256話目
お迎え到着(*>_<*)ノ
「おー、ぼうずか。確認させてもらうぞ」
通された部屋でしばらく待った後、そんな挨拶と共に入って来たのは、前回顔見知りになったヌーベさんだ。
今日も素晴らしくムキムキだ。
もう本人が一狩りしてくればいいんじゃないかというレベルだ。
そんな素敵なムキムキ具合のヌーベさんが、背中を丸めて俺が採集して来た植物を確認しているのをじっと見つめていると、肩越しに背後からぬっとシムーンさんが顔を出してくる。
ちなみにどうでもいいことだが、室内に入った時点で抱っこ時間は終了させてもらい、自分の足で室内を移動している。
なので、シムーンさんはわざわざ身を屈めて俺の肩越しに顔を出して、俺と同じ目線でヌーベさんを見ている。
「ジルちゃんは、ヌーベさんみたいなムキムキ好きなの〜?」
あまりに近づき過ぎたせいで、頬がぴたりと触れ合っている状態での問いかけに、俺は顔を動かすのを諦めて答えることにする。
下手に反応して横向いたりとか、事故発生しそうだからな。
「好きというか、憧れです。俺も鍛えて筋肉つけたいです!」
「あら、駄目よ〜。ジルちゃんはあんまりムキムキになったら、可愛くないわ」
思わず力の入った俺の答えに、ゆるく……だがはっきりと否定を返してきたのは、シムーンさんが突然オネエに目覚めた──訳ではなく、
「あれ? アシュレーお姉さん?」
ニコリと微笑む生粋(?)のオネエなアシュレーお姉さんだった。
驚いてしぱしぱと瞬きを繰り返していると、長い足でつかつかと歩み寄って来た笑顔のアシュレーお姉さんによって抱き上げられる。
「アシュレーさん、こんにちは〜」
「こんにちは。シムーンだったかしら? 色々ご苦労様だったわねぇ。あとは、アタシがジルちゃんにつくわ」
ゆるい挨拶をしたシムーンさんに、柔らかく微笑んだアシュレーお姉さんが応えるという、何だかマイナスイオンでも出そうな空気感に俺がふわふわとしている間に、俺の付き添いはアシュレーお姉さんへと代わったらしい。
「またね〜、ジルちゃん」
「ありがとうございました、シムーンさん! ティエラさんにも、お礼を伝えてもらえますか?」
アシュレーお姉さんの腕の中からシムーンさんへティエラさんの分のお礼も伝えると、ゆるゆるとした笑顔ながら胸をどんと叩いて力強く頷いてくれた。
「んー、わかったよ〜。ジルちゃんも、お守りありがと、大事にするね〜」
バイバーイと最後までゆるく去って行ったシムーンさんを手を振って見送っていると、急に視界がぐるりと回って目の前にはキリッとした美人さんの心配顔が現れる。
「エジリンから、ジルちゃんがまたあの女の子に絡まれそうになったって聞いたわ。大丈夫? 怖くなかったかしら?」
「心配してくれてありがとう、アシュレーお姉さん。でも、シムーンさんとティエラさんがいてくれたから、上手く避けられたんです。だから、何ともないです」
へらっと笑って心配してくれたアシュレーお姉さんに答えると、困り顔でもう! と言われて頬をもみもみと揉まれてしまった。
そのままアシュレーお姉さんが満足するまで揉まれ──なんてことはなく、確認を終えたヌーベさんから呼ばれたので揉まれるのは中断されることになった。
「相変わらず状態もよく、採集する際の注意点もきちんと守られてるな」
首がぐりんぐりんしそうな勢いで撫でられながら、誉められた嬉しさに頬が緩んでしまう。
「これなら問題なく依頼人に渡せるな。
──向こうとは違って」
ぐりんぐりんしながらふへへと気の抜けた笑い声を洩らしていた俺は、ヌーベさんの言葉を聞き逃してしまい、
「え?」
と短い疑問の声と共に、ヌーベさんを見る。
「よくやったなと言っただけだ。報酬の方も色を付けてやれるぞ」
ぐりんぐりんする手を止めてくれたヌーベさんは、そう言ってニヤッと笑いながら俺が聞き逃してしまった言葉をもう一度繰り返してくれてから、俺の納品した植物を大事そうに抱えて部屋から出ていった。
あの太い腕で大切そうに優しく植物を抱える姿は、いわゆるギャップ萌え要素かもしれない。
そんなしょうもないことを考えながら後ろ姿すらムキムキなヌーベさんを見送り、思わず「ムキムキ……」と呟いてたら、肩の上で寛いでいたテーミアスに呆れられた。
「男ならあの筋肉には憧れるんだって」
「ぴゃあ」
言い訳じみたことを言ったら、テーミアスにはさらに呆れられ、真顔になったアシュレーお姉さんからは「筋肉はあれば良いってものじゃないの」と程良い筋肉の大切さの説明を受けることになった。
●
[視点変更]
夕暮れが迫る時間帯。
アクセサリーを作成するのに没頭していたアタシは、急ぎの手紙の到着を告げる羽ばたき音に気付いて手を止める。
「あら、エジリンから手紙なんて珍しいこと」
受け取った手紙の差出人を確認したアタシは、相棒からの手紙という嬉しい驚きに頬を緩める。
しかし、緩んでいた頬はすぐに引き攣り、アタシは深々とため息を吐くことになる。
「ちょうど作業も一区切りついたところだから、可愛いジルちゃんを補給しに行きましょ」
誰に聞かせる訳でもないが、これもジルちゃんが可愛いせいだ。
『ジルヴァラくんがもう一人の特例冒険者に絡まれそうなので、手が空いてるようなら迎えを頼みます』
相棒の几帳面さが滲んだ文字をもう一度眺めてから、アタシは鏡を見て身支度をする。
ジルちゃんに見せるなら、ジルちゃんが大好きだと言ってくれるキラキラの『アシュレーお姉さん』にならないといけない。
間違っても、あんな目をした『アシュレー』で会う訳には──。
そこまで考えて、アタシはふと身支度をする手を止めそうになる。
「ジルちゃんなら……」
いつもの笑顔で大丈夫だよって言ってくれそうなんて、そんな気分になってしまったから。
そんな都合の良い考えは、苦笑いで押し流したアタシはジルちゃんを迎えに行くために冒険者ギルドへ向かう。
アタシが到着した時、冒険者ギルド内は何ともいえない空気感だったので、すでにあの白い子はひと暴れしたのかもしれない。
ジルちゃんは大丈夫かしらと思いながら、アタシはエジリンからの手紙に書いてあった通りに奥の扉へと向かって歩き出す。
「アシュレーさん、お疲れ様です」
すっかり改心──というか、平常運転になったというネペンテスの挨拶に微笑んで返し、奥へと向かったアタシはそこで一人の青年と出会う。
「あんたは? どういう関係なんだよ」
嫉妬に塗れた視線で睨みつけてくる可愛い青年──というには少し幼さの見える相手へアタシは微笑んで見せる。
「あら。アタシはあの子が大好きだと言ってくれる『お姉さん』よ」
そう自信満々に付け足して。
いつもありがとうございますm(_ _)m
ここから数話、ジルヴァラ外視点となり、ジルヴァラの出番無い予定です。
まとめてあげるか、ぽちぽち上げていくかは未定です。
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
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