230話目
森の守護者か守護者の森か、たまに本気で悩んでます←
「ん……っ」
いつも通りの起床のつもりで目を開けた俺は、何となく頭が重く軽い頭痛までしてゆっくりと瞬きを繰り返す。
夜中に一回目が覚めた気もするが、そもそもいつ寝たか思い出せない。
覚えている最後の記憶は、アシュレーお姉さんとヘルツさんの息子であるファラドさんと会話してたとこ……のはず。
「なんで、あたまいたいんだろ?」
頭をぶつけて記憶を無くしたのかと、ぺたぺたと頭をあちこち触ってみるが、特に外傷は無さそうだ。
「……ロコ?」
寝転んだまま隣でジタバタしていたら、さすがに眠りの深い主様も起こしてしまったらしく、寝起きで掠れた声が俺の名前を呼ぶ。
「なんでもないよ?」
もうちょい寝ててという意味を込めて、手を伸ばしてぽんぽんと主様の体を叩くが、主様には通じなかったらしい。
「何処か痛みますか? 奴らに何かされたんですか?」
ガバリと体を起こした主様は寝転んだままの俺のあちこちに触れながら、ぽやぽやとしながらも心配そうに矢継ぎ早に問いかけてくる。
「ふぇ? やつら……?」
寝起きでまだぼんやりとした俺は、問いの意味がわからず主様の言葉を反芻しながら瞬きを繰り返す。
「昨日の……」
主様からそこまで言われてやっと思い至った俺は、ふるふると首を横に振るが、そのせいでズキズキと走った頭の痛みに思わず額を押さえる。
「ロコ、頭が痛むんですか?」
途端に顔色を悪くした主様がゼロ距離で顔を覗き込んでくるので、今度はへらっと笑って控えめに首を横に振る。
「だいじょうぶ。ちょっといたいだけ」
やたらと喉が渇いているせいか若干発音が怪しく、甘えてるみたいな喋り方になるのが恥ずかしくて目を伏せてると、ひんやりとした感触がちょいちょいと頬に触れる。
目だけを動かしてそちらを見ると、青い半透明なロープ……ではなく伸びてきたプリュイが水の入ったコップを持って待機していて、思わず笑ってしまった。
「ありがと、プリュイ」
主様の手を借りて……というかほぼ抱き起こされるようにして上体を起こした俺は、プリュイ(触手)からコップを受け取って程よく冷えた水をゆっくりと味わうようにして飲み干す。
「ごちそうさま。お代わりは大丈夫だよ」
喉が潤ったおかげで声もさっきよりしっかりと出た気がする。
「あー、なんか思い出してきた」
ファラドさんから貰ったカップケーキを食べたら、ふわふわして……そこから覚えていない。
齧りつく寸前に香ったのはよくよく思い出してみれば、前世でたまに食べていたラムレーズン入りのあのチョコレートの香りだ。
という訳で、
「俺、酔っ払って寝ちゃったんだな」
と、状況確認するために口に出すと、プリュイが触手で丸を作って肯定してくれる。
器用だなぁと思いながら、プリュイの触手が作った丸と戯れていると、背後から覆い被さるように主様が抱きついてくる。
「今日のロコは外出禁止です」
「えー」
主様の表情は見えないが軽い口調だったので、俺も冗談めかせて答えたのだが、お気に召さなかったらしい。
巻き付いていた腕がぎゅっと力を増し、逃すものかと言わんばかりだ。
「わかったから、トイレぐらい行かせてくれよ。あと、お腹空いた」
「……私が連れていきます」
俺の言葉にこくりと頷いた主様は、俺を抱え上げたままトイレへと向かうつもりらしい。
「一人で大丈夫」
「駄目です」
このやり取りを数回繰り返し、結局トイレの前まで運んでもらう……で、用を足したらそのままベッドへ戻るという条件で、俺はやっと一人でトイレへと入らせてもらえた。
前も思ったけど、主様に抱っこされて用を足すって、どんな羞恥プレイだよ。俺は恥ずか死ぬよ、きっと。
お腹は空いてたけど、リアルに想像してしまったせいで色んな感情に襲われて疲れ果てた俺は、甘やかすように抱き締めてくる主様の腕に誘われて、そのまま二度寝を決め込むことにした。
今日は特に予定がないからな。
●
俺が主様の腕の中でのとろとろな二度寝から目覚めたのは、太陽が頂点から少し降り始めた頃だ。
あまりに寝過ぎたことに、しばらく呆然したが、眠る俺をずっと眺めていたらしい主様が上機嫌にぽやぽやしていたのでどうでも良くなった。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「もういいんですか?」
