225話目
新生ネペンテスさん。属性、ただの子供好きの世話焼きお姉さん。
なので、ヒロインちゃんにも変わらず接する予定ですが……。
「まずは……ごめんなさい。言い訳になってしまうけど、しばらく前から何だか、あたしおかしいというか、上手くあたしとして振る舞えないというか……とりあえず、上手くジルヴァラくんを心配してるの伝えられず、何だか喧嘩腰に絡むみたいだったでしょう?」
本人も言葉通りわかってないのか、妙な言い回しながらも謝りたいという気持ちは伝わってきたので、俺が答えようとすると……。
その前に、ニコリと微笑んだアシュレーお姉さんから、
「ええ、とてもウザかったわ」
という、簡潔ながらグサッと刺さるであろう感想が放たれる。
「あー、もー、本当にごめんなさい! 今思い出しても、恥ずかしくて身悶えしたくなるわ。いくら、ジルヴァラくんが小さくて可愛らしくて心配だからって、あんな言い方をしたらウザいのは自分でもわかってたのに……」
頭を抱えて、文字通り身悶えしそうなネペンテスさんの様子に、俺は不意に先日のトルメンタ様のことを思い出してアシュレーお姉さんを振り仰ぐ。
「アシュレーお姉さん……もしかして」
「どうかしら。でも、それに近しい雰囲気は感じるわね、本人の言葉を信じるなら、だけど」
「エジリンさん達も少しだけ違和感あったみたいだし、すごーくよわーくかけられてたとか?」
「それか、とても巧妙に……そうすると、どちらというと魅了に近いのかしら」
察しの良いアシュレーお姉さんと小声で会話していると、アシュレーお姉さんから『魅了』という単語が出て来る。
魅了されてるというと、前世の知識で『相手へ惚れ込んでる』みたいな意味かと思うけど、アシュレーお姉さんがここで引き合いに出したってことは、ファンタジー世界の魅了ってことで『チャーム』的なやつなんだろう。
「ただ誰かに惚れていて、呆れたから正気に戻っただけの可能性もあるのよねぇ」
「あ、なら、こうすれば……。──ネペンテスさん、これお守りなんだけど、着けてると頭がスッキリする……みたいなやつだから、良かったら使ってみてください。俺も今のネペンテスさんなら話しやすいし、前みたいにウザ……絡まれるのは嫌なんで」
アシュレーお姉さんとの小声での会話から思いついたことを実行するため、俺は居心地悪そうにしているネペンテスさんへ、シンプルな金属製トップの付いたストラップを差し出す。
自分で言ってて怪しさ満点だが、そこは見た目幼児の愛嬌でカバーしようと、ヒロインちゃんを見習ってきゅるんを意識して上目遣いをして小首を傾げてみた。
その結果。
「もう! ジルちゃんったら、小悪魔で悪い子ね!」
アシュレーお姉さんには効果大だったらしく、抱き締められてすりすりと頬擦りをされる。
「もちろん、こんな可愛い子からの贈り物なんだから、受け取るわよねぇ」
苦笑いして頬擦りをされてたら、そこからネペンテスさんへ有無を言わせぬ流れへ持っていってくれる辺り、頬擦りをしてきたのもアシュレーお姉さんの計算だったんだろう。
「うふふ。ジルちゃんのほっぺたはぷにぷにのもちもちねぇ」
計算だったんだ……よな?
