260話目
しまっちゃう人外さん。
テーミアスはすっかり居着いてます。
「プリュイ、ありがと!」
主様を起こし終えた俺が朝食の場に着くと、そこにはすでにバッチリとご飯の用意がされていたので、俺はキッチンにいるプリュイへ聞こえるように声を張り上げてお礼を伝える。
そのまま俺用の朝ご飯が置かれた側に座って待っていると、身支度を整えた主様がやって来る。
相変わらず起きてしまえば行動は素早い主様だ。
「おはよ、主様」
俺は主様を見上げながら、先ほどしそこねた朝の挨拶をしたのだが、反応は芳しくない。
まだ少し眠いのかと内心首を傾げていると、テーミアスが何処からともなく飛んで来て、朝ご飯の催促をされたので、テーミアス用にとヨーグルトをかけなかったフルーツの皿を示す。
「今日はこれ。足りなければ追加してもらうから、遠慮なく言ってくれよ?」
「ぢゅ! ぢゅぢゅ」
礼儀正しくお礼といただきますをしたテーミアスは、テーブルに用意されているランチョンマットの敷かれたスペースに降り立つと、早速もぐもぐとカットされたフルーツを食べ始める。
その可愛らしい姿に俺が頬を緩めていると、隣に誰かが腰かけたことにより、ソファが揺れる。
誰かなんて言ってみたが、誰かなんて主様以外いないんだけどな。
プリュイは主様がいる時は俺の隣に腰かけたりしないから。
規格外な部分があろうとも、こういう所でプリュイはちゃんと魔法人形なんだよなぁとか少し寂しく思っていた俺は、いつの間にか隣に座った主様の膝に乗せられていた。
「いや、あの主様? 俺、自分で食べたいんだけど……」
好きな人達に甘やかされるのは正直嫌じゃないが、さすがに毎日はダメ人間になりそうなので、やんわりと拒否をしてみたのだが……。
「……おはようございます」
返ってきたのは否定などではなく、ぽやぽやした挨拶だ。
どうやらこれは拒否することを拒否するつもりらしい。
試しに降りようと少しジタバタしてみたが、俺の腰を掴んだ手は外れる気配はないので諦めるしか無さそうだ。
こうやって甘やかされるのも今のうちぐらいだろうから、堪能しておくべきだろうか。
そう開き直った俺は、テーミアスの呆れ切った視線を感じながらも、上機嫌にぽやぽやした主様から朝ご飯を食べさせてもらうのだった。
●
食べさせてもらったお礼にと主様へ朝ご飯を食べさせるという、とても効率の悪い朝ご飯を終えて、食後のまったりした時間を一人ソファで寛いで過ごしていると、玄関の呼び鈴が鳴る。
主様の結界が張られているこの家では、呼び鈴を鳴らせる時点で主様の許可を得た相手となるので、俺は特に警戒することもなく玄関へと向かう。
そのまま警戒することなく玄関の扉を開けようとした俺だったが、背後から伸びて来た触手に捕獲されて、その身柄は遅れてぽやぽやとやって来た主様へと手渡される。
俺と同じく食後でまったりしていたため出遅れたテーミアスもやって来て、俺の肩に着地すると耳元で危機感が足りないと体いっぱいで訴えた後、小さな手で耳を引っ張ってくる。
「わかった、わかったから! ごめんって」
地味に痛い攻撃に俺は堪らず謝罪をして、これ以上の追撃を避けるためお怒りモードでもふっとしてるテーミアスを腕に抱え、プリュイがまさに今開こうとしている扉を見やる。
ゆっくりと扉が開かれた扉の先にいたのは、緊張した面持ちでビシッとした立ち姿を披露しているエジリンさんだ。
立ち姿まで真面目だなぁと思いながら、俺は主様に抱えられたままエジリンさんへ笑いかける。
「おはようございます、エジリンさん」
「おはようございます、ジルヴァラくん、幻日様、プリュイさん」
俺の挨拶に型にはめたようなキチッとした挨拶を返してくれたエジリンさんは、もちろんきちんとプリュイにも挨拶してくれた。
エジリンさんの真面目さはとりあえず置いといて、そのエジリンさんが家を訪ねてきた理由がわからない俺は、ぽやぽやと「おはようございます」とだけ返して無言の主様を見つめる。
「ん……」
俺の視線に気付いてくれた主様は、無言のまま小さく頷き、俺の頬へ唇を何度か押しつけると、満足げにドヤッとする。
「え……えと、ありがと?」
意味がわからないが、どうだ? と言わんばかりの主様にひとまずお礼を言ってから、ビシッと立ったままのエジリンさんを見るしかない俺。
「ぢゅぢゅぢ、ぢゅーぢゅ、ぢゅ!」
見られたエジリンさんの方も困った顔になってしまい、どうしようかと思ったらテーミアスから思いがけず助け舟があった。
「そっか、エジリンさんは昨日、指名依頼の報酬の件で来てくれるって言ってたんだな?」
「ぢゅ!」
俺が寝てしまった後の会話を、テーミアスがきちんと覚えていてくれてて助かった。
「……その通りです。中で話をさせてもらっても構いませんか?」
「はい! ……主様、いいよな?」
返事をしてから、家主の許可を得てないことに気付いておずおずと主様を見ると、また無言で頷いた。
「お邪魔します」
主様が頷いたのを確認して屋内へと入って来たエジリンさんを応接室──ではなく相変わらずの暖炉前のソファへと通し、本日の用件である指名依頼の報酬の話が始まった。
俺はテーブルを挟んで向かい側に腰かけ……たかったけど、主様に抱えられたままだったので、そのまま主様の膝上の住人となっていた。
で、報酬の話なんだけど。
と言っても、あの依頼書に書かれていた額を支払います、と言われるだけだと思っていた俺は、示された金額に驚くことになる。
「……何か多くないですか?」
元から採集依頼にしては少し高めの報酬だったが、今俺の手元にある紙に書かれた報酬は元の報酬よりさらに多めになっており、思わず不審感を拭えずそう質問してしまっていた。
そんな俺に対して、エジリンさんは気にした様子もなく眼鏡を直しながら、報酬の額が書かれた書類の下の方──その枠の外を指で示す。
そこには書類に並んでいる字とは明らかに違う、良く言うとワイルドな文字が踊るように書き連ねられていて。
あまりのワイルドさに、俺は文字だと気付かずに見逃してしまっていたのだが、エジリンさんに指摘されてよくよく見てみるとそれは──、
『採集状態は全て最高。品質も一級品。報酬は上乗せすべき』
と報酬を上げるように指示するような文だった。
「エジリンさん、これって……」
驚いた俺が弾かれたように顔を上げてエジリンさんを見ると、エジリンさんは柔らかく微笑んで頷いた。
「ヌーベからですよ。これは彼からのジルヴァラくんの仕事に対する正当な評価です」
「そう、だったんですね。ありがとうございます」
動物達の手も借りてるが、採集に関しては俺自身の手で行ったことだし、こんなに手放しで誉められて、しかもそれが目に見える形になって返ってきた。
何とかエジリンさんにお礼を言い、俺は熱を持って赤くなっている気がする頬を手のひらで覆って、込み上げる嬉しさにえへへと笑う。
そのまま身悶えするように体を揺らしている俺を、エジリンさんは微笑ましげに見守ってくれていたのだが……。
「……減ります」
あまりに身悶えし過ぎて、何か減ると思われたらしく、俺は唐突にポツリと呟いた主様によってローブの中へとしまわれてしまうことになった。
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