もう一度、二度寝前と同じやり取りを繰り返してトイレ行って、そのままベッドに戻されて食事……ちなみにだが、主様の寝室の方ではなく俺の部屋のベッドの上で食べることになり、俺はあぐらをかいた主様の足の上に乗せられて、雛鳥よろしくご飯を食べさせてもらっていたのだが。
俺が美味しく食べた、色んな屋台を巡って買ってくれたであろう食べ物を用意するのは、朝から俺にべったりな主様にはさすがに無理……何とか出来そうでもあるけど。
じゃあ誰が買ってきてくれた物かと言うと、答えとなる人物達はプリュイが用意してくれたテーブルでお茶を飲みながら、俺の食事を風景を眺めていたりする。
それは、
「口にあったようで良かった」
そう言って笑う無骨ながら優しい目つきのリーダー、エルドさん。
「たくさん食べて、明日にはベッドから出られると良いですね」
俺が具合が悪くてベッドから出られないと思ってるのか、優しく微笑んでそんな言葉をかけてくれるティエラさん。
「え? 体調不良なの〜? ぼくはてっきり幻日サマとあは……ぐふぬ……っ」
ゆるーく何か失言しそうになって、ティエラさんから物理的に黙らされているシムーンさん。
「……良かった」
ボソッと単語で喋って、微かに笑うルフトさん。無言でお土産までくれた。
こんな感じに個性的な森の守護者の面々だ。
昨日俺が会いたがっていたのを冒険者ギルドで聞いて、差し入れを持ってわざわざ会いに来てくれたのだ。
森の守護者のおかげで俺は遅めだが美味しい昼ご飯……朝も食べてないからブランチを食べることが出来た。
量が多かったので、主様が食べても余ってしまったので、残りは主様に収納してもらった。
森の守護者の皆にも食べてもらおうと思ったけど、四人はガッツリ昼ご飯を食べてきたそうなので、遠慮なく俺と主様で食べさせてもらった。その結果、余ったのだ。
「あ、ドライフルーツだ! ありがとうございます、おいしそう。……ルフトさん、これテーミアスにも分けてあげていいですか?」
ルフトさんが表情を変えずこちらを期待に満ちた目で見ているため、ルフトさんから貰ったお土産を早速開けた俺は、中に入っていた美味しそうなドライフルーツを見て思わず声を上げる。
で、その美味しそうなドライフルーツを前に、姿は見えないが何処かにいるであろう小さな友人を思い出して、贈り主であるルフトさんに一応許可を求める。
人によっては「俺の買ってきた物を動物に?」とか不快になるかもしれないし。
「……?」
少し不思議そうに瞬きを繰り返されたが、嫌そうな表情はせずルフトさんはこくりと頷いてくれる。
「ありがとうございます。……ほら、ドライフルーツ食べるだろ?」
へらっと笑った俺は、手の平にドライフルーツを乗せてテーミアスを呼ぶ。
主様は我関せずで俺を膝上に乗せて後頭部辺りに顔を埋めてぽやぽやしてるが、森の守護者の面々は俺の行動を不思議そうに見てくる。
これで何も出て来なかったら大笑いだが、テーミアスはちゃんと飛んできてくれて、俺の手の平に着地して即座にドライフルーツを食べ始める。
警戒心とかはないんだろうか。
まぁ、俺が変な物食わせないって信頼してくれてるんだろ。
「ぢゅっ」
まあまあだなと失礼な感想を洩らすテーミアスに、反射的に俺は申し訳なくなってルフトさんの方を見やって驚いてしまった。
「どうしたんですか?」
森の守護者の面々はそれぞれ驚きの大小はあれど、揃って驚いた様子でこちらを見ていたのだ。
「あー、もしかしてお前、見えなくなってたのか」
俺はちょうど見ていなかったが、見方によっては何も無い場所から小動物が飛び出したように見えたんだろう。
「ひゃ?」
何言ってんだ? と首を傾げるテーミアスは、自分が姿を消してるなんて当然だろ、と言いたいのだろう。
肩の上の方がゆっくり出来るからとテーミアスが俺の肩の上へ移動すると、森の守護者の面々の視線も一緒に肩の上へ移動する。
「……ぴゃ」
森の守護者の面々の視線に首を傾げていた俺だったが、肩の上に移動したテーミアスがすぐ嫌そうに一鳴きして俺の膝上に移動してきたことに首を傾げる。
「どうした?」
「ぢゅー、ぢゅぢゅ!」
問いかける俺に、わかりやすくご立腹なテーミアスから返ってきたのは、身振りつきの文句だ。
振り回された小さな前足が指差しているのは、俺の後頭部に顔を埋めている主様だ。
そういえばテーミアスは主様が苦手だったなと思い出して、俺は膝上で腹立たしげにドライフルーツを食べるテーミアスを宥めるためにその小さな頭を撫でておいた。
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