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257話目

今回はあれサイドの視点です。イライラさせたらすみません。

次話の後半までジルヴァラ出番ないですm(_ _)m

[視点変更]



「色々動き出しが早くなってるから、そろそろあたしに指名依頼が来る頃だと思ってたけど、このタイミングになるのね!」

 戸惑う俺の目の前で困ったわぁと言いながらも、手渡しで受け取った手紙を見ていたスリジエは、言葉と裏腹にキラキラとしていて興奮しているのを隠せていない。

 そのまま俺を引っ張るようにしてスリジエは家を飛び出した。

 その際、何とかスリジエが受け取った手紙を持ち出すことが出来た俺は、馬車に乗った後スリジエが自分の世界へ入った隙にその手紙を確認する。

 そこに書かれていたのは、少なくともスリジエの言っていた内容とかけ離れているように俺には感じられた。

 差出人は第一王子の名前になっていて、確かに『弟がお気に入りの冒険者に指名依頼を出したようだ』的なニュアンスの文言はあったが、それがスリジエのことだとは一言も書かれていない。

 そもそも……。


「あの短時間で、スリジエにこの手紙が読めたのか?」


 そんな疑問が思わず口をついて出た。

 普段から貴族令嬢らしからぬスリジエだが、お転婆な分おとなしく勉強というのは苦手らしく、読み書きが苦手なのだ。

 計算に関してはとても早いのに、不思議なものだ。

 それはそれとして、スリジエは読み書きに関しては俺より苦手で、読むのも書くのも時間がかかり、たまに面倒臭くなって俺や他の奴らに投げるほどだ。

 それがあの短時間でこの手紙を読み解く?

