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255話目

シムーンさん視点スタートです。

[視点変更]




「…………うわぁ、思ったよりイかれてるな〜」




 やたらと声の通る少女のおかげで、少し離れているのに会話はほぼ筒抜けだ。

 ティエラの喋った言葉はほとんど聞こえてないけど、付き合いの長さからどんな顔でどんなことを言ってるかぼくなら想像は容易い。

「あっ」

 しっかりと抱えた小さな存在から、心配そうにそんな声が聞こえたがティエラに限って心配するまでもない。

 高速で飛んで来た厄介な虫は、ぐしゃりと無惨な姿となって地面に落ちる。

「あれをあんなに簡単に斬り捨てるなんて……」

 そう小声で呟いてきらきらとした目でティエラを見るジルちゃんは可愛かったので、後できちんとティエラにも教えてあげよう。

 森育ちのジルちゃんは、あの少女とは違ってティエラが斬り捨てた虫のことを知っていたらしく、虫の襲撃にはあまり驚いていない。

 あの少女があの虫のことを知らなかったことには、少し驚いてはいたみたいだけど。

 まぁ、あの騒がしさで今までよくあの虫に襲われなかったとか、ちょっと不思議だよねぇ。

 たぶん『エノテラ』とかいう冒険者が何とかしてあげてたんだろう。

 あの少女には守られていたなんて自覚──いやたぶん、自分は守られて当然だ、そう考えているんだろう。



「あたしを愛さないなんておかしいもの」



 ほーら、やっぱり。


 ティエラは一瞬だけこちらを見て、少女を同行者に引き渡すために連れて去って行った。

 手を繋ごうとする少女の手を避けたティエラの手がさり気なく触れたのは、さっきジルちゃんがくれたアクセサリーだろう。

 ぼくら全員分を頼んで作ってもらったそれを、いつでも渡せるようにと持ち歩いてたらしい。

 エルデとルフトに渡す時には、お守りです! と笑顔で渡してくれたジルちゃんは可愛かったと自慢しよう。

 それにしても、穏やかで滅多に怒らないぐらい心の広いティエラでも、さすがにあの少女の相手は骨が折れるみたいだ。

 ま、ぼくなら、突っ走って来た瞬間、すれ違いざまに──。



「こう……思い切り……」



 脳内で想像した少女を地面に転がしていると、思わず心の声が洩れてしまったのか、少女と去って行くティエラを心配そうに見送っていたジルちゃんから不思議そうな眼差しを向けられてしまう。

「んふ、何でもないよ〜? ぼくらはぼくらで残りの採集を済ませちゃおっか〜」

「……そうですね」

 ふにふにと頬を揉みながら提案すると、ジルちゃんは少しためらいながらも頷いて、小声で肩の上にいるテーミアスへ話しかけている。

「そう……うん、頼めるか? そっか、ありがと」

「ぢゅぢゅー、ぢゅ、ぢゅ!」

「あはは、無理はするなよ?」

 相変わらず普通に会話している。

 誰もジルちゃんに指摘してないからジルちゃんは気にもしてないみたいだけど、テイマーと呼ばれる職業の人間でも動物やモンスターと話せるなんて聞いたことない。

 動物と話せるようになった! みたいに驚いてはいなかったから、動物達と話せるのはもともとジルちゃんが持っていた能力だろう。

 そういえば森で見守っていた時も、動物達と普通に話しているように見えていたなぁと思い出しながら、ジルちゃんの後ろをついていく。

 いやぁでも、小さい子がもふもふに囲まれて移動している姿は、相変わらず可愛いの一言だ。

 ジルちゃんから離れないように後を追いながら、ぼくはその可愛らしい光景をにまにまと見守る。

 ジルちゃんが気を使ってるのか、動物達が避けてるのかはわからないが、お互いがぶつかるなんて事故が起きることなく目的地へとたどり着き、ティエラは無事にあの少女を同行者へ引き渡せたのか再度の来襲は起こらなかった。




