227話目
なんて短絡思考って感じでしょうが、成功しちゃったことがあったりしたんでしょうねぇ。
「通りで明らかに系統の違う依頼が混ざっていた訳ね。──手癖の悪い子にはお仕置きが必要かしら」
うふふと笑い声混じりのアシュレーお姉さんの声に何故かボキボキと不穏な音が混じって聞こえ、ヒロインちゃんと一緒にいた冒険者の男の方から「ひぃっ!」という悲鳴のような声が聞こえる。
そこにノックの音と共に新たな人物が部屋へ入って来て、悲鳴を上げていた冒険者の男の表情があからさまにホッとしたので、あちら側の関係者のようだ。
けど、ネペンテスさんの眉がキュッとなったし、入室許可の声をかけられる前に入って来てる時点で、ちょっとなぁと思ってしまったのはあの冒険者の男の心象の悪さのせいか。
ノックに関して、某主様とか某ギルドマスターは、どちらも人外と軽く人外なので除外しておく。
「うちのメンバーがすまないね」
キラキラとした笑顔で入って来てネペンテスさんへ話しかけ始めたのは、いかにも女の子にモテそうな金髪イケメンだ。見た目年齢は主様より少し年上っぽくて、大人な魅力がある。
俺を後ろからぎゅっとしてくれたアシュレーお姉さんの方がイケメンだけど!
内心でふふんと勝ち誇っていると、ネペンテスさんへ話しかけても反応が芳しくなかったらしく、金髪イケメンがこちらを見る。
たぶん俺ではなくアシュレーお姉さんを見てるんだろうなぁと見てたら、ばっちりと目が合ってしまった。
「おや。男を誑かして悪事を働かせる上、礼儀知らずで吠えるばかりのさ……じゃじゃ馬だと聞いていたが、ずいぶんと可愛らしい……」
俺を見てスッと目を細めた金髪イケメンから、意外なことに誉め言葉みたいな感想をもらったが、その前に俺の噂みたいなことを口にしていたのが気になる。
「あまり見ないでくれる? ジルちゃんが減るわ」
「俺、男を誑かして悪事を働かせ、礼儀知らずで吠えるばかりですか……?」
金髪イケメンの視線から抱き締めて庇ってくれているアシュレーお姉さんにおずおずと訊ねると、ぶんぶんと首を横に振られる。
「違うわよ。一体、何処のどいつがそんな妄言流してるの? アタシが粉砕してあげるわ」
その場合粉砕されるのは妄言なのか、その妄言を吐いている人なのか。どちらもありえそうで怖い。
「……白っぽい髪に金の目だとも聞いていたが、ついに情報すらきちんと伝えられなくなったのか?」
俺がアシュレーお姉さんの粉砕するブツについて考えている間に、金髪イケメンは腰を抜かして空気になっていた仲間だという冒険者の男に笑顔で話しかけている。
いわゆる目が笑ってない笑顔ってやつで。
「あのー、口を挟みたくはないのですが、こちらは被害者側にあたるジルヴァラくんで、あなたが先程から言ってるのはもう一人の特例冒険者のスリジエだと……」
関わりたくないので無言を貫いていたら、話が進まないのでネペンテスさんが口を挟んで説明をしてくれて、俺もそれで得心がいった。
ネペンテスさんの言葉に、スッと目を細めた金髪イケメンは、縮こまってガクブルしている冒険者の男へツカツカと歩み寄り、顔を近づけて矢継ぎ早に問いを重ねていく。
「──そのスリジエという冒険者は何処に?」
「自分は関係ない、あなた達が勝手にやったんじゃない、あなた達が責任取りなさいよ、と一方的に怒鳴り、最終的に、甘やかされてるもう一人が悪いのよ、と叫んで……」
「そのまま逃げられたと?」
「はい……まさか、逃げるとは思わず……しかも連れていった先では、かすり傷すらまともに癒せず、汚い疲れたモンスター怖いと騒ぎまくるせいで標的には逃げられ余計なモンスターばかり寄ってきてしまい……」
「……見る目がなかったようだな。相手が幼い子な時点で誘うのを止めるべきだ」
「すみません……。あまりにも自信満々だったので……」
「見た目だけは可愛らしいという話だから、どうせ皆鼻の下を伸ばしてたのだろう?」
「…………はい」
「それで? それがどうしてその野猿みたいな子の分の採集依頼を、そちらの子の分へ混ぜるような事態になる?」
俺達が聞きたかったことを金髪イケメンがどんどん訊いてくれているので、俺達はすっかり空気になって二人のやり取りを見つめるのみだ。
もう冒険者の男の方は縮こまって半泣きで、今にも土下座でもしそうな勢いだが金髪イケメンの追及の手は全く弱まらない。
「その……スリジエに面倒なの嫌と甘えられて、そっちにたくさんあるんだから一つぐらい面倒なの押しつけてもバレないわよ、と言われて……」
言外にヒロインちゃんが言うから〜的な感じがするな、と思った俺だったが、金髪イケメンも同じ感想を抱いたらしい。
「お前達はそれをほいほいと実行したと、と? その野猿みたいな少女のせいにしたいようだが、お前達も同罪だ。いや、向こうがまだ幼いというならお前達の方が罪が重い。何故、諌めるのではなく同調した? まさか──」
笑顔で凄む金髪イケメンに、冒険者の男の喉からヒッという悲鳴のような声が洩れる。
そこで俺を抱き締めてるアシュレーお姉さんから「そういうこと」と小さく呟く声がして、俺はアシュレーお姉さんを振り返る。
「アシュレーお姉さん?」
