229話目
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今回は他者視点の話となります。
ジルヴァラは添え物ぐらいで。
冒険者カードを、冒険者証って名付けたことを今になって後悔中。
後でまとめて直してるかもしれません←
[視点変更]
ジルちゃんに迷惑をかけた相手に、ジルちゃんの実力と心根の良さを見せつけられて内心で「ざまぁ」と思っていたアタシだったけれど、もう一人の元凶は大きな罪にならなそうで正直腹立たしい。
ジルちゃん本人が気にしていないから余計に腹立たしいけれど、無駄な報復はジルちゃんが望まないから、さっきの一発だけで我慢しておくかしら────アタシは、ね。
雷獣の巣からの罰がどの程度になるかはわからないけれど、拠点にしている街は追い出されるだろうし、王都……下手すればこの国での冒険者活動はやりにくくなって無理かもしれない。
雷獣の巣の影響力は、この国ではなかなかに大きいもの。
ほんの一欠片だけの同情心で件の男を見ていたアタシは、お腹の虫を可愛らしく鳴かせて照れ臭そうなジルちゃんを見てたら癒やされてどうでも良くなった。
生憎とアタシはジルちゃんにあげられるような食べ物を持ってないから、エジリンから巻き上げようかしらと思っていたら、雷獣の巣のリーダーの息子であり、サブリーダーでもあり、裏向き担当なファラドが笑顔でジルちゃんに食べ物を渡してくれ、アタシもつられて笑顔になる。
ファラドと実際に会うのは初めてだけど、お互いどんな人間かは知っていたので特に警戒せず、嬉しそうにカップケーキを手にするジルちゃんを眺め──アタシは見逃してしまった。
それに気付けたのは、可愛らしく大きな口を開けてカップケーキに齧りついたジルちゃんが、目をとろんとさせてふにゃふにゃと笑い出した時。
「……ジル?」
明らかに様子のおかしくなったジルちゃんに、ファラドが慌ててジルちゃんの名前を呼ぶのを聞きながら、アタシはジルちゃんの手から食べかけのカップケーキを取り上げて匂いを嗅ぐ。
その間にも、ふにゃふにゃと笑ったジルちゃんが「あしゅれーおねしゃん」と舌足らずにアタシを呼んで来て、ちょっと新しい扉を開けそうだった。
それはさておき、カップケーキを欲しがって抱きついてきたジルちゃんを支えながら、アタシは何が起きたか理解出来てないらしいファラドを睨む。
「これ、何処のお店でもらったのかしら?」
「いや、ちゃんとした店だが……」
そう言ってファラドが上げた店の名は、人気のあるお菓子の店だけど、一つだけ気を付けないといけない点があるお店だった。
「そこのお店、ほとんどのお菓子にお酒入ってるのは知ってるかしら? このカップケーキに入ってるのも、たぶんただの干しブドウじゃなくて、お酒に漬け込んだ物ね」
「いや、でもそれぐらいなら……」
弱々しく反論したファラドに、ふにゃふにゃになったジルちゃんを抱き上げて見せる。
「ジルちゃんは見ての通りまだ小さいのよ。見たところ、ただ酔っ払ってるだけみたいで良かったわ。……ジルちゃん、気持ち悪いとかあるかしら?」
さらに申し訳なさそうな表情になったファラドを無視し、抱き上げたジルちゃんに訊ねると蕩けるような笑顔付きの「らいじょぶ!」という心配になるぐらい可愛らしい答えが返ってきたので、アタシはエジリンを呼びつけて子供用の外套を用意してもらう。
そうこうしている内に報酬の用意が終わったとネペンテスが言いに来た。
ジルちゃんがこんな状況なのでそのままギルド預かりにしてもらった。
代わりに受け取っても良かったのだけれど。
ネペンテスは心配そうにしていたけれど、アタシがエジリンから受け取った外套でジルちゃんを包んで隠し、自宅まで送り届けると伝えると安心した様子で「ジルヴァラくんをお願いしますね」と言って仕事へ戻っていく。