 ──森の中では、ね。

 ヒロインちゃんの襲撃はあったが、テーミアスとティエラさんのおかげで無事に採集は続けられ、依頼にあった分は集めることが出来た。

「ティエラさん、戻って来なかったですね」

 行きとは違ってシムーンさんと二人になった帰り道。

 俺はシムーンさんの手を握りながら、そうポツリと呟いた。

 ティエラさん、ヒロインちゃんの魅力にヤられて離れ難くなっちゃったのかなとちらちらと森の方を見ていると、シムーンさんからひょいと抱え上げられてしまった。

「あ、ごめんなさい! ちゃんと歩きますから……」

「んーん! ジルちゃんが寂しそうだったから抱っこしただけ〜」

 歩調が緩まったせいかと反射的に謝った俺に、シムーンさんはゆるゆるとしたえへへという笑い声を上げて首を横に振ると、抱き上げた俺をあやすように軽く揺する。

「……ありがとうございます」

 色々見抜かれていた照れ臭さに小声でお礼を言うと、はうっとなったシムーンさんから可愛い〜と間延びした応えと共にうりうりと頬擦りをされる。

 俺に頬擦りする間もシムーンさんは器用に歩き続けてるので、すれ違う人の中にはこちらを二度見している人もいるが、シムーンさんは全く気にしていない。

 結局、そのまま冒険者ギルドまで抱っこの状態でたどり着いた俺は、そのまま納品する流れとなった。

 建物の中へ入った瞬間、笑顔のネペンテスさんと目が合ったので、ネペンテスさんの所へ向かって……もらった。俺を抱えたシムーンさんに頼んで。

「おかえりなさい、ジルヴァラくん。……あの後、大丈夫だった?」

 明るい笑顔で出迎えてくれたネペンテスさんだったが、言葉の後半は声をひそめると周囲を窺いながら心配そうに確認される。

「ただいま戻りました。……えぇと、俺は大丈夫です!」

 絡まれる前にテーミアスのおかげで隠れられたし、本人はティエラさんが連れてってくれたから実害はほぼゼロだからな。

「ジルちゃんは、あれは大丈夫って言わないよ〜?」

「ぢゅっ!」

 ドヤッとして答えたら、苦笑いしたシムーンさんとシムーンさんに同調して「その通り!」と答えたテーミアスに突っ込まれてしまった。

「ごめんなさい、ジルヴァラくん。あたしが最初甘やかしちゃったせいよね。何とか話し合おうとはしてるんだけど……」

 シムーンさんとテーミアスによって大丈夫じゃなかったと判定され、それを聞いたネペンテスさんの口からは深いため息が洩れる。

 遠くから「憂えてるネペンテスちゃん可愛い!」とかいう声も聞こえてるが、そっちは気にしないで良いだろう。

 あれは、ただの筋金入りネペンテスさんファンだ。

 ネペンテスさんがヒロインちゃんにぞっこんで少しおかしかった時期も変わらずネペンテスさんのファンで、今ももちろんネペンテスさんファンをして応援している人達だから害は無い。



 このままここで納品する流れかと思ったら、奥からエジリンさんが出て来て俺達は奥へと通される。

 納品先が王族だからという配慮かと思ったのだが──。



「そちらのパーティーメンバーのティエラさんから取り急ぎ連絡があり、そろそろあの少女が冒険者ギルドへ到着しそうなので……」



とのことからの配慮だったようだ。



「あー。あの勢いだと絶対『あたしの方が品質が良いに決まってるでしょ!』とか絡んできそうだもんね〜」

 相変わらずのゆるい口調と雰囲気なシムーンさんだが、一瞬滲んだひやりとした空気に、俺は思わず瞬きを繰り返してシムーンさんの顔をじっと見てしまう。

「なぁに〜? ぼくの顔に見惚れちゃったかな〜」

 案内された部屋のソファへ腰かけながらそう言ってあははと笑う姿は、見慣れたゆるいイケメンさんだ。



「あ、今のは冗談だから、頷かないでね〜? ぼく、幻日様に殺されたくないし〜」



 否定するか頷くか悩んでいたら、察してくれた本人が冗談宣言してくれたので、俺はへらっと笑って胸を撫で下ろすのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ネペンテスさん、すっかり普通の受付嬢さん。たぶん、ジルヴァラがあげたアクセサリーをきちんと着けてくれてるのでしょう。


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)

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