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250話目

久しぶりに冒険者しそうです。

「おはよ、ございます……」

 主様の上に乗っかった状態で、寝起きで少し掠れて無駄に溢れてる主様の色気を浴びながら、俺はへらっと笑って主様の腕から抜け出そうとする。

「も、少し……」

 だけどまだ寝足りない主様は、湯たんぽな俺を離したくないらしく、そんな囁きと共にノーズキス? っていうんだっけ、そんな感じで鼻を擦り合わせるようにして抜け出すのを阻まれてしまう。

 眠る気はなかったらしく、しばらくすりすりと鼻を擦り合わせるような仕草をしてから、主様は寝転んだまま改めてぽやぽやとこちらを見上げて瞬きを繰り返す。

「……あさごはん?」

 ゆっくりと瞬きをした主様の寝起きであどけなく聞こえる言葉に、俺は大きく頷いて乗り上げていた主様の体の上から退いて、ベッドの上にぺたんと座り込んでわざとらしく胸を反らせて見せる。

「そう。朝ご飯出来たから起こしに来たんだよ」

「……食べたいです」

 この様子だと主様も夕ご飯抜きだったのかもと申し訳なく思いながら、俺は再び主様に捕まる前にとベッドから飛び降りる。

「じゃあ、俺先に行ってるからな」

 振り返りながら告げると、主様は体を起こして俺の方へ手を伸ばした体勢になっていて、俺と目が合うとふわふわと微笑んでその手をニギニギさせている。

 思わず駆け戻ってその手を取りたくなったが、タイミングよいのか俺のお腹がぐぅと情けない鳴き声を上げたので、俺はそのまま視線を前へ向けてパタパタと駆け出した。

「ぢゅっ!」

 主様から離れたのを察知したのか、俺の服の中に隠れていたテーミアスがひょこっと顔を出してよくやったと誉められる。

「いや、主様を邪険にした訳じゃなくて、ただご飯を食べに行くだけだからな?」

 やけに大層なことをしたような雰囲気で誉められてしまい、俺は苦笑いしながら機嫌良さそうに笑っているテーミアスを見る。



 ──とてもとてももふもふしてて可愛いかった。

 思いがけずテーミアスの可愛さに改めてやられそうになりながら、俺が朝ご飯の席に到着するのと、身支度を終えた主様がやって来たのはほぼ同時だった。

 主様は寝汚いが、起きてしまえば動きは遅くないのだ。

 ぽやぽやしてるのに意外と素早い。

 プリュイは俺のためにてちてちと音を立てて移動してくれるが、主様はふわふわとしたローブを着ているのに衣擦れの音もほとんどしない上、存在感あるのに気配は薄い。

 つまり何が言いたいかと言うと──、


「っ!」


 背後から無言で抱えあげられると、主様相手でもさすがにちょっとビクッとなるということだ。

「ぢゅっ!?」

 主様のことが苦手なテーミアスも驚きの声を上げて、尻尾をボフッと膨らませるとあっという間にぬるぬるとした動きで俺の服の中に隠れてしまった。

「ふは……っ! くすぐったいって!」

 落ち着く場所を探しているのかテーミアスは服の下で動き回り、くすぐったさに身悶える俺。

 そんな俺をじっと見ながらも下ろすつもりはないらしく、主様はくすぐったさで身悶えしている俺を抱えてそのまま腰かけて膝上に乗せる。

 食事の場所は、本日も暖炉前のソファだ。

 暖かくなったら、きちんとテーブルと椅子でご飯を食べるかもしれないが、寒い間は暖炉前で良いだろう。

 主様も細かいマナーなんて気にしない質だから、他人を不快にさせなければ問題ないよな。

 そもそも膝上に乗せられてたり、たまにべろべろ舐められてて、マナーなんて言葉は今更過ぎるか。

「ロコ?」

 思いがけず妙な方向に考え込んでしまっていたら、主様を心配させてしまったようだ。

「ごめんごめん、冷めないうちに食べようぜ? いただきまーす」

 俺は誤魔化すように……というか、考えていた内容は本当に対したことじゃなかったので、へらっと笑って目の前に並べられた朝ご飯へ手を伸ばす。

