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25話目

着地点が見つからない(ノ´∀`*)


こんなに長くなる予定ゼロだったんですが、書きたかったところまで、まだ辿り着けてません←

 俺にちょうどいい高さの踏み台がすぐに出てくる訳なかったので、俺は主様に抱えてもらって洗い物を終わらせた。

「ありがと、主様。明日の朝ごはんどうしよう。コンロとか使ってみたいけど、届かないよな……」



 そう、ちょっと考えればわかったことだろうが、ただでさえ平均身長高そうなこの世界基準のキッチンだ。

 六歳児な俺の体格では爪先立ちしても使いこなすのは無理だった。

 踏み台を頼んでみたが、さすがに明日の朝には間に合わないだろうと悩んでいると、主様は一回降ろした俺をもう一度持ち上げる。

「朝も、これで」

「でも、主様起こすことになるし……」

「構いません」

「そっか、ありがと。じゃあ、お願いするな」

 そんな会話をほのぼのして、キッチンの設備を一通り教えてもらったあとは、先程出来なかった屋敷内の案内をしてもらう。

 定期的に掃除をしてもらっているという屋敷の中は、人が住んでる気配がなく綺麗だった。綺麗すぎるぐらいだ。

 まるでモデルルームのような寒々しさに、俺は小さく身震いして、隣を歩く主様を仰ぎ見る。

 こんな寒々しさの中にいたから、主様は俺の子供体温(あたたかさ)を手放し難くなったのかもしれないな、とかしんみり思ってたのは、主様の開けてくれた先に広がった光景でどうでも良くなる。


 それは、


「お風呂!」


 しかも、シャワーだけとかではなく、きちんと陶器っぽい素材の白い浴槽があり、お湯が張れるようになっている。主様でも足が伸ばせるようにか、サイズはかなり大きめだ。

 さらにユニットバスではなく、トイレは別、隣には洗面脱衣所がある前世の日本ではよく見たタイプのやつだ。

 さすが乙女ゲームに似た世界というべきか、それとも俺みたいに前世の記憶がある人間がいて広めたのか、どちらでもいいが感謝感激だ。

 うわうわ言って浴室内を見て回っていると、興奮しすぎたのか説明を聞いてる途中でくらくらして倒れそうになってしまい、主様へ抱えられて問答無用で次の案内場所は、二階にある俺の部屋になった。

