243話目
くんかくんか。
「プリン美味い!」
「うん、甘くてとろっとして美味しい!」
「口にあって良かった」
昨日の内に用意しておいたおやつは好評のようで、ナハト様もイオも美味しそうに笑顔でプリンを食べて感想言ってくれている。
ぷっちんな方ではなくて、ちょっと固めの食感な蒸して作るプリンの方だが。
いつかはプリュイ並みのぷるぷる感のあるプリンの方も作ってみたい。
そう思いながら部屋の隅にいるプリュイをチラ見すると、皿に出したプリンをぷるぷるとさせて無言で見つめていた。
「いヤン……」
俺に見られていることに気付いたプリュイは、謎の一言を残してすすすと去っていってしまった。
もしかしたらぷるぷる感に対抗心を抱いたのかもしれない、もしかしたらだけど。
追いかけるべきか一瞬悩んだが、プリュイが外へと行く訳はないし──、
「ロコ、あーん?」
心配性を加速させた主様の膝の上から降りられそうもなかったから。
●
「ジルヴァラ! 出来たぞ!」
おやつを食べ終わった俺達が暖炉前でまったりしていると、ソルドさんが元気良く満面の笑顔でかまくらが出来上がった報告をしに飛び込んでくる。
「ソルド、まずは改めてきちんとジルヴァラに謝るべきでは?」
「そうね。さっきはバタバタしてしっかりと謝罪してなかった気がするわ」
俺がソルドさんにお礼を言おうとするのを察したのか、ソルドさんに付き合って庭にいたアーチェさんとソーサラさんから先手を打ってそんな注意が入る。
「そ、そうか? 言われてみれば確かにしっかり謝ってなかった気がするな? ジルヴァラ、さっきは顔にぶつけて悪かった! ……もう痛くないか?」
素直で元気なテンプレ主人公なソルドさんは、仲間達からの忠告に反発することなく笑顔で頷くと、俺へ向けて勢いよく頭を下げて謝罪してくれる。で、そこからのギャップのあるしゅんとした子犬のような表情での弱々しい声の確認に、ちょっとキュンとしてしまった。
「わざとじゃないんだし、気にしてないよ。もう全然痛くないから……こりずにまた遊んでくれるか?」
ソルドさんを真似た訳じゃないが、へらっと笑って気にしてないアピールをしっかりしてから、ソルドさんの服をちょいちょいと引っ張って小声でおねだりをしておく。
こうしておかないと、もうソルドさんと遊んだり、訓練に付き合ってもらえなくなるかもしれないからな。
「……あぁ、もちろんだ」
少しためらってから笑顔で頷いてくれたソルドさんに、俺の椅子と化している主様からは不満そうなぽやぽやが飛んできている気もするが、気付かなかったことにする。
主様はやっぱりちょっと過保護だ。
ソルドさん達にもプリンを食べてもらって好感触をもらった後、俺とナハト様とイオはソルドさん作のかまくらを見るために庭へと出てきていた。
「……大きいな」
「全員で入っても大丈夫そうだな!」
「入ってみようよ!」
呆れ半分驚き半分でかまくらを見上げる俺の隣で、ナハト様はかまくらの強度と大きさを確認し、イオは好奇心できらきらとした瞳でこちらを見て誘ってくる。
アーチェさんとソーサラさんが見守ってくれていたので、強度とか諸々含めて色々と安心だろう。
俺は右手にナハト様、左手にイオという体勢でかまくらの中へと入っていく。
外から見た時より中はさらに大きく見え、夜でも使えるようにという気遣いなのか、かまくらの壁の一部がくり抜かれてろうそくが置かれている。
ソルドさんが突貫で作った割りにはボコボコしていないし、足元もしっかりと踏み固められていて快適そのものだ。
思わず「すごい」という捻りのない感想しか出なかった俺の両隣では、ナハト様とイオがきらきらとした眼差しで周囲を見渡して、こちらも「すげー」「すごいすごい」というわかりやすい感嘆の声を上げている。
喜ぶナハト様とイオを見ながら、コタツとか七輪あるなら置いて中でお茶とかしたかったなぁと楽しい想像で頬を緩めていると、入口から誉められ待ちの大型犬みたいな表情のソルドさんが覗き込んで来る。
「……どうだ?」
ソルドさんの背後にパタパタとゆっくり揺れる尻尾の幻覚を見ながら、俺はニッと笑って大きく頷く。
「ありがと、ソルドさん!」
「ありがとな!」
「ありがとうございます!」
お礼を言う俺に続いて、ナハト様とイオも笑顔でお礼を言って、三人で手を繋いだままソルドさんへ駆け寄る。
ソルドさんを囲むように三人で足へぎゅっとしがみつくと、少しだけまだ凹んでいたソルドさんの表情が完全にいつもの晴れやかな笑顔に変わる。
「……喜んでもらえて良かったぁ」
その満面の笑顔と共に、ソルドさんの背後にはぶんぶんと全力で振られる尻尾の幻覚が見えた気がした。
●
「またな、ナハト様、イオ!」
かまくらの中でソルドさんを囲んでむぎゅむぎゅと団子状態でソルドさんの冒険譚を聞き、ひとしきり満足したところで時間も時間となり、今日はお開きとなって俺は玄関先でナハト様とイオを見送った。
当然だが見守りしてくれていたイケオジコンビも一緒に去った訳で、室内が何だか一気に静かになってしまった気がして、俺は無意識に隣でふるふるとしていたプリュイへしがみついて埋まる。
ちなみにトレフォイルの三人は一足先に帰ってしまった。
もともと俺の顔を少し見に寄ってくれただけだったそうだ。
「ジル?」
無言で埋まる俺を連れて屋内へと戻ったプリュイは、俺が動かないことで心配させてしまったみたいで名前を呼ばれて触手でちょんちょんと背中を突かれる。
「ふふ……っ、ごめんごめん、何か少し寂しくなっただけ」
「そうデスカ」
ふむと頷いたプリュイは触手を使ってさらに俺をぎゅっと抱き締めてくれる。
プリュイの優しさにふへと気の抜けた笑い声洩らして、プリュイへしっかりとしがみついていると、不意に腰回りにプリュイの触手とは違う力強い何かが触れて一気にプリュイから引き剥がされる。
そんなことをする犯人は一人しかあり得ないので、俺は慌てたりはしなかったが少し驚いて犯人の顔を見る。
「ロコには、私がいるでしょう」
少し不機嫌そうにぽやぽやした主様はそう言って、抱き上げた俺をぎゅっと抱き締めてくれる。
過保護だなぁと思いながらも主様の優しさに甘えて、ちょっとだけ力を入れて主様に抱きついてみると、回された腕の力がさらに強まり、
──スンスンと思い切り匂いを嗅がれる。
「え? なに? 俺汗臭い?」
慌てる俺に対して主様は無言で。
俺はそのままお風呂へと担ぎ込まれて、全身しっかりと丸洗いされることになった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
あれだけむぎゅむぎゅとくっついてれば、ねぇという相変わらず心の狭い主様登場。
感想などなど反応ありがとうございますm(_ _)m
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