251話目
一応ショタ◯ンは伏せ字にしておきました。
「主様は読んでないんだよな?」
主様が盗み読みするなんて思ってないが、念の為訊ねてみると主様は玉子焼きをもぐもぐとしながら無言で頷いて、俺の手にしている手紙を覗き込んで来る。
「……んー、指名依頼って言っても、薬草を集めてくれってお願いか」
俺としては指名依頼なんだから、ドラゴン倒してくれ〜みたいなのを期待してたのだが、そんな指名依頼なら来るのは主様宛てだな、間違いなく。
「そういえば、配達の仕事でも指名されたこともあるし、そこまで珍しいことじゃないのか」
薬草とかの採集に関してなら、俺はその辺の動物達から手伝ってもらえるから、駆け出し冒険者より得意と言ってもいいかもしれない。
採る時の注意点とかは、先輩達からきちんと聞いてるから、品質でも負けない自信はある。
他の駆け出し冒険者達の採集した薬草を見せてもらったことがあるけど、かなり雑な感じで採ってたからな。
そういう点も含めてのグラ殿下からの指名依頼だとしたら、努力が認められたみたいで嬉しい。
「受けるんですか?」
結局プリュイ作のおにぎりもほとんど主様が食べてしまったが、俺の顔を覗き込んでぽやぽやしている主様のお腹は食べる前と変わっていない。
脱いだらすごいな筋肉で押さえられてるからか、それとも主様の胃はまさに異次元なのか不明だが、ちょっと気になってしまい、
「おう。雪が積もってると面倒そうだけど、必要としてる人がいるって言うなら力になりたいからな」
と答えながら、こっそりと主様の下腹部辺りを撫でてみる。
引き締まっていて、ぷにぷにしてるなんてことは当然なく……あれだけ食べたのに全く膨らんでいる気配はない。
どうしても気になるので、こっそりと撫で回していたのだがさすがにバレてしまい、開き直って気になっていたことを主様に直接聞いてみた結果──。
逆に俺のお腹に興味を抱いた主様から、食後のお腹を撫で回されることになってしまった。
「もう終わりっ!」
お腹を撫で回される何とも言えない感覚に、俺は捲くり上げられていた服を戻してお腹を守るように腕で隠しながら主様の手から逃れる。
ソファに腰かけてる主様と……途中参戦してきたプリュイから数歩離れて、キッと睨みつけると、二人は揃ってぽやぽやと微笑んで手をわきわきさせて俺を見ている。
「……残念です」
「……残念デス」
こんなところで気の合う様子を見せる主従に、俺は一層お腹を守る腕にぎゅっと力を込める。
「ぢゅっ! ぢゅっ! ぢゅーっ!」
心配してくれていたテーミアスも、俺の肩の上でもふっと膨らみながら二人へ向けて威嚇をしている。
テーミアスから見て、俺がいじめられている判定だったようだ。
二人への罵倒のバリエーションがもふもふな小動物とは思えない。
「俺のために怒ってくれてありがと。でも、いじめられてた訳じゃないから……うん、変態とかショタ○ンとかは止めてあげてくれ」
変態までは何とかわかるけど、何でテーミアスから『ショタ◯ン』なんて罵倒出て来てるんだろうなぁと思いながら、もふっとして威嚇しているテーミアスを捕まえて両手でもみもみしてもふって落ち着かせる。
「……ぴゃあ」
しばらくもみもみしてるとやっと怒りが収まったのか、テーミアスが可愛らしく鳴いて心配そうに俺を見て、尻尾で俺の腕を叩いてくる。
「もう平気だから。ありがと」
へらっと笑ってもう一度お礼を言うと、テーミアスは照れ隠しするように俺の手の上で毛繕いをし始める。
「俺はこれから冒険者ギルドへ顔を出して、森へ行こうかと思うけど、お前はどうする? 外は寒いから家で待ってるか?」
そんな質問をしてから、元々森に住んでいた相手にする質問じゃなかったと俺が苦笑いするのと、少し不機嫌そうになったテーミアスが尻尾で俺の手を叩くのは同時だった。
「ぢゅっ!」
「そっか、ありがと。手伝ってくれるなら心強いよ」
へらっと笑ってテーミアスの頭を指先で撫でると、当然だろと男前な答えが返って来て、俺はさらに笑みを深める。
「じゃあ、主様、プリュイ、俺出かけるからな?」
またお腹を触られたら嫌なので、俺はこちらをじっと見ている主従と微妙に距離をとった状態で宣言して、出かける準備のため自室へと向かう。
「ジル、オ弁当ハ?」
「プリュイの握ってくれたおにぎりがまだあるから、それを持って行くから大丈夫だよ」
少し離れたままてちてちと付いてきて世話を焼こうとするプリュイに、俺は軽く肩を竦めて答える。
「そうデスか」
「そんなに遅くはならないと思うからさ」
心配そうにふるふるとしているプリュイに、俺はへらっと笑って頷いてみせて出かける準備を終えると、テーミアスを肩に乗せて冒険者ギルドへ向けて出発した。
●
で、一人で冒険者ギルドへ着くまでは順調だったのだが──。
「ちょーっと、待った〜」
冒険者ギルドへ入ろうとした俺は、そんな間延びした声の持ち主から腕を掴まれて物理的にも止められてしまう。
俺が驚いて固まっていると、肩の上にいたテーミアスも一緒になって固まったように動かない。
相手に敵意が無いし、俺が警戒してないのがわかるから戸惑っているんだろう。
「シムーン、もう少しやり方はなかったのですか?」
固まってしまった俺とテーミアスを見て、俺の腕を掴んだ人物をやんわりたしなめるのは細身の美人さんな男の人だ。
見た目に反してって言うのも失礼だろうが、この美人さんは森の守護者での役割はバリバリの前衛なんだよな。
「えぇと、こんにちは。シムーンさん、ティエラさん」
二人に関しての情報を脳内から引っ張り出しながら挨拶をして名前を呼ぶと、二人揃って笑顔で応えてくれたのだが、何故かそのまま笑顔の二人に挟まれて隠されるような形で冒険者ギルドへ入ることになる。
その意味不明な行動の理由はすぐにわかった。
正確に言うと、扉を開ける前から微かに聞こえてはいたのだが、開いた瞬間その声はさらにはっきりと耳へ飛び込んでくる。
「だぁかぁら! グラから指名依頼入ってるでしょ!? とある筋から聞いた確実な情報だし、イベント時期的にも来てるはずなのよ!」
うん。今日もヒロインちゃんは元気なようだ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(^^)
反応いただけると励みになります(*>_<*)ノ




