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248話目

肉体年齢はテーミアスの方がジルヴァラより年上です。


精神年齢は……まぁ、どうなんでしょう←

「さて、登ったは良いけど、どうやって滑ろうかな」

 プリュイに怒られた主様は、おとなしく二階の窓から戻っていき、自らが割った窓を直している。

 それを視界の端で捉えながら、俺は雪山の上から庭を眺めて、頭を悩ませていた。

 厚着をしてるし、雪の上だからこのまま滑っても痛くはないだろうが、いくら主様特製の溶けにくい雪でもお尻が濡れる可能性がある。

「さすがにお尻濡れるのは嫌だなぁ」

 ソリなんて物はさすがに主様の収納から出て来ないだろう。

 主様、普通に空飛んでたりするし。

 空飛べるのにソリなんてわざわざ持ってないだろうし、それを収納には入れないだろう。

 そんなことを考えて訳知り顔していた俺は、視界の端で庭へと降り立った主様がドヤッと出した『サンタクロースがトナカイにひかせていそうなソリ』を見なかったことにした。

「ジル、ワタクシデ、滑りマスか?」

 その結果、プリュイからおかしな言葉が飛び出してきたが、俺はそのおかしな言葉を有り難く受け入れることにした。




「重くないか? 痛かったり、冷たかったりは?」

「大丈夫デス」

 足を投げ出して座る俺を背後から抱え込み、さらに雪と面する部分まで体を伸ばしたプリュイに包み込まれながら、俺は何度目かわからない問いを繰り返していた。

 受け入れたからといって心配しない訳じゃない。

 見た目からして、俺はプリュイをお尻で踏みつけてる形になる訳だからな。

 しかも、この体勢のまま滑ろうとしているのだ。お互い怪我しないように確認は大事だ。

 この場合、怪我じゃなくて千切れないかの心配か? と色んな意味でゾクッとするような思考に陥りかけた俺の耳に「行きマス」というプリュイの何処かワクワクとしているような声が届く。

 え? と思ったのと風を切る音がしたのは同時で、視界が一気に流れていく。

 背後からプリュイが支えてくれていたので危険は無かったが、逆に滑りが良すぎて止まらず雪のない所まで行きそうになる。

「あっ!」

 俺は思わず声を上げてしまったが、そっちの方の危険も慌てることなくプリュイが変形して止めてくれたので、大事には至らなかった。

 俺の驚いた声に反応した主様が進行方向で待機してくれていて、出番がなくてしょぼんとしてたけど。

 しょぼんとしている主様を気にすることなく、ふるりと形を変えて俺を持ち上げたプリュイは、楽しそうにぷるぷるとしながら俺の顔を覗き込む。

「ジル、どうデシタ?」

「ありがと、楽しかった! もう一回したい! ……駄目か?」

 プリュイも楽しそうにしているし、もう一回ぐらいおねだりしても大丈夫かなとプリュイに抱きついておねだりすると、一も二も無く頷いてくれた。




 ──予想外だったのは、主様も滑りたいと言ったことぐらいだろう。




 主である主様の『お願い』をプリュイが断ることなんてある訳もなく、俺達は仲良く三人で雪山の天辺までやって来ていた。

「プリュイ……二人で乗って滑っても本当に大丈夫なのか?」

「ハイ」

「核さえ無事なら、この魔法人形は……」

 俺を膝に乗せた主様の下敷きになったプリュイは、重さなんて気にした様子もなく自信満々に頷いてくれたが、続いた主様の言葉に不安を覚えて主様を振り返る。

 そのままじっと見つめていると、主様にしては珍しく言葉を途切れさせて視線を外されてしまったが、数秒後無言であむっと耳を甘噛みされた。

「みぃ!?」

 耳!? と言いたかったか自分でも不明だが、反射的に出たのは子猫の鳴き声のような奇声だ。

 そんな俺の反応に主様は耳から口を離して軽く目を見張っていたが、すぐに何度か瞬きを繰り返して満足そうにぽやっとして、ちらりとプリュイの方を見た。

 それは合図だったらしく、プリュイの「行きマス」という掛け声の後、先程と同じように雪山を滑走していく。

 主様という重さが加わったせいか、一回目より速度が増した気が……と思ったのと、一回目より豪快な止まり方をしたのは同時だった。

 さすがの主様も物理法則的なのはどうにも出来なかったのだろう。

 思いがけず急ブレーキによる力がぐっとかかって、意識せず口から「うっ」と声が洩れてしまう。

「ロコ?」

 心配そうな主様に振り返らず大丈夫だと示すため片手を挙げてみせ、無駄に入っていた力を抜いて主様へ寄りかかる。

「…………昼寝の時間ですね」

 脱力した俺を抱えてしばらく悩んだ後、ふむと一人で頷いた主様は、俺の「え?」という声も気にせず俺を抱き上げて室内へと向かう。

 違うんだけどなぁとかさっきも寝てたよなぁとか思ったが、俺を抱えて上機嫌にぽやぽやしている主様を見ると何も言えなくなり、俺はおとなしく目を閉じておいた。

[視点変更]




「むふ……」

 青年の膝の上でさすがに眠れないなぁと呟いていた子供は今どうしているかというと、青年の腰に腕を回してしがみついて、見る人によっては微妙な位置に顔を埋めた体勢ですやすやと眠っていた。

 洩れ聞こえた妙な寝言に、子供の寝顔を見つめる青年の口元がわかりやすく緩む。

 ほぼ毎日青年自らが念入りに手入れをしている子供の艶やかな黒髪を、子猫を撫でるように撫でていると、子供の首周りで眠っていたもふもふな小動物から迷惑そうな声が上がる。

 ぴたりと手を止めた青年は、体の大きさと反比例な豪胆さを持つ小動物と無言で睨み合うが、どうやら小動物の方が上手のようだ。

「ちゅー」

 小動物が普段の声とは違う甘えた声で可愛らしく一鳴きすると、子供の手が青年の腰から離れて小動物へと伸び、その体を優しく包み込んで、暖を分けようとするように胸へと抱き寄せる。

 そうなれば青年が自身に手を出すことが出来ないことを傲岸不遜な小動物は理解していた。

 しかし、青年への嫌がらせのためだけにした行動ではなく、小動物も子供の腕の中で安心して眠るのが嫌いではないのだ。

 決して自身を抱き潰さない子供の優しい抱き方に、小動物はこちらをじとりと見ている青年へ向けてふんっと鼻を鳴らしてやってから、子供の温かな体温に包まれて目を閉じる。



 青年のことは未だに苦手だが、この子供の傍にいるのは心地良い。



 本来なら森で仲間と冬ごもりする時期だが、人間達からはテーミアスと呼ばれている小動物は、この危なっかしい子供の傍から離れるつもりはなかった。

 そんな小動物の決意を知ってか知らずか、動物達から人間達からとは別の意味で『何なんだコイツ』と怖れられている青年は、子供には見せない嫉妬も露わな眼差しで小動物を睨み続け──、



「ぢゅっ!(うぜぇっ!)」



 小動物からウザがられキレられ、その声に反応して薄っすらと目を開けた子供により……、



「ぬしさま、てーみあす、いじめちゃ、めっよ……?」



と可愛らしく寝惚けた声で注意され、結構なダメージを受けてしまう。





 そんな青年の様子に気付くことなく、子供は懐にいる小さな友人をしっかりと抱き締めて、また眠ってしまうのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


感想などなど反応ありがとうございます(^^)


反応いただけると嬉しいです(*´∀`)


テーミアスにとって、ジルヴァラは恩人であり、目が離せない守るべき小さいもののようです。


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