紙の続きを読めとテーミアスから催促が来たので、俺は再び手紙の内容を噛み砕いて読み上げていく。
「えぇと、グラ殿下のお兄さんから提案があって、お茶会の規模が大きくなったらしくてな? ……ただの冒険者な俺は参加出来ない……あぁ、そうなって、そうなるのか」
一人で納得していたら、焦れて肩に登ってきたテーミアスから尻尾で頬を叩かれてしまった。
「ぢっ! ぢゅー!」
怒ってても可愛らしいもふもふをなだめながら、俺は文字を指でなぞりながら説明を再開する。
「ごめんごめん。ほら、さっきまた指名依頼って話が出てたろ? 俺が参加出来ないのは別にまた個人的にお茶会するから良いけど、ナハト様もお茶会に呼ばれてて、そのお茶会は皆専属従者を連れて来いって話になったんだってさ」
貴族って面倒だなと思いながらそこで一旦話を切ると、テーミアスは何か察したのか前足を俺の頬へ押しつけて盛んに話しかけてくる。
「ぴゃ? ぢゅ、ぢゅぢゅ?」
「そう。それで、俺に指名依頼だって。しかも、ナハト様の方は面白がって、ジルにやってもらう! って乗り気だってさ」
やるのか? と問うてくるテーミアスに、俺はへらっと笑って頷くと、主様に許可を得るために手紙を持って主様の部屋へ向かうのだった。
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従者とか言ってますが、ジルヴァラの中ではままごと遊びみたいなイメージです。