「先ほど、体調は大丈夫だと言いませんでしたか?」

 もともと子供部屋ではなく普通の客間であろう部屋は、相変わらずシンプルな内装だが、ベッドとかテーブルとか椅子とか、全体的に高そうだ。

 寝かされた大きなベッドもふかふかでシーツもお日様の匂いが……、

「ロコ?」

 珍しくぽやぽやせず見つめてくる主様に、軽く現実逃避してたら、頬を両手で挟んで俺が逃げないようにして見下ろしてくる主様。

「……ごめんって。ちょっと興奮しすぎだけだよ。寝てれば治ると思うけど、一応ドリドル先生にれ「寝ててください」わかった、大人しく寝てるから」

 どれだけドリドル先生苦手なんだ、という反射速度で言葉を遮られてしまい、俺は苦笑いして頷く。

「……あとで、お風呂入っていいか?」

「どうぞ」

 念のため、そんな言質をとったのだが、ぽやぽや苦笑いしてた主様は、まさか本気で俺が後で風呂へ入る気だとは思ってはいなかったらしい。

 本来なら傷が塞がったばかりでお風呂なんて駄目なんだろうが、あの立派な浴室を見てしまったら我慢出来なかった。

 一眠りして目を覚ました俺は、部屋に運び込まれていたリュックから着替えを取り出し、部屋の中のタンスからはタオルを取り出して、一人いそいそとお風呂へ向かう。

 カーテンの隙間から見た外は真っ暗で、魔法か本物の炎かはわからないが、遠くの街並みを街灯が照らしていた。

 脱衣所でパパッと服を脱いで全裸になると、塞がったばかりの傷を保護してる包帯を外して、脱いだ服の上ではなく着替えの上へ置いておく。

「お風呂、お風呂ー」

 先ほど使い方の説明は受けてたので、風呂椅子を踏み台に浴槽の方の蛇口を捻り、適温にしたお湯を溜めていく。

 その間にシャワーで体を洗うのも忘れない。

 この世界には石鹸と洗髪液はあるが、リンス的なのはないらしい。

 今日は湯タオルの用意はないので、体は石鹸を泡立てて手で洗っていく。

 きちんと水浴びしたり、濡れタオルで拭いたりはしてたが、やはり温かいお湯で洗う快感は格別だ。

 髪も体も洗い終わり、泡をシャワーで洗い流した俺は、風呂椅子を踏み台にして浴槽の縁を跨いで何とかお風呂へ入る。

 溺れたら困るので、お湯は半分ぐらいしか溜めてない。それでも十分温まれそうだし。

「ふぁ〜……」

 前世ではほとんどシャワーのみだったが、やっぱり浴槽へつかる気持ち良さは格別だ。

 傷が開いたり、のぼせたりしたら困るから早めにあがらないとな、とか考えながら、ふんふん鼻歌混じりで久しぶりのお風呂を満喫してると、目に見えない何かがふわりと体を撫でていくような感覚がして、俺はシパシパと瞬きをして周囲を見渡す。

「今のなんだ?」

 浴槽内で立ち上がり、きょろきょろと辺りを見回すが、特に異変は見えず首を傾げていると、脱衣所へ続いてるドアが勢いよく開けられ、そこには…………勿体ぶってみたが、いたのは当たり前だが主様だ。

「ロコ、なにを……」

「何をって、見ての通りお風呂だけど……」

 西洋らしく室内でも靴履きだった主様も部屋で休むときはスリッパなんだな、とか場違いな事を考えながら浴室へ入ってくる主様を眺めていると、つかつかと歩み寄って来た主様により浴槽から抱え上げられてしまう。

 そのまま脱衣所まで運ばれ、俺が用意しておいたバスタオルでくるりと包まれ、体を拭かれる。

 あまりの早業に抵抗する間もなく包帯まで巻き直してもらって、服を着せてくれ……ようとしたけど手こずってたので服は自分で着た。その間ずっと主様は無言だったので居た堪れない。


「ごめん、主様」


 怒ってるのかと思って、やっと出せた謝罪の言葉に返ってきたのは、主様の呆れたような眼差しだ。

「何に対する謝罪ですか?」

「え? 勝手にお風呂入ったこと?」

 俺の答えに返ってきたのは、ため息と抱き上げる腕だ。確かめるように、ギュッと抱き締められた後、主様がポツリと呟く。

「いつもよりあたたかいですね」

「お風呂であたたまったからだな。もしかして、俺の様子見に来てくれたのか? それで、いなかったから探してくれた、とか……?」

 ここに来て思い至った主様突然登場の理由をおずおずと口にすると、ため息を吐いて深々と頷かれた。

「あ、さっき、なんかふわっと触られたのは、主様が魔法使ったのか?」

「ロコが誰かに連れさらわれたのかと、探知する魔法を使いました。──王都全域に向けて」

 へぇと納得しかけた俺は、付け足された一言を聞いて、バッと主様の顔を見上げるが、ぽやぽやしてる顔は冗談とか嘘とか言ってるようには見えない。

「え? あれ王都全域にって、大丈夫なのか? 魔力切れとか……」

「私の魔力量なら問題ないです」

 自慢する様子もなく言い切るあたり、主様の凄さがわかるなぁ、とほわほわしてると、もう一つ気になっていたことを思い出す。

「なんか、ふわっとしたけど、あれは平気なのか?」

「それは、たぶん……」

 そちらは何かあるのか、主様は言葉を探すように目を伏せて、考え込む様子を見せたのだが、



「っくしゅん!」



 くしゃみをした俺に驚いた様子で目を見張った主様は、濡れたままだった俺の髪と俺のせいで濡れてしまった自らの服へ向けて何かゴニョゴニョ囁く。

 聞き取れなかったが、すぐさま髪と服が乾いたからには、乾燥とか脱水とかそんな魔法だったのだろう。

「ありがと、主様」

 先ほどの続きを聞けるかと思ったが、主様にもう話す気はないらしい。危険じゃないならいいか、と気を取り直した俺だったが、主様が向かう先が俺の部屋でない事に気付いて主様を見上げる。

