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249話目

この起こし方の効果は個人差があります←

「……これは朝まで爆睡しちゃってたぽいな」

 パチッとスイッチオンで目覚めた俺は、直ぐ様時計を確認して状況を察し、俺を抱き締めてすやすやと穏やかな寝息を立てている主様の寝顔を見つめてため息を吐く。

「ぢゅ」

 やって来たテーミアスによく寝てたなと呆れ混じりで言われてしまい、苦笑いを返した俺はテーミアスに朝の挨拶をしてから、主様の腕を抜け出してパタパタと廊下を進んでいく。

 まだ眠いらしいテーミアスは、襟ぐりから俺の服の中に入り込んで二度寝を決め込んだようだ。

 別に寝床で寝ててもらって良いんだが、寝ているとはいえ主様と二人きりになるのは嫌だそうだ。




 道中、いつも通りプリュイと合流して、洗面所での身支度を終えて朝ご飯の準備へ向かう。

 ご飯を作る気配で目が覚めて空腹を訴えるテーミアスには、ちょうど炊きあがったご飯を混ぜていたところだったので、とりあえず小さなおにぎりを作って渡しておく。

「ぴゃぁ」

「ナッツもあとであげるよ」

 ナッツが食べたいとちょっと不服そうなテーミアスにへらっと笑って告げると、それ以上は何も言わずに小さな手でおにぎりを抱えて黙々と食べ始める。

「可愛いな」

 性格は男前なテーミアスだが、もふもな生き物が小さなおにぎりを抱えて食べる姿は可愛らしいの一言で、無意識にそんな感想をポロッと洩らしてしまった。

「ハイ、可愛いデス」

 おにぎりに夢中なテーミアスは聞き流してくれたようだが、俺の隣で調理の補助をしてくれているプリュイにはバッチリ聞こえてしまったらしく、隣でぶんぶんと大きく頷いている。

 プリュイにしては珍しくわかりやすく興奮した様子で、手が塞がってる代わりなのか伸びてきた触手が優しく撫で回す………………俺の頭を。

 一瞬だけ、ん? と思ったが、ちょうど玉子焼きをくるくる巻いている最中だったので、俺は深く考えず作業を続けていく。

「……鮭ほぐして、おにぎりにするか」

 テーミアスがおにぎりを食べている姿を見たら、何だか俺もおにぎりを食べたくなったので、メニューを変更することにした。

 と言っても、ただおかずにするつもりだった焼き鮭をほぐしておにぎりの具にするだけだ。

「そうだ! 梅干しも買ってあったよな」

 好き嫌いもなく大食漢な主様とはいえ、梅干しはそもそもそんなにバクバク食べる物ではないので、前回買った梅干しはまだ残っていたはずと呟くと、気の利きすぎる魔法人形なプリュイから梅干しを容器ごと触手渡しされた。

「ありがと、プリュイ」

 へらっと笑って梅干しの入った容器を受け取った俺は、おにぎりにする前に一つ梅干しを取り出して口へ放り込む。

「んー、すっぱ!」

 キュッと顔をしかめて酸っぱ美味い味を堪能していると、興味を惹かれたらしいテーミアスがやって来たので、悪戯心から梅干しを少しだけ舐めさせてみる。

「ぴっ!? ぴゃあ!!」

 ふんふんと匂いを嗅いでから、あむっと梅干しを食べたテーミアスは、可愛らしく悲鳴を上げて、顔を洗うような仕草で顔を撫で回している。

 ここで吐き出さないあたり、男前なのか行儀が良いのかわからないが、涙目になってぷるぷるしている様子に可哀想になってテーミアスお気に入りの蜜がけのナッツを取り出す。

 涙目で何とか梅干しを飲み込んだテーミアスは、キッと俺を睨みながらも蜜がけナッツを両手でしっかりと抱えて俺の肩へと登ってくる。

「ぢゅ、ぢゅぢゅ、ぢゅぅ!」

 そのまま俺の耳元で盛んに文句を言っていたテーミアスだったが、蜜がけナッツのおかげで機嫌は直ったらしく、ご機嫌に揺れているもふもふな尻尾が首筋に当たってくすぐったい。

