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26話目

いつもありがとうございますm(_ _)m


あと誤字報告もありがとうございます!


あの機能、とても便利ですね(ノ´∀`*)あと、自分でも全力で突っ込みたくなる誤字があってビックリしてます。


主様、暴走回。

 いつの間にか眠っていたらしい俺が覚醒したのは、寝過ぎたような頭の痛さと、遠くの方で争うような……というか誰かをお説教しているような声が聞こえたからだ。

 目を開けて見えた室内の暗さに驚いた俺は、窓の外へ視線をやって思わず目をかっ開く。

「……ウェッ!?」

 次に俺から飛び出したのは上擦った声で、慌てて寝ていたベッドから降りようとして、くらくらと目眩に似た感覚に襲われてベッドへ座り込む。

「あれ!? 俺寝過ごした? 起きたと思ったのは夢だったってやつか?」

 混乱するあまり何度確認しても窓の外は朝ではなく夕暮れ時で、俺が寝ていたのは昨夜お邪魔した主様のベッドだ。

「うわぁ、あれだけ自信満々に言っといて寝坊とか……」

 自己嫌悪過ぎて項垂れ、なんだったらちょっと泣きそうになっていると、なんの前触れもなく部屋の扉が開く。

「ごめん、主様! 俺、寝過ごし……た、って、あれ、ドリドル先生?」

 ベッドの上で勢いよく頭を下げすぎて転がってしまった俺の目に映ったのは、想像していた夕陽色ではなく、険しい顔をしたドリドル先生だ。

 扉を開けて険しい顔をしていたドリドル先生はベッドの上の俺と目が合うと、大きく目を見張って勢いよく駆け込んでくる。あまりの勢いに、俺がちょっと逃げ腰になった程だ。

「ジルヴァラ! 具合は大丈夫ですか? 記憶が混濁したりは?」

「具合? 記憶?」

 肩を掴まれて矢継ぎ早に問われ、俺は夢だと思っていた先ほどのやり取りを思い出す。

「もしかして、俺、主様と話してて倒れたのか? 別に具合悪いとかなかったんだけど……心配かけてごめん、ドリドル先生」

 どうやら一度起きたのは夢ではなく現実だったことにちょっとだけ安心する。

「フシロ団長にも謝らないとな。……あれ? そう言えば、主様は?」

 こういう時、常に側にいてくれた主様の姿が見えず、きょろきょろとしながら俺が尋ねると、ドリドル先生の表情が怒りを堪えるように歪む。

「……団長に説教されてますよ」

 ドリドル先生の表情の意味も、言葉の意味もわからず、俺は座り込んだベッドの上で首を傾げることになった。

「さて、どうしてこんなことをしたか、説明してみろ」

 怒りを抑え、低く囁いた俺の目の前に腰かけているのは、幻日というふざけた二つ名で呼ばれる青年だった。



 ──時間は少し遡り、十の鐘が鳴る中、俺は約束通りジルヴァラを迎えに馬車であいつの屋敷へ乗りつけていた。

 呼び鈴を鳴らしたが誰も出て来ない。

 昨夜ならともかく、今日はジルヴァラがあの人懐こい笑顔で迎えてくれるだろうと思っていた俺は、少しばかり肩透かし食らった気分で扉を開ける。

「おーい、ジルヴァラ、迎えに来たぞ?」

 ゆったりとした足取りで、勝手知ったる他人の家の中を進んでいくが、ジルヴァラの天真爛漫な明るく弾むような声は、いつまで経っても聞こえない。

「これは、寝過ごしたな」

 自信満々だったジルヴァラを思い出した俺は、思わず、くくく、と声に出して笑いながら、廊下を進んでいく。

「おーい、起きろー!」

 かなり大声を出したが、ジルヴァラの声もあいつからの反応もない。

「……さすがにおかしいな」

 いくらなんでもあいつが起きないのはあり得ない。

 ジルヴァラはあいつを寝汚いと思っているようだったが、実際は真逆だ。

 寝ているように見えても眠りは浅く、ほんの微かな衣擦れの音ですら目を覚ますほどだ。

 そんなあいつが、俺の声に気付かないなんてある訳がない。

「おい! 何処だ!」

 一部屋一部屋開けていって、やっとその姿を見つけられたのは、家の中、一番奥にあるあいつの寝室だ。

 普段俺が入ることはない部屋の中、ベッドに腰かけたあいつは、目を閉じているジルヴァラを抱いていつも通りふわふわと微笑んでいた。

「やはり寝坊してたのか」

 自分の不安が思い過ごしだったのか安堵して近寄ろうとした俺は、途端に感じたピリッという肌の感覚に足を止める。そこにあるのは、あいつが引いた、これ以上近づくなという目に見えない境界線だ。