 ちょっと行儀悪く見えるが、おにぎりは手で持って食べた方が食べやすいから、ためらうことなく手で持って食べ始める。

 フォークや箸で崩して食べると、おにぎりにした意味がないし。

「ん。抵抗あるならフォークとかスプーンで食べてくれ。それも嫌なら普通のご飯も……」

 主様は俺がおにぎりを食べる様子をじっと見て動かなくなったので、手でご飯を持つのに抵抗があるのかと話しかけたが、返ってきたのは柔らかい微笑みと横に振られる首の動きだ。

 何となく見ていただけかと中途になってしまったが言葉を切った俺は、自身が握った歪なおにぎりを食べ進める。

 主様の前にはプリュイが握って(?)くれた完璧なおにぎりが山盛り置いてあるので、食べ足りないという心配は無いだろう。

 俺へ向けられていた主様の視線はやっと山盛りのおにぎりへ向けられたが、主様はそのおにぎりを手に取ることなく、俺の方を見て小首を傾げる。

「…………ロコの食べているのと形が違います」

 何処となく拗ねた子供を思わせる声音の呟きに、俺は見咎められた照れ臭さから主様から視線を外してぽりぽりと頬を掻く。

 他の人が食べてる方が美味しそうに見えるってやつかな。

「俺が食べてるのは、俺が握った失敗作だよ。言い訳になるけど、熱々じゃなければもう少しマシだからな?」

 次の機会には主様にも俺作のおにぎりを食べさせてやると密かに誓いながら、俺は新たなおにぎりへと手を伸ばしたのだが……。


「あれ?」


 伸ばした手が触れたのは空になった皿で、そこにあったはずの歪なおにぎりは何処にもない。

 主様の前に置いたプリュイ作のおにぎりほどの数ではないが、そこそこあったおにぎりがほんの数秒目を離した隙に消えた。

「主様?」

 おにぎり消失事件の犯人──そんな大層な呼び方をしなくても、原因は主様以外にあり得ないので呼びかけながら主様を振り返る。



「…………ロコは私のです」



 見つめ合うこと数秒、口の端に米粒を付けた主様がボソリとそう言って、ふいっと視線を外す。

 ちなみにだが、見つめ合った主様がしばらく黙っていたのは別にバツが悪かったとかではなく、ただおにぎりをもぐもぐしていたせいだ。

「……そっか」

 言い回しは微妙におかしかったが、俺が握った方が食べたかったってことだとわかり、俺は赤くなっているであろう顔を隠すために俯いて、プリュイの握ってくれた方のおにぎりを食べていく。




 プリュイの握ったおにぎりは、塩加減も握り加減も完璧で美味しかったが、手放しで誉めた結果、対抗心を抱いた主様から「次回は私も握りますから」と珍しくふんすと気合の入った宣言があり。

 主様の口の端に付いた米粒を取ってあげたら、気に入ったらしく何度かわざとらしく米粒を顔に付けて、無言でぽやぽやしてたり。

 そんなこんなはあったが、今日の朝ご飯も和やかに終わった。

 引き続き主様の膝上で食後のお茶を飲んでいると、かなり嫌そうにぽやぽやした主様から手紙を渡される。


「…………これを」


 何か副音声で『捨てていいですよ』とか聞こえそうな主様に首を傾げつつ、俺はまず手紙の差出人を確認しようと手渡された手紙をひっくり返し、その時点で差出人を察する。

 前世の手紙ではまず見なかった厳重な封蝋。

 そして、そこに浮かび上がる紋章はこの国の王家の物だ。

 俺に手紙をくれる王家関係者といえば、乙女ゲームの攻略対象者である第二王子のグラ殿下一択だからな。

「お茶会大丈夫になったのかな…………ん?」

 第一王子の具合と、その母親の過保護具合が良くなったのかと早速開いて読んだ俺は、並んでいた予想外の内容に首を捻る。




「俺への指名依頼?」




 どうやらそういうことをしたという連絡らしかった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


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