235話目
お読みくださり、ありがとうございますm(_ _)m
「青い石……ですか?」
「そう、主様とプリュイの雪だるまの目にするから!」
意味がわからず首を傾げる主様に、俺は抱かれたまま体を反らせるようにして、並べてある雪だるまを指差す。
「私と魔法人形の……雪だるま? ですか?」
意味がわからなかったのか、主様が首を傾げると、綺麗な夕陽色がさらさらと流れていき、俺の目を奪う。
どうせならさらに主様っぽくするのにこの赤色も付け足したいけど、雪だるまの頭を赤くしてもスプラッターにしか見えないので諦めようと一人頷いていると、プリュイが触手の先で俺モデルの雪だるまをてちてちと叩いて、
「ジル、ジルの銀色モデス」
と、ふるふると気合を入れて訴えてくる。
「俺は別に……」
「ロコの雪だるま……もあるんですか?」
流そうとした俺の言葉を遮ったのは主様で、先程までとは違って興味を惹かれた様子で三つ並んだ雪だるまへ視線を向けている。
今さらながら、ちょっと子供っぽ過ぎるかなと恥ずかしくなってきたが、ここは開き直って紹介することにする。
「そう! 一番大きくて綺麗な形なのが主様、次に大きいのがプリュイで、真ん中にある小さめのが俺の雪だるまってこと。主様とプリュイのには目の所に青い石でも填めたくて、俺の方には一応銀色っぽい物でも入れたいと思ってさ。主様なら持ってそうだなって思ったんだけど……」
開き直ったつもりだったが、徐々に失速しながら主様の反応を窺うと、興味津々な様子でわざわざ片腕で俺を抱え直してから、俺の雪だるまこと小さめの雪だるまに指先でちょいちょいと触れている。
しばらくして満足したのか、楽しそうにぽやぽやした主様は雪だるまをちょいちょいしていた手を握り拳にして俺の目の前に突き出してくる。
意味がわからず首を傾げていると、笑みを含んだような柔らかい声音で「手を出して」と囁かれる。
それに従って手の甲を上にして両手を出すと、今度はそれを返すように指示をされたのでためらうことなく手の平を上にする。
それはちょうど何かを掬うような形となり、もしかして……と思っているとちょっとドヤッとした主様が、パッと握っていた手を開く。
「え? へ?」
少し予想していたとはいえ、そこからこぼれ落ちた複数の物体に、俺の口から間の抜けた声が洩れる。
せいぜい青っぽい鉱石的なのが出てくるかと思っていたのだが、出て来たのは綺麗な青色の……素人な俺が見てもわかるようなお高そうな宝石が四つ。
しかも、その四つ全てが大きめに作った雪だるまの目にしても違和感のないサイズの物だ。
「それならいいでしょう?」
「……ありがと。主様の目には負けるけど、綺麗な青色だな」
値段とか希少性とか諸々考えてしまったせいで棒読みになってしまったが主様は気にしてないようで、俺が填めやすいようにと雪だるまの頭の方へ体を持ち上げてくれている。
「じゃあ、まずは主様の雪だるまに目を填めて……次はプリュイの方へ、と」
主様は俺の作業に合わせて移動してくれたので、手を伸ばしたりもせず無事に雪だるま二つに目を付けられた。
「これで完成だな」
「いえ、まだです」
完成した雪だるまを眺めて呟いた俺の言葉に、否定する主様の言葉が続いて、俺の体は主様の腕からプリュイの腕の中へと移動させられる。
プリュイの腕の中から主様の様子を窺っていると、手の平に出した銀色の何かを一番小さな雪だるまにそっと填めていく。
まるで触れたら壊れそうな物を扱うような優しい手つきに、俺が触られた訳でもないのに、ぞわぞわしてしまった。
というか、よく考えれば触れたら壊れそうな物を扱うような──とか少女漫画みたいなこと考えてたけど、そもそも雪だるまなんだから下手に触れたら壊れるよな。
