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258話目

やはりただのオネエさんではありません。


感想ありがとうございます(*´∀`)独占欲大好物です!←

[視点変更]



「あんたは? どういう関係なんだよ」


 小走りで追いかけて、追いついた男の背中へ勢いのまま声をかけて追い抜くが、男は驚いた様子もなく立ち止まって小首を傾げてみせる。


「あら。アタシはあの子が大好きだと言ってくれる『お姉さん』よ」


 悪戯っぽく紡がれた答えは自信と余裕が感じられ、口調や答えの奇妙さも相まって思考が追いついてこない。

「お、ねえさん?」

「そうよ? いつも可愛らしい笑顔で『アシュレーお姉さん』って呼んでくれるの」

 可愛いでしょと笑う相手の見た目は完全に男なのだが、動きや言葉遣いには女性らしさがあり、違和感があるようでないような気もしてきて混乱する。

 しかも、聞き間違いではなければ『アシュレー』という名は俺でも聞き覚えがある。

 本業は装飾品の作成だが、その素材のためにドラゴンにすら戦いを挑めるA級冒険者。

 そして、その相棒は冒険者ギルドの副ギルドマスターを兼務しているA級冒険者だと聞いている。

 そんな大物な相手が後見になったことをスリジエが俺に話さなかった点にまた驚いていると、先ほどまでの柔らかな眼差しを消した相手が俺をじっと見ている。

 視線だけで弱い相手なら逃げていきそうな鋭い視線に、俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。

 俺が見知らぬ相手に嫉妬したように、向こうもスリジエと一緒にいた俺へ嫉妬してるのかと身構えていると、相手は唐突に「うふふふっ」と声を上げて笑い出す。


 ギョッとしている俺など気にせず、腹を抱えて楽しそうに楽しそうに笑う。


 しばらく笑い続けた相手は、スッと表情を削ぎ落としたような無表情になってひたりと俺を見て、また『嗤っ』た。

「馬鹿ねぇ。おぞましい勘違いをして嫉妬なんて止めてくれるかしら? アタシは確かに特例冒険者を迎えに来たけれど、今現在特例冒険者が一人しかいないと思ってるの?」

 口調は相変わらず女性的で柔らかく感じられる。だが、その声音は何処まで冷ややかで温度差が凄まじい。

「あ……スリジエの……最年少冒険者を卑怯な手で妨害した……」

 思わずそう呟いてしまったのは、以前スリジエが何度もそう文句を言っていたから。

 その発言が、どう考えても相手の怒りを買うのはわかりきっていたはずなのに、あまりにもスリジエが繰り返し悔しがるので、つい口から溢れてしまった。

「──それこそ馬鹿なことを言わないでくれるかしら? そちらのお猿さんみたいな子はともかく、うちの可愛い子はちゃんと『冒険者』してるわ。媚びたり、ゴネたりなんて一切せず真面目にね」

