237話目
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手紙を書くのに使った道具を片付けていた俺は、珍しく不安そうな表情を浮かべて落ち着かない様子で外をちらちらと見ている主様に気付いて首を傾げる。
「どうかしたのか? ナハト様もイオも手紙の返事くれたよな?」
考えつく外の様子を気にする理由を口にしてみたが、主様の様子は変わらない。
何だったら、迷子になった子供のような頼りない表情で俺の方を見てきているぐらいだ。
「主様?」
心配になって足元まで小走りで駆け寄り、首を傾げて呼びかけると主様は何処か縋るように俺を見てくる。
「……ロコの手紙が返ってきません」
一瞬何事かと思ったが、その口から出たのは特に緊急事態でもない一言だったので俺はへらっと笑いながら、
「ちゃんと返してくれって、メモとか付けたのか?」
という当然なことを念の為訊ねてみたのだが……。
俺の言葉を聞いた途端、主様の目がカッと見張られて、さらに落ち着きがなくなってそわそわと外の様子を窺い始める。
「えぇと……もしかして本当に俺の手紙だけを送ったのか?」
主様の首が無言で縦に振られ、そわそわぽやぽやしていて見るからに忙しない。
「あれを読まれるのは、さすがの俺でもちょっと恥ずかしいなぁ」
魔力で手紙を送る際は、送り先の相手しか開けられなくなっているという話だから、あれを読めるのはアルマナさんだけだとしても、恥ずかしいものは恥ずかしい。
ズレているとは思っても一番先に気になったことが無意識にポロリと口から溢れてしまったのは仕方ないよな。
「大丈夫です。私しか開けられなくしましたから」
そわそわぽやぽやしていた主様は、そんな俺の言葉を聞き留めてドヤッとしてみせたが、こちらも気を使う部分を絶対に間違えてると思う。
「そこに気を使うなら、ちゃんと説明文も付けた方が良くないか? たぶんアルマナさんなら捨てたりしないでちゃんと送り返してくれるだろうけど、忙しい人だから後回しになるのは仕方ないよな……もういないけど」
一応そう言ってみた俺だったが、当然アルマナさんがあの手紙を捨てる訳ないとは思っていた。
しかし主様の方はというと、その可能性には気付いておらず、アルマナさんを信じきれなかったらしい。
呼び止める間すらなく、あっという間に飛んでいった後ろ姿を見送るしか出来なかった。
俺が「捨てたり〜」と言った辺りで顔色を変えて窓から外へと飛び出していった主様を。
●
[視点変更]
「返せ」
飛び込んで来て開口一番そう声を荒げて言い放った仏頂面のアイツに、ボクは呆れ切った眼差しを向ける。
「返せっておかしいだろ、お前が勝手に送りつけて来たくせに。ボクが盗った訳じゃない」
思わず至極真っ当な突っ込みをしてしまったが、返ってきたのは無言で青く燃える炎のような瞳だ。
慣れているボクですら一瞬怖気立ちそうな瞳を向けられる理由が、勝手に送りつけられた手紙のせいだとは。
「ったく、本気で入れ込んでるんだな」
呆れ半分感心半分でボヤきながら、ボクは放り投げてあった手紙を目線で示す。
「そこに置いてある。勝手に持ち帰ればいい」
ボクがそう言い終わると同時に、アイツは飛びつくように手紙を手にして、瞬く間すら惜しんでいるような速度で収納してしまう。
あまりの早業に目で追うことは出来なかったが、先程までのひりついていた様子がいつものふわふわとした掴み所のない雰囲気に変わったので間違いないだろう。
そのままボクに一瞥すらくれずに立ち去ろうとする背中に、ボクは思わず声をかけずにはいられなかった。
「あまり入れ込むなよ? ジルヴァラは、ボク達よりあっという間に老いて……」
だが、言いかけたボクは、弾かれたように振り返ったアイツの表情を見て後悔する。
何を考えてるかわからない、いつも微笑んでいるような白い面に浮かんでいたのは、付き合いの長いボクも初めて見る表情だ。
ボクは何も言えなくなり、苦笑いと共に言葉の続きを飲み込んで、今度こそ飛び去っていったアイツの背中を見送った。
「死んでも離さない……とでも言う気なのか、アイツは」
綺麗な言葉では飾れない強過ぎる執着を向けられる相手のことを思い出し、ボクは思わずそう呟いてしまったのだが……。
「ジルヴァラなら難なく受け入れてくれそうな気がするのは、ボクの希望的観測過ぎるか」
ボクの独り言に応える声は当然なく、ボクは大きくため息を吐いてぽりぽりと頬を搔き、減る気配のない書類の山へと向かうのだった。
●
明日、ナハト様とイオと遊ぶ約束が出来たため、俺は飛び出していった主様の帰宅を待ちながら、プリュイと明日皆で食べるおやつ作成に励んでいた。
プリュイは、主様が出かけていった理由を伝えると、何処か呆れた様子でふるふるとしていたが、特にコメントはなかった。
まぁ何か思っていても、主に向かって悪態は吐けないよな、プリュイの立場としては。
「プリュイのことは、俺が守るからな?」
オーブンの前でクッキーが焼けるのを待ちながら、俺は片付けをしてくれているプリュイにぎゅっとしがみついて決意表明をしておく。
以前プリュイを失った際のことを思い出してしまい、ちょっと涙目になっていたのは気付かれてないとは思うが、そろそろ主様も帰ってくるだろうし、プリュイのぷるぷるボディに顔を埋めて誤魔化しておく。
しっかりと埋めた顔の、目の辺りの部分だけがひんやりとしていたので、プリュイにはバレてしまっていたのかもしれないが、気遣いの出来る魔法人形なプリュイは何も言わないで俺を埋めさせておいてくれた。
そのままプリュイに埋まって癒やされて時間を潰していたのだが、クッキーが焼き上る前に、帰ってきた主様によって無言でプリュイから引き剥がされる。
「主様? 何かあったのか? あ、もしかしてアルマナさんに叱られたのか?」
いつもよりぼんやりとした表情で俺を抱き上げて見つめてくる主様に問を重ねていくが、答えは返ってこない。
瞬きすら忘れていそうなガン見をしてくる主様に、俺は困惑を隠せずへらっと笑いながら首を傾げてみせる。
「主様?」
「ロコ……」
やっと思い出したように瞬きを一つして紡がれたのは、俺の名前だったので俺は頷いて続きを促すように主様の瞳を見つめる。
「うん? 俺は、なに?」
「ロコはずっと私といてくれますよね?」
まるで幼子のような表情と声音で重々しく問いかけられ、俺はほんの少しだけ困惑しながらも迷うことなく頷く。
迷うような内容じゃなかったせいもあるが、それを口にした主様の表情が辛そうに見えたから。
主様は嬉しそうに蕩けるような微笑みを浮かべると、抱き上げていた俺をさらにぎゅっとキツく抱き締めてくる。
「ずっと一緒ですよ?」
耳元で囁かれる主様の声を聞きながら、これはアルマナさんにかなりキツく絞られたんだなぁと思って、俺は主様を抱き締め返してその背中をしばらくぽんぽんと叩き続けていた。
いつもありがとうございますm(_ _)m
もう少し、ほのぼの?回続きます。
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