「どういうつもりだ」

 低く唸るように恫喝した俺は、違和感に気付いてしまう。

 ジルヴァラが目を閉じたまま全く動かないのだ。

 本人も寝起きはいいと言ってたほどだ。そこまで眠りが深いタイプとは思えないし、何より俺がここまで大声を出してもピクリともしない。

「……ジルヴァラに何をした?」

「眠らせただけです」

「はァ!?」

 何でもないことのように答えたあいつに思わずドスの効いた声を発して、俺はあいつが引いた目に見えない境界線を無視してドカドカと足音も荒く詰め寄る。

 破る瞬間、多少の痛みは襲ってきたが、本気の拒絶ではなかったらしく、俺は何事もなくあいつの側まで近寄れていた。

「……確かに、眠ってるだけのようだが」

 俺はその場へ膝をつき、あいつの腕の中のジルヴァラの様子を窺う。寝息は微かだが、寝顔は穏やかだ。だが、どう見ても様子がおかしい。

「ジルヴァラ! 起きろ、ジルヴァラ!」

 大声で呼びかけても、全く反応する気配はない。死んだように眠るという言葉があるが、まさにその言葉通りだ。

 ジルヴァラを抱えるあいつを見るが、見た目だけはいつも通りで、実際は眠るジルヴァラ以外何も見ていない。

「ちっ! ドリドルを呼んでくる! おとなしく待っていろ!」

 下手すればこのままジルヴァラを抱えて遁走しそうな相手へ釘を刺し、俺は待たせてあった馬車へと駆け出し、限界ぎりぎりまで飛ばさせ、騎士団本部からドリドルを半ば連れ去ってくる勢いで連れて来た。

「早速、どうも!」

 ここまで来る途中で経緯は説明してあったため、挨拶とは思えない喧嘩腰な挨拶をしたドリドルは、つかつかと歩み寄って俺でさえ躊躇う、あいつからジルヴァラを奪うという行動を迷いなく行う。

「邪魔です、少し向こうへ行っててください」

 さらに、ジルヴァラから離れようとしないあいつを邪険に追い払うドリドルには、それこそもうジルヴァラしか見えていないようだ。

「おい、お前はこっちだ」

 ジルヴァラを傷つけないという点ではドリドルを信頼しているのか、あいつは素直に手招きする俺の側へと寄ってくる。そのまま連れ立って扉をくぐり、書斎の方へと移動する。

 扉を閉めた俺は、寝室へ続く扉を見つめているあいつを半ば無理矢理ソファへ座らせ、その前で腕組みをして仁王立ちする。


 そして、冒頭の会話へ戻る。



「さて、どうしてこんなことをしたか、説明してみろ」

 あ゛? とガラ悪くあいつを問い質すと、返ってきたのは予想外の言葉だ。


「ロコが、あなたと行こうとしていたのを止めたくて、どうすればいいかわからなくて……」


 突然の奇行に自分が関係していた事にも驚いたが、まず言われた内容が理解出来ず、俺は髪をガシガシと掻き乱す。

「いや、まず普通に言葉で止めろ。そもそも昨日の時点で、俺はジルヴァラと約束してただろ。それが嫌だったなら、その場で言えばよかったんだ。それが、どうして今日になってジルヴァラを眠らせて行かせないようにするなんてことをした?」

 このわからず屋が、と内心で罵りつつ、俺は当たり前過ぎる説教とすら言えない説教を渋面で行うが、あいつの心には全く響かなかったようで、返ってきたのはいつも通りの微笑みだ。

