232話目
油断してるとグラグラ揺れますね。
まだまだ油断は禁物ですね(。>﹏<。)
「収納魔法を付与されてるから、あんなに長い剣を入れられたし、入れてても膨らまないんですね。どれぐらい入るんですか? 時間停止は? 主様みたいに時間停止付きで無制限?」
主様があわあわするというちょっとしたハプニングはあったが、改めて近寄って来たティエラさんから収納魔法の付与されているという袋を見せてもらった俺は、好奇心の赴くまま質問を繰り返す。
急くあまりぐいぐいと身を乗り出そうとしてしまっていたのか、腰に回されている主様の腕の拘束が強まる。
おかげでベッドから落ちずに済んでるので、そのままティエラさんをじっと見つめて答えを待つ。
「無制限とはいきませんが、かなりの量入りますし、時間停止も付いてます」
「すごい! だから、桃も腐らなかったんですね」
「そーそー。その袋があるおかげで、素材もいっぱい持ち帰ってこれるんだよぉ? あ、安物の付与だと入る量も少ないし、せいぜい時間遅延ぐらいの効果ぐらいしかないからねぇ」
パチパチと手を叩いて感心する俺に、シムーンさんがえへへーと笑って身振り付きで袋の有用性を説明してくれる。
「付与ってことは、アシュレーお姉さんも出来るんでしょうか?」
「……出来る、とは断定出来ません。かなり難しい技術と、とんでもなく貴重な素材が必要となるそうなので」
付与という単語に、共通の知人であるアシュレーお姉さんを引き合いに出すと、ティエラさんは少し困ったような笑顔を浮かべて言葉を濁す。
俺が訝しんでいると、リーダーであるエルドさんが近寄って来て、苦笑いしながら俺の頭を撫でてくれる。
「俺達は、偶然付与出来る技術を持つ方と知り合い、素材持ち込みで作ってもらったんだ。決して作り手を明かさない約束でな」
「……あぁ、そうなんですね」
その答えと笑顔で色々察した俺は、へらっと笑って大きく頷いておく。
ここで鈍感系なラノベの主人公なら『その知り合いってアシュレーなんだろ?』とか、ニカッと笑って思い切り訊いちゃうんだろうけど、俺は生憎と主人公ってガラではないので空気を読んでおいた。
「そういえば、森はどんな感じですか? その……オーガに、やられた所とか……」
話題を変えようと勢いで深く考えず口にした内容だったが、思い出さないようにしていた訳でもないのに口に出した瞬間、あの時のオーガの姿や血溜まり、襲われた時の恐怖が鮮やかに蘇り、カタカタと体が震え出す。
「ジルヴァラ?」
エルドさんを始め、森の守護者の面々が心配そうに見てきてるのもわかったが、一度震え出した体は自分で止められない。
「ぴゃぁ」
どうした? と起き上がったテーミアスまで心配そうに見上げてくるのに、いつも通りへらっと笑って応えたいのだが上手く笑えてる気がしない。
それでも心配させたくなくて何とか口を開こうとした俺は、背後から覆い被さるように抱き締めてくれた主様の腕の中に囚われる。
「ロコ」
それでも足りないとばかりに名前を呼ばれ、体の向きがくるりと変えられると、正面から主様と向き合う体勢になって、そのまま再度ぎゅっと抱き締められる。
「……大丈夫。私がいますから」
「ん」
ぽんぽんと背中を叩かれ、耳元で自信満々に嘯く大好きな声に頷き返すと、体の震えは現金なぐらいピタリと止まり、代わりという訳では無いが徐々に羞恥心が込み上げる。
「あ、あの、その……」
おずおずと顔を埋めていた主様の服から顔を上げて振り返ると、森の守護者の面々は表情の大小の変化の差はあれど、からかう様子なんて欠片もない心配そうな表情でこちらを見ている。
余計いたたまれなくなって、ひとまずもう一度主様の胸元に顔を埋めて軽く現実逃避をすることにした俺は悪くないよな?
●
現実逃避をしていても何も変わらないし、何よりまだ森の守護者の面々と話したかった俺は、気にしてない風を装ってへらっと笑いながら彼らと向き合っていた。
もちろん気になる話題は、最近の聖獣の森の様子だ。
背後からぎゅっと主様が包み込んでくれてるので、もうオーガという単語が出たって怖くない。
怖くないのだが、森の守護者の面々は気を使ってくれたらしく、オーガという単語が出ることなく、最近の森の様子を知ることが出来た。
それによると──、
『荒らされた泉の周りはすっかり元通り』
『熊が少しピリピリしているようだった』
『動物の数が減っている気がする』
という感じらしい。
白い大きな犬の姿は、ちらっと見たそうなのであちらも無事らしい。
熊がピリピリしているのは少し気になるが、減ってしまった動物はたぶん襲撃のせいだろうから徐々に回復するだろう。
熊が相当な強者だとわかったので、そこまで心配しなくとも良いのだろうが、あの森は俺の実家みたいなものなので気になってしまうのは当然だろう。
森の守護者の面々を見送った後、俺を抱えたまま玄関まで出て来てくれていた主様を振り返る。
主様は俺を見ていたようで、至近距離で宝石のような瞳と見つめ合うこと数秒、動いたのは主様だ。
主様は無言で俺の鼻先をかぷりと甘噛みし、満足げにぽやぽやしてから屋内へと向かって歩き出す。
機嫌も良さそうだし、お願い事をするなら今だなと一つ頷いた俺は、くいくいと主様の服を軽く引っ張っる。
こちらを向いたことを確認してから、へらっと笑って口を開いたのだが……。
「主様……あのさ、暖かくなってからで良いんだけど、今度聖獣の森に……」
言いかけた言葉は主様の口内に飲み込まれてしまい、俺は『お願い』を最後まで言わせてもらうことすら出来なかった。
無言になった主様によって運ばれた先は自室のベッドだったため、一人……と一匹で残されたベッドの上にぺたりと座り込み自嘲気味に笑って頬を掻く。
「んー、さすがに聖獣の森に連れてって欲しい……は我儘過ぎたか? 俺がもう少し大きくなれば、トレフォイルの三人みたいに依頼のついで、とかで一人でも行けると思うか?」
「ぢゅっ!」
「あはは。その時は付いてってやるから安心しろって? 森から離れて大丈夫なのか?」
「ぢゅぢゅぴゃ!」
「え? ロック鳥に乗せてもらえばあっという間だろ……って、いやいや、駄目だろ」
「ぴゃあ」
「俺に任せとけって言われてもなぁ」
「ぢゅっ!?」「うわ!?」
のんびりと会話に夢中になっていたら、お互い主様の接近に気付けなかったせいで、揃って驚きから声を上げてしまう。
まぁ、俺は突然背後から捕獲されたことによる驚きで、テーミアスは苦手な主様との急接近による驚きという違いはあったが。
「……どうしても行きたいと言うなら、私を倒していきなさい」
「え? なんで? なんで、そんな物騒な話になってるんだ?」
表情が見えなせいもあり、重々しさすら感じる主様の言葉に、俺は抱きしめられたままハテナマーク付きの言葉を繰り返すことしか出来なかった。
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