それもこれも主様が綺麗過ぎて絵になるから変なこと考えちゃうんだよなぁと見惚れていると、俺の雪だるまに目を填めた主様がこちらを振り返り、俺は再び主様の腕の中へ戻される。
「出来ました」
ドヤッとした主様の報告に、俺は改めて雪だるまの方を見る。
三体並んだ雪だるまには、色の違いはあれどそれぞれきらきらと輝く目が填まり、落ちかけている太陽の光を反射している。
一瞬だけ『盗まれたら』とか頭を過ったが、よく考えなくても庭は主様の結界内なんだから盗みを働くような人や動物は入れないのだ。
ある意味、その辺の金庫に入れてるより安全性は高いだろう。
雪が溶けたら回収出来るし、せいぜい劣化とかの心配ぐらいしとけば良さそうだが、それも主様なら気にしないと思う。
今は思いの外楽しかった雪だるま作りのことを、興味津々で雪だるまを眺めている主様へ話そうとしたのは良かったのだが……。
「これは?」
途中、手袋をしていても防ぎきれなかった冷気によって真っ赤になった手に主様が気付き、思いがけず雪並みに冷えた眼差しと一言を向けられる。
それは雪遊びではしゃぎ過ぎた結果なため、バツの悪さから俺が答えられずにいると、プリュイの触手が伸びて来て冷え切った俺の手を覆って温めてくれる。
「冷えタノデスね」
「ごめん、楽しくてはしゃぎ過ぎた。プリュイ、ありがと。もう大丈夫」
感覚が無くなりそうなほど冷えていた指先に熱が戻り、俺は気持ち良さから小さく息を吐いてへらっと笑って、謝罪とお礼を口にする。
意外と心配性な主様から、雪遊び禁止令とか出ないと良いけど。
そんな気持ちを込めてじっと主様を見つめていると、ため息を吐いた主様は俺を冷気から守るためかローブの中へとしまって、そのまま屋内へと向けて歩き出した。
「……このままお風呂で温まりましょう」
「はぁい」
特に異論はなかったので間延びした良い子な返事をすると、主様に頬を甘噛みされてしまった。
返事を間延びさせたのは良くなかったかもしれない。
内心で反省しているうちに、あれよあれよとお風呂の準備は進んでいき、相変わらずR指定なプリュイによる脱衣補助を受け、そのまま浴室の方へと触手で運ばれる。
そして俺は、髪は主様、体はプリュイ(触手)によって洗われて、流れ作業のようにあっという間に浴槽内で適温のお湯に浸かっていた。
もちろん……でもないが、浴槽内では主様の足の上に乗せられて、主様を背もたれにしてのんびりお湯に浸かる。
お湯の中で背後から伸びてきた主様の手は、先程まで赤くなっていた俺の手を隅々までしっかり確認している。
本当に意外と心配性なんだよな、主様。
「なぁ、主様の降らせてくれた雪って、しばらくは溶けないのか?」
主様の手がくすぐったいので、気を紛らわす意図も兼ねて、ふと思いついた話題を口にする。
「ええ」
自信に満ちたその答えを聞きながら、俺は今日出来なかったとある雪遊びのことを考えていた。
複数でするその遊びは、主様とプリュイを相手にやるのでもいいが、二人と俺だと実力が違い過ぎる上に、かなり手加減しないといけないので二人はあまり楽しくなさそうだ。
そう考えると、相手は俺と同年代……それか手加減が苦で無さそうな普通の人が良い。
すぐに思いついた人物達の顔を思い浮かべ、俺はお風呂から上がってから、主様へどう話をするか真剣に考える。
──その結果、久しぶりに湯当たりをしてしまい、夕ご飯も食べられずにベッドの住人となってしまったのは、かなりの計算外だった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
感想などなど反応ありがとうございます(。>﹏<。)反応いただけると嬉しいですし、同じ萌仲間がいると励みになります(^^)
誤字脱字報告も助かりますので、これからもよろしくです(*´∀`*)