ファラドもこちらへついてきたそうにしてたのを、アタシはジルちゃんへ憎悪の視線を向けている男をちらりと見てから、ファラドへニッコリと笑ってみせて止める。
「……わかった」
察してくれたらしくフッと笑ったファラドは、肩を竦めて剣の柄へ触れて、こちらを睨む男を無理矢理歩かせて部屋から出て行こうとする。
そこへ、
「いつでもあいてになるぜ!」
とジルちゃんの可愛らしい台詞がかけられる。
励ますつもりだったのか別の相手に言ったつもりなのか、酔っ払ってるふにゃふにゃなジルちゃんの思考はわからないけど、男は煽られたと思ったらしく、こちらを睨む視線はさらに不穏さを増す。
ふにゃふにゃで舌足らずなジルちゃんの台詞でキレるなんて、本当に大人げない。
そもそも自分で受けた依頼を達成出来ないからといって、誰かに押しつけようなんて……反吐が出そう。
「……行くぞ」
苦笑いしてため息を吐いたファラドは、今度こそ男を連れて部屋を出ていき、残されたのはふにゃふにゃなジルちゃんとアタシだけ。
とりあえず、今のアタシの優先事項はこの可愛らしい酔っぱらいジルちゃんを、何事もなく『最凶』の保護者の元へ送り届けること。
エジリンから「裏口へどうぞ」と有り難い言葉をもらっていたため、目立たないよう裏口から出てしばらく進んだところで、アタシはため息を吐く。
アタシがA級冒険者だと知らなかったのかしらと小一時間訊ねたくなるお粗末な尾行に、思わずうふふと声に出して笑うと、ふにゃふにゃジルちゃんも腕の中で楽しそうに笑って、別に意味でヤられそうになる。
万が一しかけてくる来たなら。
「ぶちのめす大義名分になるのだけれど……」
思わず殺気が洩れてしまったのか、お粗末な尾行は途中で消えてしまい、アタシはあら残念と内心で呟く。
「アタシにぶちのめされておけば、体ぐらいは残ったかもしれないのにねぇ」
視界の端を通った赤色に口の端を上げて嗤うアタシの呟きは、腕の中でうとうとし始めたジルちゃんには聞こえなかっただろう。
その後は何事もなくジルちゃんのお宅へ辿り着いたアタシは、出迎えてくれた主人より優秀な魔法人形へ事情を説明してふにゃふにゃのジルちゃんを預ける。
「ぷりゅー! たらいまー」
魔法人形に気付き、満面の笑顔で幼児退行したような挨拶をするジルちゃんは、鼻血が出そうなぐらい可愛かった。
名残惜しいけど帰ろうとすると、寂しがったジルちゃんに潤んだ目で見つめられて──あれを振り切って帰るのは、A級の任務並みにかなりの難易度だったかもしれない。
「あしゅれーおねぇしゃん、ありあと!」
うるうるしながら手を振るジルちゃんは、とても可愛かったから今日一日の疲れは吹っ飛んだとだけ言っておこうかしら。
●
[視点変更]
問題児集団がまた問題を起こしたと冒険者ギルドへ呼び出された私は、彼らがしでかしたことを聞いて頭痛を覚える。
しかも、その罪を同行を頼んだだけの幼い少女へ全て押しつけようとしたとは。
もうため息しか出ない。
パーティーから追放は決定だろうが、こんな奴らを野放しにして良いものかと、私の心の中から暗い思いがゆらりと湧き上がる。
それを押し止めたのは、父が以前野営地で会ったと話していた『ジルぼうず』と呼んで、うちの娘の次に可愛かったと酔う度に宣っていた少年の真っ直ぐな銀の目だ。
とりあえず、もう一回だけやり直す機会を──と思いかけた私の耳へ聞こえてきたのは、一部屋に押し込めた彼らの口汚く繰り返される怨嗟の言葉、そして、
「あのガキ、痛い目に遭わせて……いや、見た目は悪くねぇんだ。捕まえて、金持ちに売りつけるか」
という、もうどうしようないとしか感想の出ない発言。それを誰も止めることなく笑い声混じりで同意する言葉しか聞こえず、私の微かな慈悲の心は綺麗サッパリ消え去った。