「ごめんって、次からはきちんと味の説明するよ」

「ぴゃぁ」

 仕方ないから許してやろうという台詞と共に、テーミアスは仲直りだと小さな頭を俺の頬へ擦り寄せてくる。


「めっ、デス」


 蜜がけナッツのせいで毛皮がベタベタだったせいか、やんわりとプリュイから叱られたテーミアスは、伸びて来た触手で全身を綺麗にされていた。



 ついでにテーミアスの毛皮のベタベタでベタベタになった俺の頬も。

「あち、あちち……っ!」

「ジル、大丈夫デスか?」

 熱さに呻く俺を心配するプリュイ。

 特に危ないことをしている訳じゃない。

 ──ただ、炊きたての白ご飯がなかなかの熱さだったせいだ。

 相変わらず炊飯器として活躍している魔道具からご飯を手に取り、あちあちと言いながらほぐした焼き鮭を真ん中に入れて握っていく。

 形は不格好だが、俺が自分で食べるんだから崩れなければ良いだろ。

 うちは先に手を濡らして、手に塩をちょっとまぶして握る派だ。

 もちろん異論は認める。

 各々自分のやりやすいようにやればいいさ。

 他に上手な人とかいたならその人のやり方を吸収して、自分のやり方にすればいい。

「……まぁ、だからと言ってもさすがにプリュイの真似は無理だけどな」

 熱さなんて意に介さずおにぎりを作るプリュイは、ぷるぷるボディを利用してまるで機械のようにポコポコとおにぎりを量産していく。

 出来上がるおにぎりも、コンビニおにぎりのような綺麗な三角形で、具もきっちり真ん中に収まっている。

 一方俺の方はと言うと、かろうじて三角形ぽいかたちになってはいるが、歪な上大きさもバラバラだ。

「食べれば一緒だよな。……でも主様の分は、プリュイの握った綺麗な方にしといてくれ」

 盛り付けをしているプリュイに苦笑いで頼むと、ふるふるとしながら頷いてくれたが、

「わかりマシタ。……アノ、ワタクシもジルのおにぎり食ベたイデス」

と予想外の提案付きで返されてしまった。

「そうか? ありがとな」

 歪とはいえコンビニおにぎりサイズのおにぎりが十個はあったので、今の俺では食べきれないと悩んでいたので、プリュイの提案は有り難い。

 そんな気持ちを込めてお礼を言ったのだが、プリュイは少しきょとんとした表情で首を傾げる。

「ワタクシがジルノおにぎりヲ食べタかったンデスよ?」

「ふふ、そっかぁ」

 気の使える魔法人形なプリュイは、お手本のような優しい応え方をしてくれたので、俺はその優しさに遠慮なく甘えてプリュイの分の皿へ俺の作った方のおにぎりを五個積んでいく。

 おにぎりはこれで終わりで良いだろうから、手を洗って他のメニューを仕上げていく。

 汁物はコンソメ仕立ての玉ねぎとキャベツのスープにソーセージ。ポトフ……ではないか。ただの具だくさんなスープだ。

 主菜ポジションだった焼き鮭はおにぎりの具にしちゃったけど、スープが具だくさんだから玉子焼きだけでいいな。

「プリュイ、主様起こして来るから、盛り付けとか頼むな?」

「ハイ」

 プリュイが笑顔で頷いてくれたのを見ながら、俺は主様を起こすためにパタパタと自室へと駆けていく。

 横目で確認するとかなり揺れてるだろう俺の肩の上には、食事中なテーミアスが乗ったままだが、全く気にした様子もなくナッツをかじっているので気にせずパタパタと走る。

「主様ー、朝ご飯だぞー」

 その勢いのまま扉を開けて声をかけながら、ボフッとベッドへ倒れ込む。

 もちろん直に主様へではなく、あくまでも飛び込む相手はベッドだ。

 そんなベッドは高級そうなマットレス持ちとはいえ、俺が思い切りよく倒れ込んだので、その揺れで寝ている主様の体が揺れて、ゆるゆると瞼が震えて宝石色の瞳が現れる。

「おはよ、主様。朝ご飯出来てるぞ?」

 ベッドに飛び込んだうつ伏せの体勢のまま主様の目を覗き込むようにしてへらっと笑いかけると、主様はゆっくりと瞬きを繰り返す。

「主様?」

 これは寝惚けてるか、寝足りないのか? と思いながらもう一度呼びかけると、主様の手がゆっくりと伸びて来て、気付いた時には主様の腕の中に囲われてしまっていた。

「主様、眠たいならもう少し寝てていいぞ? 俺は先に朝ご飯食べさせてもらうけど……」

 引き寄せられた主様の胸元を軽くとんとんと叩きながら、そう声をかけて俺は主様の腕から抜けようとするが、目を閉じて二度寝をする気らしい寝惚け主様の腕はしっかりと俺を捕まえて離してくれない。

「主様、俺夕ご飯食べてないから、お腹空いてるんだって」

 もしかして主様も夕ご飯食べてないんじゃという可能性もちらっと頭を過ったが、今の主様は睡眠の方が必要そうだ。

 何か手紙がやたらと来てたし、書類仕事を夜遅くまでしてたのかも。

 最強な人外さんでも、眠気には勝てないんだなと思ったら微笑ましくて、抜け出すのを一旦諦め口元を手で覆ってくふふと笑う。

「…………ロコ?」

 密やかな笑い声に誘われたのか、再度閉じたはずの主様の瞼はバッチリ開かれていて、ぽやんとしながらもひたと俺を見て、俺の名前を呼んでくれる。

 そういえば寝汚い人を起こす時には、大声で話しかけるより囁く方が効果的なんて話を聞いたことがあるな。

 こんな所で実感するなんて思わなかったけど。

 全くしんみりとしない前世の雑学を思い出しながら、俺はじっとこちらを見ている主様へへらっと笑いかけて、




「おはよ、主様。朝ご飯食べようぜ?」




 ついさっきしたばかりの挨拶を繰り返すのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


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