 もしかしなくても……。



「グラがあたしへ指名依頼なんて……」



 うふふと笑う姿は無邪気で愛らしいが……。

「これは、都合良く指名依頼って部分だけ読んだな」

 俺はポツリと呟いて、手紙を適当に折り畳んで懐へしまう。

 正論で説き伏せようとしても『こう』なったスリジエは、誰の話も聞こうとはしないのは経験でわかっている。

 以前はそんなところも可愛らしく感じていたのだが──。

 ポコリと浮かんできそうになった思いを心の奥深くへ沈め、俺はスリジエが暴走しないように見守るため、その手を掴むのだった。




 そうこうしてたどり着いた冒険者ギルドでは。

 やはりというか、指名依頼というのはスリジエ宛てではなかった。

 スリジエに甘かったはずの受付嬢にすらきっぱりと言われてしまい、スリジエはどんどん苛立っていく。

 最終的に『自分の方が先に素晴らしい物を納品して割り込めばいい』という考えに落ち着いたらしい。

 誉められた行いではないが、明確に禁止はされないだろう。

 何を採って納品するかなど、相当ヤバい物に手を出さない限りは大丈夫だ。



 それを依頼人が認めるかは別だが。



 以前はスリジエが騒いでいても、それに同調する冒険者もいたが、最近は彼らは顔も見なくなった。

 先日、一緒に討伐依頼を受け、ついでに採集依頼をこなしたとスリジエは言っていたが、何か仲違いするようなことがあったのかもしれない。

 スリジエが何も言わないってことは、大したことじゃないんだろう。

 そんなことを考えるより、今は目の前でプリプリと可愛らしく怒るスリジエをなだめる方が先だ。

「もう! なんであたしが来たのに逃げるのよ! 今日は餌を持ってきてあげてるのに!」

 そう言ったスリジエが持っているのは、カチカチになった上にカビが生えたパンだ。

 あれが餌? とスリジエの世間知らずなところを微笑ましく見ていたら、対処が遅れてしまった。

 呼びかける相手が出てこないことに焦れたスリジエは、あろうことかあちこちへ向けて攻撃魔法を撃ち込み始めたのだ。

 威力は抑えてはいるようだが、轟音と共に森のあちこちに穴が空き、木が倒れる。




 それでもスリジエが呼びかける相手──動物達は姿すら見せなかった。




「あんな奴らに頼らなくても、自力で見つけられるわ!」

 しばらく暴れて諦めたのか、負け惜しみのような台詞を吐いたスリジエは、ズカズカと森の奥へと進んでいく。

「スリジエ、わかっているだろうが、あまり大きな物音を……」

「わかってるわよ!」

 注意した俺の言葉はそれ以上の大声で遮られてしまい、俺はスリジエに気付かれないようため息を吐く。

 いつも通り俺が気を配るしかないか。

 そう思いながらスリジエについていく。

 しかし、間が悪いというか、今日に限ってゴブリンに見つかってしまった。

 しかも、複数。

 スリジエも戦えることには戦えるのだが、大技が多い上にやたらと怯えて使い物にならなくなることもある。

 今日はどうだ? と視界の端でスリジエを捉えると、複数のゴブリンを相手にする俺をしばらく見ていたが、


「あたし、先に行くね!」


とさっさと離れていってしまう。

 一瞬心配しかけたが、スリジエは魔法で気配を消すことも出来る。

 このゴブリンを片付けてから追いかけても大丈夫だろうと判断した俺は、目の前の敵に意識を移すのだった。




 ゴブリンを倒した俺がスリジエを探していると、わかりやすくスリジエの明るい声が聞こえてくる。

 上手く動物達と出会えたのかと微笑ましく思いながら、声の聞こえてきた方へ近寄っていくと、そこにはスリジエと──見覚えだけはある冒険者の男がいた。

 特徴的な形の剣を携え、いつも通りなスリジエの相手を穏やかに微笑んでこなしている。

 確か聖獣の森の方を活動拠点にしているAランクパーティーのメンバーだったはず。

 思いがけず有名な相手といたスリジエに驚くが、その男へ向けるスリジエの眼差しに腹の底がジリジリと焼けるような感覚に陥る。

 苛立ちかけた俺だったが、俺に気付いたスリジエが蕩けるような笑顔を向けてくれて、それだけでどうでもよくなってしまう。



「では、私はこれで……」



 穏やかに微笑んだ男は、俺を見てホッとした様子で去って行こうとするが、お人好しなスリジエがお礼もせず相手を帰すなんて出来る訳なく。



「お礼したいの! 街まで一緒に帰りましょ!」



と男の服を掴んで離さず、そのまま大声でお礼がしたいと繰り返したため、最終的に男の方が折れて俺達は三人で街へと帰ることになった。

 スリジエがこだわっていた指名依頼の方は、俺とはぐれている間に採集出来たらしい。

 そういえば、今さらな疑問なんだが、何故スリジエは指名依頼で求められている植物を知っていたんだろうか。

 指名依頼の依頼書は、指名された冒険者しか見ることが出来ないというのに。

 まぁ、スリジエにはたまにこういう不思議なところがある。

 本人に聞いても、何となくわかるの! というそれこそ不思議な答えしか返ってこないのだが。

 そういう所も含めて、天真爛漫で破天荒なのがスリジエの魅力だ。

 好奇心旺盛なので、今はもう一人の同行者である男に延々と話しかけている。

 男は可愛らしいスリジエに懐かれて照れているのか、困ったような表情で曖昧な言葉を返し続けている。

 途中、少し外しますと男が離れると、スリジエは俺の方へと体を寄せて来て小声で内緒話をするように囁いてくる。

「ねぇ、エノテラ。あの人の名前知ってる? 奥ゆかしいのか、名乗るほどの者ではって言うだけで教えてくれないの」

 名前呼んで驚かせてあげたいの! と悪戯っ子のような笑顔のスリジエに対して、俺はゆっくりと首を横に振るしか出来ない。

 俺が首を横に振った瞬間、スリジエの表情が歪んだ気がしたのは、俺の見間違いだろう。

 現にスリジエはそっかぁ残念と呟いて無邪気で明るい笑顔を浮かべているのだから。




 冒険者ギルドへ到着すると、最後まで名乗らなかった男は、スリジエが受付嬢に話しかけられた隙に「それでは仲間が待っていますので」と言って、奥から出て来たもう一人と共に去って行ってしまった。