「主様、俺の部屋、あっちだぞ?」

 部屋数はそこそこあるが、造り自体はシンプルな建物なので、部屋が覚えられないなんて事はなく、俺は自室のある方向を迷いなく指差して見せる。

「それが?」

 意味がわからないとばかりに、不思議そうに首を傾げる主様を見ているとさすがに不安になる。

「まさか、迷惑かけたから、反省部屋行きとか?」

 日本で言う押入れ的な場所に閉じ込められるのか、と俺が一人で呟いて戦々恐々としてると、着いたのは俺の部屋よりさらに立派な装飾のされた扉の前だ。

「ここが反省部屋?」

「私の部屋ですが……」

 困った子だとばかりの優しい表情で苦笑いされ、俺は自らの勘違いを悟って恥ずかしくなる。

「でも、なんで主様の部屋?」

 勘違いに悶えてるうちに、主様は部屋へと入っていて、ソファの上へと降ろされた俺は部屋を見渡して首を傾げる。

 俺の部屋となった客間より広く、部屋の中に入って来たのとは別の扉があるので、その先がたぶん寝室とかなんだろう。

 シンプル過ぎる部屋には、ドンと重厚な机が置かれ、そこには書類みたいなのが散らばっていて、生活感がある。壁際には重そうな本の詰まった本棚があり、背表紙を目で追っていると、目の前でしゃがみ込んだ主様で視界が埋まる。


「ロコ」


 名前を呼ばれて立ち上がろうとすると、また抱えられてしまった。さっき倒れたから心配されてるらしい。

 お風呂は止めとくべきだったな、と反省していた俺は、気付くとベッドに転がされていた。

「大人しく寝てください」

「え、あ、うん。ごめんなさい」

 深々と吐かれたため息に、俺はとてつもなく申し訳なくなって体を起こしてベッドに座り、頭を下げる。

「大人しく寝て……」

 困ったようにそう繰り返した主様により、俺はころんとベッドへ再び寝かされて布団を掛けられる。

「おう。……おやすみなさい」

 素直に応えて目を閉じ、すぐに訪れた眠気でうとうとしている俺の耳に、衣擦れの音が聞こえる。

 しばらくして、ベッドの傾ぐ気配と共に、主様の優しいぽやぽやした声が聞こえた気もしたが、目が覚めた時には忘れてしまいそうだ、と思って俺の意識は完全に眠りの淵へと落ちていった。





