224話目
真・ネペンテスさんまたはネペンテス改。
一応、こちらが通常運行みたいです。
約束通り、あのお茶会の次の次の日、アシュレーお姉さんはばっちりと冒険者モードな格好で迎えに来てくれた。
俺はというと、エジリンさんからの『お詫びの品』を着け、アシュレーお姉さんがくれたアクセサリーもいくつかポケットへ忍ばせ、首周りはマフラー、腰には小剣と……いつもの格好に数点足した装備で家を出る。
主様は最後まで某元・呪われ剣を持たせようとしていたけど、アシュレーお姉さんの『この剣を欲しさに狙われるわね』という言葉に、残念そうにぽやぽやして剣を収納していた。
あの剣はいつかゲームシナリオ通りエノテラの親友にでも渡してやって欲しい。
「そういえば、お風呂好きのジルちゃんは、怪我をしてる間はお風呂我慢してたのかしら? それとも、怪我した所をお湯に浸けないようにして入ってたとかかしら?」
アシュレーお姉さんと手を繋いで歩いていると、腕の怪我はよくなった? という会話の流れから、俺はドヤッとなってる自覚がある笑顔を浮かべて、繋がれていない方の──怪我をしていた方の腕を上げて見せる。
「実は、傷口の所だけプリュイが薄くなって張り付いて、お湯とか防いでくれてたから問題無くお風呂入れてました」
「あら、本当にあの魔法人形ちゃんは優秀ねぇ…………主人より」
うふふと柔らかく微笑んでプリュイを誉めてくれたアシュレーお姉さんにえへへと笑い返していた俺は、低音かつ小声で付け足されたアシュレーお姉さんの一言に気付くことはなかった。
途中で乗り合い馬車へ乗り込み、無事に冒険者ギルドへ辿り着いた俺は、早速真・ネペンテスさんの様子をアシュレーお姉さんの足にしがみつきながらコソッと窺う。
心配の裏返しの小言だったとしても、ウザいのはウザいから。
「何で駄目なのよ!」
その途端聞こえてきた大声に、俺は思わずアシュレーお姉さんの足にしがみつく。
体幹のしっかりしているアシュレーお姉さんは、俺がしがみついたぐらいじゃびくともせず、そのまま野次馬をしている冒険者達の方まで歩いていく。
「ジルちゃんは少しここに隠れてなさい。……頼むわね?」
そう言ったアシュレーお姉さんに、野次馬冒険者達の背後に隠された俺は、隠してもらいながら足の隙間からコソッと様子を窺う。
叫んでる声に聞き覚えがあると思ったら、そこにいたのはヒロインちゃんと……冒険者らしき見知らぬ男達が数人。
攻略対象者ではないと思うけど、なかなかのイケメン達だ。
この世界、顔面偏差値高めだよなぁと眺めていると、ヒロインちゃんが叫んでいた相手が件のネペンテスさんだと気付く。
怒ってはいないが、困った様子のネペンテスさんはヒロインちゃんへ数枚の紙を見せている。
「スリジエ。お願いだから聞いて。あなたもまだ特例冒険者なの。ちゃんとした冒険者となるにもポイントが必要で、この採集依頼ならあなたの後見である冒険者と行けば……」
「うるさいわね! あたしは、今日はこの人達に討伐依頼を一緒に受けてくれって頼まれたのよ! そんな面白くもない依頼受けないわ!」
けんもほろろにネペンテスさんの提案をはね退けるヒロインちゃん。
そして、ネペンテスさん、なんかしっかりしてる? ヒロインちゃんに甘いのは甘いけど『えこひいき』って程じゃないよな。
「ほら! ネペンテス、あっちで怖そうな女があなたを呼んでるみたいよ」
ヒロインちゃんはニコッと可愛らしく笑うと、ほら! と少し離れた位置にいるオーアさんの方を指差す。
俺もつられてそちら見ると、ヒロインちゃんの適当な言葉ではなくオーアさんがネペンテスさんを手招きしている。
「……スリジエ、これに目を通してみてね」
困り顔でため息を吐いて、ネペンテスさんがオーアさんの方へと小走りで去っていくと、ヒロインちゃんと一緒にいた冒険者の一人がオーアさんの置いていった紙を見て、盛大に顔を歪める。
「……うわぁ、というか、面倒なやつばっかりだな」
「俺達では手間取りそうだな」
口々にそんなことを言っている男達に対して、ヒロインちゃんは可愛らしいドヤ顔をして自らの胸を叩いて見せる。
「あたしの後見してくれてるのA級冒険者だから。これぐらいは当然よ」
そんな自慢をしている所に、オーアさんから受け取ったらしい数枚の書類を手にネペンテスさんが戻って来る。
受け取った書類はカウンターの上の少し離れた場所に置いて、ネペンテスさんは再びヒロインちゃんへ説明を始める。
「これを受けないと……罰則が……」
しっかりと仕事をしているネペンテスさんを見て満足した俺は、終わりそうもないやり取りから目を離して、野次馬の冒険者さん達から情報収集をする。
どうやら、流行り病のせいで薬草とかそういう薬の材料系が全体的に不足しているらしい。
そんな話を聞いてる間に、ネペンテスさんとヒロインちゃんのやり取りは終わったらしい。
ヒロインちゃんの手には、数枚の紙が握らされているので、勝ったのはネペンテスさんらしい。
漏れ聞こえたネペンテスさんの話によると、勝ち負けではないだろうけど。
俺は配達とか採集とかちまちましてポイント稼いでるけど、ヒロインちゃんはドカッと稼ごうとしてて、でも稼げてないから、ネペンテスさんが気を利かせたんだろうなぁと思いながらカウンターを見ると、さっきまであったオーアさんの姿が消えている。
まだ帰るような時間じゃないよな? と首を傾げていると、視界にアシュレーお姉さんの顔が入って来る。
「ジルちゃん?」
屈み込んで目線を合わせてくれたアシュレーお姉さんの呼びかけに、俺は瞬きを繰り返してから誤魔化すように笑っておく。
「お帰りなさい、アシュレーお姉さん」
「ただいま、ジルちゃん。あぁ、オーアなら急用で席を外したのよ」
俺の視線で察したのか、アシュレーお姉さんから思いがけず疑問の答えが返ってくる。
「そう、なんですね。じゃあ、今日はエジリンさんに……」
納得した俺は、何処で依頼を受けようかと視線を巡らせながら、頼りになる副ギルドマスターの名前を口にしかけたのだが、そこに思いがけない声がかかる。
「ジルヴァラくんは、こっちに。オーアさんから預かった、ジルヴァラくん用の採集依頼があるの」
少しだけバツが悪そうな笑い方をしながら手招くネペンテスさん。
何か裏があるのか? と少しだけ警戒してしまったが、肩を竦めたアシュレーお姉さんに抱き上げられて、俺はネペンテスさんの前へと運ばれ、そこで俺をじっと見るネペンテスさんと真っ直ぐ見つめ合うことになった。
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