 それに気付いたスリジエが受付嬢相手に、もう! と可愛らしく怒っているが受付嬢は慣れたもので動じた様子もない。

「ねぇ! ネペンテス、今のは……」

「スリジエ。後ろの人が待っているから、用件がないなら後にして欲しいんだけど」

 スリジエの質問を笑顔で流した受付嬢は、困った子ねと言いながら首を傾げてみせる。

 実際、スリジエの後ろには数人の冒険者が並んで、手続きを待っている。

 明らかに苛立ちが滲んでいる表情の冒険者に、俺は心が狭い奴らだと思いながらも余計な騒動を避けたいので、スリジエの手を引こうとした。

 その俺の手を避けたスリジエは、可愛らしく胸を反らしながら肩がけ鞄を開けて、カウンターの上にドサドサと採集してきた植物を出していく。

 スリジエの肩がけ鞄は、布製の何でもない鞄に見えるが、そこはお貴族様らしく付与魔法によって中が拡張されているのだ。

 おかげでカウンターの上にはそこそこ大きな山が出来上がり、受付嬢の頬が引きつる。

「うふふ。あたしには出来ないと思ってたんでしょ? 残念でした!」

 胸を反らせて、すごいでしょ! と言うスリジエに、冒険者ギルド内にいた冒険者達のこちらを見る目も──変わらない?

 それどころか、さらに呆れたような表情になり、鼻で笑われている気すらする。

 スリジエもそれに気付いたのか、頬を染めて強気でキッと周囲を睨んでいる。

「…………えー、出て行く前に突っ込めればよかったんだけどね、スリジエ。やっぱりというか、当たり前だけど指名依頼の内容を知らなかったのね」

 受付嬢だけは困った表情でスリジエを見てそんなことを口にしたので、俺はスリジエが指名依頼の内容を知っていた訳では無いとやっと気付く。

「え? 嘘! これであってるはずよ? 流行り病に効く薬草でしょ!?」

「……スリジエ。とりあえず奥へ行きましょ。そこで納品もしてもらうから」

 自信満々に自分の正しさを訴えるスリジエの姿に受付嬢も心を動かされたのか、スリジエはため息を吐いた受付嬢に奥へと促される。

「あ、そういうことね!」

 スリジエも受付嬢の態度から何かを察したのか、訳知り顔で頷いたのでゴネる心配はなさそうだ。

 なので、俺は奥へと向かうスリジエを見送って、この場で待つことにする。

 あの受付嬢も、他人の目があるとスリジエを甘やかし辛いだろうからな。




 物が物だけに確認にも時間がかかるのか、しばらく待ってもスリジエが出てくることも、俺が迎えに呼ばれることもない。

 手持ち無沙汰な俺は、一人でテーブルを占拠して注文した酒をちびちびと飲みながら、周囲の話へ耳をそばだてておく。

 ソロで活動することの多い俺には、こういう情報収集は重要な時間だ。

 そんな時だった。

「あれ……特例冒険者……」

 スリジエに関する単語が聞こえて来て、その声の主に意識を集中する。

「あぁ、そうそう。特例冒険者の後見になったらしい」

「で、そのガキのためにこうやって迎えに来いと呼び出されてんのか」

「だろうな」

「ハハハ! ガキの子守かよ!」

 そんな嘲笑混じりの言葉を吐いていたのは、いかにもな酔っぱらい姿の先輩冒険者二人だ。

 まぁ、年が先輩なだけで、俺の方が級は上だがな。

 そんな二人が嘲笑していたのは俺ではなく、別の人物だ。

 俺以外にもスリジエには後見がいるが、嘲笑されていたのはその人物でもなかった。

 そこにいたのは冒険者にしては細身のスラリとした体躯のやたらと目を惹く男だ。その体は先ほどスリジエといた男より細いが決して弱そうには見えない。

 飄々とした微笑みを浮かべて冒険者ギルドの中を歩いていく件の相手は、自身へ向けられた嘲笑の声が聞こえていたのか、ちらりとそちらへ目をやると、そっと口の端を上げて『嗤って』見せた。

 それだけであの酔っぱらい二人は、ぴたりと口を閉じてしまい、何か言い訳しているのかモゴモゴとしか喋らなくなる。

 そこにあったのは圧倒的な実力差だ。

 いかにもスリジエが好みそうな男は、真面目くさったギルド職員の男へ声をかけている。



 洩れ聞こえた会話に、俺は深く考えずその男の後を追っていた。




「うちのかわい子ちゃんを迎えに来た」



 笑顔でそう宣った男とスリジエの関係を問い質すために。

いつもありがとうございますm(_ _)m


書いてて、なんだかなぁとなっております。


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


誤字脱字報告も助かります! ありがとうございましたm(_ _)m


これからもよろしくお願いします(^^)

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