 鳥の鳴き声で目を覚ました俺は、ボーッと見慣れない天井を見上げ、ふと思いつく。

「……見たことのない天井だ」

 特に意味はない。ただ言ってみたかっただけの台詞を口にして、くく、と喉奥で笑った俺は、二人で寝ていても余裕のあるベッドの上で体を起こす。

 少し視線を横に向けて隣を見ると、夕陽色の髪をシーツに散らして眠る主様の姿がある。

 寝てる姿も美しい主様は、朝日を受けてキラキラして寝てる。涎とか白目剥いたりもない、芸術品のような完璧な寝姿をしばらく堪能してから俺はベッドを降りる。

「たしか、洗面所にタオルあったな」

 自分の記憶へ確認するように呟いて、俺はパタパタと洗面所へ向かう。

 チラリと確認した時計の長針は、まだ七の少し前を指していた。

 そう言えば、当たり前過ぎてあえて確認してなかったけれど、この世界も一日は二十四時間らしい。

 こっそり二十五時間とか、二十時間ですとか言われてもわからないけど、時計は円の真上の数字がこの世界の文字で十二だったし、間違いはないと思う。

 ま、この辺は意外と教えたがりな主様に聞いて教えてもらおうと思う。

 たとえ冒険者にすぐなれなかったとしても、主様が依頼を受ける時はついてくつもりだし。

 昨日は冒険者になれる! って喜んじゃったけど、そのせいで主様が変な要求されたり、したくもないことをしないといけないなら、俺は十歳まで待っても構わない。

 冒険者じゃないから冒険しちゃいけないってことはいけないだろ。

 ふんふんと鼻歌混じりで洗面所へ向かった俺は、すぐに残酷な現実と向き合う事になる。

「蛇口に手が届かない、だと……っ」

 浴室から風呂椅子を引っ張り出しながら、とりあえず早急に身長か踏み台をください、とカミサマに祈っておいた。

「ロコ、起こしてくださいと私は言いました」

 何とか顔を洗ってタオルで拭いてると、珍しくプンプンといった雰囲気で主様が現れ、機械翻訳のような堅苦しい口調で怒りを示す。

「あー、ごめん」

 これから起こすつもりだった、と続けようとして、言いかけた言葉を飲み込んでへらっと笑っておく。

「人間の子供など、目を離したらすぐ死んでしまうんですから」

 やけに実感のこもった呟きと共に、伸びて来た主様のひやりとした手が俺の頬を包む。

「気をつけるよ。外では、主様の側からなるべく離れないようにするから」

「そうしてください。でないと……」

 そこで言葉を切った主様は、ぽやぽや微笑んで頬を包んでいた手を俺の首へと移動させる。

 ひやりとした手で、軽く輪を作って俺の首を包むようにする主様。

 え? 俺これ首締めフラグ建ってんの? と内心で慄いている俺を気にせず、主様はいつも通りぽやぽや笑って、俺の首から手を離してくれる。

「じゃあ、先にキッチン行ってるから、踏み台代理頼むなー」

 ひとまず首の無事は守られたようなので、顔洗ってこいよ、と主様へ声をかけて俺は一足先にキッチンへ向かう。

「そう言えば、洗濯どうしてるんだろ。洗濯機なんてある訳ないだろうし、主様が手洗い……はしないよな」

「それなら籠に入れておけば洗濯しておいてもらえます。一応、洗濯する魔具もありますが」

 昨夜脱いだ服を洗ってないことを思い出してポツリと洩らした呟きに、あっという間に顔を洗って追いついてきたらしい主様から答えが返ってくる。

「そっか、なら俺がしても……」

 たぶん洗濯機的な物だろうと思って言いかけた言葉を止めたのは、定期的に掃除を頼んでいる、という主様の言葉を思い出したからだ。

「もしかして、洗濯の方も掃除してくれてる人に頼んでるのか? 仕事、取らない方がいい?」

「大丈夫です。頼んでいるのは屋敷の管理全般ですから、ロコが色々しても仕事が無くなる事はないと」

「そっか、それもそうだよな。俺みたいな子供が出来ることなんて高が知れてるもんな」

 納得して安堵しかけた俺だったが、ふと今さらだが重大な事実に気付いてしまう。

 それは何かというと、俺は主様にきちんとここに住ませてくださいって頼んでないという事だ。

 これは有耶無耶にしといていいものではないし、意を決してはっきり口に出して頼もうと心を決める。


「えっと、主様、今さら言うのもなんだけどさ、フシロ団長来る前にきちんと言わないといけないと思って……」


 キッチンへと向かっていた足を止め、いざなると口ごもって余計な事を話し始めた俺に、隣で足を止めて見下ろしてくる主様の視線が鋭くなる。

 それに気付く事なく、俺は深呼吸をしてへらっと笑い、改まって本当に今さら過ぎる一言を口にしようと主様の宝石みたいに妖しく美しい瞳を真っ直ぐ見つめたのだが……。


「あの、俺を……こ……あ、れ……?」


 勢いをつけて言いかけた言葉は何故だか急な睡魔に襲われたような感覚で奪われ、意識は一気に闇へと引っ張られていく。

 目を閉じたのか見えなくなったのか、視界は真っ暗になり、もう自分が立っているのかすらわからなくなる中、主様が優しく俺の名前を呼んだ気がした

いつもありがとうございますm(_ _)m


何も考えてないようで、裏では色々考えてるだろ、と思わせて、何も考えずにジルヴァラより短絡的な行動に走る主様です。

なまじ、色々出来る能力がある分、タチが悪いです。

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