 ニコリと微笑みながらも触れたら切れそうな鋭さを秘めた相手に、棒立ちに近い状態の俺は「……すまない」としか言えなかった。

 俺の謝罪などどうでも良いのか、言いたいこと言い切ったらしい相手は、俺の脇を抜けて廊下を奥へと進んでいく。

 その横顔は楽しげで、これから『可愛い子』と言ってはばからないもう一人の特例冒険者を迎えに行くのが問わずともわかる。


 すれ違う瞬間、



「あの子に手を出したら──どうなるかわかってるな」



 そんな忠告をドスの効いた声で残して、もう一人の特例冒険者の後見とのほんの一時の邂逅は終了した。



 あんな後見がいるなら、もう一人の特例冒険者は相当甘やかされているんだろう。



 そっちこそスリジエを見習って独り立ちをさせるべきじゃないかと喉まで出かかった言葉は、ちらりとこちらへ向けられた流し目で押し込められてしまう。



 その場に立ち尽くす俺の耳に、元気よく何かを答えているスリジエの声が聞こえてくる。



「スリジエだって、冒険者として頑張っているんだぞ」



 今さらな反論は、自身の耳にも何だか弱々しく聞こえてしまい、俺は盛大に舌打ちしながら壁へ背中を預けて天井仰ぐのだった。

「あれ?」

 アシュレーお姉さんに抱えられて帰る途中、部屋を出て少し歩いた所で見覚えのある相手を見つけて俺は瞬きを繰り返す。

 壁に背中をつけて天井を仰いでいるのは、どう見てもエノテラだ。

 ボーッとしているようで、こちらには気付いていないし、ヒロインちゃんも近くには見当たらない。

 俺にアシュレーお姉さんが迎えに来てくれたように、ヒロインちゃんにはエノテラが迎えに来たんだなぁと思っていると、すぐ近くから舌打ちが聞こえた。

 ビクッとしてアシュレーお姉さんを仰ぎ見たが、そこにあったのはいつも通りの柔らかなオネエさんな笑顔だ。

 テーミアスかと横目で見たら、な訳無いだろ! との言葉と共にもふもふな尻尾で顔を叩かれた。

 痛くはなく、ただただくすぐったい。

 くすぐったさに声を上げて笑うと、その声が聞こえてしまったのかエノテラがこちらを見る。

 そして、あからさまにギクッという反応をしたので、俺は訝しんで首を傾げてから、あぁと納得する。

 そういえば、エノテラは我が家に不法侵入しかけて、主様から痛い目に遭わされているんだから、俺を見てそれを思い出したのだろう。

「おま……」

 何かを言いかけたエノテラは、そこではたと動きを止めて、俺の背後を見てさらに驚いている。

 振り返るとそこにはニコリと微笑むアシュレーお姉さん。

「アシュレーお姉さん、あの男の人のこと知ってるんですか?」

「いいえ、知らないわ。……あなたは知ってるのかしら?」

 あえて俺の名前を呼ばない辺り、アシュレーお姉さんは、もしかしたら以前エノテラが俺にしでかした件を知ってるのかも。

 って、それはそうか。

 アシュレーお姉さんの相棒は、副ギルドマスターのエジリンさんなんだし、俺の後見になった後に情報共有ぐらいするよな。

 そう考えると少し警戒してるのも仕方ないか。

 ここは俺が少しはフォローしとくべきかと、アシュレーお姉さんを振り返って意味なく手をわたわたさせながら俺の知ってるエノテラのことを話し始めたのだが……。

「えぇと、あの男の人は、もう一人の特例冒険者の女の子の後見してる冒険者さんだと。それで、前ちょっと間違ってうちの庭に入っちゃったりして、主様に……」

「そう──なら無視して構わないわね」

 サラッと遮られたせいで、一瞬言われた意味がわからなかった俺はしぱしぱと瞬きを繰り返すが、アシュレーお姉さんがすたすたと歩き出したところでハッとなる。

「それは、あの勘違いしてたみたいで、あの男の人はそこまで悪い冒険者じゃないと思うんです!」

 よし言い切ったとふんすと鼻息荒くアシュレーお姉さんを仰いだが、返ってきたのはこちらを見下ろす呆れ切った眼差しと、鼻を摘む長い指だ。

「あう……」

「変なのに情をかけちゃ駄目よ。それであなた……では効かないのね。もしかしたら、あなたの大切な存在が傷つけられるのかもしれないのよ?」

「はぁい……」

 アシュレーお姉さんの言葉に言い返せる根拠は俺にはないし、何より俺自身より『大切な存在』が傷つけられるのは嫌だから。

 俺は言い返すことなく良い子な返事をする。

 ここはゲームの世界とは違うんだから、エノテラはあの俺の推しだった『エノテラ』とは似て非なる存在だ。

 そう自分へ言い聞かせて、またエノテラを見てしまわないようにアシュレーお姉さんの服に顔を埋める。

 アシュレーお姉さんの服からは、主様とは違うけどいい匂いがして、無意識にくんくんと鼻を動かしてしまう。

「あらあら……」

 困ったようにそう呟くアシュレーお姉さんだったが、先ほどまで微妙にあった気がする冷たい雰囲気は霧散していて、俺の頬は安堵で緩む。

「いつものアシュレーお姉さんだ……」

 その後、長い足ですたすたと歩くアシュレーお姉さんに抱かれながら、俺はそんなことを呟いた気がする。

 別に明確に何かいつもと違った訳では無いが、何故かその時はそう感じたのだ。


「え?」


 アシュレーお姉さんが驚いたようにそんな声を洩らしていた気がするが、程良い疲れと安心感と安定感のある腕の中で揺られたせいで、俺の意識はそこまでしか残っていなかった。

[視点変更]



 奥から出るための扉を抜け、完全にあの男を視界外に追い出したアタシは、腕の中から聞こえた予想外の台詞に大きく目を見張る。

「え?」

 いつものアタシだと安心したように呟いたジルちゃんに、驚いて真意を問いたくてその顔を見たけれど、そこにあったのは無邪気な幼子の寝顔で。

「あらあら……」

 先ほどより甘さの滲んだ自覚のある声で、同じ言葉を繰り返したアタシはちらりとエジリンを見やる。

 それだけで気の利く相棒は外套を持ってきてくれたので、それで眠ってしまったジルちゃんを包んで無遠慮な視線から覆い隠す。

 いくら可愛くても、あまり見ないで欲しいものね。

「……報酬に関しては、お宅へ直接伺うとお伝えください」

 外套と共にエジリンからの伝言を受け取ったアタシは、外套越しにジルちゃんを撫でているエジリンに声を上げて笑ってしまう。

「うふふ。わかったわ」

 笑いながら頷いたら照れたように眼鏡を直しながら、意外と可愛い物好きな相棒は、先ほどアタシ達が出て来た扉の中へと消えていった。




 幸いにもジルちゃんが廊下にいた時は静かだったけれど、アタシの耳にはさっき聞こえていたお猿さんみたいに喚く声が、ずーーっとこびりついていた。




「あたしの採ってきた物に文句あるの? って。あるから引き止められてるのに、いつになった気付くのかしらねぇ」




 あのお猿さんみたいな声の主を待っているであろう若手有望株だったはずのA級冒険者を思い出して、アタシはほんの少しだけ抱いた同情の念でポツリと洩らす。

 そのほんの少しの同情心は、あのエノテラという名だったかした冒険者がジルちゃんにしたことを思い出してどうでも良くなり。

 アタシはすやすやと眠るジルちゃんの寝顔を見て癒やされてから、その身柄を世界で一番安全であろう自宅へ送り届けるために早足で歩き出すのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(*´∀`)同志がいるのは嬉しいですねぇ(*>_<*)


そして、またベッドへ送り届けられてしまうジルヴァラ。

別に体が弱いとか、体力の限界がわからないとかではなく、本人が思うより精神が肉体年齢に引っ張られているので、そのギャップでころんとなっちゃってるイメージです。


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