244話目
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ばたんきゅーな話。
「なになに、なんで今日はこんなに念入りなんだよ!?」
くんかくんかされた後、主様に抱えられたままお風呂場へと連行された俺は、主様によって髪を念入りに洗われた上、するすると入って来たプリュイの触手により全身を洗われ、先程の悲鳴じみた声を上げる羽目になった。
くったりとした俺を抱えて浴槽に入った主様は、背後から俺の首筋に顔を埋めて匂いを確認して、満足そうにぽやぽやしている。
「そんなに汗臭かったか?」
もこもこに着込んであれだけ動き回ったから汗を掻いていた自身はあるが、ここまでされるほど汗臭かったかと地味にショックだ。
「……ロコの汗は臭くないです」
「そっか、ありがと」
俺がショックを受けてることに気付いたのか、俺をぎゅっと抱き込みながら主様がフォローしてくれたので、俺はへらっと笑ってお礼を言っておく。
ここで油断して長湯をするとのぼせてしまうのは学習したので、俺は回されている主様の腕をてしてしと叩いて上がろうアピールをする。
もちろん立ち上がれば自力で浴槽から出られるのだが、たぶん主様の腕が離れない気がする。
「──夕飯は作らなくても良いです」
そんなことを考えつつ、主様に抱えて運ばれてボーッとしていた俺は、主様の唐突な台詞の意味がわからず主様を見上げる。
そこにあったのは、じっとこちらを見ている主様の宝石色の瞳だ。
「……俺の作ったご飯、いや?」
のぼせた訳でもないのにボーッとする思考の中、ぽろりと溢れたのは不安の表れのような一言で。
バスタオルに包まれて主様をじっと見上げていると、違うという返事の代わりなのか主様の顔が近づいてきて鼻先をかぷりと噛まれる。
その後、プリュイ本体がやって来て服を着せてもらい、いつも食事をとる暖炉前のソファへと主様に抱えられたまま移動をする。
テーブルの上には二人分のカレーライスが置かれていて、さっきの台詞の意味は昼の残りを食べようって意味だったのかと思いかけた俺だったが、違和感を覚えて首を傾げる。
「これ、俺の作ったカレーじゃないよな?」
「はい」
ぽやぽやとして頷いた主様はそれ以上説明してくれそうもないので、問答無用で膝の上でカレーライス食べさせられながら、ちらりとプリュイを見やる。
「騎士団長ノお宅カラノ、差シ入れデス」
帰って早々、ナハト様が料理人さん達に無茶振りをしたんだろうなぁと思いながらも、俺が作ったものより少し辛めなカレーライスをじっくりと味わう。
「お裾分けのカレーがあったから、作らなくても良いって言ってくれたんだな」
さすがプロの味だなぁと頬を緩めて突っ込まれるカレーライスを味わいながら、主様にさっきの台詞の意図を確認すると、帰ってきたのはきょとんとしたぽやぽや顔だ。
可愛い……じゃなくて、どうやらそういうことでは無かったらしい。
「…………気付いたので」
ボソリと呟かれた言葉に、何を? と問い返したかったが、口の中には休まずカレーライスが入ってくるので、何とかそれを飲み込んだ──までは覚えていたのだが、次にふっと意識を取り戻したのは朝の日差しの射し込む自室のベッドだった。
●
[視点変更]
食事中、不意にくてっと力が抜けた子供の体を危なげなく支えた赤毛の青年は、心配そうに子供の顔を覗き込む。
そこにあったのは、口周りを茶色く汚してすやすやと寝息を立てる無邪気な寝顔だ。
本人は全くの無自覚だったが、朝からテンションの上がりまくっていた子供は、友人達が帰った辺りでどう見ても燃料切れ寸前だった。
気付いていなかったのは本人のみで、出来る魔法人形もすっかり過保護となった青年もすぐに気付いていて、とろんとした目でふらふらとしている子供をじっと見守る。
本人はしっかりと喋っているつもりだろうが、何処となく呂律が怪しく、その様は幼子のようで可愛らしく、青年は心配そうながらも楽しそうにぽやぽやと子供の喋る姿を見つめていた。
興奮しきった子供は元気良く動き続け、最終的にぱたりと燃料が切れたように青年の腕の中で眠りに落ちることになった。
こうなることが目に見えていたので、青年は子供に料理をさせなかったのだ。
ここできちんと「疲れているようだから」と説明出来ないのが、青年らしいと言えばらしいのだろう。
青年は獣が自らの子にするように眠っている子供の口周りを舐めて綺麗にしていたが、しれっと伸びて来た魔法人形の触手が子供の顔を温かい濡れタオルでしっかりと拭き取って去っていく。
青年は少し不服そうにじとりと魔法人形を見ていたが、腕の中にいる子供がもごもごと口を動かして青年にぎゅっと抱きつくと、すぐにまたぽやぽやし始める。
青年に抱きついた子供は肌寒いのかふるりと小さく身を震わせて、暖を求めてもぞもぞと青年のローブの中に頭を突っ込んでいく。