訝しんで名前を呼んだ俺に、アシュレーお姉さんは唇の前に人差し指を当てて、色っぽい仕草で俺の次の言葉を止める。
「……ねぇ、ネペンテス。これ、今日のジルちゃんの依頼に混ざってたんだけど、ここの冒険者ギルドの物じゃないわよね?」
いつの間に抜き取っていたのか、微笑むアシュレーお姉さんが持っていたのは、あの塩漬け依頼っぽい一枚だけ紙の質が明らかに違う上、期限が明日だったという急ぎの採集依頼だ。
「え? ええ、確かに、これはうちのギルドの依頼書ではないわね、うちのギルドマスターの印がないもの。でも、アシュレーさんも知ってると思うけど、冒険者ギルド同士横の繋がりはあるから、うちでの納品報告でももちろん構わないわ──って、混ざってたということはまさかこの依頼書も?」
「ええ。あなたの思ってる通りだと思うわよ」
紙の質が違ったのはそもそも塩漬け依頼とかじゃなくて冒険者ギルドの違いもあったのか、と俺が一人で納得している上で、アシュレーお姉さんとネペンテスさんが意味有りげな視線を交わし、尋問を受けている冒険者の男の方を揃って見る。
「──どうやら、その野猿みたいな少女のせい、だけと言い切るには厳しくなったようだな。すまない、その依頼書を私にも見せてくれないか」
その視線に気付いたのかそもそも話が聞こえていたのか、金髪イケメンが近寄って来てニコニコとしながら手を出すと、
「ええ、どうぞ」
と、ネペンテスさんが笑顔で依頼書を差し出す。
受け取ってそれを眺める金髪イケメンを見ながら、冒険者の男はガクブルガクブル状態だ。
「……これはうちのパーティーが拠点としている街の冒険者ギルドのものだな。しかも……この依頼は、かなり報酬は良いが達成条件の難易度の高さから手を出さないということにパーティー方針でなっていた依頼のはずだが?」
ツカツカツカと良い足音を立てて冒険者の元へと戻った金髪イケメンは、笑顔のまま手にしている依頼書を冒険者の男の目の前へ突きつける。
「す、すみません! たかが動物一匹捕まえて、ギルド職員の前で少し毛を毟って提出すれば良いなんて楽な依頼、逃すなんて勿体無くて俺達で勝手に受けて……」
「報酬を全部懐へ入れる気だった、か?」
「…………はい」
「他の面子は?」
「……連れてかれました」
冒険者の男の言葉を聞いた金髪イケメンは、ちらりとネペンテスさんの方を見る。
「他の方々は一緒にしておくと騒ぐので、別室にて待機してもらってるわ。リーダー格らしいんで、この人だけ残って話を聞こうと思ってたところよ」
仕事の出来る女へ変身というか戻り済みのネペンテスさんは、ハキハキとそう答えてニッコリと金髪イケメンへ笑顔を向けている。
男へ媚びるようなものではなく、明らかな業務用の。
甘さの欠片もないネペンテスさんの笑顔に、金髪イケメンは苦笑いしてため息を吐く。
「この依頼は私が取り消し処理を……」
「それが……ジルヴァラくんは全てまとめて受けるという書類に署名してるので、それが出来ないのよ」
「……あぁ、そうか。ここのギルドマスターは特殊な人物だったな。全ての書類には、魔法で処理がなされているから不正は出来ない。野猿みたいな子が混ぜたのは、本人が受けると署名する前の物だったからすり抜けた……という感じだな」
「それに関しては、あたしの目が行き届かず、本当にごめんなさい、ジルヴァラくん」
重々しい表情で会話する二人を横目に、俺は慌てる様子もなく微笑んでいるアシュレーお姉さんを振り仰いで首を傾げる。
「依頼不達成だと罰則があるんですよね」
「そうねぇ。そうしないと、自分の実力に合わない依頼ほいほいと受けちゃう子もいるし、色々問題があるのよ。今回の場合なら、ポイントの減少か罰金かしら」
「あ、あの! ジルヴァラくん、今回の件はあたしのせいでもあるから、罰金はあたしに……」
「いや、うちの管理不届きだ。私がこいつらから……」
呑気な俺達の会話に、重々しい表情で会話をしていた二人が入って来て、二人揃ってしゃがんで俺と目線を合わせて自ら罰金を払おうとしてくれる。
なんかだんだん言い出しづらくなって、思わずアシュレーお姉さんを振り返る。
アシュレーお姉さんは、俺の視線を受けて微笑んで、代わりに説明してくれ──、
「なんで俺らが罰金を払わないといけないんですか!? 混ぜたのは確かに俺らですが、そのガキがサインをして──」
ようとしたのに、冒険者の男が割り込んで来た。
俺の依頼に色々してくれたのも、元を辿ればお金欲しさに難しい依頼へ手を出したけど結局無理で、それを押しつけた訳だし、金にがめついかもしれない。
もしかしたらだけど、ヒロインちゃんを誘ったのも、ヒロインちゃんを上手く誘導して件の依頼を押しつけるつもりだったんじゃないだろうか。
今のヒロインちゃんは、覚醒前だからそこまで強くはないから誘ううま味なんてないだろうし。
そんなことをぼんやりと考えながら、俺はアシュレーお姉さんから鉄拳制裁を受けて床へ沈んだ冒険者の男の姿を遠い目で眺めていた。
「あ゛ぁ゛?」
うん、アシュレーお姉さんつおいなぁ。
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一話辺りの分量配分が難しい。