「行かせたら、ロコはもう私の所へなど帰って来ないでしょう?」

「なんでそういう結論になった? ジルヴァラはただ服を取りに来るだけだ」

 こいつこんな面倒な性格してたか? と頭痛を堪えるように額を押さえた俺は、思わず助けを求めるように寝室へ続く扉を見やる。

 そんな俺の求めが聞こえた訳ではないだろうが、まるで見計らっていたように扉が開いて険しい顔をしたドリドルが姿を現す。

「ドリドル、ジルヴァラの具合は?」

「ただ眠っているだけのようです。自然に目を覚ますの待ってみましょう。もう少し待っても起きないようなら、外的刺激を与えてみますが……」

 俺の問いかけにドリドルは険しい顔のまま診断の結果を説明し、何処となくソワソワしているあいつを睨んでいる。

「で、何故このような蛮行へ走ったんですか、この方は」

 ここまで毒のある『この方』は生まれて初めて聞いたかもしれない。そんな事を思考の隅へ追いやって、俺は肩を竦めて返す。

「息子のお下がりの服をジルヴァラへあげる約束をしていて迎えに来たんだが……」

「それで団長はいらしてたんですね。それがどうなってジルヴァラを眠らせる展開になるんでしょう?」

「いや、俺も理解出来ないんだが、こいつはジルヴァラがそのまま自分の元へ帰って来る気がないと思ってるらしい」



「…………はァ!?」



 言葉を理解するのに数秒かかったのか、真顔で少し固まった後、俺も負けそうなドスの効きまくった地を這うような声がドリドルの口から発せられた。

 その反応になる気持ちは、俺にもよくわかる。

「誰が、何ですって!? 私はきちんとあなたへ説明しましたよね? ジルヴァラはあなたが好きで慕っていると!」

 そんな話をしてたのか、とドリドルへ場所を譲ってすっかり傍観者になった俺は、ドリドルからお説教を受けているあいつの横顔を見つめる。

「ですが……今朝、ロコは私へ何か言おうとしていました」

「それがどうして別れの挨拶的なものだと思うんですか!? ジルヴァラがそうだと言ったんですか!?」

 ドリドルは本当にジルヴァラが関係するとあいつへ容赦がなくなるな、とも思ったが、ジルヴァラへした事を考えると当然かと思い直す。

 俺が来なければ、あいつは意識のないジルヴァラを抱えて何処かへ行くつもりだったのかもしれない。

 俺がそんな事を考えている間も、ドリドルは幼子へ言い聞かせるように、というか恋愛相談でもしてるかのようにお説教を続けている。

「あなたは、まずジルヴァラへきちんと言葉で尋ねなさい。問答無用で眠らせて、一体何になるんです? あなたは人形のように眠るジルヴァラと一緒にいれば満足だとでも?」

 あいつも思うところはあるのか、おとなしくドリドルの言葉に耳を傾けているようだ。

 あとは、何事もなくジルヴァラが目を覚ましてくれればいいが、と寝室の方へ視線を向けると、扉の向こうから「ウェッ」という妙な声が聞こえる。

 直ぐ様反応したドリドルとあいつだが、俺はドリドルからの目線を受けて、あいつの行く手を遮って大きく首を振る。

「少し待て。おまえの魔法のせいで混乱している可能性もある。ドリドルに任せておけば大丈夫だ」

 正直、俺も様子を見に行きたかったが、俺が行けば当然これもついてくるだろう。

 その時、万が一ジルヴァラが魔法で眠らされたことに気付いていて、少しでも拒絶するような反応を示したら?

 自分でした想像で恐ろしくなり、俺は誤魔化すため、ひとまずドリドルのお説教の続きをするように、あいつへきちんと言葉で示すことにした。

「というわけなのですが、ジルヴァラ心当たりはありますか?」

 一通り俺が眠っていた理由と、その間に起きたことを説明されたが、俺は本気で意味がわからず、完全に思考が停止状態だ。

「へ?」

 かろうじて間の抜けた声を洩らし、ドリドル先生を見るが、その表情は真剣そのもので嘘では無いらしい。

 まぁ、そもそも嘘だとしても『俺がどこか行くなんて嫌だから眠らせてみた』なんて、意味がわからなすぎる。

「……えー、もしかして、あのせい?」

 混乱の中、やっと思い至ったのは、ちゃんとここに住ませてと口にして頼もうとしていた、ちょっと小っ恥ずかしい記憶だ。

「何か心当たりあるんですか?」

「たぶん? 眠らされる直前に、ちゃんと主様に、ここに住ませてくださいって頼んでないなーって思ってさ。それで、ちょっと照れ臭いけど、きちんと口に出してお願いしようとしてたんだよ。で、言ったか言わないかぐらいで眠っちゃった気がする」