●
「ありがとう、ジルヴァラくん。着けさせてもらうね」
ニコリと笑ってお礼を言ってくれるネペンテスさんは、文句無しに可愛かった。
これは人気出るよなぁと一人で納得していると、気を取り直した様子のネペンテスさんが、オーアさんから渡されたという俺用の採集依頼の紙を出してくれる。
きちんとしているオーアさんらしく紙はピシッと揃えられていたのだが、ネペンテスさんが運ぶ時にズレたのか数枚だけ、ぴょこぴょこと角が出て来ている。
「種類は多く見えるかもだけど、それぞれの納品量は少ないから、ジルヴァラくんなら大丈夫、とオーアさんからの伝言よ」
量が量なので一枚一枚確かめることなく、俺は全てまとめた分ということで依頼を受けるための書類に署名をさせてもらった。
「ジルちゃん、一枚一枚確かめなくて良いかしら?」
「オーアさんが選んでくれたなら大丈夫です」
「ちなみにネペンテス。この書類に『悪戯』はしてないでしょうねぇ」
以前ネペンテスさんのやった『悪戯』を当て擦る笑顔のアシュレーお姉さんに、ネペンテスさんは苦笑いしながら「もちろんです」と答えた後、小声で痛いのはもうこりごりと付け足している。
あれは相当痛いらしい。俺もしないように気を付けよう。
そういえば、だが、今日冒険者ギルドへ顔を出す予定だった森の守護者の面々は、不測の事態により到着が明日以降になってしまったと、エジリンさんからアシュレーお姉さん経由で話があった。
残念だけど仕方ない。
お見舞いのお礼はまた今度伝えることにしよう。
そんなこんなあったが、
「いってらっしゃい、気を付けて」
「いってきます」
ネペンテスさんから、オーアさんとはまた違う魅力のある送り出しを受け、俺はアシュレーお姉さんと手を繋いで出発した。
かなりの有名人で人気者、しかも強いというアシュレーお姉さんに絡む人なんていないので、何事もなく森へと辿り着いた俺達は、ネペンテスさんから渡された採集依頼の紙を確認する。
俺が切り株に腰かけると、そこここから動物達が現れて周囲を囲まれるが、敵意はないので放置しておく。
森から数日姿を消してた、俺の肩の上にいるテーミアスの様子を見に来たんだろう。
「んー、薬草、毒消し草、麻痺草、魔力草」
冒険者さん達から聞いた話通り、薬になる系の草が不足してるんだなぁと思いながら、オーアさんらしい几帳面な文字で書かれている書類を眺めていた俺だったが、急に系統の違う文字が現れて瞬きを繰り返す。
書き手が変わったのか、綺麗という感じだった文字が、可愛らしい感じの文字へと変わったのだ。
まぁギルド職員は何人もいるし、書類作成する人が違ったら文字も違うのは当然かと一人で納得し、採集する品目の確認をする。
それはとあるモンスターの一部を要求するものだ。
一瞬、これって討伐依頼? となったが、すぐに要求されている物を見て納得する。
「そっか。倒さなくても拾ったりも出来るし、採集依頼扱いなんだな」
「あら。ジルちゃんはE級相当だから、生き物系の素材採集はさせないと思うのだけど。見せてくれるかしら?」
俺の独り言を聞いたアシュレーお姉さんは、集まって来ていた動物をブラシで梳くのを止めて近寄って来る。
ちなみにアシュレーお姉さんは抜け毛が素材になるみたいで、動物達にブラシ掛けさせてくれるから聞いてみてと言われたので、動物達へ訊ねたところ喜んでブラシ掛けされてくれている。
「そうなんですか? アシュレーお姉さんが付いてきてくれるから、それを加味してくれたのかも」
「うふふ。だとしたら嬉しいけど……ロック鳥の羽根なんて。しかも出来れば尾羽根が良いなんて、なかなかな依頼よ」
ロック鳥って、確か聖獣の森にもいたけど、白くてでっかい鳥だったよな。
オーアがこれをジルちゃんに? と悩んでいるアシュレーお姉さんを横目に、俺は残りの依頼を確認してしまう。
ロック鳥の羽根以外、あとは多少珍しい物も含まれたが、何度か俺が採集してきた植物ばかりだ……と思ったが、一枚だけ何か紙が少しくたびれている依頼がある。
いわゆる塩漬け依頼ってやつかな、と思ったが、これだけは期限がある。しかも気のせいじゃなければ書かれている日付は明日だ。
「んー? 急ぎのがあるなら、言ってくれないと……」
見逃さなくて良かったと安堵しつつ、オーアさんにしては珍しいミスに、ネペンテスさんが伝言を伝え忘れたのかも、と納得しながら要求されている採集品を確認する。
「…………うん、だから俺に振ったのかな?」
微妙な表情になった俺に気付いたアシュレーお姉さんも、背後から俺の手元を覗き込んで採集品を確認して「あらあら」と苦笑いを浮かべている。
「……とりあえず、草系から採集していきますね」
「そうしましょ。ロック鳥は、上手く巣が見つかるか、本体に会えたら考えることにしましょうね」
ふふっと艶やかに笑うアシュレーお姉さんは、色んな意味で肉食系っぽくて、俺は思わず確認せずにはいられなかった。
「ロック鳥本体に会えたら……?」
「そうねぇ。相手の出方にもよるけど……丸裸にしちゃおうかしら?」
うふふふと笑って空を仰ぐアシュレーお姉さんは本当に楽しそうで、ロック鳥程度は脅威にならないんだなぁと横目で眺めながら、ロック鳥にまだ勝てない俺は、動物達に手伝ってもらってさくさくと採集を始めるのだった。
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