その様子に一瞬だけ目を見張った青年は、嬉しそうに目を細めて笑いながらいそいそと子供を自らのローブの中へとしまってしまう。
小柄とはいえ人一人入ったはずなのに、青年のローブは不自然に膨らむなんてことはなく、まるで中に入った途端消えてしまったようだ。
時折「んむ……」という謎の声が聞こえてきて青年の表情がその度に緩むのでそこにあの子供が『いる』ことは確かなのだが……。
子供がいるであろう辺りをローブの上から撫でながら、青年はあっという間に自らの食事を終わらせて立ち上がる。
青年が向かうのは子供の自室となっている部屋だ。
以前は青年の部屋のベッドへ連れ込んでいたが、最近は子供が「一人で寝る」と言い出したため、子供を自室で寝かせて──そこへこっそりと忍び込むことにしている。
子供は「主様寒がりだなぁ」と思って微笑ましく受け入れてるが、魔法人形からは呆れきった眼差しを向けられている。
魔法人形の冷たい眼差しなど気にも留めない青年は、本日も子供の隣で──というか、子供をしっかりと抱え込んで眠るつもりらしい。
ベッドの上でローブの中から出されて寝かされた子供は、相変わらず起きる様子もなくすやすやと穏やかな寝息を立てており、その姿を見下ろす青年の表情はあからさまに緩んでいく。
だが、青年の緩んでいた表情は、眠る子供が手近にあった謎のぬいぐるみを抱き寄せようとしたことで、ムッとしたものへと変わる。
何の生命体モチーフか微妙なぬいぐるみは、ムッとした顔の青年からガシッと鷲掴みにされてベッドから放り出されてしまう。
ぼすんと床に落ちたぬいぐるみへ視線すら向けず、青年は子供の隣へ体を横たえるとぬいぐるみに変わって子供の手を握って自らの方へと引き寄せる。
どちらでも構わなかったのか、子供は青年を抱き寄せ……もとい、青年の懐へ抱き込まれながら満足そうに眠り続けている。
「……無防備過ぎます」
あまりにも無防備過ぎて心配になったのか、青年は子供をしっかりと抱き寄せながら、ポツリと不機嫌そうに呟く。
その声が聞こえた訳でもないだろうか、眠る子供の口がもごもごと動いて何かを紡ぐ。
その微かな声はぴたりと寄り添った青年にしか聞こえなかったが、その内容は蕩けきった青年の表情を見る限り、青年にとって喜ばしい内容だったのだろう。
抱き寄せた子供の黒髪に頬を寄せ、青年は宝石色の瞳を細めて妖しく笑う。
「ロコ」
微笑む唇が柔く紡いだのは、青年だけが呼ぶ特別な子供の呼び名。
その声が届いたのか、眠っている子供の口元がへらりと笑みを形作り、青年の微笑みは深さを増していく。
「ロコ、ロコ」
呼ぶ度にきちんと反応する様子が嬉しかったのか、何度も子供を呼び続けた青年には──、
「うるさいデス、ジルがヨク寝られまセン」
と空気の読める魔法人形からの至極真っ当な指導が入ったとか……。
この騒ぎの中でも寝ている子供には知る由もなかった。
●
「……んー? 俺、いつ寝たんだろ」
パチッとスイッチの入るような目覚めの後、主様の腕の中で首を傾げながら昨夜の記憶を辿るが、ナハト様の家の差し入れカレーを食べたまでしか記憶がない。
これはもしかしたら、燃料切れ起こしたみたいな感じでバタンキューで寝ちゃったのかもしれない。
雪遊びって意外と体力使うし、皆で遊ぶの楽しくて興奮しっぱなしだったもんな。
きっとナハト様とイオも、同じような感じで寝ちゃったんだろうなぁと思いながら、ここまで運んでくれたであろう主様の寝顔を見上げる。
本日もよく寝ているし、見飽きることのない完璧な寝顔を堪能してから主様の腕を抜け出す。
着替えて廊下を歩いていると、背後に気配を感じて振り返る。そこにいたのは伸びて来たプリュイの触手で、どうやら追いかけられていたようだ。
「おはよ、プリュイ。もしかして、体調心配してくれてるのか? この通り何ともない……」
触手にちょんちょんと触れて話しかけていると、やはり心配してくれていたのか本体がてちてちてちと独特な足音と共にやって来て、そのまま触手で持ち上げられてしまった。
「だから、何ともないって」
途中で切れてしまった言葉を繰り返すが、表情の読みにくいプリュイのつるりとした面は心配そうにふるふるしている。
「ちょっと楽しくて、張り切り過ぎただけだよ。どこも具合悪くはないって」
「デスガ……」
「ふふ、心配してくれてありがとな。そうだ、今日は休む日にするからさ。それなら良いだろ?」
「……ハイ」
俺の出した提案にプリュイはやっと安心したように頷いてくれ……でも、下ろしてはもらえなかったので、そのまま洗面所へ運ばれることになった。
さて、休むことにしたけど、今日は何しようかなと、プリュイに運ばれながら俺はそんなことを考えていた。
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