 自分で言ってて恥ずかしくなり、バフバフと抱え込んだ枕を照れ隠しに叩きながら説明すると、ドリドル先生はしばらく黙った後、長々とため息を吐いた。

「成り行きというか、何となく住ませてもらう感じになったけど、俺はちゃんとしたかったんだから、仕方ないだろ」

 拗ねたように呟くと、ハッとしたような顔でこちらへ向いたドリドル先生が、柔らかく微笑んで謝罪しながら頭を撫でてくれる。

「すみません、あなたへ呆れた訳ではなく、あの方へ呆れただけです。……どうせ聞いてるんでしょう? さっさと入ってきなさい」

 ドリドル先生の言葉の後半は扉の方へ向けられていて、それに応えるようにそっと扉が開いて主様とフシロ団長が顔を出す。

「あ! フシロ団長、ごめん! なんか主様の魔法で眠っちゃったみたいでさ。約束してたのに……」

「ジルヴァラ、そうじゃないでしょう……」

 主様に文句言わないととか思ってたはずなのに、フシロ団長の顔を見た瞬間全て吹っ飛び、先ほどの『遅刻を謝らないと!』という前世で染みついてた俺の社会人的習性が出てしまったようだ。

 頭を下げた体勢で、やっちまった感に襲われていると、ドリドル先生から力なく突っ込まれ、フシロ団長からは苦笑いを向けられ、俺は下げていた頭を戻して先ほどから何も喋らない主様を見る。

「主様、いくら俺がフシロ団長んとこ行くのが気に食わないからって、問答無用で眠らせるなよ。そう言ってくれたなら、フシロ団長に頼んで、服を持ってきてもらうことにしたのに」

 俺は腰に手を宛て、精一杯怒ってますアピールをして、主様を睨む。


「おい、ドリドル、きちんと話したんだよな?」

「ええ。ちゃんと理解してくれてたと思うんですが……」


 少し離れたところで、フシロ団長とドリドル先生が何か小声で話し合って、ちらちらと俺を見ている。

 失礼だな、ちゃんとわかってる。



 主様は意外と俺を好きだって事だよな!



 自分の思考にニヤけていると、無言で近寄って来た主様が、俺の前の床で膝をついて見上げてくる。いわゆる跪くという体勢だ。

 俺はベッドに座っているので、主様が俺を見上げているという珍しい光景が広がる。

 夕陽の差す部屋の中、ぽやぽや微笑む夕陽色の髪をした美人。

 思わず見惚れていると、主様はまだ無言でじっと俺を見つめている。


「ロコは私が好きなんですか?」


「え? うん、そうだけど……」


 何を言われるかと思ったら、今さらなうえ当たり前過ぎる質問で正直かなり肩透かしを食らった気分で大きく頷くと、主様の手が俺の頬へ伸びてくる。

 ふに、と感触を確かめるように俺の頬を押した主様は、ベッドへ空いてる方の手を突いて、グイッと俺の方へ身を乗り出す。

 鼻先が触れ合いそうなほど近くなった主様の顔は、こんなに間近で見ても非の打ち所がない美しさだ。

 また見惚れていると、主様がいつもとは違う微笑みを浮かべてじっと俺の目を覗き込んでくる。




「私が人ではないとしても?」



「おう」



 一瞬の躊躇いもなく普通に即頷いたら、主様が目を見張って固まったので、なんかちょっと申し訳なくなった。

ついに主様の正体判明!? まぁ、もともと隠してないですけど。


そして、そろそろヒロインちゃんが出てきそうで、タグからヒロイン不在消そうか悩みつつ、出したら消します←


そして、この話のヒロインちゃんは、まぁ、ご想像通りの子が来ると思います(`・ω・´)ゞ

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