さすがに冒険者ギルドの中で事を起こす訳にはいかず、こういう時だけは動きの早い彼らがジルを追うため動き出した後を追う。
「あの気持ち悪い喋り方の奴と一緒だろうがどうする?」
「あんなもん、一発ぶん殴ればおとなしくしてるだろ」
そんな頭の悪い会話が漏れ聞こえ、私はまた頭痛を覚えてしまい、頭を抱えたくなる。
どうしてあんな強者に勝てると思い込めるのか、逆に感心する。
あの彼が遅れをとるとは思えないが、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。
接触する前に──と足を早めた私の目の前で、ちょうど路地の曲がり角で彼らが視界から完全に見えなくなった時だ。
時間にしてほんの数秒。
その間に全ては終わっていたらしい。
曲がり角を曲がった先に広がっていたのは、色々慣れている私ですら思わず目を背けたくなるような凄惨な光景だ。
悲鳴を上げる間もなかったのか、そこには切断されて物言わぬ肉塊となった『彼らだったモノ』がゴロゴロと転がっていた。
てらてらと輝く切断面からは、思い出したように血が流れ出し、むせ返りそうな鉄錆びた臭いが辺りへ漂う。
意識を無くす直前彼らは何を見たのか、転がった数個の首は全て恐怖の表情で固まっている。
「一体、何が……」
一瞬だけ、先程まで共にいたあの独特な喋り方をするA級冒険者の笑顔が脳裏を過ったが、ジルを抱えていた彼には時間的にこの殺し方は無理だろう。
ジルを抱えていないのなら、もしかしたら出来たかもしれないが、それでもやはり時間的に無理か。
私が彼らから目を離したのは、ほんの数秒だ。
混乱する中、冷静な自分がそんな推察をし、死体の始末をどうするかと考え始めている。
どうせ家族にも鼻つまみ者扱いだった集団だ。
持ち帰られなくとも冒険者証さえあれば問題無い。
そんなことを私が考えたせいではなないだろうが、彼らの死体が突然燃え出す。
しかも、通常見る赤い炎ではなく、青く澄んだような不思議な炎だ。
不思議な炎は、確かな熱は感じるというのに、周囲を全く焦がすことなく、彼らの死体だけを燃やし尽くす。
後に残ったのは、まるで謀ったように地面に残された人数分の冒険者証のみ。
全く焦げた様子のないソレを私が拾い上げていると、不意に背筋へ悪寒が走る。
生存本能の命ずるまま、バッと視線を向けた先にいたのは──屋根の上に佇む鮮烈な赤色の持ち主。
身動ぎ一つ出来ずその存在感溢れる姿から目が離せないでいると、赤色の持ち主は私をちらりとだけ見て、興味を失った様子で飛び去ってしまった。
「……あれが幻日」
思いがけず父が毛嫌いする相手とさらに思いがけない遭遇をした私は、脱力しそうになる足に力を込め、拾い上げた証をポケットへしまって歩き出す。
まるで何事もなかったように、一度も振り返ることはしなかった。
──流れた血すら蒸発し、実際『そこ』には焦げ跡一つ残されていないのだから。
今になって震え出した手をポケットへ入れて誤魔化しながら、あれを目の前にして色々文句を言って喧嘩を売ったという父の話を思い出し、今さらながら尊敬の念を覚えてしまった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
誤字報告助かります!(。>﹏<。)
あれ、おんなじ間違いを別の箇所でしてて、自分で見つけて直したんですが、まさかここでも間違えてたとは(*ノω・*)テヘ
だから、予測変換の一番があの字だったのかとふと気付く。
という訳で、感想などなど誤字脱字報告等含めて反応ありがとうございます!
反応いただけると嬉しいです(^^)誤字脱字報告助かります!




